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拍手ありがとうございます!
何年も冬眠していたのにいまだ訪れてくださる方が見えて感激です!

そんなわけでついにお兄様登場デス。
ちょっとかわいい仕様(?)にしてみました。






おしゃれとか高級とかとはあまり縁のない普通のマンションの前にいた。
オートロックも無いマンションのポストを覗き込んで部屋番号を確認する。
エレベータで上階へと向えば、目的の部屋はすぐに見つかった。
ピンポンとチャイムを鳴らす。
暫く待てば無用心な事に「はい」とドアが小さく開いた。
「ようおっさん。今バイト先で干物を大量に貰ったんだよ。あんた魚好きだろ?」
ドアの隙間から覗く顔に思わず口の端がつりあがってしまう。
「珍しいじゃん髪降ろしてるなんてさ。それよりも寒いから入れてくんない?」
冷たい北風にわざと大げさに震えて見せるも何処か感情のない冷たい視線は変わらない。
「おっさん?」
訝しげてその顔を覗いていれば
「シュヴァーンどったのー?新聞勧誘だったら無視していいのよー」
何処か聞きなれた声が近付いてきた。
そして目の前に立つキューティクルなおっさんが振り返ればその向うにはよく似た記憶そのもののぼさぼさのおっさん。
「げ、青年。本当に来た」
「お、あっちが本物?」
何時かは髪を下ろした姿を見て見たいと願っていた姿の向うに会いたいと願った姿があった。
おっさんはそのまま近くにやってきたかと思えば無情にもドアをパタンと閉めた。
「ヲイ・・・」
突如閉ざされてご丁寧に鍵まで掛けられた扉の向こう側への抗議にチャイムを連打で押し続ける。
さらに
「ちょ、おっさーん。干物。ドア開けねーと家の前に干物並べて猫連れ込むぞ」
「そんな迷惑な事やめてっ!!!」
いきなりの眩い電気の明かりと、見知ったノリのおっさんが飛び出してきて、そのまま肩を掴んで家の中に入れてくれた。
「ラッキー」
ほんわりと温かい部屋にお邪魔しますと行儀よく入って行った。
「兄弟居るとは聞いてたけど双子だとは思わなかったな」
「君はレイヴンの学校の生徒さんか?」
「ああ、じゃなくって、はい。夜分遅く申し訳ないです。これ貰い物だけど」
言ってバイト先の店長から貰った干物を手渡せば本当に貰っていいのかと言うようにおっさんのコピーがおっさんに訴えていた。
「くれるんなら貰っておけば?」
興味なさげな声で台所から鍋を持って現れる。
「青年も食べて行きなさい」
目の前に取り皿と箸が置かれた。
「ひょっとして今から飯?」
「そうよー。折角兄貴が珍しく常識的な時間に帰ってくるんだから一緒に食べた方が美味しいじゃないの」
「常識な時間って・・・」
9時にバイトを終えてここまで軽く迷子になりながら約1時間かけてきたのだ。
学校が終わればさっさと帰るおっさんばかり見ていたせいかどうやら世間の常識が少しずれていたようだ。
そして兄貴と言うシュヴァーンだったかその人は待ちきれないと言うように鍋をつつきだしていた。
「なんか大変そうだな」
「だから来るなっつってたんでしょ」
ご飯まで貰ってしまい、折角のおっさんの手料理に手を伸ばす事にした。
「手料理、いいな・・・」
孤児院育ちだった俺は高校になって補助金を貰いながら生活をしていた。
高校生である事。
一定の学力がある事。
二つの条件は高校生活を堪能させてくれるもアルバイトをしないと生活は出来ない。
学校から許可を貰ってバイトに励むが、同じ孤児院仲間のフレンは成績優秀でもう一つ補助金を貰っているので慎ましい生活で何とかバイトをせずに勉強に集中していた。
少しでも金を浮かす為にアパートをシェアし自炊もしていた。
一人分作るよりも二人分を作ったほうが安いのでフレンとよく食卓を囲む。
その肝心のフレンが味覚オンチな為に料理を作ってもらうなんて恐ろしい事を頼む事が出来ない。
よって俺が料理担当になるのは仕方ないので、突如目の前に料理を出されると妙に感動してしまう。
「君の所の親は料理をしないのか?」
うちの事情を知らないお兄さんは当然の疑問を口にするが
「青年ちょっと事情があってね、孤児院で育ったのよ」
一通り事情を知ってるだろうおっさんの返事におっさんによく似た顔が申し訳なさそうに歪む。
「すまない」
言葉少なげな謝罪に鍋から鶏肉を摘み上げながら
「いや、ほんとの事だから謝る事ないだろ?」
そう。
そんな些細な事実よりおっさんの手作り鍋の美味さの方が今の俺には重要だ。
「それよりもそっくりなのに、真面目なおっさん見てるようでなんかくすぐったいよな」
おっさんと同じ姿で口調も人当たりもまったく真逆と言ってもいいほど違うのだ。
少し緊張してしまう感覚に苦笑していれば
「えー?おっさん達これでもそっくり兄弟で有名だったのよ」
「いや、無理だろう」
すぐさま否定すればクスクスと静かに笑うおにーさんの好感触なつかみにニヤリと笑ってしまうのはしょうがない。
そしてひとしきり笑ったおにーさんは俺を見て
「シュヴァーンだ。弟が世話になるね」
同じ顔でも見た事もないような柔らかな笑みを浮かべるから少し緊張してしまいながら
「ユーリ・ローウェルですお兄さん」
何故か握手をしていれば
「何がお兄さんだ」
スパンと頭を叩かれればそれを見てまたシュヴァーンは笑った。
「ユーリと仲良くなったからってヤキモチを焼くな」
「ヤキモチなんてしてないわよ!」
力説しなが缶ビールのプルタブをプシッと開けた。
「へー、おっさんヤキモチしてんだ」
シュヴァーンと揃ってからかえば感情豊かな物理教師は涙目になりながらいじけるのを兄が笑みを浮かべながら宥めていた。
仲の良い兄弟だなと、その日は後片付けを手伝って思いがけない収穫に行儀よく家路に着いた。

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