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懐かしい物を発掘しました。
のでもう一度掲載してみました。
そして懐かしいものを見ました。
ずっと俺のターン。
今見ても迷作です。



海辺の秘密


ユニオンに届いた迷惑な一通の手紙せいでおっさんは何人の人が何度も通って出来た道を辿りながら海の見える場所へとたどり着いた。
魔道器の加護がなくなった今、狭い檻の中から飛び出した人達は思い思いの場所を求め、流れ、たどり着く。
手紙の一報もそうやって出来た集落が海沿いにあると認めた物で、ユニオンとしては商売が成り立つか一度見ておいて欲しいと言うものだった。
かと言ってユニオンといえども魔道器ののなくなった今、拠点とするダングレストをほったらかしにできるわけもなく、やすやすと人を派遣できるわけでもなく、結局の所おっさんがどんな集落か調査する事になった。

「までは良いんだけど、なんつーか」

鳥が鳴き、潮騒の音と子供の声。
久振りに見る見知らぬ顔に集落の人たちから歓迎を受けている所だった。

まさかギルドがねぇ。騎士ですら見捨てられた所なのにねぇ。
なんて、どっちとも耳が痛い感想を頂きながら獲れたての海の幸を馳走になる。
娯楽はなく、嗜好品もなく、獲れたての魚を開いたり燻製にしたりして街へと売りに行き賃金を稼ぐ。
贅沢しなければ、あまり凶悪な魔物も居ないここは良い所だなと穏やかな日差しを受けて目を細める。
「それにしてもよく此処に落ち着く気になったわね」
砂浜でゴロリと転がりながら集落の男に聞けばなんでも・・・・



海を見下ろす高台の森の中を歩いていた。
目指すは上手くカモフラージュしてある物の近くまで行けば誤魔化す事の出来ない小さな小屋が現れた。
元々猟師小屋かなんかだっただろうその小屋の煙突からは煙が上がり、何か生活音的な物音まで聞える。
どんな人物が済んでいるのか興味もあってドアを叩いて静かに待つ。
なんせここに住む男が海辺に集落を作った者達に魔物との戦い方を教え、捕まえた魚を売りつけに行けば良いとアドバイスを与えたものなのだ。
そこそこの知識人で、そこそこの戦闘能力を持つ者だと判断して何処か緊張して待っていれば家の中からドアが開いた。

「今日は何のようだ」

低く落ち着いた聞き覚えのある声に体が硬直した。
そう、忘れるはずもないこの声は・・・
ドアから飛び込んだ光を反射するように輝く銀の髪。
帝都ではあまり珍しくは無いといえども数の少ない紅い瞳。

「大将、生きて・・・」
「シュヴァーン」


言葉が続かなかったのはどっちだろうか。
暫くお互いが見合ったまま時が流れて一つの違和感に気付いたのは俺のほうだった。

「腕が・・・」

生きていたという驚きをも越えた物は圧倒的な強さを誇った剣技を繰り出していた利き腕の消失。
その腕にははっきり言って良い思い出は無いが、それでも同等なぐらい憧れていたものが肩の根元からなくなっていた。
あまりに凝視していた為か、動けば靡く袖に手を添えてアレクセイは笑う。

「あの倒壊の中で失ったのはこの右腕だけとは・・・残念だったろう」

覇王を目の前にして根本的な間違いを知った愚かな道化は何処か自嘲気味に笑う。
憑物が取れたというような表情をしているものの、以前にはなかった影が存在し、右腕からその顔へと視線を移せば男は同情するなと言うように背中を向ける。

「折角来たのだ。茶ぐらい出すぞ」
「え・・・ええ?!」

青天の霹靂とはこう言う事を言うのだろうか。
あのアレクセイが自ら茶を淹れると言った。
いや、聞き違いか?その方がよっぽど信用性がある。
この十年人を人と思わず、正しく道具として壊さず生かさずと使い続けられた身としては突然の親切に恐怖を覚えずには居られない。
とは言え、さすがにこの反応はどうかと思うが、アレクセイも暫くしてゆっくりと振り向き

「いいから黙って飲んで行け」

何処か脅迫まがいの慣れ親しんだアレクセイらしい口調で命令をし、暖炉で沸かしていたケトルを手にして、熱い紅茶と果物をワインとシロップで煮付けたものを出してくれた。



対面で茶を出されれば、進められるまま手をつける。
腕をなくし、ザウデの後の生活を知らないが、やはり苦労はしてるだろう何処か痩せた体を盗み見るようにしながら果物を口へと運ぶ。
緊張して味は判らないが、独特の香りがただようワインの匂いだけがやけに現実味を出していた。
仕方がない。二人きりでいてろくな目にあわなかった日はなかったに等しいのだ。命令される事になれた体は彼の言われるままただ望むように動いている。
訣別したと思っていた心がまた縛られそうになるも、目の前に座る人物は何処か機嫌が良さそうに紅茶を飲んでいるのを見て、とりあえずは今日は殴られる事は無いだろうと頭の何所かでほっとしている自分に苦笑した。
とはいえ鎧姿ばかりの記憶しか思い出せないが、鎧を脱いでも逞しい体だと思う。
思うほど伸びなかった身長と、この十年間馬車馬のように働かされた体付きは周囲からは可愛いなどとコンパクトな目で見られて多少のコンプレックスを抱いていただけに、あの後の生活を想像してみてもこの逞しさは反則だと喚く前に羨ましさの方が勝った。
言われたとおり黙って紅茶を飲んでいる茶会は沈黙が広がったまま。
逃げ出したい衝動を押さえるように熱い紅茶を飲み干して早く失礼しようと考えていれば小屋の遠くから足音が聞える。
耳を澄ませば足音は複数で、軽い。足幅も小さく、なんだ?と小太刀に手を掛ければ、目の前に座るアレクセイが大丈夫だとこの手を制する。
そのままドアまでいき、開ければその軽い足音達がまるで雪崩れ込むかのようにやってきたのだ。

「アレク、お母さんがご飯にどうぞって」

舌ったらずの幼い子供が飛び込んできたと思えば大小合わせて合計6人の子供の集団がやってきた。
籐で編んだだろう籠には魚やら貝やら野菜が大量に詰っていた。
此処での生活の信頼性が窺う事が出来て驚く。
その集団の中の一番小さな子供がおっさんを見つけるとさっとアレクセイの影に隠れた。

「さっき浜辺で寝てた人だ」

見覚えがあるのか、一番年長の子供が指をさして言えば、子供と言う物は簡単に警戒を解く。

「おや、おっさんの事覚えてくれてたの?」

聞き返せば得意気に子供は笑う。

「ねぇアレク、今日も剣の修行してよ」

隣にいたどこか生意気そうな子供がアレクセイに甘えるように懐いている姿を衝撃の中愕然とした気分で見てしまう。
これがあのアレクセイの今の姿なのだろうか。
泣く子も黙ると言われたあの騎士団長の成れの果ての姿なのだろうか。
挙句に怖い物知らずの小さな女の子は父親の背中にしがみつくようにアレクセイの背中を攻略している。
下町で青年がよく子供達相手こんな事してたっけなーなんて一瞬意識が遠くなりそうになるも、まだ似合っていたからあれはよしとしよう。だが、この光景は・・・子育てをした事の無い子煩悩な父親と言うかなんと言うか。
実際アレクセイは貴族だったから親に育てられた記憶すらないだろうによく懐かれているもんだと感心さえしてしまう。

「すまないが今日は客人がいる。また明日にしてくれないだろうか」
「ええー?!」

非難はおっさんに向って集中する。
いつの間にかすっかり悪役になってしまっていたらしい。アレクセイも吃驚だ。

「おっさんはちょっと確認しただけだからもう帰るよ」

子供とは言え、いや子供だからか6人分の真っ直ぐな恨みがましい視線は正直堪える。
そう言えば6人なんて何所かで体験した数字だわねと、椅子を立ち上がりドアへと向かえば腕をつかまれた。

「まてシュヴァーン。せめて・・・」

せめてなんだというように言葉を失ってしまったアレクセイにさすがの子供達も何かを察する。
何処か縋るような視線から顔を背けて暫くそのままにいれば

「じゃあ、また今度にする」

行くぞと年長の男の子が号令をかければ従うようにそのまま部屋を出て行ってしまった。
最後にあかんベーなんて微笑ましい攻撃を残して去って行ったアレクセイの背中をお気に入りにする女の子は幼いながらも恋してるのだと察して手を振って見送ってしまう。

「大将モテモテじゃないっすか」

繋がった腕を振り解くのは簡単なのに何故か出来ないまま、またさっきの椅子へと座る事になってしまった。

それから陽が傾き始めるまであの後の事を話していた。
浜辺に住む人達からも大体の事は聞いていたのだろう。
ある日突然使えなくなった魔道器。
宙に浮ぶ禍々しき建造物。
そして空を覆った災厄の消滅。
間違いを犯したとは言えタルカロンの話は詳しく聞きたがるのを求められるままに話してしまった。
最初は躊躇ったものの、次第に研究者としての顔が現れだしたのを何処か懐かしく思い出してしまったのが原因だろう。
剣士として、研究者としてその腕はどちらとも一流だ。
かつて、その探究心の深さに憧れ崇拝した時もあったが、今は単なる畏怖と恐怖の象徴。
口調がいつのまにかシュヴァーンになっているの気がついて、心の中でこの人から逃れられないと誰かが泣いていた。
黄昏がこの部屋にも訪れた頃、探求者の顔からふと一人の男に戻り

「すまない。灯りをもってこよう」

壁にかかるランプに暖炉から片手で器用に火を移す。
そして立ったついでと言うように人一人がやっと立てる小さな台所でガタガタと竃に火をくべる。
一体何が起きるのかと思ってその成り行きを見ていれば

「外はもう暗い。泊まっていけ」

なにやら鍋やら貯蔵庫らしき所から取り出している肉の固まりを見て俺がここに泊まって行く事がいつの間にか決定していたらしい。

「ちょ、まっ、待ってください!俺、いや私は出来る限り早くギルドへと戻らなければ・・・」

シュヴァーン

名前を呼ばれて体が固まった。いいわけじみてここを逃げ出す理由ではないが、今、自分が、置かれている、状況を、分析、すれば自然とはじき出せる答えを出した所で、アレクセイは何処か一瞬だけ悲しそうな顔を見せ、それから何時ものように俺を鼻で笑う。

「お前は何か勘違いをしている」

言ってアレクセイは利き腕では無い片腕一本で器用に肉の固まりを切り分けていく。

「アレクセイ・ディノイア帝国騎士団団長はもうどこにもいない」

切り分けた肉を更に細かくカットして鍋にぼとぼとと入れていく。
次に取り出した玉ねぎを大雑把に切ってから皮を取り除き、同じように鍋に入れる。

「今お前の前にいるのは利き腕を失い、地位も名誉も財産も屋敷も戸籍上の生存さえ失った隠者だ。気を使わず好きなように振舞うといい」

とは言うものも、口調は長年染み付いた命令口調だ。
好きなようにといわれてもこれでは好きなように振舞えない。
一つ大きく深呼吸して

「大将、玉ねぎちゃんと洗いましたか?」

秀麗な顔が歪む。

「煮沸消毒だ。別に問題ない」

相変らずだが、その自信はどこから来るのかと言うように胸を張っていい退けた言葉に一瞬意識がとんだ。
瓶から水を柄杓で鍋に汲みいれ、皮も向かずに二つに切っただけのニンジンを入れようとするのを慌てて止めて、

「お・・・私がやります」

ナイフとニンジンを取り上げてくるりと皮をむいていく。
そして食べやすいように一口大サイズに切って鍋に入れれば

「お前は相変らず器用だな」

ただでさえ狭いキッチンに男が二人いればろくに動けもしない。
更に言えば、俺の頭の上から手元を見るような姿勢で感心したように言葉を放つアレクセイの息が髪を耳元を震わせ・・・






気が付いたら薄暗がりの中にいた。
カーテンの無い窓には燦然と輝く月が見え、ああ、もうすぐ満月になるのねとぼんやり見ながら、その窓の木枠が見慣れたものでなく、とたんに意識がクリアになった。
パチンと爆ぜる蒔きの音にゆっくりと首をめぐらせば、暖炉だけの灯りの室内の一角に浮ぶ人の影。
椅子に座ってうとうとしているようだが、その姿は紛れもなくアレクセイで心臓が凍える思いになった。
アレクセイと一緒で無様に眠りこけていたらどんな目に遭うのか・・・なんて想像する脳の方が拒否をする。
五体満足で済めば良いと思いながら、渇いた喉を湿らすようにゴクンと息を飲んでみるも余計に乾いただけ。
この場合は、そっとしておく方が良いのだろうか。暖炉の前とは言え、この季節であの格好で転寝をするのは無謀だと毛布を掛けるべきか悩んでいるうちにアレクセイの頭が持ち上がる。
ゆっくりと振り向いた顔は暖炉の灯りの弱さのせいでよく判らない。
暗闇の中であの赤い瞳だけが光ったように見えた。
俺が起きているのは理解したようで、ゆっくりと立ち上がり、暖炉の火掻き棒を手にする。
あれで焼かれると跡が残るわね。何て思いながら、何処かで何かをあきらめきっていた心でその動作を眺めていれば、暖炉にくべた薪をいじり、そして新たに薪を足してその棒でよく燃えるように調節をし、棒を元あった場所に置いたのをまるで奇跡が起きたような目で見た。
それから俺のそばにやってきて

「体調はどうだ?」
「あ」

伸ばされた手が額に触れようとして思わず強く目を瞑る。
予想よりも一拍遅れて額に触れた手は寝汗でも掻いていたのか張り付いた前髪を剥す。
一呼吸もない合間に手は離れ、一瞬の安堵を覚え、ゆっくりとアレクセイの顔を見上げた。
何処か傷付いたような泣きそうな。
瞬きをする間に消えた表情だったが、俺を戸惑わせるにはそれだけで十分だった。
どうしましたか?と聞こうと口を開けようとする前にアレクセイは言葉を紡ぐ。

「熱は無い。無理をしているからだ」

短く言い放ってそのままさっきまで座っていた椅子へと戻る。

「今日はもう寝るといい」

辛うじて聞えた声にぼんやりと浮ぶ背中を見詰める。
恐怖を覚えたのは俺の方なのに何故か罪悪感を感じ、暗がりに浮ぶ少し小さくなったような背中から目をそらすように目を瞑り、再び眠りに付いた。





明るい朝陽が差し込んで瞼の向こう側の明るさに負けたように目を醒ました。
一瞬ここはどこだと部屋をグルリと見回して二人分の食事が手付かずに置かれたテーブルを見て頭がはっきりとした。
毛布を蹴飛ばすように飛び起きて見回せば隠れる場所さえ無い猟師小屋に目的の人物がいないのを確認して、家の外に飛び出す。
ひょっとして・・・との思いがあったが、すぐに目的の人物は見つける事が出来て何故か安堵の溜息がこぼれた。
左手のみで剣を振るうアレクセイの姿がそこにあった。
随分と振るっていたようで、呼吸が上がり、じんわりと肌の色が上がっているのが遠目で見ても判ってしまった。
いつから振り続けているのだろうかなどと邪推はせず、

「おはようございます」

薪が積み上げられた軒下に回って、挨拶をすれば俺がいる事にとっくに気がついていただろうアレクセイは漸く手を止めた。

「よく眠れたか?」

あまり視線さえ合わせようとしないアレクセイに俺の方が何故か今頃心が傷付く。
だけど、それを言葉にする必要はなく

「腹がすきすぎてあんまり」

苦笑して誤魔化せば、アレクセイの何処か緊張していた気配が和らいだ。
そのまま近付いてくるも俺と一定の距離を開け

「昨日のスープがある。温めなおそう」
「じゃあ、俺手伝い・・・」
「また倒れてもらっても適わん。休んでいなさい」

山積みの蒔きの傍に木刀を置き、小屋の中へと戻る。
赤々と燃える暖炉で沸かしたケトルを取り、紅茶を淹れた。
ケトルの代わりに鍋を暖炉の上に置き、テーブルに並んだままの料理を眺めたあと処分しようとしたその行動に思わず

「ま、待ってください!」

なんだというように振り返った赤い瞳に

「火を通せばまだ食べれます。
 乾燥してしまったパンも焼きなおしてスープに浸して食べれば問題ないし、太陽の下で乾燥させた魚も焼きなおせばまた香ばしさが戻ります」
「なるほど」

妙な所で感心したように言う言葉にはまだ試行錯誤でしか平民の生活が成り立っていない事がわかる。考えれば生まれた頃より何人もの召使に傅かれて育ったのだ。調理なんて物は騎士団にいた入隊した時ぐらいしか体験は無いだろう。いや、それすら免れていたかもしれないと思いながら、結局は俺が朝食の準備をして昨日のティータイムでは無いがまた対面で食事をする事になった。
話しながら食事をするものでは無いとかつて言われた事があるが、それにしてもこの沈黙は苦しくてしょうがない。
食器の音も可能な限りなく、咀嚼する音さえ憚れるそんな食事だ。
テーブルマナーさえ知らない俺に教えてくれたのは目の前の人物で・・・だめだ。食事が喉に通らん。
パンをスープに浸して食べるも口の中でもそもそとかさばる。
それを紅茶で流して飲み込めば

「シュヴァーン」

しまった。何かやったか・・・と作り物の心臓が跳ね上がるが

「食欲が無いのか?」

見ればアレクセイはもう食べ終わろうという所。その点俺は何とかパンを食べきった所で

「いえ、腹は減っているのですが・・・」

緊張して喉が詰ってるとはとてもじゃないが言えない。
どう答えようか一瞬迷った合い間に

「昨日倒れたばかりなのだ。無理をせず食べれるだけにしなさい」

言って席を立った。
そのまま扉の前に立ち

「薪を取ってくる。ゆっくりしていなさい」

そのまま出て行ってしまった。
小さな小屋とは言え一人取り残された居心地は悪く、やっと安心して食事が出来ると考えてみるも、何故かさっきほど味気ないものになっていた。
暖炉へと視線を向ければ、その横には薪がまだ十分なくらい山積みになっていて、気を使わせてしまった。
ここ10年ほど体験しなかっただけで忘れてはいけない事を思い出した。
厳しい事で有名だったが相手に努力を求める分だけ惜しみない配慮を与える優しい人だという事を。
何故忘れてしまっていたのか思わず舌打をし、目の前に広がる冷えた料理を掻き込む様に食べ、ケトルの白湯で口をゆすいでドアを飛び出した。
昨日かららしくないアレクセイに驚き戸惑っていたものの、よくよく思い出せばそれは本来の彼だったのだ。
厳しくも優しくあり、何で忘れてしまっていたのかと森の中を駆け抜けた。
勝手のわからない森だが、その姿はすぐに見つかった。
いつの間にか木々の景色はなくなり、とたんに広がる空と海の青の世界。
光を乱反射して境目が白く瞬くように溶け合い、輝きがそれに色をつける。
あえてつけるなら目の前に立つ人物の色。
ああ、昔はこんな風に眩しく見えたなと今頃になって生きていた頃のシュヴァーンの記憶があふれ出してくる。
その景色と境目に立っていたアレクセイは人の気配で振り向き

「どうした。随分慌てて」

少しだけ困ったような表情に俺は今を見つけ出したその姿に何故か安堵した。

「あー・・・」

と言って視線を彷徨わせたあと思い出したように「薪を集めるの手伝いに来ました」なんてとっさの言分けをしてしまう。
バレバレのうそをアレクセイは見破り、少し不機嫌そうに眉間を寄せるもそれ以上は何も言わず、再び海へと視線を投げた先を少し後ろからその背中ごと同じように眺める。
どれだけ経ったか判らないが、くるりと振り向いたアレクセイはゆっくりと口を開き

「ギルドの仕事があるのだろう。そろそろ行きなさい」

そしてもう二度とここには立ち寄らないように

小さな声で弱々しく突きつけられた言葉に目を見張ってしまう。

「なんだ」

俺の顔を見てそう見捨てるように別の方へと向いた横顔の視界から逃れるように移動をし

「迷惑でしたか」

聞かずには居られない。
人生を歩みなおそうとした彼の汚点の出現。
海辺に暮らす優しき人との穏やかな日々の終わりを告げるようなこの邂逅。
かつての彼に漸く出合えたと言うのに、わだかまりのせいか息苦しさにまともに姿さえ見る事も出来ない。
俯き、足元さえ見ていればすぐ側で空気が揺れる。
いつの間にか目の前に立つアレクセイの姿に思わず呼吸が留まってしまうが、次に来るはずの衝動はどこまでも優しかった。
一瞬に当たった肌は柔らかく、とっさに瞑った目をゆっくりと開ければ間近にアレクセイが着ていただろうシャツの色が飛び込んだ。
別の意味で呼吸をするのを忘れてしまったが、頭に添える手が優しく感触を楽しむように跳ね、その後止めていた髪紐を取り去ってしまった。
海風に煽られながら癖の付いた髪が靡けば、アレクセイは指ですくようにして丁寧に直していく。
こんな状況を理解できずにただただ固まっていれば頭の上でアレクセイは言葉を紡ぐ。

許せとは言わない
だが、それでも謝罪をしたい

何度も髪をすいていた手はいつの間にか俺を抱きしめるように、そして、たぶん泣いていた。
震える肩と声に目を瞑る。

「大将、卑怯ですよ」

今になってこの人を取り戻してしまった。
過去の自分を形のない墓に埋め、亡霊とした過去さえ崩れ落ちた神殿の最奥に置いてきた。
価値の見出せない生を若人達が懸命に取り持ってくれて漸く今の自分があるのに、俺の目の前にいる人物はけじめをつけた過去さえ揺らぎそうになるだけの力を持っている。

「ほんと今更です」

これだけの至近距離だ。
俺の一言一言に震える肩があのアレクセイなのかと本当に迷うものの

「大将にそう言われたら『いいえ』なんて言えないに決まってるでしょ」

焦がれに焦がれた存在だ。
焦がれた分だけ甘くなってしまうのはどうしようもない事で、どんな許せない事でも長い付き合いなだけに判るプライドをかなぐり捨てた心からの謝罪に返す言葉は一つしかない。

「俺は、貴方が思っているほど恨んでないんです。むしろ・・・」

今頃になって感謝してるのです。

声になったかは判らない。
だが確実に届いた言葉は震える彼の顔を上げさせるだけの効果があり

「遅くなりましたが、この心臓魔道器ありがとうございました」

笑っていえただろうか。
ちゃんと感謝の気持ちが伝わっただろうか。
あの日、あの時今と同じように言えたのならなにか変わっていただろうか。
もしもの世界なんてあるわけ無いと判っているのに今更ながらそう思える自分に呆れてしまうも、最近になって漸く受け入れる事のできた魔道器にそっと触れる。
あれだけ忌み嫌った存在が今はこれ以上となく愛しい。
今は少しでも長い付き合いが出来ればと思うのだから人間と言うのは現金だと思う。

「感謝するなら、私も感謝しなくてはな」

顔を上げて体を離す。
照れているのだろうかくるりと背中を向けて歩き出した背中を視線は追いかける。

「お前を生き返らしてくれたあの子供達に。
 私には出来なかった事だ」

小さな呟きのような声に唇が震えてしまいそうになるも、新たな出現に何とか瞼を強く閉じる事でその衝動をやりすごす。

「アレクー、おーい」

わいわいと言うように昨日の子供の集団がやってきた。
例によって一番おチビさんのお嬢ちゃんはアレクセイの腰に飛びつくように抱きしめていた。

「まだいたんだ」

手作りらしい木刀を握りしめた年長者の男の子が思いっきり不機嫌そうに見上げてきた。
アレクセイをまるで守るように囲む子供達の何処か真剣な眼差しにこれでは俺の方が立派な悪役だと苦笑する。
それでも別にかまいわしないのだが、子供達の貴重な楽しみな時間を奪うのは大人のする事では無い。

「はいはい。おっさんはもう退散します」

実際これ以上寄り道はしていられないだろう。
凛々の明星と言うメンバーに捜索依頼が出される前に撤退しなくてはいけない。
こんなにも穏やかでささやかな幸せをアレクセイから奪う事は出来ないのだから。

「大将、それでは失礼します」

軽く頭を下げれば穏やかな笑みを携えて

「この辺は強いモンスターがいないとは言え気をつけて行け」
「ありがとうございます」

どこまでが反射か、感謝かわからないような曖昧さの残るやり取りだけに、歩き出した俺はもう一度だけ振り返る。

「今度来る時は大将の好きな酒持ってきますので楽しみにしていてくださいよ」

あからさまに驚いた顔に妙に照れてしまい俺はそれを誤魔化すように、妙に軽い足取りで駆け出していた。

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