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拍手ありがとうございました!
すっかり忘れてた4月1日のバカでしたが、忘却の彼方に行ってしまう前に思い出せてまだまだ若いな(?)なんて自分を誉めちゃいました<これがアウト

おっさん総受ワンダーランド。
苦手な方は見る前に逃げて!








「ええ~っ!!!」

最初に悲鳴をあげたのは誰か。
大人三人は悲鳴こそ上げなかったもののそれなりの衝撃をあからさまに顔に出していた。
ポカンと言うか、そんな予想外な顔。
予想外は俺が一番予想外で、どうして青年がこんな風に俺を抱きしめて頬を頭に摺り寄せてる・・・そんな扱いの意味に思考が追いつかないし、追いつきたくない。
「そんな、私の聞いた話ではアレクセイに監禁されてるレイヴンの身を案じているフレンの代わりに親友のユーリが騎士団クビ覚悟で助け出そうってしてるって聞いていたのに」
こんな事になってるなんて知りませんでしたとがっくりと項垂れる嬢ちゃんにおっさんは何を突っ込めば良いのだろうか。
「エステリーゼ様、いくらなんでもそんな人道にも劣るような事を私がすると思っておいでか」
監禁の事を指しての抗議だろう。だけど俺の世界のアレクセイはもっとおっかないんだよーなんていう必要もない事を頭の中で考えながら状況の分析をする。
「でもユーリ、あなたとレイヴンさんではちょっと年の差があるんじゃなくて?
 今回は諦めて閣下に譲るべきだと私は思うのよ」
キャナリさん、あなたは何を冷静に仰ってるのですかと問質したいが
「そういやレイヴンいくつだ?」
突然の質問に思わずと言ったように年齢を伝える。
「35歳」
「14歳差か。大した問題じゃないな」
平然と言ってのけたユーリにイエガーはくつくつと笑う。
「そうなると閣下とは7歳差になりますね」
丁度半分、更に問題ないですねと笑えばユーリは果敢にもイエガーに対して睨みつけていた。
「キャナリ隊長!俺の上司なんだから当然応援してくれるよな」
「どういう理屈なのよ」
リタの言うとおりだと俺も頷きたいが、未だにがっしりと頭を押さえ込まれているだけにうなづく事も出来ない。
「ユーリ、悪いわね。まだこれから沢山の出会いの可能性があるあなたとは違って、未だに昔の恋を引き摺って一人身を通してきた閣下にやっと訪れた春なの」
「残念ですが、我々は閣下の応援をする事に決めているんです。なんせ次は無いような年齢なので」
あまりの酷い言いように誰ともなく当の本人まで沈黙。
それに気付かないかキャナリは溜息を零し、イエガーは俺からユーリの手を解いて、何故かアレクセイに押し付けられていた。そして当り前のように俺の腰に腕を回しがしっと抱きしめたじゃない。確保された俺は思わずそばに居たジュディスちゃんに反射的に助けてとしがみ付こうとしたら
「あうっ!!!」
ガツンと三度目の衝撃。
「だからジュディスに馴れ馴れしくするなっつーの」
振り下ろした本でトントンと肩を叩きながら見下ろすリタっちに素直に謝罪。
「ご、ごめんなさい」
「判ればよろしい」
ふんと鼻を鳴らしながら本をベルトに括りつけた。
「大丈夫です?」
「大丈夫に見える?」
少し考え込むような仕種のエステリーゼもそのままリタの背後にかくされてしまう。
どれだけ俺は要注意人物なんだと思うも、考えてみりゃこれが正しい扱いなのだろうかと改めて思う。だが、
「リタ、暴力はどうかと思うぞ」
アレクセイの注意に彼女はもう一度ふんと鼻を鳴らしてそっぽを向いてしまった。
「おじさもごめんなさいね」
ニッコリと反省の色なしの謝罪に気にしないでと言おうとするも、足元に強烈な痛みが発生した。アレクセイの見えない所でリタが俺の足を踏んでいた。
どうやら難しいお年頃らしいと苦笑すれば
「レイヴンもいつまで大人しく抱かれてんだよ」
恐ろしい事にユーリは俺からアレクセイの手を引き剥がそうとするが、そんな事でこの腕が離れるわけもない。
道具時代に首を片手で締め上げられて道具よろしく手荷物同然持ち運ばれた時はついでに殺してくれればいいのにと願ったりした事もあったものだ。案の定両手で剥そうとする手はびくともせず、それ所か引き寄せられて膝の上に座らされる始末。
「あら?」
「まあ!」
「・・・」
娘、その友人に向ってアレクセイは
「新しい家族になる。二人とも仲良くするように」
ユーリに対抗するかのような爆弾宣言にさすがに噴出して膝から転げ落ちるようにして距離をとり、一応まだ人畜無害のキャナリの後ろへと隠れた。
「ちょ、なに言っちゃってんのよっこの人はっ!!」
上擦った声で追い詰められた子猫のようにぶるぶると35のむさ苦しいおっさんが恥も外聞もなく震えて見せるも誰も疑問も持たないらしい。
ただ一言
「可愛らしい方」
クスクスとジュディスが笑い
「だろ?」
と、ユーリが当然と言うように言い切った。
「ちょっと、騎士団ってちゃんと視力検査してる?」
「毎年してますが何か?」
別に何も問題ありませんと言うイエガーに思わず
「早く家に帰りたい」
と言うか、この場から逃げ出したいというのが本音だ。
アレクセイは残り一口になっていたカップを傾けて
「そうだな。いつまでも城を留守にする事は出来ないからな」
そういってキャナリを見れば、彼女は立ち上がり屋敷へと入る。
そこにはさっきの執事と思われる初老の男と幾人も傅く侍女達。
記憶の家でも名門だったよなと改めて彼女の家柄のよさを思い浮かべれば、一人の女性がまだ小さな赤ん坊を抱いていた。
キャナリはそれを受け取り俺達へと披露してくれた。
まだ寝るのが仕事の赤ん坊は腕と腕を渡り歩いても赤ん坊はぐずる事もなく目を瞑っている。
「可愛いです。キャナリにそっくりですね」
嬢ちゃんの喜びに満ちた声に
「ほんと。イエガーにそっくりだったらかわいさ半減だな」
「ユーリ、イエガー隊長でしょ?」
窘めるキャナリにユーリは知らん顔だ。
「それでこの子は男の子?女の子?」
恐る恐ると言うように眠る頬に指を伸ばして触れるリタにキャナリは笑みを浮かべながら
「男の子なの」
周囲でこれだけ話しをしていても一向に目を開けようとしない赤ん坊に
「これでお家安泰って奴だな」
但しイエガーの家の話だが。
「うちには養子がいるから大丈夫なのよ」
こちらの世界はどうやら養子を積極的に迎える慣わしがあるようだ。
これだけ大きな家なのだ。その養子も大変だわねえと同情していれば
「それで名前は決まったの?」
キャナリよりも薄い金の髪を指先で掬うように絡めてその感触を楽しむジュディスにキャナリとイエガーは並んで真剣な顔を並べた。
「ええ、彼の名前を貰う事にしたの」
「不本意ですがね」
彼といわれるもそれを誰に指した名前か見当が付かない。
ただ二人の視線がアレクセイを真っ直ぐに向けられて、どうやら心当たりがあるらしい。
少なからずどこかうろたえたような顔に
「誰の事だよ」
決まっているなら焦らすなよと、アレクセイの変化に気付かなかったユーリはジュディスちゃんと場所を変わってもらって口を半分開いた状態で眠る赤ん坊の口を突付いて遊んでいた。
何をしてもうんともすんとも動かなかった赤ん坊が口を突付かれてもぞもぞと口を動かし始めた様子を見ろと俺の腕を引っ張って一緒になってその赤ん坊を見る。
「私達の昔の友人でな」
「シュヴァーンって言うの。
 10年前の戦争で私を庇って亡くなってしまった人」
何処か悲しげな声の色に息が止まった。
「シュヴァーン・・・シュヴァーンね、何か女みたいな名前だな」
「シュヴァーン、白鳥の事を指した名前ですね」
「あら、ピッタリじゃない」
「まあ、悪くは無いね」
雪のような真っ白の肌。
淡く色づく金の髪。
シュヴァーンを知らない子供達は無邪気にも感想を言い合う中、俺は一人顔を上げられずにいた。
無言のままくるりと踵を返して屋敷を出て言ったアレクセイの気配を追いかけるように俺も屋敷を後にした。

拝啓俺の世界のアレクセイ。
あんたが倫理や常識を無視して生かそうとした俺は、この世界ではどうやらその命をかつて俺が望んだようにしてくれたらしい。
今更別に恨み言は無いが、別の世界でもあの戦争で俺の命は散る物だと思うと因果を覚えるよ。

目の前を歩く同じ姿の背中を盗み見、無性に寂しさが込上げてきて、なんだか俺に生きろと言った彼に合いたくて仕方がなかった。

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