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おっさんはきっとつまらない所にプライドをかけると思うのです。
どんだけけなされようがばかにされようがたいした問題では無いと割り切れる大人だとすてきです。
シュヴァーンはそれに輪をかけてよく出来た大人だと思います。
だけど天敵はどちらの目の前にも分け隔てなく降り立つものです。
それでもきっと逃げないだろうシュヴァーンはやっぱりよく出来た人物だと思います。



ハルルへとエステルを送り届けた帰り道、フレンが一団を率いてザーフィアス周辺で魔物討伐を行なっていた。
幸いザーフィアス周辺はあまり強力な魔物が居なく、慌てて合流すれば程なくして討伐は完了してした。
「団長様直々に討伐とは、大変だな」
「ユーリ」
返り血も浴びる事無く剣を収めたフレンは思わぬ再会に掲げた手にパチンと音を立てて軽く叩く。
「これぐらいならおっさんに任せればいいんじゃないか?」
「うん、最初はそのはずだったんだけど・・・」
ほんのりと頬を染めて胸の前で腕を組む。
「ずーっと書類仕事だったからたまには体を動かしたいんじゃないか?って、代わってもらったんだ」
「あのおっさんは、フレンに甘いんだから」
騎士団長に何かあったらどうするんだよと言えばそれこそ心外だなと言う顔をされた。
「僕がこの辺の魔物に後れを取るとでも思っているのか?」
「まさか。でも魔物より怖い者って居るだろ」
ぐるりと魔物処理をしている騎士団を眺めれば、一部のサボっている者へと視線を投げる。
フレンも当然気がついて眉間を寄せながら小さく溜息を付いた。
「よくある事だよ」
「ま、ああいう奴らを増長させないように気をつけるんだな」
ポンと肩を叩いて先に下町に戻るなと危険はなくなったその場を任せて後にした。

下町の下宿先の女将さんに挨拶をして埃まるけの服を着替えた。
ラピードはハルルに着いたエステルがまた明日にアスピオに行くというからカロルと一緒にハルルで待機しているのを思い出せば広いとは言いがたい部屋だけどやけにガランとしていた。
こんなのはいつもの事なのに、何処か人恋しくてそう言えばと手荷物に入っていた小さな瓶を思い出す。
ハルルの花びらのジャムをエステルにもらったものだ。
エステルは今、小さいながらも明るいキッチンのある家に住んでいる。
窓からはすぐ近くにハルルの木が見え、別の窓からは遠くにザーフィアスを覗く温かな家だ。
ハルルの花びらを子供達と山のように集めて何とか鍋に半分ほど作る事に成功したと笑って話してくれた。
協力してくれた子供達に分けてしまったためもう少ししか残って無いというジャムを小さな小瓶に詰めて、どうぞ食べてくださいと屈託の無い笑顔で差し出されたらもうありがとうと言うしか無い選択だ。
淡い桃色のジャムを光に透かせば思いついたのは一人の人物。
「やっぱ甘いもんっつったらあいつしかいねーよな」
立てかけた剣を手に取り部屋を飛び出した。

南に向って並ぶ窓の一つをコンコンと叩く。
だけどもいくら待っても部屋の中からは反応しないから、窓を外から開き窓枠に手を掛け腕力だけでよじ登る。
当然と言うように部屋はもぬけの殻で、広い机の片隅に書類の山が積まれていた。
ぱらぱらとめくれば既に終わった物。
「おっさんいねーのな」
まだフレンの部屋で書類仕事をしていると思ったら既に終えて何処かへ行ってしまった様子。
仕方がないとまた窓から外へと出てシュヴァーンの個室へと向った。
執務室とプライヴェートの二つからなる隊長部屋はどちらもあまり飾り気がなく、どこまでも仕事重視の作りになっていた。
本棚を覗いてみたら年号が記されたファイルがずらりと並んでいる。
きっとこの手のファイルは一目見ただけで頭痛を起させる縁起のない類の物だと本能が察知し、足は自然にプライヴェートの方へと向く。
ベットと衣装棚、ライトテーブルに手洗い場と言った、前に侵入した小隊長の時のフレンの部屋を彷彿とさせた。
ただ違うのは綺麗に片付いているというよりも
「何もない部屋だな・・・」
思わず衣装棚の中を覗いたり小さな物入れを開けてみたりと探索をしていれば
「物音がすると思えば物取りか青年は?」
「おっさん見っけ」
開けていた小物入れの蓋を閉じればすんと微かに甘い香りが漂う。
おっさんのテリトリーでこの甘そうな匂いはなんだとすんすんと鼻を鳴らしながら首を傾げればああ、と思い出したようにこっちに来いと言う。
綺麗に片付いている机の上にはスコーンだろうか。
薄っすらと昇る湯気はたぶん焼き立てだ。
甘いと感じた匂いはきっとふんだんにバターを使っているからだとこの香りの答えにたどり着いた。
別のプレートの上にはサラダやチーズ、ハムなどが並んでいた。
「ひょっとして今から飯か?」
「いや?少し腹が減ってな」
言って食べ損ねた昼食はもう諦めたと西日の差し込む部屋でポツリと呟く。
確かに諦めたくもなる時間だなと同情を覚えながら、バターの香る匂いに思い出す。
「そういや今日さ、エステルから土産もらってな」
ハルルの花びらのジャムを取り出す。
如何にも甘ったるそうな物体にスコーンを半分に割ってサラダやチーズ、ハムをサンドして頬張るおっさんの顔は明らかに警戒している。
「エステルの手作りらしいんだ。味見するよな?」
しないわけいかないでか。
もぐもぐと沈黙したまま口を動かす男の視線は抵抗するだけ無駄だと覚っているもの。
沈黙を了解と受け取って触れてもまだ温かなスコーンを手で二つに割る。
紅茶のカップに添えられたスプーンを使いジャムを掬う。
ふわっとバターの香るスコーンに垂らしてひと齧り。
口の中で香るハルルの木の香り。
魔物の血で汚されたハルルの木をエステルの力でよみがえったあの瞬間。
エステルがどんな顔をしてジャムを作っていたのか想像がついて、思わず指先に付いたジャムをぺろりと舐めれば、同じようにスコーンを半分に割って垂らしたジャムを食べようかどうしようか半分口を開けているのに悩むシュヴァーン隊長。
「おっさん、シュヴァーンの姿でそれは無いだろ・・・」
「シュヴァーンだろうがレイヴンだろうが私は私だ」
言って覚悟を決めたように齧りついた。
もごもごと口を動かし、紅茶で口の中を洗い流せばはーっと溜息。
「私にはちょっと甘すぎるかな」
言いながらもまだ残っている部分を半分勢いのみで食べていく。
律儀なんだか・・・
苦笑を交えながら必死でノルマのスコーンを食べきったシュヴァーンは口の中の甘さを誤魔化すようにハムを齧る。
「残りは青年が食べるといい」
大人が子供に気にせず食べるようにと言うような気配りだが、所詮は悲しい大人のプライドだ。
新たにスコーンを半分に割ってまたサラダやハムを挟んでジャムはいらないというアピールに苦笑を零しながらも、残り半分ほどになってしまった仄かな桃色に染まったハルルの花びらのジャムをスコーンの上にたっぷりとおとした。

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