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ネタがなくても負けません!
そんなわけで一気にアップ中…






オルニオンでの新しい生活は何もかも順風満々とは行かなかった。
新しい家でのユーリとの生活はそこそこ楽しい物だけど、凛々の明星に雇われる身としては苛酷を極めていた。
ジュディスちゃんはバウルと共にその機動力を活かして荷物を運んだりしての仕事をこなしていた。
そこそこ知名度があるからか預かる荷物の量が半端では無いのだ。
ジュディスちゃんのスケジュールを綿密に取り、預かる荷物、届けるまでの日数をはじき出して重量で料金を貰う事にした。
今までジュディスちゃんの心一つで料金が決まっていた事もあり、新体制の重量制の金額に不満の声が聞えてきたが、こう言うルール作りがあれば新しくギルド員を招きいれた時の作業のスムーズ、そして公平さが必要になると、意外にもどんぶり勘定の彼女に説得して、旅先で引き受ける時も持たせた料金表で引き受けるようにと説得をした。
続いてがカロル。
ユーリも戻ってきた事だからと凛々の明星のメンバーを増やしたいという彼の意見には反対はしないが賛成も出来なかった。
普通に凛々の明星の理念に則ってメンバーになるならまだしも、凛々の明星に入りたいという者達は大半がユーリの天衣無縫なまでの強さに憧れて集った者達だ。
むさい男所帯になるのは必須。
じゃなくて、どこの武力集団かと思われるのは目に見えている。
折角ユニオンと騎士団の仲はよくなっているというのにわざわざ反抗勢力と見られても構わないというような集団を作る必要は無い。
そういうむさ苦しい集団は戦士の殿堂で十分だと数だけを増やしても意味がない事を教える。
だけどユーリが戻ってくるまで今まで待っていてくれた彼らに今更なかった事にしてくれと言うのは無理だとの言葉に確かにと、そんな約束をしてくれちゃ暴動が起きても仕方がないと思うも提案を一つする。
これだけ長い間待っててくれたのだ。
気の合う仲間で出来たグループや元のギルドのグループをそのままに凛々の明星の下に付ける、小さなユニオンみたいな形はどうかと提案をするもそれで落ち着くのかな何て相変らず気弱な首領は困りきった顔でユーリを見ていた。
ユーリはユーリで凛々の明星のアジトの前で久々の顔ぶれと楽しそうに手合わせをしていた。
ローウェルフェロモンにでもやられたのだろう男達の群に溜息を零していれば
「レイヴンもしっかりしないとユーリに捨てられちゃうよ」
「言うようになったわね」
以前はあまりに子供過ぎて一応気をつけていたつもりだったが、この5年の歳月は純真だった少年に要らない知識を与えつけたらしい。
いや、少年だって腐ってもダングレストの出身なのだ。
いかがわしい知識はもちろん非生産的な恋愛がある事だって知らないとは言わせない。
あそこはそういう街でもあるのだからと思い出しつつも、まさか自分のギルドにそういった趣向の仲間がいるとはさすがに思いつかなかっただろう。
彼にはせめて魔狩りの剣の少女と平和な家庭を気づいてもらいたいと願いつつも、あの子相手じゃ波乱万丈な家庭が出来るだろうとこっそりと笑う。
「まあ、どっちにしてもあれだけの数をいきなりメンバーに入れると色々ややこしい事が起きるから、仲間意識を作りながら距離をとりつつ少しずつ仲間を増やしてみなさいよ」
「何か難しそうだね」
眉間に皺を寄せ口元に手を当てるし変わらない仕種を懐かしいと思いながら見て
「難しい事は無いわよ。だってそういう作りは騎士団でも実証済みだもの」
小首傾げた彼に
「騎士団と言う大きな枠組みにフレン隊とかシュヴァーン隊とか在ったでしょ?あれと同じよ。
 凛々の明星と言う大きな枠にいくつものギルドが凛々の明星の理念にの下に集う。
難しいかもしれないけどできない事は無い、だろ?」
「うーん、そういうのもありなのかなあ?」
「もっと身近に言えばユニオンの枠にギルドが集っている。それを凛々の明星でやろうっていうだけよ。
 このヒピオニア大陸には情報の拠点となる場所がまだここしかないからね。騎士団の拠点があるのにギルドの拠点となる所がないというのはいずれ厄介な事にもなるかもしれないから作っちまうなら今じゃないかな?」
争いと言うことは彼の尤も嫌うべき事だ。
確かに最近のオルニオンでは騎士団が幅を利かせている。
ユニオンと戦士の殿堂、そして騎士団の三つが公平でなくてはいけない場所なのに力関係はこの地に意味を見出せないでいる戦士の殿堂が一歩引いた形でバランスはあっけなく崩れた。
「ユーリに話でもしてみるだけでもいいんじゃない?」
そそのかせば彼はそうだねと立ち上がり「ユーリ」と叫びながら家を飛び出した。
周囲にはいつになれば凛々の明星の仲間に入れるのかと首を長くして待っている連中を忘れて今俺が話した事を叫びながらユーリに意見を求めていた。
当然その場で大騒ぎとなった光景をくつくつと笑いながら
「今日の昼飯は何にしようかねえ」
外の大騒ぎを余所に台所へと引っ込んだ。
結局この提案はジュディスちゃんが仕事から戻った後意見を述べ合って、ユニオンと騎士団に報告をした。
バランスが崩れかけたオルニオンにフレンもハリーも頭を痛めていたところだったが、そこに名乗りを上げたのが凛々の明星でさらに頭を抱え込んでいたと人伝に聞いたが、それでも他に任せられる所が無く丸くはないが何とか纏ったという感じだ。
オルニオンに集った人達もそれでも一応凛々の明星ならばと何とか納得してくれて落ち着いてくれた。

ように見えた。



「レイヴンだったな」

買い物帰りだった。
ユーリはラピードと一緒にアジトで俺と少しずつ離れても大丈夫なように訓練、所謂お留守番をし、ジュディスちゃんは今朝から新たに出立した後。
カロルは近くで出るようになった魔物を凛々の明星の下に付いたギルドたちと一緒に出かけてまだ帰るには早い時間だった。
俺を名前を知ってるのは誰だと振り向けば大きな武器を既に抜きさった男たちが俺を囲んでいた。
「おんや?おっさんご指名で・・・」
何か用かい?と聞こうとした瞬間既に剣は振り下ろされていた。
慌ててバックステップでその軌道から外れるも次の男が踏み込んできてさすがにリンゴのつまった紙袋を抱えながらかわすのはさすがに無理があった。
勿体無いと思いつつもリンゴの紙袋を投げつけながら子供連れの親子が歩く道を避けるように道を選ぶ。
途中ニヤニヤとした顔が俺達を見送るのを見てやっぱり恨まれてるんだろうねえと溜息を吐く。
アジトを目指して走ろうも先回りした・・・と言うか、手は出さないが明らかに邪魔をするように邪魔をする男達に舌打ちをし、気が付けばオルニオンの外へと向うように走らされていた。
さすがユーリに付いていきたいと言うだけはあるわねと心の中で誉めつつも、やっと拓き切った場所へと出て足を止めた。
「もう逃げなくてもいいのか?」
気が付けば最初に接触した人数は倍になっていた。
「って言うか、おっさんに何の恨みがあるのよ」
少しだけ息がはずんでみっともないといったらありゃしないと叱咤する。
だけど男達は俺を睨みつけて
「テメーがあのユーリと・・・」
「・・・うう、ユーリと」
何故か男達は一斉に何を思ってか流れ出そうとする涙をこらえ
「何でテメーみたいなおっさんなんだっ?!」
「そんなのユーリに聞けっ!!」
なんていう理由だと思う反面ユーリとの関係がここまで広まっていた事に赤面する。
確かに14歳差と言う年齢差もあるし20代と言う若さもある。
確かな腕っ節に加えてあの美貌だ。
女性はもちろん振り向く男共も一人や二人では無い。
彼らはそんなユーリに選ばれたのがこれと言った特長もない胡散臭いおっさんと言うのが気に食わないのだろう。
更に言えば凛々の明星のメンバーでは無いというのに憧れた凛々の明星と共にあり、仲間のように接しているやっかみもある。
誰かの剣がすらりと抜かれる音を合図に手に持つ武器を構えなおす姿が次々に伝染する。
何処か暗い色を携えた目を向けられて空を見上げる。
めんどくさい。
その一言が今の心境の総てだった。
騎士団時代にも散々体験した事を何で40過ぎて再び体験しなくてはいけないのかと、しっかりしつけの出来ていないカロルに恨み言を言いたくもなる。
だけど売られた喧嘩は俺だし、彼らにとって見れば俺の存在自体が喧嘩を売っているような物なのだ。
今度は地面に向って盛大に溜息を吐き出せばそれが合図。
盛大な鴇の声と共に武器を掲げ向ってくる面々に取り出した変形弓で応戦する。

残り数人とまでになった。
さすがに息が切れる。
ただそれは相手も同じで、既に地面に突っ伏してる連中からは呻き声が怨念のように吐き出されていた。
こうなると分が悪いのは俺の方で、執念だけで向かってくる相手の睨みつけてくる視線にはやつあたりもいいとこだと喚きたかった。
それにこれ以上無理すると色々まずい。
長時間の戦闘は体に負担をかけるものの、それ以上に危険なのは・・・と考え出した所で聞き覚えのある鳴き声が聞えた。
この短時間で終わらせれなかった事に舌打ちさえすれば遠くからレイヴンと予想した通りの声が俺の名を呼ぶ。
「おっさん、これは一体何なんだよ?!」
悲鳴にも近い怒りの声に俺が答えるより前に対峙していたギルド達が
「こいつがケチつけてきたんだよ!」
一斉に俺を指差しての大合唱。
ええっ?!っと驚く合い間にユーリに縋りつきながら訴えればキンと大気さえ凍らせるのでは無いような凍える視線でギルド達を睨む。
「んな判り切った様な嘘をつくなっ!!」
言ってぶち切れたユーリが足元に縋るギルドを蹴飛ばし、抜いた剣で襲いかかろうとする背中に慌てて飛び掛って止めれば、何か重大な間違いに漸く気付いたようなギルド達は唖然と俺達を見上げる。
「おっさんは怪我させられて腹立たねぇのか?!」
「そりゃ立つけど、だからってユーリまで暴れる事ないでしょ」
俺まで振り払って襲いかかろうとする逞しさにもう無理だと言う所で思わぬ援軍が着いた。
「両者ともそこまで!」
この広大な平原に良く通る声は聞きなれたもの。
そっちに縋るかのように声の持ち主を探せば色々と付属もついていた。
「はーい、ハリーお久しぶりねぇ」
「はーいじゃねぇだろ」
現れた帝国騎士団団長一行と港町で一緒にでもなったのか天を射る矢の面々が揃っていた。
「レイヴン隊長ご無事で」
さっきまでの勢いを殺がれたユーリの背中から滑り落ちた俺に白い隊服が汚れるのも構わず膝を付き手を差し出してくれたって、レイヴン隊長ってそれは無いんでないかいと軽く睨めば笑顔でかわされてしまった。
相変らず王子様みたいな子だなと思っていれば、不貞腐れたユーリがいつのまにか引っこ抜いた雑草を投げつけてきた。
「ユーリ」
窘めるフレンの声なんて聞えないとそっぽを向くも
「てめえらギルド同士の抗争は掟で禁じられているのは知っているよな」
睨みつけるハリーの視線から視線を外し
「このおっさんはギルド員じゃないんだろ?問題は無いはずだぜ」
なんて当然と言うように反論する。
「では、たった一人の一般市民にギルドが集団で襲い掛かったという事でいいですね」
フレンが確信を込めて腕を横に伸ばし
「一般市民を脅かす悪漢を確保!
 ユニオンも異議は無いですね」
最後の確認にハリーも頷けば高らかな号令と共にフレンと共にこのオルニオンに来た騎士団が一段を縛り上げてオルニオンの牢へと連れて行ってしまった。
静かになった平原に顔なじみだけが残れば、青年のおずおずと伸ばされたてが俺の頭を抱き寄せる。
「帰りが遅くって心配した」
見知った輪の中でこんな風に抱き寄せられて恥かしさが込み上げる物の、この一件でユーリの心の傷は元通りになってしまった事に気付かれないように溜息を零せば、フレンもハリーもユーリの背中側でなんともいえない視線で俺達を眺めているのを見た。

それから俺の処遇を改めて考える事になった。
判っていたとはいえこのオルニオンでは俺の存在はかなりの嫉妬の対象らしい。
ギルドの連中はもちろんうら若き乙女・・・になる前の存在からお年寄りまで幅広く嫉妬の対象になっているらしい。
これがジュディスのような美女やエステルのような高貴さ、リタの圧倒すべき性格なら誰も反論はしないのだが、よりにもよって14も年の離れたただのおっさんだ。
救いはこの街の建設当時からいる住人が俺の存在を許してる、感謝しているという事実に認めたくは無いが恩人の事をあれこれ言いたくない。そんな感じ。
まあ、あらぬ噂を立てられるのも慣れた門で他人事のように聞きよがしに耳に投げつけられる言葉に苦笑さえ零して聞いていたのは俺だけど。
そんな光景にカロル君がフレンとハリーが揃った場で俺の位置づけを相談してくれた。
「俺達はレイヴンにいつでも帰ってきてもらっても構わないぜ」
そのために今だナンバー2の座とユニオン幹部の座は空けてあるというハリーの言葉にフレンも対抗する。
「我々も今だ指導者は不足しています。現役で復帰する事が叶わないのなら、特別顧問官の席を用意させていただきます」
二人の間に散る花火におっかないとカロル少年と二人で震えていれば
「おっさんは俺達凛々の明星のもんだっつーの」
今だおっさんを諦め切れない二人にユーリは鼻を鳴らして笑って見せるも
「あら?おっさん、凛々の明星に入ったつもりは無いのよ」
いつのまにかメンバーに数えられているような会話に一応丁寧に断りを入れれば今度はフレンとハリーがユーリに向って鼻で笑っていた。
「じゃあ、レイヴンは本当にただの一般市民なんだね」
何処かがっくりとする声音に天を射る矢の幹部の一人が
「大人数のギルド相手に大立ち回りが出来て返り討ちにする一般人が何処にいる」
なんて茶々に尤もだとハリーは頷く。
さすがにフレンは沈黙を持って一般人である俺の立場を守ってくれたが
「だったら話は簡単じゃない」
扉を広げて当分運搬の仕事で戻って来ないはずのジュディスが戸口に立っていた。
「ジュディ・・・何か忘れ物か?」
そりゃないでしょとユーリのボケに突っ込むも彼女はふふふと笑う。
「途中オルニオンから帝都に向って護送車が見えたから何かあったのかと思ってね。
 オルニオンについたら町の人がレイヴンがギルドの人に追い掛け回されたって聞いたの。
 あなたに何かあったら私どうしようかと思っちゃったわ」
心配だったのよ私と小首をかしげ、そのままアジトの外で屯している今回俺を追い回さなかった面々に向ければそのまま蜘蛛の子を散らすように去って行った後姿にアジトの気温が一度下がった気がした。
「それよりも話は簡単って、どういう意味だ?」
この場で誰よりも心配し、当り前のように隣の席を陣取る青年はジュディスの紫水晶の瞳を見つめる。
「おじさまにはユニオンからの使者と言う事と騎士団の特別顧問官と言う立場でこの街に滞在してもらえばいいのよ」
言って妖艶な笑みを浮かべ
「そして、おじさまに襲い掛かった事で凛々の明星の下に付いたギルドを全部解散させて、それでもこの街に滞在したいのなら自警団と言う形でオルニオンの役に立ってもらうの。
 指導者はユニオンと騎士団の代表でおじさまになってもらって、私達凛々の明星が全面バックアップするの」
どう?楽しそうでしょと言うジュディスの微笑みにユーリはもちろんハリーもフレンもカロルまでなるほどと相槌を打つ。
「ちょっと待ってよジュディスちゃん。おっさんの何処にも所属しないって言う一番大切なところが抜けてるわよ」
「あら気づいちゃった?」
悪びれる事もなく微笑むジュディスにカロルがねえと呼びかけてきた。
「レイヴンは何でそんなにもどこに属したくないのさ」
これだけ有名ギルドに誘われ、騎士団の地位を約束されても首を縦に振らない俺を思ってか不安げな瞳で少年に見つめられる。
5年の歳月を経てもまだ真っ直ぐで純粋なままの瞳に居心地が悪く視線をそらせて何処か罰の悪さを織り交ぜて白状する。
「ほら、おっさん随分長い事組織のしがらみの中にいたじゃない」
騎士団では平民初の隊長と言う事で随分と心許無いことを言われ、ギルドでは余所者の新参者なのにドンの側に侍っているのを周囲に認められるまでかなり荒っぽい待遇を受けた事もあった。
「いざ自由になったらね、今度こそ自分で考えた生き方をしてみたいって思ったのよ」
道具から自分の意思を持ち、そして未来を思い描く様はレイヴンの過去を知るものなら喜ぶべき成長だ。
なんせそう促したのはその場にいる面々で、過去ばかりの男が望む未来は凛々の明星にとっても楽しみ以外何物でもない。
それを言われるとカロルは反論もできず
「そっか、レイヴンも未来の事を考えてなんだね」
「そうよ。なんせおっさんには若人よりも残されている時間は少ないんだから。 
 一分一秒無駄にしたくないのよ」
どうだと言わんばかりに言うレイヴンにあらとジュディスは悲しげな顔をした。
「つまり、私達と一緒にいる事は無駄と言う事?」
ギョッとしたのは俺だけではなく、まさかそんなふうに反論するとは思わなかった一面も同様に驚かされる。
「それは言葉のあやって奴で」
とたんに慌てる俺に彼女は悪戯した子供のように無邪気に笑い
「ちゃんと判っていてよ。ただおじさまをからかってみただけ」
判っていても慌てざるをえないのは、やっぱり相手がジュディスだからだろう。
「女に口で勝てると思ってるのか」
出された香茶を啜りながらのハリーの言葉に誰とも無く頷いてしまうのは仕方がないことだろう。
結局レイヴンは前と同じように凛々の明星に居る事となった。
変わったといえばいつの間にかギルドが減り、残った純粋に凛々の明星の活動の賛同するギルドとの交流にレイヴンが仕切る事になった。
その頃にはレイヴンが元ユニオンの幹部であの伝説のドン・ホワイトホースの右腕だった事と、帝国の伝説の隊長主席と言う事が広まり、ただの胡散臭いおっさんじゃないと判って心許無い悪口はもちろん誰も手出しをしなくなった。
それ所か友好的に付き合えば面倒見の良い確かな人物だとあっという間に溶け込んでいった。
もちろんレイブンと俺との正しい関係も次第に伝わり、上機嫌で俺の手を引いて凛々の明星からすぐ側の家へと帰るのを見られてはあんたも大変だなと言う何処か同情を折りこめられた無言の視線で見られるようになったのは…俺の知った事じゃない。

この街にレイヴンが住むようになってもうすぐ一年が経とうとしていた。
ちょっと早いようですがお祝いですと言うエステルがリタとフレンを引き連れて、いつのまに約束していたのかパティもひょっこりと顔を出していた。
ジュディスの腕を振るう料理とカロルも魔狩りの剣のナンを連れての内輪だけのささやかなパーティーをした。
ちなみにハリーも誘ったらしいのだが、忙しくて無理だと断わられたらしい。
レイヴン曰く頭脳労働方面に弱いギルドだが、それでも懸命に仕事をこなしていることを考えると何処か微笑ましく笑みさえ浮んでくる。
そして何よりレイヴンから離れられないでいた俺の心の傷が確りと癒えた事が一番の成長だ。
昔みたいに会えないのが…と言うまでには至らないものの、数える程度の日程の別離ならパニックを起さないようにまでなった。
尤もこの事実を受け止めれるようになったのはごく最近で、漸くここ数年の自分を客観的に見る事が出来るようになり、酷くみんなに迷惑をかけたもんだと謝罪もした。
おっさんは自分のせいでと逆に謝られたが、弱かったのは自分の心で、その謝罪にはおあいこだと言う事で締めくくった。
そんな久しぶりの集合と、夜明けまでのパーティーもお開きになり、数日後の再開から丸一年の日を二人きりでひっそりと祝う事にした。
きっとこれも女性ならではの気遣いだろうと何処かこそばゆさを思いながら、いつも料理を作ってくれるレイヴンの為に俺が腕を振るう事にした。
二人でのお祝いなのにユーリばかり働かせるのはおっさん気が引けるわと言って、キッチンの片隅で久しぶりのおっさん特性クレープを俺だけの為に作ってくれて、食事は最後まで楽しむ事が出来た。
今日は誰も訪れる事のない家で、先日来れなかったことを詫びてかハリーが送ってきたワインを傾けながら当然と言うように寝室へと向う。

外はいつの間にか降り出した例年よりも少し早目の今年の初雪が舞う中、暖炉で暖まった部屋は心地よく暖かい。
その世界を遮断するようにカーテンを引く合間に凛々の明星の拠点の窓から零れる明かりが消されていたのを、子供が寝ている事を確認するかのような目で眺めてしまう。
「どうした?」
「いや、カロル君はもうおねむなんだなって」
言えば苦笑するユーリがワインの香りを纏わせながら唇を押し付けてきた。
全くとんだ甘えっ子だと内心苦笑するも、カーテンの隙間からうっすらと見える振り続ける白い粒を眺める。
「どうした?」
再度聞かれた質問に思わず失敗した。
ユーリの不安げな顔からそれを悟った。
「おい、なんて顔してるんだよ!」
脱がせにかかった羽織を締め上げるかのように掴み直した彼の手に手を添える。
「時間だ」
その一言に猛然とした顔にできる限り優しいだろうと思われる顔を向ける。
「ここに俺様のすべてを置いていく」
「すべてって…」
「そうね。家とか財産?仕事一式から滅多に手に入らない資料、それから」
何か大切な事を他に忘れてはいないかと言うように口元に手を当てて考えるそぶりをしながら
「それ・・・から?」
まるで恐ろしい事でも待ち構えていると言うように顔を歪めるユーリに
「お前もだ。ユーリ」
最後にと言うように口づけされれば何か液体が流れ込んできた。
吐き出そうとするもレイヴンは俺の口を離さず、抵抗して見せても喉の奥へとゆっくりと流れ行ってしまった。
即効性なのか朦朧と始めた意識に
「もう待つ理由もない。寂しいかもしれないがそれは俺も一緒だ」
理解できなくてもあふれ出す涙とうまく回らない思考で言葉が見つからない俺にレイヴンは心から申し訳ない顔をして
「本当に…さよならだ」
滅多に見せない涙を一つこぼすも最後の抵抗と言うように羽織だけは強く握りしめる。
だけどその抵抗すらあざ笑うかのようにするりと脱いで俺の腕から抜け出て窓を大きく広げ
「探す真似はするな。二度と会うつもりはない。ただ、頼めるなら・・・どうか元気で」
振り返る事もなく、そのまま窓の外に身を躍らせ漆黒の世界に溶け込むように去って行った後姿に手を伸ばす事も出来ず…


その言葉通り、レイヴンは二度とこの町にはやってこなかった。

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