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最終話です。
真剣にユーリとレイヴンの幸せを考えてみたらなんでこうなったんだろうかと…
どうぞ最後までお付き合いください。





オルニオンを出て雪が舞う中、港へ向かう。
薄っすらと明るくなり出した空の下、朝一番の貨物船に乗り込みザーフィアス港へと向った。
船の客室を一部屋借りて、ソファにお互いもたれあいながら仮眠をし、ザーフィアス港に辿り着けばそのままザーフィアスを遠目にクオイの森へと向かう。
いつもと同じように正規ルートを通らず脇道からもぐりこみ、遠くにハルルの巨木を眺めながらエフミドの丘を目指す。
途中で会う魔物をレイヴンはくるくると、相変わらずの身軽な動作で瞬く間に片づけながら俺の話に耳を傾け続ける。
眠りについたエステルの事。
暫くしてからラピードが子供を残して魔物のとの戦いの中自分の子供を守って散った事。
カロルの子供が生まれた日の事、そして託児所でも開くのかと言わんばかりにジュディが子供を連れてきた日の事。
リタが連れてきた子供の成長と早すぎる消失の事。
あの町で目まぐるしく起きた出来事を休む間もなく話し続ければそれはあっという間の道のりだった。
あまり話す事はなくても積もり積もった時間の流れに話は尽きる事なく、すぐそこを曲がればデュークの親友を弔う場所へとたどり着く所まで着てしまった。
レイヴンの手を引きながらさあ行こうと言う所で
「ユーリ、ちょっとこっちに来て」
何故か道から外れた場所へと潜り込む事になった。
「なんだおっさん?早く着きすぎたか?」
たぶん俺は浮かれすぎていて失念していた。
「なに、ちょっと準備をしなくちゃねって」
この男が大嘘つきな事を。
準備を…ってなんだ?と首を傾げていればその場に向き合うようにお互い座る事になった。
レイヴンは荷物から小さな2つのグラスと酒瓶を取出しなみなみと注ぐ。
何だと言う合間に乾杯とグラスを鳴らして一気に煽った。
よくわからないものの同じように酒を煽ればレイヴンは急に真面目な顔をして
「この先にデュークが待っている」
「それは判ってるって」
デュークに会いに来たのが目的なのだからと思いながらも何か予感…めいたものが最大級の非常警報を鳴らす。
「そのデュークにだ。この魔核を渡してほしい」
右胸にそっと手を添えて俺の目をまっすぐ覗きこまれて息を忘れた。
思考も止まり、レイヴンが何を言っているのか理解できなかった。
目の前が真っ暗になり、喘ぐかのように息を吸い込んでレイヴンの胸ぐらをつかんだ。
「あんたはまだ死にたがっているのか?!」
震える腕で掴み引き寄せた顔を覗きこむも目の前の男はどこまでも穏やかな瞳で見つめ返すまで。
「まぁ、少し…長くなるが話を聞いてくれ」
話を聞くようにこのままの姿勢のまま座りなおせばおっさんは俺から視線を離さず語り出した。
「星喰みの一件の後、この心臓魔導器の調子がすごく安定したのよ。
 それこそ自前の心臓があった頃と何も変わらないくらいに。
 あまりにも調子が良かったから騎士団とかギルドとかバンバン仕事こなせたくらいにほんと調子が良かったのよ。
 そのうち、まぁ半分嫌味と言うか、『シュヴァーン殿はホントいつまでたってもお若い』なんて貴族達にからかわれるようになってふと気が付いたの。
 同じようにギルドでも『レイヴンもう若くないから無茶はするな』って。
 そこで初めてなんかあれ?って思いだした所でデュークに会いに行ったら奴さん俺を一目見て『始祖の隷長化したか』なんて、おっさんぞっとしたわ」
そこに来てはじめて『極端に成長が遅くなった』と言った言葉の意味を理解した。
「おっさんにしてみれば冗談じゃないっていうの!
 やっと生きようって思えたのに、何で始祖の隷長として生きなきゃいけないのって、目の前が真っ暗になって、なんとか人になるなる術を探し始めたの。それが…」
「第一回おっさん消失事件…俺達にかまってられないわけだ…」
「こんなことユーリ達に言ったらみんな自分の人生をおっさんに捧げても解明しようとするじゃない?
 だけどおっさんの望みはみんながみんなの幸せを見つけて幸せに暮らす事が望みなの」
「でも俺の幸せはおっさんがいる事で初めて成立する」
睨みつけばおっさんはごめんねと小さな声で誤って
「ユーリの状況はおっさんも知ってた。だから早く何とかして会いに行かなくちゃって焦ってたんだけど、デュークに何とかしろ、でないと協力しないなんてまで言われちゃってさ。
 次の初雪が降るまでにって約束を取り付けた所でユーリの側に放り出されちゃってね…」
再会した。
「ただし、今度はこんな事にならないように、ユーリがおっさんの事を思い出せなくなるくらい時間が掛かっても大丈夫なくらいの準備をして…結果ユーリをあの家に縛り付ける事になっちゃったけど、それでも誰かが目にかけてくれるからきっと大丈夫、多分大丈夫だって。
 デュークにちゃんと説明もして脱始祖の隷長化探しを始めてた」
それはデュークに説明と言うか自分への言い訳だと言い聞かせたい所だが、レイヴンの話はまだまだ続く。
「とりあえず城に潜り込んで古い書庫のあたりを片っ端から読み込む事から始め…てって、何よユーリ」
レイヴンは話の途中なのに俺に両手で肩を掴まれて話を止める。
「城ってザーフィアスのか?」
「それ以外どこにあるのよ?」
「もぐりこんだ…のか?」
「一般兵に応募して文官として潜り込んだわよ」
唖然とした。
今もシュヴァーンには特別顧問として席が置いてあると言うのに…
「フレンの奴何してたんだよ…」
痛くなる頭と能天気な笑みを浮かべるフレンに怒りを覚えれば
「団長さんに一般募集兵士がそうそう顔合わせる事ないじゃないの」
暢気な口調は隊長主席とした時代からの確かな確信からの物。
「微妙な、戦力としてどうかと思うような博識ある平民のおっさんには書庫の整理がおあつらえでね、古い書庫を手当たり次第何年か読みふけったわ」
何年…と言う所でユーリは顔を上げた。
ひょっとしてレイヴンは…
「エステルの花は、あれはアンタが置いたのか?」
既に置かれていたハルルの花はずっとリタが置いたものだと思っていたが、ひょっとしてと聞いてみればレイヴンは頭をぼりぼりと掻きながら
「元気が取り柄の嬢ちゃんが臥せたって聞いたから心配になってちょっと様子を見に行ったのよ」
目を瞑りながら過去を思い出す顔にはきっと白と淡い薄紅色で統一された柔らかな光の踊る部屋を思い出したもの。
「窓からこっそりと覗くだけのつもりだったんだけど、あまりに嬢ちゃんの様子が変でね、狼狽えているうちに見つかっちゃってね」
思わず唖然と話を聞いてしまっていた。
エステルは俺よりも先にレイヴンを見つけ出していたのだから。
そんな俺の動揺に気づきもしないで話を続ける。
「嬢ちゃんは自分の状態の事に気が付いていて、これはどうしようもない事だからと自分の短い運命を受け入れてたわ。
 嬢ちゃんも俺の変化に気が付いたみたいで…」
『そんな事ユーリは気にしません!お願いですからユーリに会ってください!』
「自分の残り時間少ないっていうのにこんなおっさんの心配ばかりしててね、ほんと…」
この先の言葉は続かなかった。
「それから数日間嬢ちゃんのお願いを聞き続けてあげたわ」
ユーリに会ってくださいと言う願い以外だけど、と視線を反らして呟く。
「具体的に何してやったんだ?」
ユーリはエステルの最後に別れを告げただけのばつの悪さから彼女の最後と向き合うように尋ねれば
「昔シュヴァーンがやったように本の読み聞かせをしたわ」
さらに昔へと記憶が飛ぶ。
本に囲まれた書庫の窓際、暖かな日差しの入る事のない書庫で二人並びながら童話を読み聞かせていた遠い昔。
孤独を埋めるように本の世界へと入り込む彼女に彩りある世界を教えていたのは偽りの命で彩のない世界を生きていた騎士。
二人で一人だなと、どこか不思議に見えた組み合わせだが今ならなんとなく微笑ましい光景だとみる事が出来る。
「あと、旅をしていた時みたいにおやつを作ってあげたり、まだ嬢ちゃんの行った事のない場所の話をしたり、城にこもって久しぶりだからってハルルの花をプレゼントしたり」
「よくあの短時間でハルルの花を持ってこれたな?」
別に羨ましくないぞと言うように言えばレイヴンは苦笑。
「実はシュヴァーン隊の隊舎の庭にハルルを植えてみたんだ。
 これは後で聞いた話だが、あの年初めてハルルの花を咲かせたそうだ」
なんという偶然だろうかと驚きは隠せずにいれば小さな声で「皮肉よね」と呟く。
何がだ?と思えば
「副帝として城での仕事が増えてきたから慰め替わりじゃないけど、ここも楽しい所になるようにってハルルを植えてみたのに」
まるで入れ替わりじゃないかとユーリでなくても思える言葉に「気にするな」としか言葉は見つからなかった。
「まぁ、ユーリもハルルの花を持ってきたのにはちょっと驚いたけど」
付け加えられた言葉に
「おっさん見てたのかよ?!」
「気づかなかった?殿下の後ろにくっついてた文官の一人がおっさんだったのよ」
頭を金づちで殴られたようなショックに思わず項垂れてしまう。
「そんなに近くにいたのかよ?!」
「おっさんばれないかってひやひやだったわー」
気づけなかった俺に白い目を向けるレイヴンの顔を恐る恐ると見上げれば
「まぁ、そう言う事が起きたばかりだもの。仕方がないって言うものよ」
なでなでと頭をなでながら慰めるも
「まぁ、そこでと言うか、それがヒントになったのは確かね」
と言って、話を元に戻した。
「満月の子、生きる魔導器ともいえる代償はその身に恐ろしく負担をかける事だ。
 ここはリタも辿り着いた結果だ」
ちらりと俺を見る瞳に小さく頷く。
「でだ。魔核を体内に埋め込み、生命力を動力にしているはずのおっさんが何でこんなにも元気なんだと疑問に辿り着いたわけ。
 調べに調べた結果、おっさんはこの魔核に生かされていると結論付いたわけだ」
「え?いや、だって、それは心臓魔導器をつけてるからだろ?」
それはずっと前からだろと言えばおっさんは頭を横に振って
「魔核は聖核を砕いて術式を施したもの。だけどだ。
 ひょっとしてこれは聖核そのものを使っているとしたら…」
アレクセイの聖核への執着は狂っていると言ってもいいものだった。
砕かずに使えばそれ以上の力が手に入ると言う結論に辿り着き実験するにも実験体は山のようにあった時。
まさかと思ってレイヴンの目を覗き込めば今では確信を持った目で頷かれてしまった。
「この聖核はわずかだけど確かに自己を持っていた」
つまりだ。
「心臓魔導器で生きていたってわけではなく…」
「この聖核の始祖の隷長によって、そして同化する事によっておっさんは生かされていた」
言葉を失い長い間沈黙が広がっていた。
風が草をなでる音も、虫が歌う声も全てが聞こえず、まったく別の何かによって生かされていたと言うショックは自分以上だろうと言う相手を眺めながら
「だから、あんたはこれをあいつに渡すって言うのか?」
思わずと言うようにその場所に手を伸ばす。
服の上からでも熱を持つ事のない石は相変わらずひやりとしていて
「この子が聖核ならちゃんと精霊としてあげたいじゃないの」
かつて聖核を精霊にしたようにレイヴンは胸に抱く聖核も精霊にしてあげたいと言う。
「だけどそれは…」
満月の子とリタが用いた術式があってのものではないかと思うもちらつくデュークの影。
「だよな…」
リタに出来てデュークに出来ないわけがないと一人納得する俺をレイヴンは穏やかな顔のまま俺を見ていた。
「ま、そんなわけでやっとこの子をおっさんから解放してあげれるチャンスがやって来たわけだ」
ぐっと唇を噛む。
「今じゃなきゃダメなのか?」
何で今なんだと手を強く握って説得を試みようとするも
「前にもチャンスはあったのよ」
ぽつりとつぶやいてそっぽを向く。
「だけど、おっさんそのチャンスを結局物に出来なくてね」
逆に俺の手を強く握りしめられた。
「これが最後のチャンスなの」
握りしめられた手からも必死のように伝わるのはこのチャンスを逃した恐怖を伴うもの
「どうしてもかよ」
聞けば
「ああ、もうこれ以上誰かに置いて行かれるのだけは嫌だ」
空を仰いだ。
目の前に居るのは最後の記憶と同じ姿。
だけどそれと向かい合う姿は彼を追い越し老いたもの。
過去に置いて行かれた経験を持つ者はまた置き去りにされて新たな偽りの命を吹き込まれた姿。
その願いは判らないわけじゃない。
だけど!
「おっさんの望みはね、みんなと適当にバカ騒ぎして、最後にみんなに見送られる事が出来ればそれで満足なの。
 人として人の輪の中で生きて人として死ぬ事が出来ればそれで満足なのよ」
あまりに当り前すぎるささやかな願いに顔を見られたくないと抱きしめる。
「んなこと言うなよ」
「ユーリの居ない世界で一人生きるなんて…」
耐えられないと呟いた言葉は終わりのない生に怯えての物。
想像の付かない孤独の中に取り残され、置いて行かれるだけの運命だなんて…それでも生きろなんて言えるだろうか。
レイヴンを抱きしめたまま共に生きてほしい、けど望みを叶えてあげたいと葛藤の中長い時が過ぎた。
風が冷たくなり、海風に髪が攫われてようやく顔を上げる。
「なあ、レイヴン」
「何?」
「今度こそどこまでも着いて行ってもいいんだよな」
言えば困ったかのような顔がくしゃっと歪む。
「お奨めはしないけど、ユーリもいいお年頃だし着いてきたいのなら着いてらっしゃい」
「ああ、もうこれで」
あんたは一人置いて行かれる事はないんだ。
言葉にならない声でそっと呟けば何かを思い出したかのように顔を上げたおっさんが俺に最後の頼みをする。
こんな瞬間なのに思わず瞬きをして聞いてしまえば、なんとなく二人して苦笑。
きっとこれで何かあるあるわけでもないと言うような穏やかな中で俺はレイヴンを膝の上に座らせてシャツをたくし上げる。
おっさんは器用に短剣の先でカバーを外せばむき出しになった聖核が現れた。
初めて見たそれは見た目よりも大きなものだっただけに思わず息を飲み込むも、どこか不安げな視線が俺を見ていた事に気が付いて心の中で舌打ち。
誰よりもこの存在に恐怖していたのは抱きしめている存在じゃないかと自分を叱りつけて怯えを見せずに手を伸ばす。
「ただ取り出せばいい」
「それが簡単にできれば話は難しくないっていうの」
言いながら暗くならないようにわざと声をあかるくと勤めながら、溢れだしそうな涙をこらえて笑いかけながら
「すぐ合流するからちゃんと待っててくれ」
「時間かかってもおっさん構わないわよ」
思わずと言うように唇を重ねながらそれを引きずり出す。
あまりにあっさりとはずれた聖核におっさんは何度か痙攣して、やがて静かになり…



水平線に日が沈んだろうか。
対面する人物の顔が判るか判らない黄昏時。
そこに一人の男が海に向かってたたずんでいた。
俺の足音に気が付いて振り向く姿の向こうにもう一人の女性がいた。
「わりぃ。遅くなった」
言えば腰まで届く長い髪を海風になびかせながら白皙の顔は俺の抱える物へと視線を送り
「いや、判っていた事だ」
記憶の限り変わる事のない姿の男は予定の内だったと言う。
「あの、シュヴァーンのおじ様は?」
デュークの影から出てきた少女の面影を持つ女性に初めて目を瞠った。
背中の半分ほどで切りそろえた、ハルルの色を持つ女性だった。
思わずと言うようにデュークを見れば感情のない瞳が小さく頷く。
「満月の子…」
言えば
「半年ほど前にあれが見つけてきた…」
前のチャンス…とはリタの子供を指しての言葉だった事にやっと気が付いた。
そう言えばリタが連れてきた頃傍らに子供の面倒をよく見ていた研究員が側にいた事を思い出す。
今更ながらだけどと思うも、レイヴンが物に出来なかったわけを今更ながら知った自分を殴りたくなった。が、
「あの、シュヴァーンのおじ様…」
再度問われた問いに
「ああ、用事が出来て俺が代わりに」
言って女性に聖核を渡す。
女性はレイヴンから何かを聞かされていたのか、あからさまにほっとした顔になりデュークを見上げた。
その視線に一つ頷き
「では始めよう」
取り出した宙の戒典を構えれば術式が展開した。
聖核を抱きしめた女性を中心に大量のエアルが集まるのを、懐かしい気持ちで眺めていればやがて光り輝かんばかりの真っ白な美しいと言っていい精霊が誕生した。
昔は苦労したのに・・・と、懐かしく眺めていれば
ぱちん
そんな音がするような勢いで精霊の瞳が見開いた。
開いた側からぽろぽろと涙があふれ出し
「何てことするのよー!!!」
どこまでも深い悲しみの悲鳴と慟哭と共に生まれた精霊はまっすぐ俺の胸元へと飛び込んできて、拙い風の魔術を打ち込んできた。
軽く後ろへとたたらを踏んでしまうもその精霊を抱きしめて
「すまない。おっさんの願いなんだ」
「私がいればずっと一緒に生きれたのよ!!!」
「おっさんの望みじゃない」
「ずっと一緒だったのよ!!!」
「すまない」
恨みつらみを吐き続ける精霊をなだめるように、真っ白な翼にも似た羽と真っ白のドレスに溶け込むかのような長い髪を撫でながら彼女の呪いを一身に受け止めていれば突如くるりと振り向いてデュークの隣に立つ女性の前まで移動し
「世界の毒!あなたは自分のしでかしたことを理解して?!」
ぴしりと指さす顔は憤怒した物。
まさかこのような事になると思わなかった女性はデュークを見上げ戸惑っていれば
「この娘は何も聞かされていない」
呟いたのはデューク。
精霊はデュークを守るようにいつの間にか集まっていた同胞達すら見向きもせず睨みつけ
「お前だった聖核がシュヴァーンの胸に埋まっていたことなどこの娘は一切知らない」
「え?」
暗闇の中でも青ざめた顔でぺたりと座る女性に精霊はもう何も言わない。
ああ、ほんと…
「レイヴン大切な事は一切言わないのな」
どうしようもないおっさんだと思うも、きっと彼に恋していただろうこの女性はぽろぽろと涙を流しながら今更ながら自分のした重大さを認識していた。
「こんなの私は望まないわ!こんな世界私は認めないわ!!!」
震える肩を抱きしめて全身全霊で叫ぶ精霊の羽をやさしくつかみ
「レイヴンからの託だ」
ぽろぽろと目元を真っ赤に染め上げた顔が恨みがましく俺を見る。
「レイヴンのすべては俺のものだから。
 だけど、今までずっといてくれたお前に渡せるものはこれくらいしかないからって…」
睨むような視線に、本当はこれも渡したくはないんだけどなと前置きをして
「シュヴァーンの名前をもらってくれって」
大きく見開いた瞳がゆっくりひとつ呼吸を吸い込み
「レイヴンのバカ―!!!」
俺に風の塊をぶち当てて自由になった体が空へと駆け上がる。
そのままエアルの残光をなびかせながらどこかへと駆け去っていくのを見送れば今だ静かに嗚咽をこぼしながらうずくまる女性を一瞥して
「デューク、おっさんに会うか?」
聞くも首を横に振るだけ。
「別れはすでに済ませた」
そのあと何か言いたげに口が開いたかと思うもゆっくりと何かを整理するかのように口を閉ざしてから言葉を紡ぐ。
「私にはできなかった事だ。すまなかった」
この男にも罪悪感とかあるのだろうかと考えるも
「何。これは俺の仕事さ」
最後の最後、望みの形とは違っただろうけど、可能な限り希望通り叶えたつもりだ。
「いや…これは俺の特権だ」
人の枠の内に人として終わる事が出来る記念の日に俺を選んでくれた。
これ以上満足な事はないだろうと、きっと誰にも理解してもらえなくても構わない幸せの形だっただけの話だ。
くるりと踵を切り返して元来た道へと戻っていく。
「いくのか?」
「ああ、レイヴンが待ってるから。
 寂しがり屋の癖に、どうしようもないおっさんだよ」
足を進めれていけば「ああ、昔からあいつはそうだったな」と、小さな頷く声だけが聞こえて思わず苦笑してしまった。



周囲はもう暗闇に飲み込まれていた。
だけど空を見上げれば満天の星空が広がっている。
これぐらいの明かりがあれば十分だ。
木の根元に身体を預けるように眠るレイヴンを背負う。
「じゃあ行こうか」
伝わってこない熱でも確かな存在の重みに、落ちるなよと注意を促し
「実は、とっておきの場所があるんだ」
よっこいしょと抱え直す。
向かうは道を外れた茂みのさらに奥。
「まだみんなには内緒にしていたんだけど、エステルのハルルにも負けないくらいのすっげー馬鹿でかいハルルの樹があるんだ」
遠い昔、彷徨っていた時に偶然にも見つけたもの。
再会したら二人で見に行こうと決めていたのに結局案内できなかった場所。
他にも案内したい場所はたくさんあった。
見せたかったものもたくさんあった。
だけど求めたのは今になってたった一つ。

「そこまでもうちょっとだからな」

俺の熱が伝わったのかほんのりと温もりを感じる背中に笑いかけながらふいに空を見上げる。
どこまでも広がる星空の中に凛々の明星を見つけた。

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