忍者ブログ
カレンダー
04 2024/05 06
S M T W T F S
1 2 3 4
5 6 7 8 9 10 11
12 13 14 15 16 17 18
19 20 21 22 23 24 25
26 27 28 29 30 31
アクセス解析
忍者ブログ [PR]
http://altoxxx.blog.shinobi.jp/
空に向かって手を上げて
×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。

駄目なおっさんと不幸な青年の話の花韻もそろそろ終盤です。
もう少しお付き合いください。





寒さの真っただ中、封筒を持ってユーリはやってきた。
彼は書類の束をすべて机の上にぶちまけてにっこにっこと笑っている。
その中から一通のどこか形式ばった紙を俺の目の前に広げ
「入学通知書!」
「おお?!青年やったじゃない!!」
「俺だってやるときゃやるのさ!」
自慢げに見せる入学通知書をよそに俺は書類の束の中から目当ての物を発掘する。
「あ…」
「見つけたわ。さっそく入金しに行かなくちゃね」
入学通知書とともにやってきたのはどのご家庭でも頭を悩ます入学金、学費、諸経費もろもろ一式の振込用紙。
私学とはいえがめついわねぇ…と、推薦枠とはいえ特待生ではないユーリは全額支払いなのだ。
何処か青い顔をしているユーリに出かける準備を促して郵便局へと出かける。
「ほら、行くわよ」
約束とはいえ改めてみると孤児の彼にはびっくりするような金額。
本当に俺が払うのかというように伺っている顔だが
「そんな顔しないの。何回も話し合ったけどこれはもう決定事項なのよ」
二人そろってマンションを出て郵便局へと向かう。
「だけどさ、やっぱり赤の他人に使うには大金すぎるだろ…」
「だから、ユーリはおっさんの世話をしながら大学で勉強してさらに卒業までアルバイトまでするの」
「おっさんの世話は大したことないけど…」
「貯めてたお金、フレン君のアパートの敷金に使っちゃったんでしょ?」
「だってよ…」
「責めてるわけじゃないの。フレン君もおっさんのトコ来ればいいって誘ってみたのよ。だけど、孤児院にいて、特待生にもなって裕福じゃなかったけどお金に苦労したことないから頑張ってみるっていったのは彼。
 フレン君もだけどユーリももっと甘えていい年頃なんだから。甘えてもいい相手にはもっと甘えるべきよ」
言うも白皙の面の友はそれはお前の事だとどこか地の這う声で言うのが聞こえるような気がしたがあえて無視をする。
そんな事を話しているうちに郵便局についてさっさと支払いを済ませてしまう。
「さあ、これで晴れて大学生よ」
書類にも使う領収書を大切に片づけてコンビニ経由で家へと戻る。
そして入学手続きに大切な書類を書き込みながら
「青年も知ってると思うけどおっさんがお金の使い方を知らない人間なのはわかってるでしょ?」
「まぁ、ごみの処分の仕方も知らないくらいだからな」
常に綺麗に整えられたマンションには時折人がやってくるようにもなった。
主にあの大飯ぐらいが。
餌付けされてんじゃねぇなんて思うも餌付けしたのはお前だろと真顔で言われてはハイそうですと言わずにはいられない。
それどころか、もうユーリ(の作るご飯)なしでの生活が想像つかないと頭を抱えたくもなるが、ありがたい事に俺達の利害(?)は一致してくれた。
「で、授業の専攻とかはどうするの?」
「まぁ、一年目は説明会の時の内容を鵜呑みにして必須単位を中心に取りに行くってフレンと作戦建てたんだけど」
「無難な所ね」
大学で講師のアルバイトをしているレイヴンはさりげなく聞き流していたが
「おっさんの講義を受けようかって企んでるんだけど」
ニヒヒと笑っている顔に向かって
「おっさん大学のバイトは今年度限りでやめる事にしたのよ」
言ってなかったっけ?なんて小首をかしげる姿に
「初耳だぞ」
思わず睨んで言い返してしまった。
「あれー?」
視線を反らせながら逃げ出そうとするおっさんの手を摑まえ
「俺の大学ライフの楽しみ奪うんじゃねえっつーの」
「ご、ごめんなさい」
思わずと言うように謝られてしまったが
「じゃあ、仕事一筋になるのか?」
「あー、バイトはお仕舞だけど大学には残るわよ」
「どういう意味だ?」
さっぱり意味が分からんと小首かしげれば
「大学とうちの会社って経営母体が一緒なのよ。
 っていうか、大学経営の合間に会社を経営しているのよあの人…」
「そいつバカだろ」
「否定する気はないけど、まぁ、鶴の一言じゃないけど大学に研究室を開設するからそこで共同研究して学会に行って来いって辞令が来たの」
「いくらなんでもそれは身勝手すぎないか?」
「まぁ、おっさんこれでも教授の肩書持ってるからねぇ」
「なのにバイト?」
「仕事の重点の場所の違いよね、要は」
そんな事もあるんだなんて呆れているも
「じゃあ、今までとは違うけど講義取れるわけだ」
「必須じゃないけどね。募集は改めて新規で取るわよ」
「よし。毎年とり続けるぞ」
「おや、おっさんの弟子になりたいの?」
「それも楽しそうだな」
「ユーリ教授。なんか賢そうね」
「あのな。それよりレイヴン教授か。なんかいいな」
予行練習じゃないけど呼んでみた名前になんか無性に照れてしまう。
身近な相手の呼び方に一つ変化しただけなのに妙な恥ずかしさを覚えてしまうも、それは向こうもそうであったらしく顔を真っ赤にしていた。


そして始まった大学生活。
オリエンテーションも始まりフレンと共にクラス担当と共に授業の予定を組んでいく。
ほぼ同じ内容の俺とフレンに苦笑しつつもそこは忙しいクラス担当。
希望通りほぼ叶ったのだが
「ところで専攻は物理だったな」
担任がパソコン片手にぱらぱらとファイルを捲って行くのを二人でながめていれば指をを止めた先でくるりとファイルを俺達に見やすいように向けてくれた。
「今年から新規に開設された所だがどうだ?」
そこに書かれたのは
「シュヴァーン・オルトレイン物理専攻ゼミ」
フレンが驚いたかのように口に出した。
「ああ、有名な物理学者だ。人気はあるんだがちょっと問題のある先生でね。
 定員はまだ余っているようだし行ってみないか?」
「まじか?」
思わずと言うように名前をたどるフレンの指先に担当を無視して確認を取るも
「オルトレイン教授を知っているのかい?」
聞く担当に
「灰味がかった髪の、年は…40より前になるか?」
「そうだが、なんだ。知り合いなのか」
随分昔に一度と言えばパソコンに俺達の名前を打ち込み、俺達の用紙に専攻ゼミの名前を記入していく。
「確か今日は準備の為に見えている。
 物理学棟の3階だ。今日はこれで終わりだから今なら時間も空いてるだろうし、知り合いなら先に挨拶してきなさい」
その言葉と共に席を立つ。
ありがとうございましたと言葉を残して駆け足で物理学棟へと向かう。
途中何事かと振り向く顔に驚かれるも、走る事5分。
様様な施設の治まる実験棟も兼ねている物理学棟に足を踏み入れる。
まだ授業は始まってないようだが、実験の為に居るいわゆる先輩達がどこか物珍しそうに俺達を眺めていた。
それから3階に掛け上がればオルトレインと書かれたプレートが掛る開いていたドアから室内を覗き込む。
スーツの上着を脱いで白いシャツを着た後姿がホワイトボードに膨大な数字を書き込んでいた。
記憶の通りのあまり高くない身長で、少し長めの灰味がかった髪が首をかしげる動作と共にさらりと揺れていた。
それからパソコンで何やら打ち込み始めたかと思えばホワイトボードへとまたよくわからない数字の羅列を書き込みはじめる。
あまりに真剣にボードとパソコンの打ち込みをしていた為に声をかけようかどうしようかと思うも廊下の奥からおーいと賑やかな声が聞こえた。
その声に聞き覚えがあり振り向けば
「ナイレン」
珍しくスーツを着ていた。
「フレンにユーリ、無事大学生やってるな」
安心したかのように俺達の全身を眺めているも
「なんであんたがこんな所に?」
「なんでってどんな挨拶だ?まぁ、俺も挨拶だけどよ」
言いながらドアをドンドンとノックにしては乱暴な音を立てた。
おいおい、なんて思っていればホワイトボードの数字に夢中になっていた男は現実に引き戻されたと言うようにどこかぎこちない動作で首をこちらへと向けた。
「ようシュヴァーン。復帰おめでとう」
言いながら差し入れのつもりかペットボトルとコンビニの弁当の入る袋を掲げ上げていた。
「ナイレン・・・と、ユーリにフレン?」
振り向いた顔とその声に俺達は息を呑む。
そんな俺達の驚きとは別にナイレンはホワイトボードへと視線を向けて
「相変わらず略しすぎな計算式だな」
くつくつと笑う相手に
「大将にスパコン買ってって言ったんだけど却下されたから」
地道に計算していると言いながらもホワイトボードを消していく。
「で、ユーリとフレンは?」
何でここにいる?と言う視線に
「って言うか、おっさん・・・」
「レイヴンさんですよね?」
思わずと言うように聞けば
「それ以外どう見えるんだ?」
そう答える内容に何故か隣にいたナイレンが片手で目を覆って天井を見上げる。
「あのな、シュヴァーン。お前ユーリ達にちゃんと名前名乗ってないだろ」
「何を?って、…あー…どうだっけ?」
首をかしげたおっさんにナイレンは俺とフレンの肩に手をまわして
「レイヴンは、まぁ、あれだ。ニックネームと言うかペンネームみたいなもんで、本名がシュヴァーン・オルトレインだ」
気まずそうにじりじりと距離を取り始めたおっさんにではなく俺とフレンにナイレンはにっこりと、でも意味ありげな極上の笑みを向けて
「お前達が憧れて物理目指し恋焦がれた愛しのシュヴァーン准教授改め教授だ」
「うわあああ!!!」
「ナイレンなに勝手に暴露してんだよ!!!」
フレンも俺も思わずと言うように耳まで真っ赤に染め上げてナイレンの言葉を隠すように二人して飛びかかればおっさんは目を点にしていた。
「あ、あのな、今のは聞かなかった事に…」
憧れただの目指しただの、確かにその言葉の通りなのだが、こんなにも近い所に居てなぜ気づかなかったのか間抜けすぎてレイヴン=シュヴァーンの事も尋ねられないままで。
「あー・・・で、二人は」
何でいるのだと言うような顔を向けられて照れながらも本来の目的を口にする。
「担当がここにいるから先に挨拶してくるようにって」
「まさかおっさんがいるとは思わなかったけどな」
「そりゃーまた丁寧な担当で」
言いながらも片手でパソコンで何か入力していた。
その動作にナイレンが顔を顰めて
「それよりもお前ちゃんと飯食ってるか?」
コンビニ弁当を広げながら
「ちゃんとユーリにご飯食べさせて貰ってる」
言うも手どころか視線までパソコンから離れなくなってしまっていた。
「昼は?」
「もうそんな時間?」
「すでにおやつの時間が迫ってるぞ?」
「あー、弁当…」
思い出したかのように俺が朝持たせた弁当の入ったカバンをちらりと見るもホワイトボードへと視線を移し何やら何かの暗号のような記号だらけの数式を書き出し、どんな展開式かわからないけど何かを考え込みながら書き込んで答えを出した数字にナイレンは首をかしげる。
「ところでお前何やってるんだ?」
「大将が預かってた論文の検証をしてるんだが…」
「その様子だとかなりでっち上げだったようだな」
「計算どころか公式から間違いっぱなしなんだ。数学の下僕になってから出直せって話」
「で、丁寧に訂正をしてると?」
「この内容を私が論文を作るとこうなると大将に突きつける事にした。リハビリにするにはちょうどいい」
「それを持って大将は検証をお願いした奴をいじめるわけか。なるほど」
物騒な会話をしながら計算をし、パソコン入力していく普段が食欲とだめな人間の象徴からは想像もつかないようなかっこいい所を眺めているも
「だが、お前は肝心なところが全くダメなままだな」
何が?と聞き返す前にナイレンは強制的にパソコンを取り上げ、おっさんを離れた机と椅子に座らせる。
それから鞄の中から取り出した弁当箱とコンビニ弁当をならべて
「まずは飯を食え」
「今いいとこなのに…」
「相変わらず数学の下僕だな」
「愛されてて羨ましいでしょ」
「確かに」
と言ってユーリとナイレンは俺を呼ぶ。
「お前をこいつのえさエサ係にした覚えはないけどな、こうなるとこいつは周囲の事に目が向かなくなる。
 どうなるかお前が一番知っているだろう?」
どこか侮蔑するような視線を隠しもせずおっさんに向けるあたりあの汚部屋の事を言ってるらしい。
「まぁ、苦戦したからな」
「お前にはかわいそうだと思うが今度はこいつの飼育係としてしっかりと見張りを頼むぞ」
「何で見張り?」
反射的に聞き返す。
「こうなるとこいつは寝る事も食事もすることを忘れるから無理やりでも何か口の中に突っ込め。仕事を取り上げてベットに押し倒せ」
「ナイレン、さすがにそれは語弊を生むぞ」
おっさんの突っ込みにナイレンはきょとんとした後笑い飛ばすも
「っていうか、おっさんが飯を食い逃す方が想像つかねぇ」
がっついて食べる姿しか見てこなかっただけに食い逃すなんて光景が考えられない。
そんな俺を見てナイレンは一瞬魔の抜けた顔をしてから豪快に笑う。
「ま、それもいい事だ!」
バンバンとおっさんの背中を派手に叩きながら
「まぁ、シュヴァーン・オルトレインの復帰おめでとう」
言って帰って行く後姿には何故かフレンの手を握ったまま去って行ってしまった。
遠くへと去っていくフレンの悲鳴を聞きながらも見送れば俺はおっさんへと向き直る。
「まぁ、今更説明してくれっては言わないけどな」
俺が持たせた弁当を広げて食事を始める姿を眺めながら
「とりあえず今晩何食べたい?」
「そうね。ロールキャベツなんてどう?春キャベツがおいしい季節だし」
「りょーかい。他には?」
「生姜焼きがいいな」
「肉ばっかりだな?」
「なんかお腹すいてきたから」
「今頃昼飯くってりゃ腹は減ってただろ」
しょうがないおっさんだと笑ってしまえば
「で、ユーリはおっさんが正直に名前とか、ナイレンの知り合いとか言わなかった事について怒ってる?」
途端に来た真面目な質問に一瞬考え込んでしまうも
「そう言う事含めて本当にどうしようもないおっさんだって改めて思い知ったさ」
こんな事今さらだろ?と聞き返すもおっさんは何処か視線を彷徨わせたままだからはっきりと言う。
「だまされたって気持ちはあるけど、別にそれで損はしてねーし。むしろ得?
 あんたと知り合って今までの嫌な事が帳消しにできるくらい今俺幸せだから…」
そこまで言って妙に照れくさくなってしまい、顔を反らして
「これからも変わらずよろしくお願いします」
改めて仕切り直しだと言うように握手を求めればおっさんは俺と手を交互に眺める。
そして久しぶりにぶわっと涙を流す姿を見て早速後悔。
「しぇいねぇんありがとおおお!!!」
ダダ漏れの涙腺のまま俺の胸へと飛び込んできた。
いつの日かの再現。
うわー!!!と思うも捕まってしまえば文句も言えず、勢いのまま床に倒れ込んでしまう。
イタタと呻くも俺に乗っかる顔は涙で汚いながらも満面の笑顔に笑顔で返して
「まったく、本当にしょうがないおっさんだよ」
何故か俺の上に乗っかりながら次々に食べたいものをならべて行くのを記憶の片隅にメモをしながら今この幸せをかみしめていた。

拍手[11回]

PR
"椎名" WROTE ALL ARTICLES.
PRODUCED BY SHINOBI.JP @ SAMURAI FACTORY INC.