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たまにはいいんでない?
と言うようなユーリとおっさんの話。
可愛いユーリとかっこいいおっさん目指したけど・・・

やっぱり締まらないね。






ユーリと二人で酒場に顔を出すのは割と楽しいと思う。
何気ないどうでもいいような話から下世話な話まで。
女の子やお子様とはできない会話がポロポロと零れ落ちるように、とりとめもない話題で盛り上がる。
もちろんたまにはまじめな話もしたりするが、21歳までザーフィアスの結界と言う檻に閉じ込められていた後に出会うもの総てを吸収するように集めた見聞は、まだまだ未熟な所もあるが話しをする分には申し分ないほどに知識を得ていた。
安いテーブルワインを傾けながらチョコレートを抓む姿に苦笑は隠せないが、それでも酒に飲まれる事無く限度を弁えている相手と飲む酒はどこまでも楽しい。
ブラスティアがなくなり、元々くらい照明の酒場のテーブルには代りに一つの蝋燭を置きこれがまたいい雰囲気を醸し出していた。
残念なのは正面に座るのが見目麗しい青年と言う事ぐらいで、おっさんとしては大人な女性のお相手をしたかったのだが、青年にしたらこんな三十路まっしぐらのおっさんをご所望と言ういわば青年好みのシュチェーションになっていた。
そんな事さえ抜けば青年と飲む酒も交わす会話も楽しいのだが、雰囲気に合わせて小声で交わす言葉は知らず知らず頭を寄せ合う姿勢に思わず苦笑。
鋭い視線が不意に和んだり、若く瑞々しい肌に映りこむ蝋燭の灯りの滑らかさに思わず息を飲んだり、おっさん気が付け。目の前に居るのはおっさん好みの女の子じゃなくっておっさんよりも背の高い成人男性なんだからと自分に言い聞かせる。
こくりと喉を鳴らして飲んだワインに濡れた唇の艶かしさや、はぁと酒精を纏う溜息が鼻腔を擽りむずむずとした物が体内をよぎっていく。
手酌でワインを自分のグラスに注ぎ、手の平で蓋をするようにして口元に運ぶやや上目遣いのどこか計算高い視線に頭の中では注意報が鳴り響くも、その危険な色を含む視線から離せずに居れば

「なぁ、姉ちゃん。こんなむさいおっさんなんて相手してないで俺達と飲もうぜ」

この雰囲気にそぐわない下卑た笑い声が割り込んできた。
不覚にも青年に落とされるかと言う非常にピンチな状況を打破してもらって助かりはしたのだが、これはこれで新たな非常事態が展開されつつあった。
さっきまでのフェロモン垂れ流し青年の雰囲気がいつの間にか一発触発の状況に変化しただけで、どちらかと言うと、いやどちらにしてもおっさんには望ましくない環境だ。

「あん・・・」

ワインに酔ってろくに舌も回らないというのに迎え撃とうとする青年の手を握って青年の気を引く。
途端に大人しくなるというか、ストンと俯いて座る青年に飲みすぎだと小声で注意をし

「むさいおっさんで悪かったわね。天を射る矢のレイヴン様が相手でよければ、外に行こうか?」

ふんぞり返って赤ら顔に酔っ払っている男を見上げれば、さすがにこの名前に心当たりでもあるのかあからさまに戸惑った態度ですごすごと飲み仲間のいるテーブルまで戻って行った。
かっこ悪いと言ったらありゃしないと、相変らず女性に間違えられがちな青年の様子を覗き込むように視線を並べれば潤むような瞳と真っ赤な顔。
本人も慣れてるとは言え屈辱的な言葉よねと同情しながらユーリと声をかければ

「おっさん」
「なによ?店変えると言うか、そろそろ帰る?」
「う、うん」

さっきまでの剣呑な雰囲気はどこえやら。
何故か急に大人しくなった青年に水をいっぱい飲ませている間に会計を済ませて店を出れば何故か急に青年に手を握られた。
どったの青年?何て声をかけようとした瞬間

「さっきのおっさん、かっこよかったぜ」

夜風に長い髪を靡かせながら振り向く月の明かりの下で輝くように微笑んだ笑顔に今度こそドキドキと高鳴る心臓の音にこれは偽物の心臓だからと一人いい訳をして、逸る血流の音に手を繋ぐ青年を見る事が出来なかった。

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