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お兄様登場です。
あれ…
こんな方でしたっけ…
いやいや、案外こういう奴だったかも…
そんなテイストです。





ふとその違和感に気が付いたのはいつだろう。
いつもなら休み時間は倉庫のような物理準備室に真っ直ぐ向うはずのユーリが、事もあろうか昼休みの時間に僕と対面するように食事をしていた。
購買部で購入しただろうおにぎりを一つ、長い時間を掛けてもぐもぐと食べるのは彼らしくない。
サンドイッチを口へと運びながら生徒会室に立てこもる僕と食事をするようになって何日目だろうか。
他の役員も何処か気を使うように、いや、不気味なものを見るような目でユーリを見ていた。

「今日も行かなくていいのかい?」

具の鮭をポロポロと落としながら机にもたれかかりながら行儀わるくイチゴミルクを啜る。

「何所に・・・」

生気のない瞳で見上げられるも、恋に破れたというか負けを悟った彼はひたすら傷付いた心を癒す術を持っていなかった。
幾分やつれたかのようにも見えるユーリに同じ生徒会役員のエステリーゼも元気出してくださいとおやつのクッキーを差し出すも手をつけなかった。
これはおかしい。
甘い物好きなユーリが塩辛いと有名な鮭おにぎりを食べ、おすそ分けとして渡していたクッキーを手に取らないなんて・・・
僕の衝撃が判らないというエステリーゼは小首傾げて不思議そうな顔をしていたが、僕は親友のこんな情けない姿を見てるくらいなら今日一日ぐらい勉強をサボってもかまわないだろうと心の中で言分けをした。
そんな勢いもあってユーリに内緒で「風邪を引いたからバイトを休みます」と勝手に連絡を入れて授業後に嫌がる彼を引き摺ってレイヴン先生の家へと向った。

夜の早い冬とはいえども、到着した頃は既にだいぶ陽は傾いている。
しぶしぶと言うようにレイヴン先生の家を教えてくれたユーリの今にも逃げ出しそうな態度に手を繋いでチャイムを鳴らす。

「はーいシュヴァーン、予定より早かったのね。まだ晩飯作ってないわよ・・・って」

開いた扉の向うには見慣れたレイヴン先生が私服姿で驚いていた。
少しくすんだ碧の瞳が僕とユーリをゆっくりと捕らえ
「カウンセラーはいないわよ。保健室に行ってちょうだい」
言い残してドアを閉めようとする隙間に足を入れてドアが締らないように潜り込む。
「ちょっとお話だけでも・・・」
「飛び込み営業は嫌われるわよ」
「ドアを開けた時点でレイヴン先生の負けです」
暫くの間にらみ合っていれば、諦めたかのように頭を振って僕達を家の中に通してくれた。
「散らかってるから、適当に片付けて座ってね」
見知らぬ家をきょろきょろと見回しながら、短い廊下の続く先へと向う。
扉の向うは暖房でしっかりと暖まったリビングとキッチンの一体型の部屋だった。
部屋にはコタツとテレビが在るだけで、あとは本棚と荷物置き場と化しているソファーがあった。
ユーリがなれたようにもそもそとコタツに入るのを見て真似てコタツに入る。
「んで、何の用なのよ」
湯気の立つ見るからに温かそうなコーヒーを淹れてくれた。
隣ではたっぷりと砂糖とミルクを入れるユーリを横目に、そう言えばレイヴン先生のところから帰ってくるといつもユーリはコーヒーの匂いを纏っていたっけと、ついこの間の事を懐かしく思い出している自分に苦笑してしまった。
「ユーリの事で・・・」
と話しを切り出そうとした所でピンポンとチャイムが鳴る。
「あー、シュヴァーンだわ。ちょっと待ってて」
何処か嬉しそうな顔で双子の兄だと聞いた名前をにおもわず居ずまいを正してしまった。
「おかえりー」
何処か弾むような声で出迎えて行ったその後「げ」と、カエルが潰れたような声が聞えて思わずドアの方を見ずに入られなかった。
なんだろうかと幾分元気のないユーリだが、さすがにレイヴン先生の何処か普通では無い反応に顔を見合わせるも、パタパタとやってくる足音の数の多さに首を傾げていた。

「生徒が遊びに来ていたのか」

低い落ち着いた声が頭の上から降ってきた。
おっさんよりも、たぶん俺よりも大きいだろう随分といいガタイの銀髪の赤い瞳の男が俺を見下ろしていた。
キリリとした眉を歪ませてニヤリと笑う。

「君は、ユーリ・ローウェルか?
 いつも話しを聞いてるよ」

意味ありげな笑みを浮かべた男の背後でツインズが頭が痛そうに手で押さえながら溜息を零していた。

「そちらは・・・知らんな」

フレンの事は興味ないというように視線をそらせて銀髪を切り揃えた男はおっさんに向って両手を広げる。

「久しぶりだ。逢いたかったよ」

再会の抱擁といわんばかりに強く抱きしめていた。
羨ましい!いや、逃げろ!
俺だってあんな風に抱きしめたいのに、っていうか、何おとなしく抱かれてんだよ!
人の家で知らない男だからと我慢していたが、おっさんの宙に浮いた手が震えていて、それは間違いなく助けを呼ぶものだと判断する。

「おい、いい大人が客が居るのに遠慮と言うものを知らんのかよ」

ユーリ、と控えめに注意を促すフレンの声が聞えるが、この間から無性に銀髪とは相性最悪なだけについ気が荒立ってしまうのは仕方ない物だろうというものだ。
男は暫くもふもふとおっさんを堪能するように抱きしめたあとその手をゆっくりと離し

「すまないな客人。なにぶん久方と逢ってないのでな。つい懐かしく抱きしめずにはいられなかったのだよ」

俺の名前を知っていてあえて客人といい直した言葉に含まれる棘に眉間に皺が寄る。
手は離したもののおっさんの顔をペタペタとさわり、首筋を撫上げていた。
おっさんもそんな嫌そうな顔をするぐらいならその手ぐらい払いのけろよと突っ込むも、抵抗する気は無いのか好きなようにさせている。
これは絶対セクハラの域だと銀髪男を睨みつけていれば

「シュヴァーンもだがレイヴンもやっぱり抱き心地がいい。が、幾分痩せたのではあるまいか?」

俺達には見向きもせずおっさんの顔を小難しそうに眺めたあと

「やっぱり可愛いな」

まるで子猫でも抱きしめるかのようにおっさんの頭とおにーさんの頭を抱きしめた。

「ちょっとまてーーーっ!!!」

さすがに両手に花、いやいや、これでもかと言うように見せ付けられて黙っていられるわけがない。
ましてや銀髪ヤローの腕の中で目が死にかけているおっさん達を見れば間違っても歓迎しているものでは無いのは明らかだ。
よく判らないが此処は救出すべきだとおっさん達を抱きしめる手を剥せば

「君は兄弟の再会ぐらいゆっくりと堪能させる気はないのかな?」
「き、兄弟・・・」

視線でおっさんに本当かと問えば不本意ながらと言うように小さく頷く。
いや、まて。
いくらなんでもこれは・・・

「何て似てない兄弟」

躊躇って言えなかった科白を代弁するかのようにフレンが正直に言葉に表して言ってくれた。
フレン、お前ちょっとすげーな。
尊敬するよ。
何て感心してしまうも、銀髪は気を悪くするどころかむしろ気をよくして

「シュヴァーンとレイヴンの兄だ。母親は違えどこの子達は私の可愛い弟だよ」

どうだ羨ましいだろ。
そう言いたげにおっさんたちに頬ずりをしてみせるが、その胸からは電子音があふれ出していた。

「む、いかん。クロームから戻って来いコールが来た」

携帯の小さなモニターに書かれた文字を見て今まで絶好調だった男の顔が歪む。
そして何事もなかったかのように携帯を片付ければ

「早く下で待たせている車に戻らないとクロームが乗り込んでくるからな」

言って私は帰るよとおっさんとお兄さんの頬に頬をまた摺り寄せて「また会いに来る」と不吉な言葉を残し颯爽と去って行った。

「おっさんなにあれ・・・」
「遺伝子の神秘っていう奴よ」

あまりの強烈なまでのインパクトを残して去って行った兄・アレクセイと後で名前を教えてもらいながら、やっぱり銀髪は鬼門だとブラックリストにその名を刻んだ。

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