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拍手ありがとうございます!
季節外れのイベントは今ひとつ盛り上がりません。
いかにその時の季節と雰囲気が重要かがよく判ります。
そのくせまったく反対の季節を書くのが好きだったりします。
暑いので涼を求めるように冬の話しを書いてみたり、寒いから真夏の暑さを恋しくおもったり。
まあ、そんなもんだよね。



花韻 06


期末の結果を前にユーリはにんまりとした笑みを浮かべていた。
この短期間集中して勉強した結果は先生よりも本人も吃驚の好成績に思わず教室でフレンとハイタッチをかますほどの結果をたたき出した。
「ユーリだってやれば出来るじゃないか」
「ふっふっふ。もっと誉めてもいいぜ?」
終わりから数えた方が早い成績がいつの間にか前から数えた方が早くなったのは何も俺一人の頑張りだけじゃない。
学校に来てから時間があってはフレンと問題集に取り掛かり、家に帰ればいつも寝る時間になる頃帰ってくるおっさんが日付が替わる前に帰ってきて俺の勉強を見てくれると言う周囲の協力があってのもの。
ゴミひとつ出す事の出来ないレイヴンの思わぬ家庭教師の優秀さに俺の勉強の面倒を見ながら自分の勉強をしていたフレンさえ感動するほどの博識ぶりに週末は泊りがけで勉強するようになっていた。
と言ってもレイヴンの博識さは英語と理数系のみと恐ろしく偏ってはいたが。
それでも俺には十分で十分以上の戦力になってくれた。
仕事が生き甲斐のおっさんは俺達の勉強の傍らパソコンを叩きながら唸ってはいたが、会社での仕事を持ち帰ってまで俺に付き合ってくれている事にプレッシャーを覚えたけど、この結果なら十分レイヴンに胸を張って見せる事が出来る。
何よりもこの結果に推薦状を書いてくれると言う担任はもちろん進路指導の先生からこの言葉をもぎ取ったのだ。
ただしこの後の成績とレポートの提出もあるらしいが、そんな物この数ヶ月の鬼のようなスケジュールの事を思い出せばへでもない。
だから今日の夕食は久振りに腕を振るおう。
自分の仕事よりも優先して協力してくれたレイヴンの為に。
何が良いか、体が温まるような料理が良いなと考えていればコホンとフレンの咳払い。
なんだよとその顔に視線を向ければ
「テストが終わっても冬休みの間みっちり勉強はするんだよ」
「わーってるって」
「僕も手伝いに行くから」
「まあ、あそこじゃ勉強所じゃないしな」
悪態つきながらもサンキュと付け加える。
「でも、まあ、今日ぐらいは良いかな?」
少しは休憩しても大丈夫だろうと言って何か思い出したかのように口を開けた。
「そう言えば今年の正月はどうするって聞いてたよ」
「ナイレンが?そうだなぁ」
言ってレイヴンの予定を知らない事に気がついた。
「そういやあのおっさんはどうするんだろ」
「レイヴンさんがどうするか聞いてからだね」
「って言うか、おっさんの家の事情聞いた事無いんだけど」
フレンの秀麗な顔がきゅっと歪む。
夏の終わりに知り合ってほぼ顔を合わせる事もなくこの数ヶ月過してきた。
が、今頃になってレイヴンの事をまったく知らない事に気がつくなんて・・・
「俺、間抜けにも程があるな」
「ちゃんと聞いてくるんだよ」
「りょーかい」
おっさんが実家に帰るのなら俺もナイレンの所に顔を出せばいいし、家に帰らないのなら年明けにナイレンの顔を見に挨拶に行けばいい。
なんせ一段落付いたとは言えおっさんを一人にしておくのは危険極まりない。
家で勉強しているのが一番なんだろうけど、最低限の事はしなくちゃなと結局近くになったら連絡を入れると言う事になった。
フレンは君の計画性を当てにはしてないけどと溜息を零すもところでと話しを区切る。
今度は何の話しだよとやけに真面目な顔をしたフレンに少しだけ気圧された。
「クリスマスはちゃんと予定立ててるだろうね」
思わず吐露した恋情に思いのほか協力的なフレンはプレゼントぐらい買ってあるだろ?と聞いてくるので思わずそっぽを向いて不貞腐れた。
「一応用意してあるけどね」
思わぬ棘を含んだ言葉にフレンの眉間がきゅっと狭まる。
「レイヴンは取引先の会社のパーティーに呼ばれてるんだとよ」
「今時クリスマスにパーティーをする会社があるのかい?」
「あるんだと」
思わず溜息がこぼれる。
何が悲しくてクリスマス当日に会社でクリスマスパーティなんてやるんだよとユーリさえ呆れて出た言葉に
「おっさんの仕事の業界って既婚率少なくて、人生諦めた奴らばっかりだからね。別にクリスマスにパーティーやろうが悲しい事に何にも問題ないのよ。
 数少ない既婚者も同じ業種同じ職場って言う面子ばかりだから、大将に逆らう事考えると・・・何も問題ないでしょ?」
なんて一言に呆れて何もいえなかった。
それに何年も繰り返しているのだ。既に当たり前の常識に参加不参加尋ねる前に強制参加となって・・・
「おっさんはクリスマスの日に会社に連行される事となりました」
そう話しを結べば折角の王子様マスクを無残にまで歪めて俺をかわいそうなものを見る目を向けるもんだから何も言えないで居た。
「ま、そんなわけで予定はまっさらなんです」
不貞腐れた口調の俺にフレンはなんとも言いがたい顔をして
「良かったらその日ぐらい帰っておいで」
みんな会いたがってるしと付け加えれば「まあ、考えておく」と言うそっけない返事しかでなかった。
さっきまでの嬉しい気分は一気に鳴りを潜め、いつの間にか薄い青になった空を見上げた。


そしてやってきたクリスマス当日。
日々当り前のような日常と同じくレイヴンは少し毛羽立ったコートを羽織って何時ものように会社に向う。
「じゃあ青年は施設のクリスマスパーティーに行くわけね」
「こんな日ぐらいチビ共の相手してあげないとな」
なんせ夏からずっと帰ってもいないのだ。
前はそこそこ顔を出していたと思ったのだが、勉強を理由に遠のいていた事を思いだせばたまにはフレンの手伝いでもしてやろうとナイレンに連絡は入れておいた。
「じゃあ泊まってくるの?」
「んあ?夜には帰るよ。なんせあそこじゃ寝る場所ねぇからな」
プライバシーなんてなくて二段ベットの上が唯一の個人のスペースで、子供サイズのベットは既に足が飛び出している。
フレンはナイレンと同じ部屋に布団を敷いて寝ているから問題ないとは言うが、物に溢れたあの部屋でもゆったりと寝れるほど余裕は無い。
だからたまに泊まりにくると「ここは静か過ぎて寂しい」と言うフレンに一人暮らしを始めた当初を思い出した。
今ではレイヴンが居て、そういった寂しいと言う感情は払拭した物の「行って来ます」と会社に行った背中を見送って一人ぽつんと広い部屋に取り残された静けさにみょうな寂しさを覚えた。
そんな寂しさをごまかすように部屋を片付けて、この冬に買ったばかりのコートを羽織って静けさから逃げるように施設へと向った。

夜になって子供達の就寝時間を迎えてからそっと施設を抜け出すように帰って来た。
門の所でナイレンに今日はお疲れさんと送られて帰宅した部屋は真っ暗で人気もなく寒く寂しい部屋だった。
余計な物もなくなり無駄に広い分余計寒々しく、部屋中の灯りを付けて朝までには帰ってくるだろうレイヴンの為に暖房をつける。
やけに仰々しい家具に囲まれるリビングに移動してきたコタツに潜り縮こまりながらテレビをつけた。
妙に騒がしいトークと同調できない馬鹿笑いをぼんやりと見ながら足元から温まっていく熱にうつらうつらする。
去年の今頃は何してたっけと考えればやはり施設のクリスマス会の帰りで、ちいさな電気ストーブに当たりながらこうやってテレビを見ていたなと暮らしの上ではおっさんの許で向上したと言っても良いが、まったく進展していない自分に苦笑。
大学入学と言う目標はあるものの思ったより成長していない自分に呆れながら、だんだんと遠のいていくテレビの笑い声にいつの間にか番組が変わっていた事に気づかないで居た。
変化に気づいたのは急に冷たい空気が忍び込んで来たからか、それともコタツで火照った体に心地良い冷たさで肩を揺すられてかは判らない。
何かを話しかけられたような呼ばれたような気もしたが、ここ数日の寝不足と、久しぶりの子供達との遊び相手に瞼が中々開かない。
ただとにかく心地良い疲れてと程よい温もりに包まれていれば瞬間冷たいものの柔らかな何かに包まれた。
よく知っている匂いで、それは不快ではなく、寧ろ心地が良い。
それをかき集めるように蹲れば不意に何か大切なような言葉を語られて、何かやわらかい物が額に押し付けられた。
なんだ?と考える間もなく思考は散漫と散っていき、瞼越しに明るかった世界は静かに夜を迎えた。
次に気がついたのはいつも目を覚ます時間だった。
恐ろしく正しい体内時計にいつもならそこにあるはずの時計がなく、何処か重い体を起こしながら時計を探せばそこは自室でなかった事に気がついた。
「あー・・・」
どうしたんだっけと寝起きで働きの悪い頭で思い出せばテレビを見ながら眠っていた事をおもいだし、コタツで眠り込んだ事に漸く気づいて布団を捲り上げた。
「布団?」
あまり見覚えのない布団の匂いをかぐ。
「おっさんのか?」
どう考えても自分の物では無い上質の羽根布団は恐ろしく軽いのに温かくて、じゃあおっさんはどうしてるんだと布団以外の場所で寝たためか何処か重い体を起こせばすぐ背後のソファーでコートを着たまま眠りこけていた。
玄関から途中鞄とネクタイと、何かの景品だろうか怪しげな健康器具がラッピングを剥された状態で転がっていて、その包み紙も当然のように落ちていた。
何時もの光景だ。
フレンが居る時は何故かまったくの隙のない別人に変るが、これはこれで
何時ものおっさんなので安心すると言うのはどうなんだかと頭を痛めながら借りていたまだ俺の体温の残る布団を掛ける。
寝息も今だアルコール臭く、今日は当分起きないなと苦笑していればとたんにぱっと翡翠の双眸が見開いた。
「うおっ?!わりぃ、起したか?」
パチパチと何度か瞬きした後寝ぼけているのか視点の定まらない瞳で俺を真っ直ぐ見詰める。
どうしたんだとその目を覗き込めば「ユーリ」と俺の名前をつぶやいたかと思えば顔が真っ赤になりだし、なんだと思う間もなく頭から布団を被って丸まってしまった。
「どうした?気分悪いのか?」
二日酔いか?吐きたいのならトイレに行けと布団をはがそうとするも思いのほか強い力で抵抗され、だけど暫くして布団を被りながら立ち上がり、やはり何処か赤い顔のまま
「おっさん、部屋で寝てくるね」
まだ酔っているのか壁やドアに当たりながら自室へと行ってしまった姿を見送りながら何だったのだとただ閉まったドアを見つめてた。

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