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次が最後になります。
もうしばらくお付き合いください。





出会った頃から…

そう告げられて頭を鈍器で殴られたほどの衝撃を与えられた。
あれだけ側にいたはずなのに、誰よりも知っていると思っていたのに・・・と。
だけどレイヴンはちょっと違うわねと断って
「星喰みの一件の頃からね」
それなら確かに出会った頃と言っても間違いじゃないだろうと納得はするも
「星喰み…」
あの頃が魔導器文明の終わりを告げた時といっていい頃だろう。
だけどリタが言うにはレイヴンの心臓魔導器には影響を与えなかったはずだと思いだすも
「まぁ、何でか知らないけど、極端に成長が遅くなったわけなのよ」
うんうんと頷きながら語る口調は昔そのものに懐かしさが込み上がる。
「そんなわけで、第一回おっさん消失事件の時、世界中を駆け巡りながらなんとか人と同じ時の流れに戻れないか必死で、それこそ手探り状態だけど虱潰しにヒントになる物を片っ端から調べていたわけよ」
「あんとき別の事言ってたよな」
たしか、墓参りだったか?
二年の消失期間は恐ろしく長かった覚えが今でもはっきりと恐怖として脳裏に焼き付いている。
「まぁ、それはもののついでよ」
「そう言えば、あんたは大切な事ほど全く何も話さなかったよな」
無事戻ってきた安堵感に大切な事を見落としていた昔の自分に舌打ちをしながら先を促す。
「で?」
「まぁ、あの時は偶然ユーリの事を耳にしてね…
 一年だけ、次の初雪が降る日まで時間をもらったのよ」
「時間をもらったって…誰だ」
自分以外を頼られたショックもあるが
「そんなのデュークしかいないじゃないの」
思わずおっさんを睨みつけてしまえば
「ちょ、別にデュークとはそんな関係じゃないって!」
「んなの判ってる…けどよ」
あの白皙とした面立ちと流れる銀の髪。
黙って立っていれば恐ろしく芸術の域まで達する美貌の人物は何故かシュヴァーンとふるくからの知り合いで、詳しい事は結局聞かせてもらった事はない。
「まぁ、正しく言えばデュークのお友達とデュークの持つ古い資料なんかよね」
人間嫌いの人間を止めた玲瓏とした人物は何故レイヴンに協力するか気になるも
「おっさんは人間やめる気はないし、何とかしてユーリ達と同じ時間の中で生きたいって、思いっきりダダ捏ねたらシルフちゃんとかにも味方になってもらってね」」
あの分からず屋を説得したのかと納得できた。
「つまりだ。今更俺の所に現れたって言う事は・・・」
ひょっとして…と思うも
「それがさ、最後の最後で躓いたのよ」
「躓いた?何が?」
眉をへの字に曲げて
「この作業をやるのにおっさん一人じゃできない事が判ったの…」
「……」
思わず見詰め合って深くため息。
「相変わらずしょうがないおっさんだな」
「うう…ごめんなさい」
「誤ってほしいわけじゃないんだけど…
 デューク達に手伝ってもらうわけにはいかなかったのか?」
聞けば
「即答で断られたわよ。友達がいのない奴らよねー」
ぷうと頬をふくらまして怒る姿にほんとにしょうがないおっさんだと笑ってしまう。
「だから、最後の頼みっていうか、やっぱり新たなおっさんの記念日?
 ユーリと一緒に迎えたいわけよ」
俺の顔色を窺うように上目づかいで、でも俺が絶対断らないという事を確信している瞳でその翡翠に俺を写す。
どこか期待と、ひそかに断られる事に怯える色を混ぜ込ませたかのような視線に、暫くの後ため息を落とす。
「そんな目で見られたら断られないだろ」
照れ隠し半分頭をかきむしれば
「だからユーリ愛してる!」
「ったく、調子の良いおっさんだよ」
どんと胸に飛び込んでしがみついてきたおっさんを抱きしめて受け止める。
懐かしいとその体を抱き寄せて首筋に唇を落とす。
「で、出発は?」
懐かしい匂いは記憶の通りで、唇を這わせながらどこか汗ばんでいた肌を味わう。
「できればすぐにでもここを出たい」
「おいおい、ずいぶん早いな」
名残惜しいと思いつつも首筋から顔を上げてレイヴンを見れば
「奴さんとエフミドの丘で待ち合わせしてるから」
チッと舌打ちしてしまうも、立ち上がって旅の準備をする。
「あと、おっさんもうこの街には戻ってこないつもりよ」
思わず振り向いてレイヴンを見る。
ベットに座り足を組んで、浮いた足をぶらぶらとさせながら
「まだこの街じゃ、おっさんの顔は知れてるしね。それに騎士団もいるから。
 住み着くにはいろいろ都合悪いのよ」
不意と顔をそむけてどこか悲しげな表情を見せる」
反射的にレイヴンの肩を掴んで
「じゃあ、なんだ?用事が済めば俺は必要ないってか?」
指先に力がこもってしまうのも構わず、何度捨てればこの男は気が済むのかと、それでも縋り付いてしまう自分に嫌気を覚えてしまうも
「まぁ、お奨めはしないけど」
そんな小声で断りを一つ入れて
「今度は一緒に連れて行ってあげてもいいわよ」
思わぬ意表と言うか、思わずぽかんと口を開けてしまう。
「着いてくる気があるなら着いてらっしゃい」
思わず腰が浮く。
今度こそどこまでも一緒だと笑みを携えながら俺を眺めるレイヴンの方に両手を置いて
「じゃあ、少し時間をくれ」
言って引き出しからついぞ使う事のなかったこの家の鍵を取り出す。
真鍮製の鍵を最後に使ったのはいつだっただろうか?
真新しいと言うには相応しくないが、久しぶりに手にした鍵はひんやりとして、どこか懐かしかった。
「カロルにこの鍵をフレンに渡してもらうだけだから」
言えばおっさんは「不用心ねー」とだけ言って笑うだけだった。
「じゃあ、行こうかって…」
ユーリはレイヴンを見る。
そして首を傾げ
「やっぱおっさんはこれを着ろ」
あれからずっと手放さなかった羽織をレイヴンに無理やり着せる。
「懐かしいわねー。っていうか、よく今まで着てたわね」
ボロボロじゃないとぼやくも着なれた服を着るようにひょいと羽織れば、まるでついさっきまで纏っていたかのような一体感がそこにはあった。
「俺が手放すとでも?」
「それだけの事はしてきた自覚があるからね」
過去を振り返るそぶりだけをしている男を横目に相変わらず黒色で統一された服を着込む。
鞄の中には数個の薬とわずかな着替え。
財布を懐にしまい、長年愛用してきた剣だけを携えて、鍵を手にし
「じゃあ、行きましょうか」
「はいよ」
部屋の明かりを落とす。
この家の入り口横に掛けられた外套を纏い、きっと二度と戻る事のない家を愛おしく見つめる。
俺がまた彷徨わないようにこの土地に、この家に縛り付けたここが再会の場所になると信じ続けた数十年の賭けについに勝ったのだ。
心の中で「じゃあな」と、別れを告げて歩き出したレイヴンの横に並ぶように歩く。
行先はすぐそばの凛々の明星のアジト。
いまだ灯がこぼれている所を見ると誰かが居るらしい。
会っていくか?と尋ねるも会わせれる顔はないからと、やんわりと断った男にならすぐ戻るからと入口のそばで待たせておくことにする。
ひょっとしてすぐ姿を消してしまうのでと思うも苦笑と同時に否定。
ユーリに手伝ってもらうのが最大の理由なのにユーリを置いて行ってどうするのと苦笑紛れの言葉にそれもそうかと、少し不安を覚えながらも明るい声で笑い飛ばしてしまう。
すぐ戻ってくるからと断って、わずかな明かりの零れる家の中へと入る。
煌煌と燃える暖炉だけの明かりにギルドの中ではカロルとわずかなギルド員がそこで晩酌をしていた。
顔ぶれは今一番の売出し中のメンバーが5人。と、それにカロル。
突然の夜中の訪問にメンバーはもちろんカロルも驚いたふうに迎え入れてくれた。
「ユーリ、こんな夜中に珍しいじゃないのさ」
突然の訪問にカロルは喜びを隠さない顔に俺も笑顔を返す。
「まあな」
側で晩酌していたメンバーも珍しいとコップやら、そこに酒を注ぎだして席を開けてくれるも、そこに座る事のない俺にカロルは眉をひそめる。
「どうしたのユーリ」
幼いと思っていた、それこそ少年が年を重ね孫を持つ老人とまでに成長をした姿過程を思い出しながら
「カロルには悪いんだが、俺凛々の明星を辞める」
思わぬと言う言葉にカロルどころかメンバーまで全員が俺を凝視した。
「え?ユーリ、待ってよ?どう言う事??」
軽いパニックになるカロルの頭に手を置いて昔したように優しくなでながら、
「実はな、おっさんが迎えに来たんだ」
言えばカロルは目をこれでもかと見開いて何か頭を整理するかのように、でも驚きは隠さずぽかんとした顔で俺を見上げながら
「おっさん今度は俺を連れてってくれるっていうんだ」
それこそ花が綻ぶような、今まで何かが抜け落ちたかのような感情を失っていた男の喜びを露わにする表情に取り残されたようにいるギルドのメンバーは唖然とユーリを眺めている。
「ちょっと待って、おっさんってレイヴンでしょ?!
 レイヴンどこにいるの?!」
立ち上がって探しに行こうとするカロルに俺は剣を鞘から抜かずにカロルに向かって剣を突きつける。
突然の暴挙にカロルは息をのみ、この場に居合わせたメンバーも思わずと言うように腰を浮かす。
剣を片手に、もう片手を差し出す。
開いた掌には一つの鍵。
カロルは見覚えのない鍵に頭を傾げながらも受け取る。
「あの家の鍵だ。フレンに不用心だからちゃんと鍵は掛けろよって伝えてくれ」
言われてようやく思い出した。
かつて数度だけ使っている所を。
他にも色々束ねられた鍵を指先でクルクルと回していた男の事を。
「じゃあ、ほんとにレイヴンが…」
とさっと腰を抜かしたかのように座るカロルにユーリはああ、とだけ短く笑みを浮かべながら笑い
「悪いな。おっさんが俺をご指名なんだ」
そして気づく。
何があっても手放さなかった羽織を纏っていない事を。
誰にも触らせなかったあの羽織を。
「ああ、もう…」
ぽろぽろと突然泣き出したカロルはそれでもユーリとの別れを惜しむように眺める。
微笑み返す彼の瞳には長いこと雲がかかっていたような夜空のような瞳だったが今はどうだ。
満天の星空を切り取ったかのような夜空にもう何を言えないでいた。
「じゃあな」
くるりと最後まで笑みを携えながら去っていく後姿がドアを開けた瞬間その紫が目飛び込んだ。
誰かを外で待たせていたようだ。
こんな雪の降る寒い日だから急いでいるのは納得できたが、その紫を羽織る事を許されるのはただ一人。
「…レイヴン」
思わず零れ落ちた名前に返事をするかのように羽織に通した手がさよならと言うように振って返してきた。
締まるドアの向こう側に遠い記憶に覚えのある少し丸まった背中と結わえられた灰味がかった髪。
そしてふうわりと纏う紫の…
出て行ってしまったユーリを追いかけるかのように飛び出そうとした仲間に
「追いかけるな!」
強く叫べばぴたりと止まる足が振り返って何故だと問う。
「そんなの…ユーリはレイヴンの物だから仕方がないじゃないか!!!」
最後に思いっきり腹の底から「レイヴンの馬鹿ー!!!」力の限り叫べば何事だと二階から休んでいた他のギルド員までが目を覚ましてやって来た。
ぽろぽろと涙を流すカロルに何があったのかその場に居合わせたギルド員に聞けばただ短くユーリが凛々の明星を辞めた事だけを伝えていた。
同じように追いかけようとしたギルド員をカロルはドアの前に立ちふさがって
「ユーリを追いかける必要はない」
取り出した武器を目の前に構えて立ちふさがる。
それを見た仲間がぽつりとこぼす。
「一番追いかけたいのは首領でしょ」
部屋に響いた言葉に口を噛みしめながら
「30年以上も待ったんだ!これ以上どうしろっていうんだよ!!!」
ぽろぽろと涙を流しながら心からの吐露にみんな戸惑う。
確かにユーリはこの街に、あの家に固執していたのはこの街に住む住民なら誰しもが判っていた。
今もだけど昔からのあの見た目と強さに誰もが隣に並びたがった者をユーリは許さなかった。
そして誰にも触れさせずにいた普段の黒衣からは似合わない羽織。
「たった今ユーリは凛々の明星と縁を切った。追いかける理由はもうない!」
まるで自分に言い聞かせるかのような言葉に居合わせた面々は納得はできないものの、こんなにも取り乱す首領の姿に言葉を呑み込み沈黙を保っていれば不意に外から扉が開いた。
冷気に包まれて現れたのは1人のギルド員。
こんな夜中なのにみんな着のみ着のままの姿で集まっている姿を目にして驚くもカロルに報告をする。
「今、門の所でユーリさんとすれ違ったんだけどこんな時間に依頼ですか?」
何も知らない男は笑いながら相変わらず無茶な事をする人だと笑うも少しだけ顔をしかめ
「だけど一緒にいた人が依頼人?あれ許せないっすよー」
空気を読まない男はそのまま暖炉のそばに駆け寄り手の先を温めながら話を続ける。
「30代ぐらいのおっさんだったかな?そいつユーリさんに羽織を貸してもらって着てたんですよ」
昔あまりに汚いから洗おうとしたらぶっ飛ばされたのに、とつぶやく言葉にカロルは息を飲み込む。
そして2~3呼吸をゆっくりと繰り返し
「その人がユーリの羽織の持ち主なんだ。
 ユーリはその羽織を預かっていただけで…」
ホントにレイヴンなんだ…と口の中で呟きながら
「ユーリはどうだった?」
背中を向けるままの男に訪ねれば
「なんかすごく楽しそうでしたよー。見た事もないくらいいい顔でその男と何か話してましたよ」
ユーリが二度と戻ってこない事をまだ知らない男はのんきにも普段からああいうふうに笑えばいいのにと呟くのを聞きながらカロルは天井を見上げる。
「皆にどうやって伝えればいいんだよ…ユーリとレイヴンのバカ」
泣きながら呟いてその場に座り込み、近くにいた仲間に酒瓶を持ってこさせて一気にあおりながら「ユーリのバカ、レイヴンのアホ、さっさと幸せになっちゃえ」なんて暴言を繰り返しながら、誰も外に出ないように扉を朝まで塞ぎ続けた。

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