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空に向かって手を上げて
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危うく親子丼を目指す所でした<殴!!
あー・・・本文には関係ありません。




Repetition



シュヴァーン隊長。

名前を呼ばれて振り向けば白が基調の隊服のフレンが駆け足で駆け寄ってきた。
「そんなにも急いでどうなされたのですか?」
と問えばなんてこともない理由が戻ってきた。
「シュヴァーン隊長のお姿が見えたもので」
少し恥かしそうに頬を染めて視線を反らせた辺り自分でも何処か子供じみた行動だったと反省しているのだろう。
傍から見れば微笑ましい光景にも思えないことは無いのだがいかんせん。
彼は今では団長と言う地位にあり、俺は帝国騎士団に何人も居る隊長の一人に過ぎないのだ。
「他の隊長にもこんな風に駆け寄るのですか?」
と訊ねればとんでもないと言う顔。
「シュヴァーン隊長だからです」
にっこりと柔らかく微笑む顔に思わず空を見上げた。
「あのねぇフレン、君は団長なんだから総てを平等に扱わなくてはいけないのは判るよな?」
「はい」
漸く意味に気づいてかしゅんと項垂れる様はこれ以上窘めるのを何処か憚るような姿。
思わず虐めてしまっているようでこっちの方が居た堪れないが、とりあえず俺を見かけたからと言って手を振りながら走るのだけは周囲の騎士達にも示しが付かないから止めなさいと言ってこの話題を切り上げた。
だが、今だ項垂れているこの若者の姿に哀れみを誘うのは確かで
「今から昼を食べに良くのですがご一緒しませんか?」
言えば現金な事にさっきまでの情けない姿が嘘のように瞳を輝かせ
「下町ですが新しい店を見つけたので探検に行きませんか」
若者らしい言葉に苦笑を交えながら案内をよろしくお願いしますと答えれば今すぐ行きましょうと手をひかれて城を後にした。
手をひかれ一歩後からその後ろ姿を眺めながら、一歩先の若者が語る近状に相槌を打つ。
主に親友の苦言とか文句とか。
仕事の愚痴は一切はかず、主に漆黒の友人に対する苦情がおもだったものだった。
共通の友人の話しを面白おかしく聞きながら
「フレンにもそういう所があるな」
とからかって返せば少し頬を染めた顔が振り返り
「彼と一緒にしないで下さい」
と言う顔は子供らしい表情だと笑みさえ誘い、バツの悪そうな顔で勘弁してくださいとお願いされてしまった。
下町に着きフレンが試そうと言った店はそこそこ繁盛しているのかそれなりに賑っていた。
丁度席が空いた席に座り、お勧めメニューから幾つか頼む。
フレンはまだまだ育ち盛りと言うように二人前を注文し、俺もこの後次に食事を取れるのはいつかと言うような予定にフレンほどではないがランチのセットともう一品頼む。
「小食なのですね」
と言われるも、確かに食べ盛りの頃に比べれば少ないかもなと思う。だが、
「腹を満たしすぎると眠気に襲われる」
と真摯に言えば
「なるほど」
と真面目な顔で返されて二人して笑った。
周囲の定評どおりなかなかの味でおやつでは無いけど店先で売っていたお持ち帰りようのパンを幾つか購入する。フレンも真似て幾つか購入した後二人して城へと戻り、そう言えばと思い出して彼を執務室へと招きいれた。
ユニオンから書状が来ていて、さっき草案が出来たから見てくれと言えば、彼がこの部屋に来るのは滅多になく興味深げに部屋を眺めていた。
執務室の戸棚には溢れんばかりの書類のファイルが隙間なく並べられていて、置き場のなくなったファイルは隣の寝室にまで侵食していた。
「これじゃあプライベートもないですね」
今や団長となった若者は真剣にこの膨大な資料に向って悩む姿を見せてくれるも、いつの間にかその視線が開けっ放しの引き出しに向って止まっていた。
どうしたの?と聞けば寝室に置かれたテーブルの引き出しの中を覗き込む。
そこにあった一枚の写真を飾る写真立てに目が止まっていた。
ああ、と思いその写真立てを取り上げ、薄っすらと埃を被りくすんだ硝子の表面を綺麗に磨く。
隊長になりたての頃部下だった男だと説明をした。
「10ほど離れていて、隊長職に不慣れな俺にいろいろ助けてもらっていた」
こざっぱりとした金の髪は陽の下でキラキラと光が踊り、いつも笑う瞳の奥の優しい海の輝きに疲れ果てていた心が癒されていた。
頼れる兄貴みたいな存在だったなと過去を振り返えれば今ではそう位置づける事が出来る。
「何故写真が?」
フレンの疑問にああ、と思った。そう言えばシュヴァーンの部屋には私物と言って良いものがほとんどない。寧ろ有る方が不思議なぐらいで、よく見ればその写真は陽に焼けていて飾っていた後さえ残っている。
少し恥かしさもあり照れながら
「見てのとおりあまり私物がないからな。あまりに寒々しい部屋に家族や恋人の写真でも飾ったらどうかと言われたのだが、生憎家族も恋人もいなくてと言い返せば次の日なぜか彼の写真を飾った写真立てを置いて行ったんだ」
あまりの色気のない話にフレンは何度かパチクリと瞬きをし
「いくら片付けても次々に新しい写真を飾るから最後はこっちが根を上げたんだが、彼はきっと家族がいなくても恋人がいなくても一人では無いと言いたかったのだろう。今思い出しても好い男だ」
そう締めくくれば突如フレンが涙を流した。
何事かと思えばその写真の顔を指でなぞりながら
「僕の父です」
ぽたりと写真たてに涙を落としながら、いつの間にか父の写真を失ってしまったのでと呟く言葉。
はらはらと雨のように優しく涙を落とす姿に探せばまだ出てくるからこれはもって行きなさいと言う。
ですが、と言いながら少し困った顔もするも頂きますと好意を素直に受け取る若者に少しだけ彼の評価を訂正する。
まだまだ子供だと思っていたのに過去の辛い思い出を受け入る勇気に目を細めた。
後日、フレンの写真の入った写真立てが飾られていてこれは一体なんだと思って片付ければ別の日にはまた新たな写真立てが飾ってあった。
偶然その場に居合わせた副官と二人これは一体どういった意味だろうと思えばトントンと扉を叩かれる音に思わず写真を片付ければ、こんにちはと現れたのはフレン。
ちらりと仕事とインク壷しか置かれてない机を見て手にしていた写真立てを飾る。
副官と二人どういうことでしょうと視線で訴えれば
「やはり少しはお部屋を飾られた方が良いかと思います」
特等席といわんばかりに写真の角度を直すフレンに思わず天井を仰ぎ見た。
父親にそっくりだな。
疲れたように眉間を指で解していれば物騒な会話が飛び込んできた。
「そう言う事なら私の写真も飾らせていただきましょう」
「それはとても素敵です」
でもシュヴァーン隊長のお机の上は譲りませんよと言うフレンに対抗して、背後の壁に飾らせて頂きますと会話する二人にすぐに部屋中写真で埋められるだろうと想像が出来て本格的に頭が痛くなってきた。

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