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悪いくせでついだらだら書いてしまったので何時もより倍のボリュームでお届けします。
そして内容は何時もの半分でお届けします。

おっさん総受ワンダーランド。
苦手な方は見る前に逃げてください!







フレン小隊の演習に付いて来てフレンの後ろでその様子を眺めていた。
生真面目な彼の部隊らしくマニュアル通り一糸乱れぬ模範そのものの行動は美しい。
そして退屈だ。
いや、指示通り行動する事がこの任務本来の目的だたら問題は無いのだが、何所かで見た事のある演習は敵も居なく緊張のない、つまらないものだった。
いやいや、つまらないとかつまってるとかの問題ではなく、盛り上がりに欠けるのだ。
単調な物語を読むわけでもなく聞かされるのだ。
威勢の良い声は聞えてくるのだが、陽だまりの中長閑な平原でやる事もなく個人を識別できない鎧を身に纏う集団を見るのは、まるで羊を数えるのと同じ行為だった。
何度も欠伸をかみ殺してみるもついには立ったまま居眠りするという技をうっかり披露する事となり、フレンの愚痴を聞いて励ますつもりが無言の追い討ちを掛ける事となっていた。
夕闇が迫る頃遠くにザーフィアスの淡く輝く結界を眺めながらキャンプ地にも夕餉の匂いが広がって行く。
フレンは小隊長らしく夜間の見張りなどを副官と話していたが、面白い事にここにはソディアの姿が何処にもなかった。
フレンのそばにいつも侍っていると思っていたが、演習の時には姿を見たのだ。
キャンプ地をぐるりと見回せば数少ない女の子の騎士達の中に混ざり、今夜の食事を作っていた。
縁は少なからず切れる事はなかったものの何処か遠くになった距離を寂しいと思いながらも、フレンだけの世界だった彼女にはこの正しさに安心する。
周囲をぐるりと回りながら、この一日で顔見知りになった騎士達に声をかけながら城の中では聞えなかった近況を聞く。
気さくなフレンの周囲に集った騎士達も何処か気さくで、大概の事にはきちんと答えてくれた。
おかげでザーフィアスの小さな噂話から大きな出来事まで一通り情報収集できた。
聞いといて言うのもなんだけど、フレン君。君のとこの隊員はちょっと口が軽いよと後ろめたさを覚えながらフレンのテントまで戻る。
中から聞えてくる声は既に任務の話ではなく何処か楽しげな会話だった為に声を掛ければすぐに副官がテントから出てきてくれた。
「今日はお疲れ様です」
にこやかに笑う彼は小隊長がお待ちかねですと何処か人の好い笑みを残して去って行ってしまった。
城でフレンに紹介された時は怪しげな視線を向けられただけなのに、この短時間で何をそんなフレンドリーな物に変えたのかと頭を捻りながらテントに入れば、明日の予定でも立てていたのかこの辺り一体の地図を机の上一杯に広げていた物を片付けていたらしい。
「今日はお疲れさん」
「いえ、レイヴンさんには退屈みたいで申し訳ありませんでした」
頬を赤らめながらちょこんと頭を下げた何処か憎めない仕種に俺も同じように頭を下げる。
「いやいや、こちらこそみっともない姿を」
お互いに失笑。
「やっぱり気合が足りなかったのでしょうか」
つい転寝してしまった俺を見ての素直な感想だろう。
本人達は一生懸命でも周囲にはそれが伝わらない。気迫が足りないのだと言いたいのだろうが
「そうねえ、次にどうなるか判っている事を見せられるって言うのが案外退屈なのかもしれないかも」
お手本どおりの綺麗な非現実的な戦闘シュミレーションだ。
人に見せるなら問題は無いけど、いざ実戦となると何処まで通じるか・・・パニックになるだろうオチさえ簡単に予測できて危険さえ感じてしまう。
「では?」
どうしたらと言う疑問に
「近くに居る魔物を相手に実戦の訓練を組み込めば良いんじゃない?」
「演習なのにですか?」
驚いた表情に
「ちゃんと出来ていれば実戦だろうが演習どおりにみんなは動いてくれるさ」
「ですが、この小隊のみならずほとんどの小隊は結界より外の訓練はあまり馴染みがありません。突然そう言う事は・・・」
「折角結界の外に出たチャンスだ。多少のリスクを犯してでも冒険は挑戦するものじゃないかな?」
「・・・」
リスクと冒険。男なら一度は飛び込んで見たい世界だが、小隊長として責任を負う立場となれば石橋さえ叩きながら渡らなくてはいけない慎重さを求められる。
冒険をして見たい。だけど隊員の安全を考えなくてはいけない。
そんなジレンマを抱えてだんまりと悩みこんでしまったフレンの背中を押す。
「ユーリだってきっとフレンと同じ事を考えながら今頃ハルルで魔物の討伐をしてるんじゃないのかしら?」
ピクリと片方の眉が震える。
ライバル効果と言うのだろうか、さっきまでの迷いが一気に晴れたような顔をしていた。
「ユーリ・・・」
生涯のライバルだろう彼の名を呟き力強い瞳が俺を見る。
「済みません。もう一度副官と話しをします」
「いくらでもお話しなさい。おっさんは外で寝てるから気にしないで」
ついでに外に出がてら副官呼んできてあげると言ってテントから出れば、フレンは既に片付けた地図をもう一度広げていた。
それを確認してからフレンより10は年かさを重ねているだろう副官を探せば、探す前に彼の方から近づいてきて、頭をひとつ下げた。
「盗み聞きは感心しないわよ」
呆れたように言えば副官は控えめに笑ってお見事ですと俺を見た。
「イエガー隊長も随分と梃子摺っていたというのに、どうやって?」
ご教授お願いしますと聞かれればたいした事じゃないのよと笑い返す。
「競い合う仲間が居るって言うのは良い事よね」
名前を出さなくても心当たりあるだろう彼は納得したかのように眉間を寄せる。
第三者だから有効で身内ではあまり使いづらい一手だ。
何処か複雑そうな笑みを浮かべる彼にゆっくり話しを聞いてあげてと言って夕食の準備に追われている一行に声を掛けに行った。

一度覚悟を決めたフレンの行動はどこまでも手早かった。
夕食時には一同集めて明日の予定の変更を伝え、実戦を混ぜた演習に驚きを隠せない小隊達を副官と共に根気よく説得を始めた。
連絡する時間もよい。
一晩あれば覚悟を決めるだけの時間もあり、逃げるだけの時間もある。夜を空けた一同揃った顔付きは良い覚悟が揃っていると感心した。
何よりフレンの真っ直ぐに己の正義を貫くあの顔が良い。
知ってるフレンとは実戦の経験も場数も苦労してきた数も圧倒的に違うだろうが、それでも十分に彼を思いだせる強い意志を秘めた空色の瞳に何処にあるのか己の本来の世界の彼らを思い出す。
今頃心配してるだろうか、世界から切り離されて存在さえ忘れられているだろうか。
せめてあの子供達が泣いてなければと思えばフレンが手始めに4匹で集団を作っていた魔物を相手に向かうという。
十人前後の分隊を能力的に均等に5つ作り、各班長と副官を指名した。
責任を持つ事になった者はいっきに緊張が走り、呼ばれた分隊が魔物を目指して走って行った。
そしてもう一体別の分隊をくぼ地になった場所に待機を命じた。
魔物を奇襲し、地形的不利な場所へ追い込み、そこで待ち伏せしていた別働隊に止めをおわせる。演習にもある奇襲作戦の基本だ。
フレンの副官に聞いた所、ユーリもフレンもまだ小隊長に任命されて1年所経つと言う所らしい。
それで隊長の代理を任せろというユーリにも驚かされたが、まずは離れた場所から指示をするフレンの言葉どおり魔物を追い込み仕留めた一連の動作はよく訓練を行っている物の動きだと感心をした。
それを何度か繰り返し、他の作戦にも挑戦している様は昨日の何処か怠惰な流れ作業的な訓練とは違う緊張感が心地良かった。
陽が南中に差しかかろうとした所で異変を感じた。
目を凝らして微かに昇る土煙を見つければ夥しい集団の魔物がこちらへと向かって走ってきた。
何所かで見た事あるなと冷や汗を流せば思い浮かんだのは平原の主が呼び寄せていたような奴らによく似ている。
ただ主が居ないだけだけど、その集団たるや思わず新たに指示を出そうとしているフレンに思わず駆け寄ってしまった。
「ちょっとフレン君、訓練じゃなくってあっち!あっちに・・・」
なんて名前の魔物だ?
いや、名前が必要じゃなくって、弓を取り出して展開する。
予備の矢筒に矢を詰めれるだけ詰めればフレン達にも事態が理解できたのだろう。
「この季節にあんなにも大量の魔物が?!」
どうしますと言う副官に思わずしり込みしたくなるのは仕方がないだろう。
普通なら小隊で処理できるような数では無い。知っている彼なら喜々として迎え撃つのだろうが・・・
少しだけ思考をめぐらせた彼は英断を下す。
「我々がここであの魔物を食い止める。一分隊はザーフィアスに救援要請を。
 アレクセイ団長は留守だ。イエガー隊長、もしくは他の隊長でも構わない。
 及びザーフィアス各入り口の門を閉鎖。魔物を一匹も帝都に侵入させるな!」
次々と命令を下し、今までの訓練でダメージが一番多かった分隊をザーフィアスへと向わせて、レイヴンさんと真摯な眼差しが俺を見ていた。
「あなたは一般人です。彼らと一緒にザーフィアスへお戻り下さい」
既に出発している彼らを追いかけて一緒に戻れという。
あくまでもお客様の扱いに苦笑を零しつつ
「今は戦える者が戦う。違わないか?」
このピンチな状況に一般人も騎士も関係ないとフレンの言葉を押し留めれば副官のもうすぐ到着しますと言う声に少しだけ苦しそうな顔をしたフレンは
「では、なるべく僕のそばに」
すらりと剣を抜いて分隊の三人の班長の名前を呼んだ。
魔物の進路をザーフィアスからそらせるように指示を与え、フレンを含む残りの隊が迎え撃つという。
勢いのある魔物に妥当な判断かもしれないけど、無茶をすると苦笑紛れに長距離からでも攻撃のできる弓を放ち少しでも数を減らす事に専念した。
焼け石に水と言うのはこう事を言うのだろうかと思いながらもザーフィアスまで直進しようとしていた魔物は騎士団の攻撃からそれるように次第に曲がって行った。
くぼ地も何もないけど平原で迎え撃つ事になったフレンは何とかしてあの勢いを少しでも殺さなくてはとつぶやいて、なにやら集中を始めた。魔術を持って戦陣の火蓋を切って落とすらしい。ルミナンサイスと高らかに力ある言葉を解放てば先頭の一匹が弾き飛ばされた。
それでも勢いは止まらない相手にフレンの剣が掲げられる。
「行くぞ!」
轟く鴇の声と共にに正面から迎え撃った。
そして直進を阻んだ三つの分隊も背後から襲う形で合流して見事な混戦が繰り広げられた。



慌てて即行で結成されただろうイエガーが率いる混同部隊がやってきた頃には大半を仕留めた後だった。
平原には夥しい数の魔物が横たわり、怪我をしていない物は誰も居なかった。
返り血を浴びた隊服は既に何処の所属かわからず、白色が基調なだけにその凄惨さだけが浮き彫りになった。
ただ奇跡的に死亡した隊員は居らず、その幸運だけは後から合流したイエガーたちも驚かずに入られなかった。
魔物の血を含んだ大地は黒々とし、異臭を放つ中最後まで指揮を取ったフレンを見つけたそばでイエガーは指揮権をフレンから移しフレン小隊は長い戦いからやっと離脱する事が出来た。
息絶え絶えに後方まで下がって治療を受けている中フレンは俺の隣で膝を突いた。
予想通り弓を使い果たした後、小太刀で戦い抜いた手には魔物の爪の引っかいた痕が残っていた。
その手をとり、治癒術でもある下級魔術で幾筋の爪痕を消し去った。
「ありがとうね」
何処にも怪我をした事さえ伺いしれない腕を振り回せば、返り血を浴びた顔が困ったように人の良い笑みを作る。
「こちらこそレイヴンさんには助かりました」
ありがとうございますと折り目正しく礼をするのだから、あまりにくすぐったくて戦時中なのに笑みさえ浮かべてしまう。
「役に立って何よりだったわ」
「僕達は・・・その、色々と驚かされてしまいましたが・・・」
何がと首を捻れば、何処か赤い顔で
「魔術の呪文が独創的過ぎて・・・その・・・」
「その?」
促せば、彼は覚悟を決めたように言った。
「あ、愛をありがとうございました」
顔を隠すように俯いたつもりなのだけど、隠しきれない耳や首筋は肌が白いだけに見事に染まっている。
愛だなんて滅多に使わなかっただろう単語に一人照れている彼を可愛く思いながらも
「おっさんの愛がちゃんと届いてよかったわぁ」
「いえ、あの・・・」
また一段と赤く染まったフレンに周囲からも笑みがこぼれた。
「あまり我らが小隊長をからかわれても困りますな」
副官があまり困ってない顔でそばに座りグミを差し出してくれた。
目に見える怪我はフレンが治してくれたけど、ありがたく頂いて口へと運ぶ。
「どうやら無事だったようで?」
「あなたの愛に救われました」
さすが年の功と言ったところだろうか、さらりと感謝されてしまった。
「それよりも小隊長、そろそろあちらも終わりになりますが?」
イエガーが率いる混同部隊は、即席で作り上げたばらばらの隊色をまとっているものの、見事な指揮の下に瞬く間に魔物を仕留めて行っていた。
「見事だな」
分隊を上手く使い分けて追い込み、身動き取れなくなった所を確実に仕留める様を眺めながら、まだまだ未熟な限りを肌で知ったフレンは溜息を零すも何処か晴れやかな顔をしていた。
一つ成長したかしらと思っている合間に返り血一つ浴びてないイエガーがやってきた。
「少しは落ち着いたか?」
フレンに手をさし伸ばせて立ち上がらせればイエガーはどう言って良いか判らないそんな顔でフレンを眺め
「本日よりフレン小隊に5日間の謹慎処分を言い渡す」
ザワリと周囲がざわつく。
やっぱりそう来たかと俺も雲ひとつない空を見上げるも仕方がないと溜息を零した。
納得いかない者も居る視線にイエガーは溜息を一つ。
「フレン小隊の任務は演習であって魔物退治では無い。
 仮令このような状況でもどんな犠牲を犯してもまずは騎士団に連絡を入れるのが先決だ」
結界の一番外側に住むだろう住民に被害が出ようが優先事項は決まっているというマニュアルにフレンは唇を噛み締める。
「後は私達が片付ける。早く戻れ」
突き放したような命令と共に去っていくイエガーの背を眺めるフレンに副官は何処か気落ちをした声で帰路の準備をとフレンを促していた。
フレンを始めとした小隊は隊長のお叱りにさっきまでの戦いを乗り切った興奮は冷め切って顔を上げれるものは誰も居なかった。
さっきまでの自分の言葉にすら動揺を隠しきれないで居たフレンを見上げ仕方ないかと言葉を掛ける。
「まあ、これで晴れて5日間はたっぷり休養できるって事ね。その間にしっかり体を休めなくちゃ、隊長さんも粋な計らいしてくれるわね」
これ聞き世がしに大きな声でウインク一つフレンに投げればイエガーが驚いたように振り返った。
「別に良くやった。怪我をしてまで頑張ったな、なんて誉めて欲しかったわけじゃないでしょ?」
言えば驚くフレンもそれはそうだけどと呟く。
「隊長さんだって頑張った子にはちゃんと誉めてあげたいけど、どうやらルール違反をしちゃったようだからね。素直に誉められないからってこんな遠まわしにご褒美くれちゃってさ」
どうやらまだイエガーの思いに気付かないフレンはまだキョトンとしていた。
さすがに副官は気づいてかイエガーに向って頭を一つ下げていたが
「たっぷり休養して、もっと勉強しろって言う事なのよ」
そう言えばくるりと背中を向けたイエガーは魔物を片付けに入っている部隊に向ってなにやら指示を飛ばし始めた。
あれはあれで照れているのだろうかと思いながらも
「じゃあ、俺達はお先に帰らせてもらうか」
「はい」
漸くイエガーの言葉を理解できただろうフレンは挨拶をしてきますので先に戻るようにと副官に指示をし、俺は帰路に付く一群の中に混ざりながら城へ向った。




謹慎2日目になって、フレン小隊は隊舎の方へと顔を出した。
イエガーに謹慎の間に隊舎の掃除を言い渡されてまだ包帯を外せない者達を含めて全員で徹底的の掃除をしていた。
天気のよさもあって、せっかくだからと机や椅子まで総て虫干しといわんばかりに隊舎の中庭に放り出され、挙句カーテンやカーペットまで剥された始末にイエガーは座りなれたソファーに体を埋めながら雲ひとつない長閑な空を仰ぎ見た。
昨夜遅くに戻ってきたアレクセイに事の顛末を話し、唯一と言うか本人曰く焚きつけたのは自分だと言い張る総ての事情を知るレイヴンの弁護にイエガーの言い渡した処分だけで十分だろうと疲れた顔でそう判断した。
そして責任を一人負う事になった彼は暫らくの間外部の接触禁止と言う謹慎処分を誰も知らないところで受けていた。
アレクセイの監視下に置かれるなんて拷問だなと心の中で呟くも、仕事以外では訪れる事のないあの部屋で退屈しているだろうと後で書類の提出のさいに何か本でも差し入れしようと思った。
どたどたどたと随分遠くからだが誰かが全力で走ってくる足音が聞えた。
誰ともなくその足音の主を一目見ようと廊下と部屋とを仕切るドアを眺めていれば、予告もなく突然開かれた扉には傷だらけの鎧姿の
「ユーリ、ドアを開けるときにはノックをするのがマナーだよ」
この状況でそんな風に説教できるのはさすが幼なじみと言った所だろうか。
だが、ユーリ隊長代理は血相を変えて
「お前が謹慎処分だなんて、誰にはめられたんだ?!」
自分の素行の悪さは星の彼方に追いやり、幼馴染なのにこうも性格に差が出るのかと言う品行方正のフレンを開け放たれた窓越しに見る。
「人聞きの悪い。それじゃあまるで僕がユーリみたいに気に入らないからって人をぶん殴ってるみたいじゃないか」
実際ぶん殴る方がわかりやすくって良いのだがと失笑を零すも
「今回は僕が小隊長として優先順位を間違えただけなんだ」
苦笑紛れに平原の一件を簡単に話した。
ユーリはフレンの話に黙って耳を傾けてはいたが、次第に目元が引き攣り、気が付けば何故か私を睨んでいた。
「実際フレンが行なった事はグレーゾーンなのですよ」
仕方がなく手助けをするのは彼の隊長としての役目だろう。
「本来演習の装備で実戦に向うなんて無謀以外ないです」
それは彼も知っている事で、今回隊長代理として魔物討伐対の旅に向っていた彼には痛いくらいよく判る話だろう。
「実際僕もまだまだ勉強しなくちゃいけない課題ばかりに今回はこの謹慎処分を有効利用させてもらう事にしたよ」
「ふーん・・・」
と冷めた返事をするが
「じゃあこれは噂で聞いたんだけど」
「?」
雑巾を持って床を磨く彼は小首をかしげる。
「レイヴンが戦場でフレンに愛の告白したって言うのは本当か?」
その噂は私も聞いていた。
戦場で芽生えた愛だの、若者をたぶらかそうとするものなど、平和な騎士団は絶えずこの手の噂話は大好きなようだ。
彼も親友が、自隊の隊長と同年齢じくらいの男の告白を複雑な心境で耳にしたのだろう。
珍しく眉間に皺を寄せ難しそうな顔で慎重に訊ねれば、詳しく噂を知らない私を始めとする隊のみんなも黙ってその会話に耳を傾ける。
「ああ、うん。大声で力いっぱいね」
何を思い出してかクスクスと微笑む彼にフレンを小隊長と認める彼ら小隊はさっと顔を背けた。
誰にも目を合わそうとせず、俯く姿の肩は震えている。
「で、お前はなんて返事をしたんだ?」
口元を引き攣らせる彼を見上げもせず床を丹念に磨きながら
「ありがとうございます、ってね」
うわあああ・・・
何所かで誰かが泣いていた。
突然の叫び声に何事かとフレンもユーリも顔を上げて見回すも、この場を逃げ出すように去って行った足音は一人や二人でもない。
うちの期待のホープはああいうのが好みなのかと思うも・・・この噂がどんな風に閣下の耳に届くかと思うとちょっと楽しげに口の端を上げてみた。

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