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拍手ありがとうございます!
蟹に思わぬ時間をとられてしまいすっかり更新をするの忘れてました。
と言うか、投稿したと思ってたのに投稿してなかったと言うそんなミス<殴!
今回おっさん活躍(?)してません。さみしい。



花韻 05


「ユーリっ!」
朝の登校ラッシュで賑う校門を越えた所で周囲を気にせず大きな声で俺を呼びながら走ってきたのは目にも鮮やかな金の髪の王子様。改めフレンだった。
「よお、朝から元気だ・・・」
な?と言おうとするもその顔は酷く真剣で怒ってもいる様で。
思わずたじろいで一歩下がってしまえばそれよりも早くその長い両の腕が俺を捕まえた。
「アパートが火事になったって本当か?!」
あまりの剣幕に周囲に居た人たち初め、校門に立って生徒指導に当たっていた先生までが振り向いて俺に注目していた。
あまりの周囲の好奇心な瞳に思わずと言うようにがっくりと項垂れながら「違う」とだけ否定した。
それからさっさと教室に向いフレンに事情を説明する。
「火事じゃなくってボヤ。しかも俺んとこじゃなく一階の一人暮らしのばあさんのとこ」
「じゃあ怪我はなかったのかい?」
「怪我も何も。そんとき俺出かけてたし」
「ひょっとしてバイト?」
そうだと頷けばフレンの視線はすぐに厳しくなる。
暫らく考え込み
「前々から聞きたかったけど、そのバイト本当に大丈夫なのか?」
「大丈夫って、何が?」
小首傾げて聞けば
「その・・・金払いが良過ぎるんじゃないかなって」
ああ・・・言いたい事は良く判る。
日によってまちまちだが平均3時間で5千円。しかも監督もチェックもなく5千円。
最初俺もおいしすぎると思ったのだが実際は割りの合わないバイトだった。
一月かけてあのゴミ屋敷を掃除しきったのだ。おっさんの仕事部屋以外。
それこそ冷蔵庫の中身からベランダの雑草とりまで。
マンションのあの高さで植木も何もないのに溜まりに溜まった土埃に芽を出しすくすくと育っていたなんて誰が想像するだろうか。
そんなおっさんに家を持つなんて良く発想出来たなと感心するもあのマンションを買えと言ったのはレイヴンの上司に当たる例の大将と言う人らしい。
男ならいつまでも賃貸に住んでるんじゃない。家を持てと財テクで購入したが思ったほど価値の上がらなかったマンションを部下に売り払ったらしい。
鬼だ。
鬼だが買う方も買う方だ。
そこで何年のローンを組んだかまでは知らないが、当てた宝くじで既に全額支払ったと言う。
金は集まると頃には集ると言うがなんて無駄遣いだろうと思いつつも、かといってお金で幸せになれたと言う風には決して思えないレイヴンに少しだけかわいそうな想いを抱く。
「ま、何だかんだ言ってバイト代分は確り働いてるつもりだからお前が心配するような事じゃねえよ」
「だったら良いんだけど・・・」
心配げに俺の顔を眺めて
「それで君は今何処に居るんだい?」
ひたと視線で俺の視線を逃がさないと言うように捕まえる。
あまりレイヴンに良い印象を持っていないフレンになんて誤魔化そうと思うも
「ナイレンから聞いてるよ。アパートがそのボヤ騒ぎで無くなるらしいじゃないか」
「あー・・・」
「みんなでいつユーリが帰ってくるか待っていたのに帰って来ない所かアパートの中までもぬけの殻じゃないか」
「行ったのか?」
「心配でね」
その時を思い出してかだんだん目が据わってきたフレンの視線から顔を背けながら
「まさか公園のベンチで寝てるなんて言わないよね?」
「さすがにまだ蚊に喰われるだろ」
即行で否定。というか、一体俺を何だと思ってんのか。
「その・・・バイト先。レイヴンの所に間借りさせてもらってんだよ」
少しだけ絶望的な顔をしてそのまま窓越しの空を仰ぎ
「君は自覚ある?」
「何が?」
「過去にどれだけ変質者に追い掛け回されたか」
「どれも未遂だ」
あんまり面白くない事おもいださせるなと口を尖らせて見せればフレンはごめんとすぐに謝罪するも
「ただ、そのレイヴンさんもいつまでも・・・良い人とは限らないだろ?」
一瞬腹は立ったが、それでもフレンの言いたい事は判る。
おっさんのマンションの電話を借りて一応ナイレンに事情を話したものの、そのナイレンから端的に話しを聞かされて心配をしているのだろう。
ナイレンは心配しながらも俺の大丈夫と言う言葉をどこまでも信じてくれる人だから俺も期待に応えたいのだがフレンは
「相変らず心配性だな」
難しそうな顔に眉間に皺がキュッと寄る。
「君が無茶ばかりしてるからだろ?」
すぐに窘める言葉が飛び出すフレンに苦笑すればフレンは良い事思いついたと顔を明るくする。
嫌な予感がすれば
「今度君の所に遊びに言っても良いかな?」
「良いかなって、間借りしてる身分だぜ?早々に客呼ぶのはどうかと」
「会って挨拶する程度だよ。今週末からテスト始まるから一緒にテスト勉強するって理由にして」
言葉はこの時期何処でも交わされるような約束だけど、フレンの視線は何処までも真剣だ。
こう決めたら絶対と言う有言実行のような、まるで使命感でもあるように約束だからねと正面から言うフレンに
「じゃあ、レイヴンが帰ってきてから聞いてみるな。約束はそれからだ」
約束の前にまず家主に確認してからだといえば何処か納得しないまま引き下がればポケットに突っ込んだ携帯がけたたましく騒ぎ立てる。
なんだ?と思うより早くフレンが校内ではマナーモードに!と小言を言えば液晶モニターにはおっさんの名前。
ちょうどいいと言うようにフレンが顔を輝かせるのを見ながら通話に応じる。
「はい」
「あ、青年今ちょっと良い?」
「ああ、まだ授業前だから」
「あのね、今日接待だからおっさん晩御飯いらないわ」
「りょーかい。って、また飲みすぎるなよ?」
「飲むのも仕事のうちよ。じゃあ戸締りとか気をつけてね」
言って忙しいのかあっという間に切れた会話を盗み聞きしたフレンが眉をひそめたような、面白い顔をしていた。
「わりい、忙しいらしくって聞く暇なかった」
言ってメールをポチポチと打つ。
「週末、ダチ、つれて来ても、いいか?っと」
送信すれば一呼吸置く間もなく『おーけー』とだけの短い返答。
と言うか、一緒に画面を覗き込んでいたフレンも呆れる短すぎる返事。
不安そうに俺を見る視線に大丈夫だってと言いたい所だったが何も言い返せないのは過去の履歴を見ても平仮名ばかりの何処かマヌケな文面が並んでいるのが理由だろうか。
無言のまま携帯を片付ければ始業の合図にフレンは心配げな顔を隠さず自分の席に戻って行った。



結局おっさんのささやかな拒否さえ無く週末が来てしまった。
学校帰りのままおっさんのマンションの前にフレンと共に立つ。
フレンは高いマンションをポカンと見上げ、歩きなれた大理石の敷き詰められたロビーを案内してエレベータで最上階のおっさんの家へと案内する。
フロアにぽつんとひとつだけのドアにフレンは唖然としたままの顔をしていたが、開けた室内の、ちゃんと片付ければおっさん一人で暮らすには広すぎる室内にそれこそ茫然としていた。
言葉が出ないと言うのだろうか。
モデルルームみたいに整えられた部屋は慣れるまでが緊張するだろう。
が、俺が初めて入った時は靴脱がなきゃ駄目かと口に出しそうになったほどで別の意味で緊張した。
しかも片付けて綺麗に復活した家具類は例の大将のお下がりらしく、イタリア製の所謂おしゃれな家具ばかりと言う・・・見事無駄にしてたなと言わずには居られない扱いの家具が今ではその洗礼されたヴィジュアルを表していた。
「なんか随分イメージしてたのと違ったかも」
「そりゃ俺が毎日掃除してるからな」
君が掃除ねぇと溜息を零しながら窓から覗く風景を一望する。
この近辺には他に高い建物もなく遠くの景色までがよく見える。
初めて入る家のせいかどこか緊張しているフレンに俺の部屋こっちと案内すれば新しい俺の住みかに安心するかのようにほっと息を零した。
「どうしたんだ?」
制服をクローゼットに片付ければフレンは部屋の中央に置かれた例の発掘したコタツの上に鞄の中から教科書を出した。
「やっぱりユーリの部屋だなって思って」
小さく笑いながら部屋の方隅に置かれたゴミ箱に入れられたお菓子の空き箱に指をさす。
そして室内をぐるりと見回し
「素敵な所じゃないか」
数日前とは180度違う感想に数週間前の惨状を見せたら同じ事が言えるだろうかと一瞬悩み、ましてやこの部屋がゴミ置き場だったなんて口が裂けてもいえない。
言えばきっと絶叫して壁紙張りなおす勢いでバルサン焚いて室内消毒までし出すのだろう。
そんなめんどくさい事は嫌だ。言えるわけがない。
はははとフレンの感想を笑顔で流しながら誤魔化すように教科書を取り出す。
「それにしてもユーリが進学を考えてくれたのはほんと嬉しいよ」
英語のテキストを広げて今回のテストのポイントを教えながら零した一言にまあなと適当に相槌。
「やっぱりレイヴンさんの影響かな?」
そんな一言に何で?と聞けば
「だってユーリってばレイヴンさんの話する時嬉しそうに話すじゃないか」
知らなかったのかい?何て朗らかに言うフレンに思わずフリーズ。
フレンはそんな俺に気づかないと言うように問題を解きながら「だって最近の君はレイヴンさんの話しばかりするしね」何て英文を目で追いながら楽しそうに話す。
自覚ありませんでしたと頭の中で冷や汗を流してしまう。
俺より俺の事を理解してくれているフレンを前にして、今更隠すのもなんだしと「あのなぁ」と俺とフレン以外に誰もいないこの部屋で小声で話しを切り出すのは背徳めいた想いを口にするからだろうか。
妙なタイミングで真面目に、難解な問題を前にしたような顔になった俺にフレンは訝しげに俺を見る。
「すごく真面目な相談なんだけどな、俺どうやらレイヴンの事好きみたいなんだ」
「みたいって、ええ・・・ええ?!」
切り出した話にフレンの顔は赤くなったり何かを想像しては青くなったりと激しく変化し、やがて途方に暮れた表情は困惑気味に固まった。だけど突き放す事無く最後まで話しを聞いてくれて、ユーリと小さく俺の名を呼ぶ。
それから少しだけ考えるように時間をとり
「レイヴンさんは知っているのかい?」
「いえるわけねーだろんな事」
言っていたら住まわせてくれるなんてないだろと付け加えればフレンもうーんと悩む。
「ま、おっさんは飯目的だからな。俺が黙っていれば良いだけの話しだ」
呆れたり理解できない行動はいくつもあるが、一緒に食事をする時の、俺の作る料理を箸で運ぶあの至福な顔にそんな事は総て些細な事に変わる。
好きなった理由は何かと聞かれればそう言う小さな幸せの積み重ねで、衝動めいたものでは無いと言い切れる。
しかも自覚しだしてからは・・・この先はフレンには言えない。ただでさえこんな状態だ。真面目なこいつの事だ。言えば一晩中考え込んで寝不足になるのは目に見えている。
「だけど・・・」
とは言うもののフレンは考え込み、この日はまったく勉強会どころではなくなり、俺はいつもの通りに夕食を作りながらフレンから最近の孤児院の状況を聞いていた。

重苦しい空気の中、すっかり暗くなった窓の外にちらりと時計を見る。
既に日付は変わり、客間に布団を用意してくれたユーリは小さく溜息を零していた。
「おっさんに挨拶したいっつー主張はわかったけど、初めて来た家にいきなりお泊りとはお前も変わったな」
「そりゃ挨拶してどんな人か見るのが最初の目的だからね」
からからと笑うユーリとは別にはっきり言って心苦しいのは確かだ。
帰って来たのを合図に帰ろうと思っていたもののまったく帰ってくる気配さえない。
わりとマメにメールを交換しているのを見てきたのでてっきりもう帰るとかそう言う連絡をするものだと思っていたのだが読みが甘かった。
ナイレンに電話を入れたのはもう数時間前になる。
忙しさからかそれとも生来の人の良さかしらないが迷惑にならないようになと一言のみの言葉に呆気とするも、ユーリの思わぬ告白から時間と共に回復した僕はユーリの勉強を見ながら帰ってくるのを待っていた。
さすがに少し疲れたなと思う時間になった頃玄関の鍵が開く音を聞く。
「ただいま」
「帰って来たぜ」
言えば廊下を歩く足音が近付いてくる。
ユーリは気を使ってか、いや、たぶん待っていたんだろう。
お帰りと何処か嬉しそうな顔をひた隠しながら急ぎ足で玄関へと迎えに行く姿を視線で追いかけながら待つこと数秒。
ユーリをつれて現れたスーツ姿は僕を見て目を丸くしていた。
「噂のフレン君?」
「お邪魔してます」
立ち上がって頭を下げれば
「ひょっとして待っててくれたの?」
ごめんねと勝手に待っていたのは僕の方なのに当のレイヴンさんに凝縮させてしまって慌ててすみませんと僕も謝罪する。
「それよりも先に風呂入ってこれば?この時間だと冷えるだろ」
確かにレイヴンさんと共にやってきた夜の空気は何処か冷たく、フローリングの足元がすっかり冷えてしまった。
「じゃあ悪いけどそうさせてもらうね」
言って手にしていた鞄を持って自室へと下がっていた。
それから暫らくもしない間にスーツを脱いで部屋着に着替えた後ろ姿が風呂場へと向うのを見送ってから
「真面目そうな人だね」
すっかり疲れ切ってもおかしくない時間なのに帰宅した姿はあまりよれた雰囲気もなく、風呂場にすぐ向うと言うのに部屋着にまで着替える細やかさにこう言う人ならちょっとだらしのないユーリには丁度良いだろう。
そんな感想が生まれた。
やがて風呂から出てきて、こんな遅い時間になってもユーリの作った料理を美味しいと綺麗に全部食べる姿にさっきまでのもやもやした気分はいつの間にかなくなり、ただ幸せそうにその食事風景を眺めるユーリに小声で「素敵な人じゃないか」
最初の頃想像していたイメージは既になく、年齢差とか性別とか関係なく純粋に尊敬できそうな人だとユーリの思わぬ巡り逢いを少しだけ羨ましく思った。
ただ、ユーリが何か納得できないと言うそんな表情の意味を僕が知るのは当分後になる。

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