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空に向かって手を上げて
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拍手ありがとうございます。

今頃白状しますが、タイトルのダブルセカンドは保存する為に適当につけた名前であって深い意味はありません。
寧ろ何?と私が聞きたいです。
適当すぎてスミマセンでした。

おっさん総受ワンダーランド。
苦手な方は見る前に逃げてください!








キャナリが出産の為自宅の屋敷に戻ってしまった日を同じくして俺も漸く外出許可をもらえるようになった。
随分と長い間アレクセイの私室を借りていたが、改めてあてがわれた部屋は隣の帝国騎士団特別諮問官にあてがわれる部屋だった。
俺の世界ではクロームが住み着いていたが、こちらではクロームは騎士団にはいなく、そして特定の副官をつけてなかったアレクセイのこの部屋は荷物置き場と化されていた。
長い事アレクセイの部屋に閉じ込められていたせいもあり、萎えた手足の準備運動がてら掃除に励んでいた。
途中何処からかユーリとフレンが部下をつれて空きベットや身の回りの物を用意してくれて、キャナリとイエガーも退屈だろうと家に買える前に本などの差し入れをしてくれた。
差し入れの本を読む限りでは本の文字はもちろん騎士団の歴史も差して変らない事に驚いた。
10年前にも巨大な魔物と戦ったという歴史まで同じで驚いた物の、こちらの世界では始祖の隷長は既に認知されていて魔道器の危険性も理解した上で共存をしていたようだった。
おまけと言うか、ぱらぱらとめくった本の挿絵にはデュークの肖像画まであり、やっぱりと言うか気難しい顔をしていた。
どうやらここでは俺は記憶喪失の旅人と言う事になっているらしい。
記憶がない人物を街に放り出すのも問題だと主張してくれたアレクセイの意見が罷り通ったのには驚いたが、行き場のない俺としてはとりあえずここで情報収集する事を決め、アレクセイ達の勘違いを利用させてもらう事にした。
「だけど大将ってあんなマイペースな人だったかしら」
記憶の人物とは違うとは判っているものの、やはり姿形、声まで同じと来たら勘違いしても仕方がないと思う。
さらに
「レイヴン少しは片付いたか?」
ノックと共にやってきた彼に笑みを向ける。
「おかげさまでだいぶマシになりました」
「すまないな。なんせ私が騎士団団長の任を賜ってからほとんど使った事がなくってな」
「いえ、ユーリ達が手伝ってくれたからあっという間でしたよ」
言えばアレクセイは顔を歪める。
結局キャナリ隊はユーリが代理を務める事になり、隊長として忙しい日々を送り出したと思った矢先数人の部下を引き連れてこの部屋の掃除に取り掛かったのだ。
キャナリ隊長がいなくなったそばから・・・などとフレンが頭を痛めていたが、そういう彼も数人の部下を連れて競い合うように掃除をしていた。
どの世界でも良いライバルなのねと微笑ましく眺めた事はないしょに純粋に頑張ってくれた事をアレクセイに報告して怒らないでくれと付け加えておいた。
「所で団長にお願いがあるのですが・・・」
この数日間の間に周囲が彼を団長と呼ぶように俺もいつの間にかアレクセイを団長と呼ぶ事にした。
何処か面白そうに笑みを浮かべた所をみればかまわないのだろうとそれ以来団長と呼んでいる
「何か足りない物でもあるのかな?」
そう言って、生活には十分だが、部屋としては足りない物だらけの室内をぐるりと見回す。
「いえ、そう言った事ではなく、その、ずーっとご好意に甘えさせてもらっていたのですが、傷もいえたし何か仕事をしたいのですが・・・」
何を言っているという顔だ。
この辺りの感情の変化は同じなのか、長い間不機嫌な顔と付き合っていただけに彼の表情を読むのは昨日の晩飯のメニューを思い出すように簡単だった。
「働かざる物喰うべからず、じゃないけど、やっぱり何もしないのに好意に甘えさせてもらうのはちょっと違うんじゃないかなって思いまして」
三食昼寝つきと言う生活に憧れはした物の、実際ここ数日の半ば監禁状態の状況はそんな考えを一掃してくれた。
つまり暇なのだ。
暇で暇で死にそうで、根っからの貧乏性だと苦笑する。
「随分と体も動かしてないから状態をちょっと確かめたいのもありますし」
これは賭け値なしの本音だ。
無謀な任務ばかりこなしてきたからこれはもう身に付いた習慣だなと思いながら訴えればアレクセイは少しの間どうしようかと悩み、
「では本日の午後、私は非番になるからそうしたら一緒にこのザーフィアス周辺に出よう」
意外とあっさりと許可が下りて拍子抜けだ。
それを期に外出許可を貰ったのだが、基本は一人歩きは出来ない事になっている。
この世界がどうなっているか、情報収集もしたいものだと思いながら潜入捜査をおもな仕事としていただけに大して役には立たないだろうと思いつつも別世界の騎士団の現状を見て見たいと思うのは単なる好奇心だ。
非番だというアレクセイに城の案内を頼めば大体の配置は知っているとおり変わりはなかった事に頭の中で地図を描く。
途中イエガー隊の隊舎に寄ってフレンと挨拶したり、ユーリの隊長代理振りを冷やかしに行ったりして楽しんだ後初めて城の外に出た。
頭上には今はなくなってしまった結界魔道器が放つ魔方陣が淡く輝き、眼下に広がる街並みも記憶とそれほど変わりは無い。
ただ、知っている街並みよりも活気があり、この世界は俺達の世界より平和なのだと知って知らず知らず笑みがこぼれた。
貴族街を抜ければすぐに城の外へと出れるのに、アレクセイは案内をするように市民街を抜けてザーフィアスを出る。
途中小さな子供がアレクセイの姿を見て小さな花を差し出すという可愛らしい事故に遭遇し、人気者なんですねといえば彼はただ笑っていた。
部下もお付きも付けずに結界の外に出てしまった物だが、そこでアレクセイは俺の弓と短刀を返してくれた。
「すまないな。規則とは言え随分と長い間武器を取り上げていた」
「いえいえ、団長はちゃんと返してくれたじゃないですか」
言いながら変形弓を展開し、鳴弦する音を聞きながら状態を見る。
ビィィィン・・・と空気を震わす音を聞けば、手元になかった間も大切に扱われていた事が判る。
愛用とまでは言わないが、そこそこ使い込んでいるだけに愛着はわいていた。
そして短刀をすらりと抜けばちゃんと手入れがされているのがわかった。
油分も曇りのない刀身は鏡のように俺の姿を映し、最後に魔物を斬りつけた跡は何処にもない。
その短い刀身の重さを確認するようにくるくると回した後スチャリと鞘に収めれば、短いブランクもどうやらあまり支障は無いようだった。
「団長が手入れしてくれたんですか?」
聞けば少し視線を反らせ、
「部下がいない場所では団長ではなくアレクセイと呼んでくれ」
思わぬ返答には?と耳を疑う。
「レイヴンは騎士団に入隊していない一般人だ。一般人から団長と呼ばれるのは、何処か悲しい」
「そういうもんですかねえ」
考えた事もなかった。
確かに俺も騎士団に居る時は隊長だったり主席だったが、隊服を脱げばレイヴンへと変わり、シュヴァーンとレイヴンの境界線ははっきりとしていただけにそんな風に考えた事はなかった。
更に言えばアレクセイはそんな要求をしてきた事は無い。これが一番の原因かと思えば
「お安い御用ですよアレクセイ」
と要望どおり名を呼べば何故か嬉しそうな顔へと変わる。
「じゃあ、軽くあの辺りから行ってみるか?」
指が示す方へと視線を投げれば野良犬にも似た姿の魔物がいた。
鋭い牙と強力な顎で噛み付かれれば容易く人の骨など砕かれてしまう。
「じゃあお先に試し撃ちを」
矢を番えて放てばパシュッと空を突き抜ける音が耳元に響くのを心地良く聞く。
視線の先では獲物を見つけたと駆け寄ってきた魔物の眉間に深々と刺さり、仰け反るようにそのままやがて動かなくなった。
「この距離を見事だ」
言いながら集ってきた4匹の魔物の足の早さに合わせて剣を水平に構える。
一瞬の間に4匹の魔物を蹴散らせば、この血臭い場所に空では鋭い嘴と大きな鍵爪の魔物が上空から様子を窺っていた。
「さすが騎士団団長、すごいですね」
上空の鳥形の魔物に注意を向けながらも一刀両断された魔物の斬り口の鮮やかさに感心する。
腕はどちらも変わらないのねと呆れてさえしまえば、突然急降下してきた魔物に矢を放つ。
3発の連射はどれも一撃で仕留め、急降下は途中から落下へと変わった。
「レイヴンも見事だ。その腕がありながら騎士団に君の名が届かなかったのが不思議なくらいだ」
「誉めすぎですよ」
アレクセイに誉められた記憶がない身としてはその姿でこんな風に誉められるとこっぱずかしくて仕方がない。
はははと声を立てて笑ったアレクセイはそのまま俺の頬を指先でなで
「顔が真っ赤だ」
「ふえええ?!」
思わず両手で頬を隠してしまう。
冷えた空気の中覆い隠す頬はかすかに温かく、この分だと耳まで真っ赤なのだろうかと想像する。
これもきっとアレクセイに誉められるなんて免疫のない事を心構えもなく受け取ってしまったからだと恥かしさに背を向けてしまえば、何処か楽しそうなアレクセイの声は「体調さえ良ければもう少し遠出をしよう」と言うものだった。
調子はさして不安もなく、結局デイドン砦へ向う途中に流れる小川の所まで足を運んで、夕暮れが訪れるまで休憩を幾度と取り入れながら久しぶりの実戦の感触を楽しんだ。

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