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空に向かって手を上げて
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予約投稿してますが、またですが言います。
書き込むネタがないwww

相変わらず成長してませんよ







ユーリが久振りに帰ってきたら何処か少しおかしかった。
おっさんは何か訳知り顔でユーリをあやしていたけど、あの狼狽えた姿に思わず舌打ちしてしまうのは仕方が無い。
戸惑ったのはあたしだけじゃなく難しい顔をしているジュディスやパティにハリー、あからさまに動揺しているエステルとカロル。幼なじみのフレンだって、感情がごそっと抜け落ちたいつかの戦士の殿堂で会った時の顔をしていた。
キッチンでは小気味良い包丁のリズムをとる音が響き、油の跳ねる音や、香ばしい香りが溢れていた。
黙ったまま顔を見合わせていても仕方がないというように散らかった部屋を簡単に片付けて食事の準備をする。
沈黙のまま椅子に座って待っていれば「おまたせ~」と長閑な声を響かせながらおっさんが料理を運んできた。
私でなくともどういうことだと問質そうとする視線にただただ苦笑して料理を並べていく。
「おっさん、こっちのはどうする?」
「もう火を止めてもいいわよ。熱いから気をつけてね」
またパタパタとキッチンへと戻れば今度はユーリがスープ鍋ごと運んできた。
「タマゴは1人1コずつよ」
「カップは何所だ?」
「まだ出してない。取りに来て」
バタバタと忙しいが、誰となく手伝いを申し出る事が出来ないで居た。
二人が手伝いを頼まないから、なんていう間柄じゃないはずなのに、何処か二人との間には壁が出来ていた。
隣に座るエステルだって何とか口を挟もうと何度か呼びかけようとしていたが、結局は出来ずに大人しく座っている。
目の前にはサラダにカットフルーツ、パンに紅茶と次々と並んで華やいでいくテーブルとは反対に気分はどんどん沈んでいく。
一体何なの?と、この僅かな十数分の間に何度目かの疑問を心の中で呟いた。
二人もテーブルに付いた所でさすがに沈黙のままでいられる事もなく
「レイヴンさんの料理は久しぶりで楽しみです」
ニコリと笑ったフレンがタマゴの入ったベーコンと野菜たっぷりのスープを一口飲む。
「少し薄いかな?」
と言うと思った言葉を発さず二口、三口と口へと運ぶ。
ああ見えても動揺しているのねとちょっと安心して、硬く作られたパンをスープに浸す。
うん。この味は久しぶり。
何処か懐かしいと思う味覚の記憶に思わず顔が綻んでしまう。
「おや?リタっち、おっさんの料理食べれてそんな嬉しいの?」
ニヤニヤと笑うおっさんが離れた場所から笑いかけてきて思わず飲み込もうとしたパンが変な所に入って行きそうで咽る。
隣のエステルが大丈夫です?と背中を軽く叩いてくれて大事にはならなかったけど
「いきなり何変な事言うのよ?!」
手近なところに在った空になったミルクピッチャーを投げつければ驚いた男は顔面でピッチャーを受け取り、椅子に座った状態のままひっくり返った。
「だ、大丈夫ですか?!」
一番に駆け寄ったフレンに対し、隣に座っていたユーリはどんな風に心配するかと思えば
「朝からリタをからかうからだろ?」
手を差し伸べる事もなく呆れたようにパンにチーズを重ねて食べていた。
「うう、フレン君ありがとね」
「おでこが赤く腫れてます・・・」
「冷やしとけば治るだろ」
そんぐらいでいちいち騒ぐなと言うユーリの言葉は尤もだが、妙な違和感がもやもやと溜まっていく。
とりあえずはスープを飲み干し、パンにハムとサラダを挟み、ミルクがたっぷり入った紅茶を持って
「悪いけどちょっと調べ物があるの。上行かせて貰うわ」
おまけにとリンゴを口に咥えた所でトントンと外からドアを叩く音。
はいと言ったのはジュディスだろうか。
その返事と共に1人の野暮ったい男が入ってきた。
誰かしらと小首傾げるジュディスに
「こちらにレイヴンさんが居るとお聞きしたのですが・・・」
「はーい、こっち。俺様ここにいるよ」
おでこをさすりながら立ち上がったおっさんはそのままドアの所で待つ男の所まで歩いて行った。
「誰だ?」
カロルに尋ねるハリーにカロルは確かと考えるように呟く。
「お食事中なら後にしましょうか?」
「いや、できるだけ早い方がいいから・・・少年、ちょっとこっちの角の方借りてもいい?」
「うん、別にかまわないけど」
言ってちらりと見上げたのはユーリ。
当の本人は何も声を出すことなく何処か不安げな視線でおっさんを見ていた。
おっさんはおっさんで、謎の男が封筒から取り出した書類に次々と目を通して、最後に幾つかのサインをしているようだった。
その後鍵の束を受け取り、握手を交わして
「お食事中おじゃまいたしました」
愛想良い笑顔を残して男は去って行った。
「なんなのよあれ」
鍵の束を束ねるリングに指を通してくるくると回した後にポケットへとしまった男は、何処か楽しげな笑みさえ浮かべて
「気になる?」
「気になります!」
「気になるのじゃ!」
素直に答えたエステルとパティの反応をそれこそ求めていた反応といわんばかりに楽しそうにピースサインを突きつけて言った。
「おっさんお家買っちゃったのよね」
「すごいのじゃ!」
「素敵です!」
「良くそんなお金持ってたのよね」
「ふっふっふ。おっさんこれでも騎士団では高給取りだったのよ」
「そのくせギルドじゃいつも金がないってたかってたな」
「新入り達を食べさせてたからじゃないのよ」
「あら、カジノでよく見かけたけどそれは?」
「他人の空似です」
「おっさん、また何処か行くのかよ・・・」
何でそんなにも盛り上がるのかよくわかんないと思った中で、そのテンションをいっきにどん底まで叩き落したのはユーリの声だった。
本人は気づいてないようだが、眉間に皺が寄りその顔は何処か今にも泣き出しそうで、見ている方が切なくなるような顔。
誰ともなく声を出せずにいれば、おっさんは無神経とも言えるような能天気な声で口の端を上げて挑発でもするかの様な笑みを浮かべる。
「当り前でしょ?おっさんは凛々の明星所属じゃないもの。
 いくら顔馴染みだからっていつまでもここに住み着くわけにはいかないでしょ?」
至極尤もな事を言いのける割には口調とは裏はらに目の色は先ほどと同じく慎重だ。
「そうかもしれないけど、だからって出て行く事無いだろ」
縋りつくように伸ばされた手は羽織を掴み、まるで別れ話の痴話喧嘩のよう。
だけどおっさんは聞かん気のない子供を諭すように
「あのね、おっさんだって遠慮しないといけない所はちゃーんとわかる大人なの。
 カロル少年やジュディスちゃんがもし良いと言ってもね、それだけじゃすまない事ってあるの、青年もわかるでしょ?」
だけどとなお喰らい付くユーリにおっさんは今度こそ盛大な溜息をついて外へと続く扉を開ける。
そこから顔だけをひょいと覗かせて指先の方を見るようにユーリに促していた。
私達も別の窓からその先を眺めれば、そこには少し前に空き家になった家があった。
売り出し中の看板は先ほど来た男が外して持って帰る所で
「そうだ。不動産屋のアンドラさんだ!」
「今頃遅い」
漸く思い出したというように声を発したカロルの頭に拳骨を落とした。
「ここからだとすぐだし、通うにも楽よ」
我ながら合理的とうんうんと頷きながら説明するおっさんの服をなお離す事もなく何かを訴えるような視線のユーリにジュディス達の視線を集める。
「だけど、あんたは目を離したらまた・・・」
居なくなるのじゃないのか?
言葉にならなかった言葉が漸くこの事態の原因だとわかり、何かがストンと収まった。
「あらー、信用無いのね。じゃあさ、ユーリ。
 おっさんとあそこに住む?」
不安な顔がみるまに喜色に変わる。
「だけど・・・」
嬉しいから不安になる。
そう言わんばかりに躊躇いを見せたユーリに
「ユーリが居ないとなるとおっさんあの家に一人ぼっちなのよ。寂しいのよ」
しくしくとあからさまな嘘泣きにユーリは仕方ないなと何処かそっぽを向いて
「しょーがねーおっさんだな」
なんて、どっちがしょうがないのか判らないセリフで了承したユーリにおっさんはかつての記憶のとおり喜び満面と言った顔でユーリに抱き付く。
「そうと決まれば早速お掃除よ!一緒に住むなら当然青年も手伝ってくれるわよね」
言ってそのままユーリの手を引っ張って、道路を挟んだここよりも少しオルニオンの外側に出来た家へと向って行った。
呆気に取られて見ていれば何かを思いついたようにフレンが顔を上げた。
「レイヴンさんお手伝いします!」
何所までも真面目な男だとやれやれと思っていればエステルまで
「それよりもみんなお食事が途中ですよ!」
天然もいいとこだと溜息を零せばクスクスと笑ったのはジュディス。
「ねえリタ。今のユーリをあなたはどう見る?」
客観的な答えが欲しい所だろう。
私はそういうの専門じゃないけどと断わって
「親に捨てられた子供ね」
正しくは親と生き別れてやっと再会したけどまた離れ離れになるのが怖いと言ったところだろうか。
それに恋人と言う要素が加わり、家族とは違い一箇所に定住する事が出来ないだろう不安材料に心が悲鳴を上げている。そんな感じ。
隣に居たカロルはキョトンとした顔で見下ろしていたが、その顔に向って
「例えばよ。今、目の前に死んだと思っていた親が突然現れたらあんただったらどうする?」
死別。
ジュディスにもハリーにもパティ、エステルにもこの場全員に当てはまる言葉。
当然私にも当てはまり、幸薄い人間がよくもここまで集まったものだと感心するも、喪失の痛みは誰でも深い傷として持っている為にみんな俯き加減に黙り込んでしまう。
その中でパティが
「うちは・・・もし、もう一度会えるのなら・・・今度こそずっと一緒にいるのじゃ」
自らの手で断ちきらなくてはいけなかった辛い別れを目にした私達は長い袖の中でぎゅっと握りしめられた拳をただ見守る。
「僕は・・・僕も・・・」
言葉をひたすら続けようと遠い、やはり悲しい思い出と必死に向き合おうとしている図体だけが大きくなったカロルにチョップをかまし
「い、いきなりなんて酷いよ!」
「答えが遅い」
ふんと鼻を鳴らし、何処か困り気な一同の視線と向き合って
「ユーリがおっさんに執着するのは、たぶんそう言う事よ」
親の記憶はほとんどないと言っていたが、親に対する憧れはその分人一倍強いはずだ。
育ててくれた下町のみんなを家族と思うように、特別なひとりとなればさらに思い入れは更に強いのだろう。
「まあ、おっさんもちゃんとわかってるようだし。
 任せとけばいいんじゃない?」
そういい残して少し冷めた紅茶を啜りながら二階の資料室と化した部屋へと向った。
窓際の机にサンドイッチとマグカップを置いて珍しいからと購入してあまり手をつけてない医学書の1冊を取り出す。
暫くその本のタイトルを眺めていたけど、本棚にその1冊を戻した。
「任せたんだからね」
窓からも見える新しい彼らの住居に視線を投げて、読みかけの本を取り出し、ふちが黄ばみだしたノートを広げた。

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