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カテゴリー追加してみました。
第一弾はエステル。
非常にエスレイが熱いです!
小説効果ってすごいね。
前まではちょっと良いなと思っていたのが、いつのまにかかなりいいwに変化するのだから。
エステルが今更ながら美味しいです。

Secret story of princess and knight



その日珍しくエステルは困り果てていた。
ザーフィアス復興が順調だと言う事を貴族達に知らしめる為にも舞踏会を開くと言う事になったのだ。
もちろん評議会が威信やら何やらと言葉を繋げ、自分達の地位を鞨鼓たる物にする為なのだろうが、若き皇帝と右左もわからぬ騎士団団長では口から先に生まれてきただろう貴族の相手をするには未熟すぎてまともな駆け引きすら出来る事無く舞踏会が開かれる事になった。
そこまではまあいつもの事なので良いのだが困った事が一つあった。
ヨーデルの隣には有力貴族の娘がエスコートされる事となり、フレンはこの突然の舞踏会の開催に当たり警護に当たることなり、エステリーゼの隣に控えるのはフレンの信頼の厚いソフィアが一人添えられるだけだった。
敵の多いこの城で信頼を置く人物はまだ片手に数える程度しかいなく、この舞踏会自体皇帝と副帝の権力の無さを知らしめる為のような物だ。
折角星喰みの一件で一つになったかと思ったのに僅かな時を経ればすぐ元通りになってしまった現実にエステリーゼは一人溜息を零した。

「溜息を付くと幸せが逃げちゃうよ」

嬢ちゃんと呼ばれた声にはじかれるように顔を開ければ開いた窓のテラスからコンコンと小さなノックの音。
「レイヴン!」
元騎士だった男の突然の予測不能な出現に窓を開けて部屋の中へと招き入れれば、知っているけど紳士な彼はレディのお部屋に簡単に男性を入れると危険だわよと律儀な忠告を受けて笑みを零す。
「レイヴンはそんな方ではありませんから」
賭け値なしの本音を彼にぶつければ、少し恥かしそうに俯いてまいったねと、耳を赤くして呟く言葉にクスクスと笑わずに入られなかった。
「所で、この部屋は一体どうしたの?ひょっとしてお引越し?」
引越しと言う言葉が相応しいくらいに部屋中にものが溢れていた。
物と言うよりいたるところにドレスが散らばっていると言うのが正しいのだろう。
そこでエステルは最初の難問を思い出し少し眉尻を下げて実はと話しを切り出した。
「まあ、評議会の連中がやりそうなことだねぇ」
少なからず評議会と騎士団との軋轢の間に身を置いた事のあるレイヴンは何かを考えるように顎に手を当て考え込んでいる。
「はい。最初ユーリに助けてもらおうとしたのですが・・・」
「奴さん今オルニオンだからねぇ」
あの街はあれからまた発展してようとしていた。
最初に手を貸した街だけに、その後も気になって財源確保に飛びまわっていると言う話しをレイヴンはユニオンでハリーから聞いたばかりだった。
エステルはいつも助けてくれるユーリに甘えてると反省するも、これはいずれヨーデルやフレンにもかかわるとても重要な戦いだった。
騎士団に手助けをしてくれる貴族を味方につければ別の貴族が騎士団に軋轢を加えるのは目に見えているし、かといってヨーデルに組する評議会のうちの一人に助力を請えば、選ばれなかった方はないがしろにされたと評議会が真っ二つに分かれるのは目に見えている。
これでも幼い頃からこういった駆け引きを見て育った為にそれなりに敏感だったと思っていたが、いざ舞台に立つと言う時に自分には味方がいない事に無力さを思い知った。
エステルの希望はささやかなものだ。
評議会とは縁はなく、それでいてそこそこ地位のある貴族、出来ればあまり名前が知れ渡っていないような人物が望ましかった。
それでいて怪しげな噂の立たないような、保護的立場になるような年かさを重ねた人物。
そんな都合の言い人物がいるわけないと判っているのについ考えて力なく苦笑すれば大丈夫?と覗きこまれる瞳。
大丈夫ですといおうと思って顔を上げた所でその血統のよさを表す瞳を見てエステルは息を詰めた。

「レイヴンにお願いがあります」

胸の前で指を組んでその顔を見上げれば、次第に何か予感めいた物を感じてか引き攣っていく顔にエステルは必死の思い出その予感めいた物を頼み込んだ。



そして開かれた舞踏会。
夕闇さえ姿を消した頃になって主賓であるヨーデルが挨拶を述べるのをほんの少し離れた所で聞いていた。
エステルは淡い涼しげなブルーのドレスに身を包み、複雑に結い上げた髪を真珠の髪飾で飾り、季節柄短い手袋で包まれた、意外にも剣だこのある指先を重ねて行儀よく立っていた。
ヨーデルの挨拶が終わり、挨拶に行きましょうと隣の男を見上げる。
髪を後ろに流れるように撫で付けた男は襟足の長い髪を結わえる事無く自由を与え、黒い正装には品を損なわないように幾つかの飾りが時折覗くと言う遊び心が見え隠れしていた。
よどみない仕種でエステリーゼの手を掬い、洗礼された姿勢や動作を生まれた頃より施された貴族の集る中でも目を奪われるようななめらかな佇まいが副帝をエスコートする。
身形と動作に周囲に居た者達は一目でさぞ名のある家柄なのだろうと予測を立てるも、初めて見る顔に戸惑いを隠しきれなかった。
そのまま真っ直ぐ背後にフレンを控えさせるヨーデルの元へと向えば、やはり見たことのない人物がエステリーゼをエスコートしている姿を複雑そうに見る。
まるでダンスもするようななめらかな仕種で男はエステリーゼをヨーデルの所までつれ、エステリーゼがヨーデルに挨拶を述べるほんの僅かな合い間に美しい、よどみのない動作で挨拶の礼を取る。
声をかけるには相応しくない。
そんなふうに一歩控えた動作にヨーデルは不安げにエステリーゼの連れた男を見、そしてフレンは注意を向けるに相応しい相手だと言う様に厳しい視線を向ける。
そんな中でエステリーゼは何処か演劇じみた動作でヨーデルに挨拶を済ませれば、彼は隣に侍る貴族の娘の存在を忘れ何処か必至な顔でエステリーゼに問う。
「良かったらそちらの方をご紹介お願いできませんか?」
様様な人物が耳を傾ける中、エステリーゼはその男を見て笑みを浮かべる。
それが合図のように男は前へと進み、深くお辞儀をしながら丁寧に貴族らしい挨拶する。
「初めましてお目にかかります。私はかつてファリハイドで暮らしていたダミュロン・アトマイスと申しますしがない田舎貴族です」
と朗々と素性と身の上を続けて述べる男のよどみのなさにエステリーゼは舞台の演劇を見るように目を輝かせ、聞いた事もない、ましては既に壊滅している街の出身と言う男にヨーデルは警戒心を強めるだけだったが・・・
「ひょっとして、シュヴァーン隊長・・・ですか?」
驚きに目を見開いているフレンの小さな呟きにヨーデルはその顔を見上げ、さっきまで一分の隙のない男がとたんに顔を歪めた。
「あら、わかっちゃった?」
内緒話と言うように小声でウインク一つと共にあっさりと身元をばらせば、見事騙されたヨーデルは目を瞠り、エステリーゼは零れ落ちる笑い声を必死に隠す為に顔を背けてしまう始末。
傍から見ればとたんに空気の和んだこの輪に混ざりたいと足を向けるも、それを遮る何かがそれ以上誰も近寄らせなかった。
「ばれちゃったね」
「はい、ばれちゃいました」
今だ驚いたままの二人の目の前で失敗した悪戯を隠そうとしない二人は互いに笑みを向け合い、そして挨拶の順番待ちをする貴族に場を譲るべくその場を明け渡して、始まったばかりの舞踏会を後にした。


「ヨーデルの驚いた顔面白かったです」
「だけどフレンちゃんは誤魔化せ切れなかったわね。やっぱり声でばれちゃったのかしら?」
「フレンはシュヴァーンの事を物凄く尊敬してますからね。
 ひょっとしたらラピードの鼻並みにレイヴンの事を見分けられるかもしれませんよ?」
「あら、それはちょっと困ったわね」
と言ってまったく困っても居ない男の顔を見上げエステリーゼはダミュロンとその名前を口にし、はじかれたように向けられた顔に笑みを向ける。
「レイヴンはやっぱりレイヴンでシュヴァーンですが、もう一人のあなたを忘れないで下さいね」
そういって思わず硬くなる顔にエステリーゼはなお笑みを浮かべて言葉を重ねる。
「だって、彼が居なくてはシュヴァーンにもレイヴンにも私は出会う事が出来なかったのです。
 まだ受け入れる事は出来なくても、彼を大切にしてくださいね」
そういって背中を向けて駆け出し、方向的には彼女の部屋へと去って行った後姿が消えてもなお見送りながら、整えた髪に指を突っ込んで掻き毟る。
「ほんと嬢ちゃんには敵わないわ」
小さな呟きにも似た言葉はかつて浮かべていた笑みではなく、心からくすぐったそうに浮かび上がるもので、久々に踵を返して皇族の歩く区域ではなく見知ったシュヴァーン隊の隊舎へと向う。
この姿を見て彼らはどう思うだろうか。
ほんのちょっとの悪戯心に歩足取りは何処までも軽かった。

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