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空に向かって手を上げて
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ファイルを漁っていたら懐かしいものが出てきました。
というか、何でこの話が抜けていたんだろうと目が点になってますの。
そんなわけでフレレイです。
フレレイと言えばビミョーにシリーズっぽくなってるあれです。
もちろん…続きじゃないですよ。
抜けてた1話をねじ込みました…







珍しく仕事が陽の明るいうちに終わった。
夏の長い日照時間のうちなので、これが反対の冬の季節なら既に真っ暗だが明るい物は明るい。
腕を伸ばしてふうと溜息をゆっくりと吐き出す。
明るい窓の外にはまだ鳥も飛びかい、うだるような暑さはいつの間にかなりをひそめ、夜の湿り気を帯びた空気を含む風が開け放たれた窓から忍び込んでいた。
騎士団の服装に夏服も冬服もない。
生地の素材の違いや、中に着込む枚数に差があるとは言え外見上の変化は無い。
ただ、やはり体調を配慮してか、夏の盛りのふた月の間は公の場以外は鎧を外しても良い事になっている。
団長室はいつ来客があるか判らない公の場とされている為この部屋に閉じこもっている間はこの暑さの中でも鎧を外せないで居るが、今は仕事も終わり、一応勤務時間もとっくに終了している。
誰も居ない部屋だが周囲を確認して次々と鎧のパーツを外して行った。
とたんに軽くなる体と金属の鎧の内に篭る熱がなくなり、慣れた事とは言え体感温度が一度下がった気がする。
汗ばむ顔を水で一度洗い、随分と汗を吸っただろう隊服も着替える。
軽く汗を拭い、突然出来た自由時間に何に使おうかと思うも、団長としてあまり城から離れるべきではない。
ならどうするかと剣でも振ろうかと思いつつ、ふと目の前に広がる本棚を見て思い出した。
「そう言えば、演習の資料は何処にあるのだろう・・・」
先日から暇を捻出しては探している物の何処にも見当たらない。
それ所か古い恋文のような物を発見してしまい、かつてのこの部屋の主のものだろうかと少し考えながらも見なかった事にしてまた元通り片付けたのだが、それでも目的の演習の資料は何処にも見当たらなかった。
ひょっとして図書館の方にあるのかと思ってソディアに探してもらうも、司書とエステリーゼ様を巻き込んでの探索は無駄に終わった。
あまりこの方法を選択はしたくなかったがと、机に一筆書き置きをして部屋を後にした。
団長室の部屋の窓から見える中庭を大きく迂回するような贅沢な廊下を歩き、この暑さにも負けじと咲き誇る夏の花々を眺める。
赤や紫と言ったぽつぽつと咲く花は前団長の趣から言えば違うなと違和感を覚えながらも、何処にでも咲くその花を僕は嫌いじゃない。
もう少しして上手く種が取れたら集めて下町の子供達に分けてあげようと決めた。
それからまた両側を切り出した石作りのいかにも城らしい廊下に入り、幾度と角を曲がり目的の部屋の前に立った。
今日はいらっしゃるだろうか。
ノックをすれば間もなく「はい」と落ち着いた声が聞えてきた。
「よろしいでしょうか」
一応断りを入れればドアは内からゆっくりと開いた。
そして僕が誰もつれてなく一人で来た事を確認すれば
「団長ともあろう方が供をつけずに出歩くとは・・・世の中平和になった物ねえ」
シュヴァーン隊長の口調から始まりいつの間にかレイヴンさんの口調へと変わっていく不思議な感覚の中、最後に柔らかく綻んだ口元でどうぞと招き入れてくれた。
「ひょっとして今休憩中?」
レイヴンさんは僕の為に紅茶を入れてくれて、その後何かぶつぶつ言ったあと術の応用かそれとも僕が知らないだけの術で小さな氷の固まりを盥一杯に作り出していた。
あまり見た事のない技に思わず驚けば、あっさりと術の応用と内緒だぞと笑って告白した。その山のような氷の礫の中から一掬いを取り出し紅茶の中に落として僕の前に差し出してくれた。
「どうぞ」
「頂きます」
夜を運んでくれる風の中とは言え昼間の熱を含んだ地面からの放射熱は暑いというには十分。
仮令、城の中が石造りであまり暑くならないとは言えども、世の中は基本は暑いのだ。
開け放たれた窓から忍び込む熱の中、心地良いくらいに冷えた紅茶を半分ほど飲み
「少しお聞きしたい事がありまして」
切り出せばレイヴンさんはほら来たと言う様に少しだけ渋面を作った。
「今度は何の嫌がらせを受けたの?」
騎士団長になりたての頃のみんなに試された期間の印象があってか、レイヴンさんの部屋に訪れる度にまずはこの話を持ち出される。
「いえ、今日はそういった事ではなく、演習の資料を探しているのですが何処にあるかご存じないかと思いまして」
言ってから、ひょっとして資料を隠されているのでは無いかと余計な心配をさせてしまったのでは無いかとあわてて口を紡ぐもレイヴンさんはああと口に出して僕を手招きして私室の方へと招きいれてくれた。
入った記憶のない私室は何処か閑散としていた。
執務室同様壁一面に本棚が隙間なく並んでいるが、どれもファイリングした物ばかりで背表紙のタイトルは味気ない。
だけど、レイヴンさんにはそれで十分らしく、指でタイトルをなぞりながら、この本棚が演習に関する資料がある事を教えてくれた。
本棚を見上げて呆然とする。
「これ全部ですか?」
床から天井までぎっしりと並べられた背表紙には年号から順番に並んでいる。
一番古いものだろう天井の部分からの物を背伸びして取りだし、開いてみれば黄ばんでしわくちゃになった紙が丁寧に伸ばされた痕があった。
「やっぱり身長があると最上段まで手が届くのねえ」
何処か羨ましげな口調でサイドテーブルを窓際に設置し、飲みかけの紅茶を運んでくれた。
その間手伝おうかと思うも書類なのに何故か血痕だろうか、そんな滲みを見つけて眉間が寄ってしまう。
日付を見れば約10年ほど前。人魔戦争後の物だった。
隣の本棚は別の資料となっている為におや?と違和感を覚えて
「すみません。これ以前の物は?」
ぱらぱらと順番を間違えているのだろうかと捲るも日付は順番にきちんと並べられている。
「それ以前の物になると・・・戦争の時のごたごたで紛失してるわ。
 それとも10年以上前だから処分されているかも?
 詳しく知りたかったらドレイク顧問官に直接尋ねると朝まで語ってくれるぞ」
「それはさすがに・・・」
遠慮したいと断わって
「済みませんが少し見てもよろしいでしょうか?」
「なんならここの資料持ってっても良いわよ」
シュヴァーン隊長の姿でレイヴンさんみたいにウインクされて妙に照れてしまい資料で覆い隠すも
「そうしたいのも山々ですが・・・」
「たしかフレン君の所も置場がないのよねえ」
団長になったとは言え身に付いた下町根性は物を粗末にする事は出来ない。
アレクセイの私物だろ本を処分しても良いとは言われたものの、買えば随分と値の張る物だろうし、書物としても価値のあるものだけにぞんざいな扱いは出来ない。
「図書室に寄贈するって言うのも在りだけど?」
レイヴンさんの勧めが一番良いのだろうが、私物の少ない僕があの貴族の部屋と言っても間違いない部屋でそういった類を一掃すると寒々しい部屋になりすぎて・・・
「まあ、あの部屋はああ言った類のものが似合うから仕方がないわね」
同じ事を考えたのだろうかレイヴンさんもほかにどうしようもないあの部屋に一緒に頭を痛めてくれた。
ぱらぱらと捲りながら目的の演習の記録では無い事から、僕が入隊する以前の辺りに目星をつけて歴史を辿る事にした。
この頃になると表紙の裏側にいつ、何処で、どんな演習を、誰がやったか、と言った目次が付くようになっていた。
几帳面な性格を現すような丁寧な文字は良く見知った物。
「これはシュヴァーン隊長がまとめたのですか?」
一番古い記録は全部に皺がよっていたものの、この辺りまで来るとそのような痕は何処にもない。
「ん?ああ」
曖昧な返事をして苦笑。
「アレクセイはリタっちと同じ天才だったからね」
窓から見える遠い空を見上げながら
「あの人は大概の事を覚えてるから、こんな記録なんて必要なかったのよ」
溜息混じりに言えば、その後を継いだ事になる僕はその言葉に驚きのまま耳を傾ける。
確かにあの権謀術数や判断力にも長けたカリスマ性は心酔するに相応しいものだったが、転がり込んできたこの地位についてしまった身としては今更ながら常に前任者と比べられる恐ろしい事だと思い知らされた。
そんな僕を見ないように背を向けているレイヴンさんは
「だけど、アレクセイにはそれで良くっても後々、今みたいに必要となるでしょ?
 結局おっさんがゴミ箱から拾い上げて片付ける役になったんだけどね」
はーっと長い溜息を吐き出し軽く首を振る。
「まあ、やっと役に立つ時がきたって所ね」
ニカッといたずらっ子が浮かべるような笑みを向けられれば思わず僕にも笑みが浮ぶ。
「ありがとうございます」
「じゃ、おっさんあっちで仕事してるから、この部屋好きに使って良いわよ」
「すみません」
「悪いけど椅子は無いからベット使っちゃってもかまわないわよ」
「はい。使わせていただきます」
そのままドアを開けた状態で部屋を出て行ってしまった。
ベットの端に腰を下ろせばドアに半分隠れたようなレイヴンさんの姿が見えた。
背筋をピンと伸ばし、やや俯き加減で書類を書く姿を眺めてから資料を捲る。
目的の物はなかなか見つからなかったが、入隊当時良くわからず参加していた演習がなんだったのか改めて知る機会に恵まれて当時の思い出をよみがえらせながらページをめくる。
事務的な事実戦的な事が半分ずつ。読みやすい内容になるほどと目的以外のものもにも目を通してしまう。
夕闇を迎える心地良い風が頬をなでて行く中、遠くでシュヴァーン隊長が僕を呼ぶ声を聞いたような気がした。



コンコンとノックの音を聞く。
「はい」
「こちらに団長がいらっしゃるとお伺いしたのですが」
「どうぞ」
ドアは内側から開けた。
テーブルライトだけが付いた暗い部屋の中、部屋の主は柔らかな視線と外に出ようという指先の合図に廊下の照明の下に出た。
「今日はどうしたんだいソディアちゃん?」
騎士同士ちゃん付けで呼び合う事は無い。
青年曰く猫目の彼女は大きな瞳をそれこそ猫のようにパッチリと開き勤務中だと咳払いを一つ。
「フレン団長にサインを頂きたくて」
「それは団長でなければいけないものかな?」
聞けば、もそもそとしながら
「いえ、そういうわけでは無いのですが」
フレン君に会いたかったのねと内心苦笑。
一人の女の子なら温かい目で応援してあげるけど勤務中には駄目だろ?と相も変らずフレン君が中心の女の子を見下ろしながら書類を受け取る。
一通り目を通せば騎馬隊を使った演習の許可を求める物。
「私のサインでも大丈夫だな」
と言ったものの書く物がない。
仕方がなく少しだけ隙間を開けておいた扉を開き、彼女を招きいれれば薄暗い部屋に躊躇った後、勇気を振り絞ったかのように入ってきた。
明るいとはいえないテーブルライトを頼りにペンでサインを書き込めば、机越しに立っていた彼女は私室の方を驚いたように眺めていた。
男の部屋に結婚前の歳若い女の子を入れるわけにも行かず、開け放たれたままのドアの向うはただそこから見るだけで。
床の上にも並べられた膨大な資料と、ベットに横たわり無防備にも晒された寝顔。
上下する胸は規則正しく、幾度か寝返りを打ったように短く切りそろえられた髪はそれなりに乱れていた。
静かにしていればすーすーと言った寝息さえ届いてきそうな、そんな安らかな寝顔にソディアを引き連れてもう一度廊下に出る。
「はい書類。これで十分だから悪いけど書類渡しておいてね」
「ありがとうございました。
 所で、あの、今日はお留守と窺ったのですが・・・」
そうシュヴァーン隊の方から聞いたと歯切れ悪そうに言う呟きにああと思い出す。
確かに今はダングレストから戻ってくるかまだ戻ってきていないかの時期だが、急用で幸福の市場のカフマンがヨーデル陛下に至急の面会を申し込む為の間に入って欲しいとユニオンに名指しで依頼が来た。
シュヴァーンの事はヨーデル陛下はもちろん一部の評議会の耳にも入っている事で、さぞかし緊迫した空気になるものだろうと身震いしたものの、考えてみればしがないただの仲介役だ。
カフマンの手腕を得と拝見と、女性ながら五大ギルドに上り詰めたその言葉巧みな話術を堪能していた。
その後彼女は朝一の船でトリムに向かうというのだから、ダングレストに戻るために便乗させてもらう。
その僅かな時間に騎士団に戻って仕事を片付けているのだが、さすがに半日の滞在に隊舎の方へは顔を出しにくいので部屋に篭っていたと一通りの事を説明した。
「ここを出立する頃には団長を起すから、どうやら疲れているようだし今日は休ませてあげなさい」
「・・・そうですね」
これと言った仕事は来ていないですしとソディアは小さな笑みを作り、ではよろしくお願いしますと静かな足音で去って行った。
彼女が角を曲がり、姿が見えなくなるまで見送ってまた静かに部屋へと戻る。
留守の間に溜まった書類をテーブルライトの下で処理しながらふとペンを止める。
風通しが良いようにと開け放たれた扉の向うにはまだ幼さの残る顔が静かに寝息を落としていた。
開け放たれた窓はこの暑い季節なら問題なかろうとそのままにしてある。
同じように開け放った背後の窓から心地良い風が忍び込み、今宵のザーフィアスは久振りに寝やすいだろうともう一度、幼さを残しながらも凛とした青年になりつつある若者の顔を見る。
騎士団の運命を握る彼のこんなにも無防備な寝顔を見せられてゆったりと自然な笑みを浮かべながら目を閉じる。
せめてこの死にぞこないが騎士団に居る間ぐらいは安らかな顔で寝れますように・・・なんて、気分はまるで父親だなと苦笑紛れに新たな書類を一つ手繰り寄せた。

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