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少しパラレルに自信がつきました@単純
おっさん総受ワンダーランド。
苦手な方は見る前に逃げてください!
少しパラレルに自信がつきました@単純
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ダブルセカンド02
再び意識が戻った時は夕闇の訪れた暖かな部屋だった。
柔らかなベットと上質の布団。
ゆっくりと体を起せば軽く眩暈。
深呼吸を何度か繰り返してゆっくりと見回せば何処か見覚えのある部屋だった。
ベットの横には履きなれたブーツがそろえてあり、近くにあったソファの上には綺麗に折りたたまれた羽織が置いてあった。
とりあえずここはまさかと言う思いの中ブーツを履いて羽織を着、記憶の通りならこの扉の向こう側には絶えず明かりのついていた執務室があったはずだとゆっくりとドアを押す。
想像通り部屋は明るく、広く大きな机で懐かしい光景が再現されていた。
カリカリと紙を引っかくペンの音を奏でながら書類を書く瞳は真剣だ。
俺がドアを開けたにも気付かず集中しているのを邪魔するのもなんだったがコンコンと既に開け広げた扉を叩いた。
そこでやっと気付いたというように顔を上げて振り向いた顔は酷く驚いていて
「もう起きても大丈夫なのか?」
「はい。すっかり世話になっちまったようで」
言って慌てて口を塞ぐ。
彼の目の前でレイヴンの口調をすれば殴られるのはわかっていた筈なのにと閉ざせば
「良かった。君を見つけた時は本当に危なかったのだぞ」
まったく気にせず、立ち上がってなにやら茶まで入れてくれた。
「もう少しすれば部下が来るのだが、男の入れる茶でもよければ」
どうぞと言って手渡された紅茶をありがたく頂く。
ゆっくりと嘗めるように香り高い茶を飲めば、喉が渇いていたのかあっという間に飲み干してしまった。
相手はまだ優雅にカップを傾けているというのに、まるで卑しい奴では無いかと心の中で苦笑しながら
「美味かったです。ごちそうさまでした」
静かにカップを置く。そして目の前に座る男も飲みかけのカップを置き
「すまないが簡単に荷物の検査をさせてもらった」
ここが何処かわかっているためにそりゃ当然だなと小さく頷く。
「随分と色々な物を持っていたようだが、武器類以外はすぐにでも返却できるのだが・・・」
「財布の中身が少ないのは笑わないで下さいよ」
ギルドから給料は出ていたが、そんな物はあっという間に酒代に消える。そして凛々の明星からもお小遣いが支給されるが、そこは超常識的なカロル少年の金銭感覚に微笑ましい程度にしか頂く事が出来なかった。
仕方がない。凛々の明星のメンバーは武器の類には見境なくお金をつぎ込むのに生活の類には今夜の食事が出来ればいい程度の無欲さだ。そして首領の趣味が貯蓄と来たらもう好きなようにしなさいというしかないだろう。
そんな懐事情を知ってか目の前の男は品良く唇を綻ばせ
「ザーフィアス帝国騎士団団長を務めるアレクセイ・ディノイアだ」
知ってますとは口には出さず
「とりあえず、レイヴンと呼んでいただければと」
言えば秀麗な顔をゆがめる。
良く判るよ。こう言う自己紹介のしかたをすればみんな胡散臭そうに見るんだよとくつくつと笑えば
「失礼します」
コンコンとノックしたかと思えば一人の若者が入ってきた。
タイミング良いんだからと長い黒髪を靡かせて入ってきた青年は少し目を瞠り
「起きても大丈夫なのか?」
最後にみたあの泣き出しそうな顔なんて知らないというような何処か少年らしさも残る顔を見上げて
「おかげさんでさっき目が覚めた所。随分お世話になったみたいね」
「気にするなって。つーか、あれでよく復活したな。そっちの方が驚き」
正直な感想に俺様も同感と頷けば、コホンとアレクセイの咳払い。
「ユーリ・ローウェル小隊長、貴殿は団長室に何の用があってやってきたのかね」
おしゃべりする所じゃないという叱咤に背筋を伸ばせば
「はっ、キャナリ隊長より至急サインを頂きたいと」
キャナリ?
懐かしい名前に敬礼の姿勢をとる青年を見上げる。
それに気付かないでかユーリはアレクセイに書類を手渡していれば更に廊下からパタパタと軽く、歩くには早い足音が近付いてきた。
部屋の前で止まったかと思えば予想通りノックする音。
そして返事をする前にドアはばっと開き
「ユーリ、書類の追加があるのに先に行かないでよ」
「キャナリ・・・」
「キャナリ隊長、君は自分が身重の身である事をちゃんと理解しているのかな?」
俺の驚きはアレクセイの叱咤によって掻き消されるも、記憶から随分と年を重ねた姿に込み上げる物があると同時にその言葉どおり大きく膨れ上がった体内の奇跡に視線は注目だ。
「あら、妊婦だから大人しくしているのは間違いなのよ。適度な運動だって必要なんだから」
「適度な運動って、散歩程度だろ?あの足音は適度を超えてるよ隊長」
ユーリに指摘される彼女はそうかしらと首を捻るばかりだが、遠くから今度は物凄い足音が二人分近付いてくる。
今度は誰だとみんなでドアを注目していれば
「閣下!今こっちにキャナリがっ!!!」
一筋垂らした前髪を揺らしノックもなくドアを開けた男は間違いなく
「あなた、ドアを開ける前にはきちんとノックしなさいって言ってるでしょ?」
「アレクセイ団長のプライベートなんて君とおなかの子に比べたらないに等しい物じゃないか」
本人を目の前にそういい捨てた男の背後で開け広げたドアの外から申し訳程度の小さな音でノックがされた。
「あ、フレン。何やってんだ?」
ユーリが廊下に立つ人物にひょいと手を上げれば
「あの、イエガー隊長が急に走り出した為にお預かりした書類を・・・」
ご丁寧にも持ってついてきたのだろう。
「ふむ、すまない。
閣下、申し訳ありませんが、これらの書類を今日中にサインを下さい」
高さは30cmはあるだろう書類の束をフレンから引ったくりアレクセイの机の上に置く。
なんて無茶苦茶な・・・
そっとアレクセイの顔をのぞき上げれば予想通り米神に青筋が立っていた。
だけどその怒りが爆発する前に
「閣下申し訳ありません。明日は子供の服の仕立に忙しいので」
まだ生まれる前とはいえ子供を盾に差し出されたらさすがのアレクセイも太刀打ちできないらしい。
記憶の人物ならばっさばっさと切り倒して行くだろうが、どうやらこの状況では別人と踏んであの変化する前の彼であって欲しいと願い、目の前に並ぶ人物をまるで幻のように眺め見る。
アレクセイが騎士団長でフレンも、ユーリとお揃いだけど色違いの隊服ということは小隊長だろうか。と言うかユーリが騎士団に所属していて、キャナリが生きていてイエガーもまだ騎士団にいるし、どうやら夫婦でもうすぐ子供が生まれるらしくって、えーと・・・
「ああ、すまない。見苦しい所を見せてしまったようだね」
漸く俺の事を思い出してくれたのか、アレクセイは俺の肩にぽんと手を置き
「紹介しよう。彼はイエガー隊隊長で、彼女は彼の妻であり、キャナリ隊の隊長。
先ほどの彼はユーリ・ローウェルはキャナリ隊小隊長を務めていて、最後の彼がフレン・シーフォ。イエガー隊で小隊長を務めている」
まるで冗談のような世界だなと思えば、ポカンとみんなを眺めていた俺の代りに
「イエガーもキャナリも噂は聞いているだろうが、彼はレイヴンと言う」
にこっと誰からともなく微笑みを向けられて小さくどうもと頭を下げる。
そこで包帯がぐるぐると巻かれている事に気付いた。
「あー、治療ありがとうございました」
手でペタペタと傷を確認するように触れば
「傷口は塞いでありますが、まだ当分安静が必要です」
「なんたってあんたは5日も眠りっぱなしだったんだからな」
フレンとユーリの言葉にぎょっとする。
「い、五日も?!」
そんなにもと訊ねれば冗談は言わないだろうアレクセイは真摯な眼差しで一つだけ頷く。
「それでだ。君に一つ尋ねたい」
訊ねたいといわれていつの間にか俺を中心に囲まれるように配置されていた。
「その胸のは一体なんだね」
言われて無意識に左胸を抑える。
シャツの上から魔道器の形をなぞるように触れれば
「他にも怪我が無いか調べさせてもらったが・・・」
その時にこれを見たと言うことだろう。
正面から真っ直ぐ紅玉の瞳が覗いてる。
これに良く似た瞳はこう言った。
「もし、万が一にこの心臓魔道器のを見たものがいたのなら後々邪魔になる。相手は誰であれ始末しろ」
冷酷に命令された言葉を目の前に並ぶ顔を見上げながらひとつひとつの言葉を並べて思い出す。
「これは・・・」
「物が物だけにこの場にいる人物しか知らないが・・・」
何か話しを続けているが聞えない。
どっ、どっ、と血流の音ばかりが聞え何も聞えない。
見られた。
目の前の人物達に彼らにもう一度死ねと?
言えるのか?
出来るのか?
俺は・・・
「これは・・・一体・・・何なんだ・・・」
何の冗談だ。
悪い夢なら覚めてくれ。
悪い冗談なら終わらせてくれ。
アレクセイとイエガー、キャナリを見上げてそのまま意識はぷつりと消えた。
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