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恐ろしい話を一つ。
アップするための再読は一切しておりませぬ…がふっ。



約束その1。
月が新月を迎える一巡りする間に一度はオルニオンの拠点に顔を出すか、連絡を入れる事。
無事元気でいる事を出来る限り報告してほしいと思うのは待つ者の権利で、心配性な首領の為にもこれだけは守ってほしい。
破ったら騎士団やギルド巻き込んで探してやるんだからと言った少女は間違っても冗談は言わない。
約束どおり手紙を書く。
前の月には帰れたものの、今月は仕事を抱えて帰れそうもない。
今している仕事と、滞在の土地、そしてレイヴンの足取りのなさを報告して幸福の市場に手紙を託す。
魔物を倒して作り上げた素材を売り払って得た物は旅の邪魔になるからと拠点のオルニオンへと送りつけていた。
約束その2。
街に滞在する時はなるべく凛々の明星が使う宿を使用する事。
大概の宿の主と顔見知りになっているのだ。
使用した時に元気でいるか話が聞けるかだけでも僕達は安心できるんだ。
ちゃんと食べてちゃんと眠れている事を僕達は願っているよ。
レイヴンの事だから街道沿いに歩く事は無いだろうと思うも、やっぱり船の移動にはどうしても街に入らなければいけない。
男の一人旅はやはり数は少ないからと聞いて回るも当ては外れてばかり。
もう半年ほど手がかりもつかめずイライラとする気持ちを抱えながら約束の宿へと足を運べば事情を知る主の優しい対応。
暫く顔を合わせていない仲間から預かってくれた手紙に心が救われる。
レイヴンを探しているのは俺一人では無い綴りに涙腺が弱くなりだしていた。
約束その3。
無理はしないで。
いつの間にか老犬といわれるようになったラピードを置いていくのだ。
孤独な旅路。総てにおいて無理をしない事。
何かあったら騎士団やユニオンの支部を頼りなさい。
ほっとけない病の仲間に感化された友人知人達は、頼る前に顔を見かけたら声を掛けてくれる。
孤独を感じるよりも先に、こんなにも世界各地に知り合いが出来た方が驚きだった。
まだ大丈夫。
まだ一人でも大丈夫。
旅はまだ始まったばかりだ。
寂しいなんて言ってられない。
何度もそう自分に言い聞かせて気が付けば二年が過ぎていた。
気が付けば「大丈夫」と言うおまじないの言葉は効力を失いただの口癖になっていた。
旅の途中で追いはぎに遭い、退けたまではいいが、近くの騎士団に報告を怠ったばかりに逆恨みで襲撃される事も珍しくない。
その度に街で大暴れすることとなり、凛々の明星の代りにユニオンに身元引受を頼んだり、飲み屋で流れる噂話の些細な言葉のいい合いで喧嘩に発展するのも日常的となり、随分と荒れた日々を過すようになっていた。
この頃にはカロルもジュディスももう何も言えなくなり、フレンの小言が下町で過してた頃以上にに増えていた。
ただおっさんに会いたいだけなのに何がいけないんだと町に入ればトラブルを起すようになった俺は最近では野宿ばかりするようになり、気が付けば旅立つ前に交わした3つの約束は総て忘れていた。
今日はカプワ・トリムからカプワ・ノールへと移動する。
船を乗るのも出航間際に駆け込むようにして乗り込むようになった。
カフマンがいる幸福の市場があるのも理由だが、港にはパティが作ったギルドの・・・名前は忘れた。
その旗が見えたのだ。
陽気な彼女の曇る顔はもう見たくない。
灯台守の老夫婦と共にいる時間を邪魔したくないとチケット売り場で釣りを貰わずに船へと飛び乗って対岸のモニュメントの見えるノール港までの短い航海に繰り出した。
海は穏やかで港町はまともな執政官のおかげで活気に満ち溢れていた。
途中食料を買い、エフミドの丘を街道ではなく山道に入っていく。
街道に設置された騎士団の駐屯場に知り合いがいたら面倒だと遠回りをすれば、海を眺めながら坂道を登る。
初めて海を見た時は感動したのに今ではこの景色はもちろん世界の総てが色褪せていた。
雲ひとつない穏やかな天気の中海鳥が岩場で羽を休めてはまた飛び立っていく。
鳥なのに猫にも似た鳴声を遠くに聞きながら街道が整備されてしまった為に人が通らなくなった山道の草を踏みしめて陽気で汗ばむ陽光の下を登っていけば開けた場所に出た。
デュークの親友が眠る石碑のある場所まで来たかと何故かあまり魔物が出ないこの場所で休憩しようと休む場所を探すように顔を上げれば幻のような紫の羽織を着た人物が立っていた。
結い上げた髪は黒に近い灰味がかった消し炭色。
ふうわりと羽織った羽織は穏やかな海風を受け止めるように裾をはためかせ、思わず近寄らずには居られない足音に振り向いた翡翠の瞳がニヤリと笑う。
「あら青年、お久しぶり」
口の端を吊り上げて笑うその顔に迷わず握り拳を叩きつけていた。
小気味良いくらいに吹っ飛んだおっさんの上に馬乗りになってその胸倉を掴み上げる。
「テメー今までどこ行ってたぁっ!」
揺さぶりながらカクカクと頭が前後運動するのを気にせず問い詰める。
「落ち着け」とか「まって」とか「やめて」とか何か言っていたようだが死ぬほど寂しかった心はそんな些細な抗議なんて聞き入られない。
抵抗も口答えもなくなったおっさんの顔を覗き込んで
「ずっと探してた」
「うん、知ってる」
「寂しかった」
「ごめんね」
「今頃何しにのこのこ現れた」
「青年に逢いた・・・がふっ」
俺が苦しんでいるのを知っていて、それでも姿をくらまし続けたおっさんが何の気まぐれを起したかなんていつもの事だと適当では無いだろうがあしらわれる言葉の返答に噛み付くように唇を重ねた。
勢い余って頭を地面に打ち付けて変な声を出していたがお構いなしに髪の中に指を滑り込ませ久しぶりの感触を楽しむ。
顎のラインに沿って舌を這わしてうなじを舐め上げる。
「おっさんの匂いだ」
「ワンコじゃないんだから」
五感を総て使って腕の中の存在を確かめる俺をおっさんも確かめるように顔に手を添える。
「ちょっと痩せたんじゃない?」
「誰かさんが突然消えるからだよ」
思わず避けられた視線を顔ごと掴んで強引に視線を合わせる。
観念したかのように力を抜いて笑みを浮かべるたおっさんはそのまま俺を引き寄せて
「愛してる」
言って今度はゆっくりと互いの存在を確かめるように優しく口付けを交わした。
登りかけたエフミドの丘を降りてノール港へと向う。
それからトリム港へと渡ってオルニオンへの定期便に乗り込む。
ハルルやザーフィアスに寄るか?とおっさんは言ったが、まずは随分と迷惑をかけてきたカロルとジュディスにこの姿を見てもらいたいと我儘を言い、もう逃げないようにと手を掴んで港町を横切った。
途中おっさんが申し訳なさそうな声で手を離してくんないと言うが、俺はいやだと笑みを浮かべて一蹴した。
トリム港からオルニオンへは数日の長旅になる。
途中ザーフィアス西岸に出来た港町に補給に寄る為、遠くに帝国の結界魔道器の名残のモニュメントが見える。
並んで懐かしそうにみるおっさんはフレンやエステル達の話しをしようとして、最近連絡を断ってしまっていた為に話す言葉が見つからず思わず口を閉ざしてしまった俺の頭を優しく撫でてくれて、自分がいかに身勝手だったかを思い知った。
ザーフィアス港を出てまた長い船旅になる。
観光船ではなく貨物船の色合いが濃いこの船では二人部屋は特等室も同然だった。
旅をするのはギルドの連中が多く、少しでも安く旅費を浮かせようと船底の雑魚部屋に集り、余裕のある貴族様はこんなぼろ船になんて間違っても乗らない。
船旅の間は食事と気分転換意外ほとんど部屋にこもりきっていた。
部屋の外の廊下は人通りも少なく、時折船員が通り過ぎていく足音だけ。
そんな密室の中で俺は二年分のレイヴンを補給していた。
ムリ、もうムリ、ごめんなさい。
悲鳴を上げるおっさんを離さず、お互い一子纏わぬはしたない姿で全身でレイヴンを感じていた。
束ねていた髪紐も解け、俺の長い髪も変な寝癖がついていたがお構いなしに腕の中にいる存在を確かめる。
別に体を重ねなくてもこうして抱きしめているだけで十分ほどの幸せをかみしめる事が出来るのだが、それでも見知らぬ傷を見つけては離れ離れの時間を思い知らされて、おっさんを抱きしめずには居られないという感情に掻き立てられる。
おっさんも自分がこんな不安定な俺の原因だと言う事を認識してか口では抵抗して見せるも一度も拒まず俺を受け入れてくれた。
最後に罪悪感に囚われる俺をおっさんは淡く光る心臓魔道器の輝きと共に抱き寄せて俺を寝かしつけてくれる。
こんなにも安心して深く眠れるのは久しぶりだとその腕の中で眠るのが日課になった。
船を下りる頃には船員にも俺達の関係が知れ渡っていた。
俺を見てはニヤニヤと笑う船員もいればおっさんを捕まえては妻の自慢をする船長の惚気話を聞かされたり、下りる日には幸せになとエールまで送られてしまった。
間違ってはいないが何か勘違いをされたまま訂正をするわけでもなくオルニオンへと続く道程を辿る。
次第に足が重くなっていくおっさんの手を引きながら、記憶から更に大きく発展した町の入り口を見上げれば、前は入り口付近に在った壊れた魔道器ののモニュメントは随分と奥ばった所に周囲を花に囲まれて聳えていた。
「随分と大きな町になったわねぇ」
二年ぶりになるだろう町の感想にそうだなと俺もどれだけ離れていたか改めて思い知る。
壊れた魔道器を見上げていればどこからか聴きなれたワンワンと言う鳴声が近付いてきた。
二人そろってその声の主を探せば
「ラピード!」
振り向いた俺に飛び込んできたラピードの勢いにはじかれて尻餅をついてしまう。
ラピードはお構いなしに人の目の前でガウガウと文句を言った後、隣に立つ存在に気が付いたようだ。
「ウウー・・・」
低い声で唸り容赦なく罵倒を浴びせるように吠えまくる。
このオルニオンでラピードの存在は有名だ。
おとなしく、従順で人の言葉を理解するのは知れ渡っていて、魔物が近づくと一番に知らしてくれる事から町の子供にまで人気者だ。
そんな彼の珍しい姿に遠巻きで見ている人はレイヴンを胡散臭そうに眺めていた。
「ラピード落ち着けって」
「おっさんも嫌われた者ねぇ」
「ったりめーだろ」
そこは否定せずに今にも飛び掛りそうなラピードの喉元を撫でてやりながら落ち着かせていればどこからかラピードと声が聞える。
「おや?この声は・・・」
「遅れてやってきたカロル先生だ」
次第に近付いてきた彼の成長した姿に目を細めるおっさんは酷く穏やかだった。
「覚悟しとけよ」
「青年守って?」
覚悟なんてとっくに出来てるから今頃ひょっこり姿を現したくせに、こうやって助けを求めてくるのは甘えからくるのだろう。
何処かくすぐったい。
大きな歩幅で走ってくる姿でラピードと共に俺達も見つけた彼は純粋に再会の喜び一色で俺達の名前を呼ぶ。
「ユーリ!レイヴン!」
ラピード同様スピードを緩める事無く俺達に飛び込んできたもう子供とは言えない体を二人がかりで受け止める。
泣き虫だった彼は今もでやっぱり泣き虫で、ユーリ心配してたよと言ってレイヴンと向き合う。
既におっさんの身長を抜かしたカロルはそれでもかつて甘えていたようにしがみ付くように抱きしめ
「どこ行ってたのさ!」
そう言ったきりしゃくりあげる泣き声で言葉が後に続かない。
おっさんはその大きくなった背中を何度も撫でていれば今度は頭上からの声。
「カロルどきなさい」
三人と一匹で見上げればモニュメントの頂点に一人の影。
逆光であろうがその槍を持つ姿と何処か艶かしさを含む声色に誰なんて今更聞くほうが失礼である。
「ジュディスちゃんおひさしぶッ・・・」
嬉しそうに片手を上げて挨拶をしようとしたおっさんの脳天めがけて手にしていた槍を思いっきり振り下ろしていた。
おっさんはそのままぶっ飛び・・・
「レイヴーン!」
慌てて駆け寄るカロルを見送りながら
「容赦ないのな」
「あら、これでも手加減した方なのよ」
しれっといい退けたジュディスから少しずつ距離をとりながら見事意識を飛ばしたおっさんを担ぎ上げる。
「俺の部屋まだ残ってるか?」
「客間は空いてなくてよ」
「俺の部屋で十分だって」
カロルに手伝ってもらって背中に担ぎ上げて久しぶりの凛々の明星のアジトのドアをくぐる。
広く大きな部屋には旅立った時から変らず木の香りが漂っていた。
温かな陽射が差し込む大きな窓の遮光するレースのカーテンも、今は火のない暖炉の上に飾られた凛々の明星のタペストリーも、生活傷の付いたテーブルも何も変わってない。
随分と懐かしく思いながら久しぶりの自室なのに埃っぽさの感じる事の無い部屋に驚き、洗濯をしたばかりのような清潔なシーツに目を見張る。
ドアの所で柱にもたれながらふふふと笑うジュディスにはもう頭が上がらない。
「それにしても早くレイヴン目を覚まさないかな」
船旅の数日の間、存分に言葉を交わした俺とは違い、カロルはまだ挨拶しかしていないのだ。
「それよりみんなに知らせなくて良くて?」
そうだ!とレイヴンが帰って来た事を知らせなくてはならない人はまだ他にもいる。
「一応パティとハリーとリタとエステルの所には手紙出しておいたぞ」
トリム港から船に乗る前にパティとハリーに手紙を出しておいた。
パティの船は港にあるものの、出かけているらしく留守の彼女に灯台守の老夫婦に手紙を託した。
ザーフィアスに寄港した折にタルカロンのリタとザーフィアスのエステルに手紙を書いて、ついでにフレンにも連絡してもらう事を頼んだ。
貨物船の旅だ。足の早い帝国の船なら手紙がついてからでもそろそろ追いついてもいい頃だし、潮の流れに関しては天才的な目を持つパティにかかれば帝国に遅れを取る事は無い。
ただ、一番遠いタルカロンにいるだろうリタが怒るだろうは考えなくてもわかってる事で、久々にぶっ飛ばされるなと思えば笑が込上げてきた。
偶然城に居る事を願うのみ。
寒くないようにと布団を掛けたレイヴンの無精ひげの生える顎を一なでして近くにあった椅子を引き寄せる。
「だったら私、みんなのご飯の用意に取り掛かるわ」
久振りに腕を振るうから楽しみにしててねと言う笑みにカロルがヤッター!と素直に喜ぶ。
「じゃあ、僕はレイヴンの好きだったお酒買ってくるよ!」
「頼むな」
言う前に部屋を飛び出して言った姿を窓から外に視線を移せば駆け足で出かけていく二人の後ろ姿に自然に笑みがこぼれ
「おっさん、早く目を覚ませよ。
 寝坊するとジュディの飯もあんたの好きな酒も俺が全部食っちまうぜ」
気を失ったまま、いつの間にか寝息に変わっていた呼吸に呆れながらも、縛ったまま眠って寝にくくないのかと言う髪を軽く引っ張ってみた。

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