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空に向かって手を上げて
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もう少し続きますのでお付き合いください。 






その寒さにふと目が覚めて、なんとなくと言うようにトイレへと向かえばこんなに寒いのにレイヴンの家の二階の窓が開いてるのが目に飛び込んだ。
早起きだなと思うも、まだうっすらとも陽光の差さない世界。
ざわつくような嫌な予感に上着も着ずに家を飛び出した。
思わぬと言うような大きな音に昨日の夜に帰ってきたばかりのジュディスがどうしたの?と、階段を下りてきてくれるのを待たずに薄っすらと積もっていた新雪を踏みながらレイヴンの家へと飛び込んだ。
あの場所は確か二人の寝室だったよなと一瞬頭によぎるも躊躇わずドアを開ければ窓が大きく開く室内にユーリが倒れるように眠っていて、いつからか開いていたのかわからないけど窓枠にうっすらと積もった雪、そしてベットを濡らすように忍び込んだ雪が何かあった事を物語る。
そしてジュディスが明かりを持ってやって来た所で気が付いた。
眠るように倒れているユーリの手にはレイヴンの羽織が、無意識なのかそれでも離さないと言うように強く握りしめられていて…

それだけで何があったか大体の予測がついた。

「レイヴン」
「…」
無言を誓ったかのような青白い顔のジュディスは急いでユーリを渇いた毛布で包み、一階の暖炉に火を点けてこの家を温め直す。
そしてどこからか取り出した小瓶をユーリの鼻の近くに近づければ、朦朧とだけどユーリの意識が取り戻された。
「何があったの?」
短く問えば、まるで今何か起きたかのように鈍い動作で周囲を見回し
「おっさん・・・は?おっさんに、薬、飲まされ・・・」
探さなくてもわかる状況に首を横に振ればユーリは静かに涙を流した。
こんな状況なのにその泣き顔が綺麗だなとぼんやりと眺めていれば
「さよなら…だって」
毛布から抜け出して探そうと足を進めるも絡む毛布とふらつく体に倒れ込めば、そこには今でも手放さず握りしめていた紫の羽織。
暫くの間それを眺めたかと思ったら今度こそと言わんばかりに大きな声を上げて、周囲をはばからず声を立てて泣き始めた。
慟哭。
までとは言わないだろうけど、最愛の消失という意味ではそう呼んでも構わないだろうか。
そばに居るのに声をかける事も、手を差し延ばす事も許されないというようなその悲しみ方には、正直僕達の想像以上で、ジュディスがそっと手を握ってくれなかったら気が狂ってしまうのではないかと言うような悲しみ方だった。
だけどそんなユーリを見守りながら朝を迎えれば涙は枯れ果てたと言うような、憔悴しきった顔で僕達を眺め
「悪いな。みっともない所を見せて」
バツの悪そうな顔を無理やり作って見せるから、思わずその腕に飛び込んで
「ユーリのばかー!!!」
今度は僕が泣く番だった。
そしてジュディスまでもが上から僕達を抱きしめてユーリの為に静かに涙を流していた。



再度レイヴンの失踪は瞬く間に周囲に知れ渡った。
誰ともなくやってきては大丈夫かと不安そうな顔でユーリを慰めてくれる。
前が前だっただけに、本人も反省はしているつもりで
「もう終わった話だ」
苦笑紛れに答えるユーリの笑顔は貼り付けられたそれだった。
眸に力はなく、口元はどこかぎこちない。
眠れてないのか目の下には隈が濃く残り、気持ち痩せたような気もする。
だけどユーリはギルドの仕事をしながらあの家に住み続けた。
まるで誰かの帰りを待つように鍵をかける事はしない。
一つ変わった事はと言えば、オルニオンから離れる事が無くなった事だろうか。
「いつ帰ってくるかわからないからな」
不意に零した一言がすべてを語る。
探すなと言われた手前、前みたいな放浪はしないものの、今度は取りつかれたようにこの街・・・というか、あの家から離れなくなった。
どうなるかと思うも時間が過ぎて行く中、ぎこちなくとも笑顔を取り戻し、少しずつ食事も増え、寝れるようになったのか顔色もよくなってきた。
月日を重ねて周囲を心配をよそに、ユーリは元気を取り戻していく。
代わりに昔みたいな余裕ありげな不遜な笑顔と引き換えに。
そして喪失を埋めるようにあの羽織に袖を通したユーリの姿が街に馴染んでいった。




それから4年。

悲報は突然だった。
副帝がある朝眠るようにその短いとも言える生涯を終えたと言う信じられないような一報が届いた。
「エステルが…そんな・・・」
先日魔狩りの剣のナンと結婚式を挙げたばかりで、新居でのパーティーの時には健康そのもので、そんな気配はどこにもなかった。
ただフレンが言うには
「この数日風邪を拗らせたと見えてお部屋でお休みの時間が多かったんだけど…」
と、それも片手で足りるほんの数日前の話だと言う。
一体なんなんだと思うもリタがぽたりと涙を落とした。
「人間魔導器ともいえる満月の子の力は想像以上にエステルに負担を与えてたの」
ぽたり、ぽたりと涙を落としながら
「だけど、こんなにもだなんて!!!」
悲鳴にも近い叫びにごめんなさいと謝り続けるのをジュディスが介抱していた。
悲しみに満ちたザーフィアスに、なんというか、ヨーデルに頼んでまさに眠るように横たわるエステルにこっそりと面会を頼み込み、真っ白な指先の上にハルルの花一枝を置こうとして、既に誰かがハルルの花の一枝を置いて行ったものがあったが、リタだろうかと頭をよぎる。
何度も謝罪を繰り返す彼女の姿が浮かぶも、声をかける言葉を見つけられなかった俺は差し伸べる事も出来なく強く握りしめたままだった。
そんなリタを思い出しながら
「エステルの花だ」
前髪をそっと撫で、そういえばと言うように昔を思い出す。
エステルとの出会いがすべての始まりだった・・・と。
感傷に浸ってしまうもついぞ流れる事のなかった涙に、一連の話をフレンからでも聞いてるだろうヨーデルはただじっと何も言わず俺を見守ってくれていた。
「じゃあな」
踵を返して去ろうとする俺の背中に
「葬儀の参列は…」
判り切ってるだろう答えにどこか躊躇いがちの言葉に俺は足を止めることなく
「悪い。用事あるんだ…」
心の中でエステルすまねぇと詫びて長い廊下を歩いてザーフィアスを後にした。
街中悲しみに染まる中下町の宿屋を遠目に眺めるも足を止めることなくオルニオンへと帰る。
途中、葬儀にやって来たジュディに頼み込んでバウルを借りてオルニオンへと俺だけを運んでもらった。
そしてどこか期待を込めてドアを開ける。
何一つ変わりのない、数日留守にしてほんのりと埃が積もっただけの家を確認して溜息をこぼす。
二度と来ないと言ったからにはそうなんだろうが、それでもまだ心のどこかで期待をしてしまう。
俺の居ない合間にこっそりと戻ってるんじゃないのかと、大切な荷物を取りにとか…
そう思って苦笑。
そんな事はありえない。
総てをこの家に、街に置いて行った男は恐ろしく冷酷かつシビアな選択すら当然と言うように選んでいく男だ。
こんな時でもどこにも気配のない男に顔を歪めてしまうもあの日枯れ果てた涙はやはりどこにもなかった。

それからさらに10年、20年…と月日を重ねて気が付いたら髪に白いものが混ざり始めていた。
黒と白のコントラストは合わさってかつて抱きしめた色を思い出した。

やはりと言うか当然のようにこの家の主は二度と戻ってくることはなかった。
さすがにと言うか、諦めは…まだしきれてないが、心のどこかはもう認めてしまっていた。
それだけの月日が流れたのだ。
羽織も随分とぼろぼろとくたびれて色も褪せてきたが、手放せないままでいた。
首領という言葉がすっかり似あうようになったカロルも孫に囲まれながら広く増築したアジトの大きな暖炉の前で笑っている。
フレンもすでに騎士団を退団して、オルニオンでくそまじめな事に特別顧問として生活をしていた。
ジュディは相変わらずバウルと空を飛びまわっていたがその周囲には常に子供があふれていた。
結婚をせず、子供を持たなかった彼女は孤児を引き取り育てている。
もう30人以上の幼子を独り立ちさせた彼女の心に住む男はいないのかと思うも
「私にはバウルがいれば十分」
と、笑って見せた笑顔はかけ値なしの本物だ。
リタは…俺達の知らぬ間に一児の未婚の母親になっていたのには正直おどろいたものの、まあ本人はそれなりに楽しくやっているようだ。
ただ問題はその子供がハルルの花のような色の髪を持つ少女で、間違っても在りえねぇだろというのは当人含めた全員の答えと一致していた。
パティはいつか見た肖像画のような風貌にかわり、その後も相応に年をとり、今は育ての親の代わりに灯台守をしながらトリム港を仕切っている。
ヨーデルも退位し、ハリーも息子にギルドを引き継がせた。

そのくらい時間がたったのだ。

オルニオンもさらに大きな町へと発展し、大きくなれば人も集まり、そこで浮上する食糧問題に、ギルドでなくても狩りは必須のスキルになって、子供達に近場で狩れる魔物の借りを教えるのがここ数年の仕事になっていた。
今の自分と同じくらいの背の子供達の元気の良さに付き合ってられないと言わんばかりに獲物をしとめたら帰ると言う訓練に苦笑。
俺も年だな、と元気すぎる若者に懐かれながらも面倒を見ていれば、森の奥から狩猟から帰ってきた凛々の明星のメンバーと遭遇する。
あれから少しずつメンバーを受け入れた凛々の明星は今では三大ギルドに数えられる巨大ギルドの一つになっていた。
あれくれ者の集まりでもなく、カロルの平和的主義時々暴走を実践できる者がよくぞこれだけ集ったと言わんばかりに誰もが個性の塊だが
「ユーリに変わり者って言われるほどの奴はいないよ」
なんて、まったくもって失礼な奴が多いのが玉に傷だ。

そして嫌な季節になった。
寒いオルニオンには切っても切り離す事の出来ない冬がやって来た。
初雪の日。
雪を見ると思いだす喪失の時。
そんな日は誰にも会わず一人家の中で静かにするのがいつの間にか習慣になっていた。
心配だからと、退役してからこの家に居ついたフレンもこの日ばかりは別の場所で寝泊まりをしている。
雪を見るたびに何かがこみ上げてくるも失われた物は失われたままで、感情なく窓から外の世界を、誰が戻ってくるわけもない外の世界をずっと眺めていた。
周囲はこの不思議な習慣を不思議な目で見るも、誰ともなくこの日一日をそっとしていてくれていた。
やがて白銀の世界になり、この年は例年通り、いや、それ以上?
とにかく雪の深い年になった。
「えー?そうかな。いつもと同じくらいじゃないかな?」
カロル先生の孫と雪だるまを作ってギルドの前に飾って冷え切った体を温める為にじゃあなと別れて暖炉の火で暖まる家へと帰る。
机の上にフレンの殴り書きのメモがあり、
「書類の整理の為に騎士団に行ってくる。
 ひょっとしたら泊りがけになるかもしれないから先に寝てて」
思わずラッキーと指をぱちんとならし、戸棚からビールやつまみをこれでもかと並べて自堕落するぞと決め込んだ。
とは言っても年が年だ。
めっきり酒に弱い体になってしまって襲い来る眠気に、ささやかな宴の後はそのままに二階の部屋へと行く事にした。
フレンが帰って来たらかんかんだなと、内心笑いながらもあくびを落としながら眠りについた。
どれぐらいたっただろうか、何かの衣擦れの音が聞こえて反射的に目が覚めた。
酔いはもうもうない。
冴えわたる思考は窓のすぐ外に何者かがいるという事を察知していた。
この家に住み始めた頃は逆恨みを持つ者達によって何度も奇襲を受けた事はあったものの、もうそんな事は長い間なかったなと物騒な笑みを浮かべながらカーテンの端に手をかけその姿を拝む事にする。
シャッと音を立てて開いたカーテンとその窓越しの姿に唖然としてしまった。
思わずと言うようにぽかんと口を開けてその姿を眺めてしまえば…
「ユーリお願い!開けてちょうだい!!!
 おっさん寒くって凍えて死んじゃう!!!」
ばんばんと窓を叩いてせがむ男に、我に返って慌てて反対側の窓を開けてやれば
「何この寒さ!在りえない寒さでしょう!!!」
言いながら毛布を体に巻きつけながら盛大に鼻をすすっていた。
「…おっさん?」
確かめるように呼びかければ
「久しぶりねユーリィ…っくしょん!!!」
派手なくしゃみを何発も連発するから思わずと言うように抱きしめて体をさすって温める。
「おい、この冷たさ普通じゃねえだろ!」
「そりゃ、港から強行軍してきたもの。よく迷子にならなかったわって自分を誉めてあげたいわ」
震える体はまだどこか雪の匂いを纏っていて
「とにかく着替えろ」
「ううう、迷惑かけるわね」
恥ずかしげもなく着替えれば左の胸には見慣れたままの心臓魔導器がはめ込まれていて、まぎれもなくレイヴンだという事は証明された。
その間にぬるい白湯だけどおっさんに差し出せばゆっくりと、火傷をしないようにすすりながら体の内側から温めて行く。
そして白湯を飲み干した所で
「改めてだ」
ん?と視線を上げたレイヴンに掴みかかり
「何を今頃になって現れた?!」
「ごめんなさあああい!!!」
ごちんと音がなるくらい額をぶつけ合って
「どれだけ心配したと思っているっ!!!」
「重ね重ねごめんなさあああい!!!」
視線が避けられない距離は鼻先さえ時折ぶつかり合い
「どれだけ寂しい思いをしたかわかるか…」
尻すぼみになる言葉におっさんは俺の頭を抱き寄せ
「ちゃんと知ってる。本当にごめん」
まるで時が動き出したかと言うよう抱き寄せられたままその肩口に目頭を押し付け湿らせていく。
どれだけ年を重ねても幼子をあやすように俺の背中をやさしく、呼吸に合わせるかのように叩くリズムに時間をかけて落ち着いて行けばもう大丈夫?と問う優しい翡翠の瞳。
随分と久しい動作で湿り気を帯びる目元をぬぐえば、改めて正面に座る男と話をする体勢を取る。
そして
「ちゃんと説明してくれるんだよな?」
少し困った顔が
「まぁ、じゃなきゃ今更ここにはこれないわよ」
ニヘラと笑う男から視線を離さずに
「じゃあ説明してくれ。なんであんたは俺から去った日から姿が変わってないかを」
老いたとはいえ硬質になる声で問いただせば目の前の飄々とした男はそれは違うと訂正をする。

「正しく言えばほぼ出会った頃からよ」

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