忍者ブログ
カレンダー
04 2024/05 06
S M T W T F S
1 2 3 4
5 6 7 8 9 10 11
12 13 14 15 16 17 18
19 20 21 22 23 24 25
26 27 28 29 30 31
アクセス解析
忍者ブログ [PR]
http://altoxxx.blog.shinobi.jp/
空に向かって手を上げて
×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。

駄目なおっさんに拍手ありがとうございます!
だけど今回は少し出来たおっさんです。
おっさんやれば出来る子よ。
何もやってないけどね・・・



花韻 04



約束の一ヶ月をもうすぐ終えようとしていた。
次のバイトは当然まだ決まっていない。
レイヴンが気をつかってくれてか予定よりも総額にすれば大幅に上がっていた給料に感謝しつつ、初めて訪れた頃の部屋とは大違いに綺麗になった家に満足感を覚えるも、これでお役御免となり少し寂しい気もしていた。
少なくなった洗濯物を取り込みながら、おっさんのシャツにアイロンをかけるのも後数回で終わるのかなんてセンチメンタルな気持ちにもなる。
ことことと鍋の蓋を揺らす蒸気にすっかり使い慣れてしまったキッチンに入り、火を弱くしながら味見をする。
すっかりレイヴンの好みの味を覚えて夜遅く帰ってくるレイヴンの負担にならないような献立を考えている自分に苦笑しつつ、里芋の煮物の味を確認して火から鍋を下ろした。
片付けた洗濯物を俺が決めた場所に片付け、時間までもうすぐ始まるテスト勉強でもしていようと教科書を開き、いつの間にか眠っていた。

ゴトゴトと物音に気付き、意識が浮上する。
肩に何か柔らかい物がかけられそれが毛布だと気がついた。
「んあ・・・」
「あら起こしちゃった?」
まだスーツ姿のレイヴンが夜気を纏った匂いに時計を見る。
既に1時になろうかと言う時間に慌てて体を起こせば
「今日は遅いから泊まって行きなさい」
「あー・・・お帰り」
「はいただいま」
バツが悪く思わず視線をそらせてしまえば、レイヴンは机の上の教科書を拾う。
「うわあ、懐かしいわねぇ」
ぱらぱらと捲る教科書を覗く顔は見えないが、
「飯温めるな」
「ありがとう」
教科書片手に椅子に座る。
何が面白いのかおもむろに読み始めた教科書に
「物理を選ぶなんて珍しいわね」
「ん?そうか」
「青年だったら文系?体育会系って感じがするけど」
「実はそれのせいで立派な理数系だったりします」
意外と笑うレイヴンに食事を出せば、教科書見ながら食事を始める。
「今の高校生の物理ってこんな事やってるのね」
ホコホコと温まる里芋に息を吹きつけながら一齧りしする。
そしてノートをちらりと見て開きっぱなしのテキストを見てあら?と疑問を投げてきた。
自分の分のお茶を入れて向かいになるように座ってなんだといえば
「青年、物理は出来るのね?」
そう言えばとバス停で見られたプリントの悲惨さを思い出し
「まあな。物理だけは良いんだ」
「あはは、自慢にならないわよそれ」
言ってずずずっと味噌汁を啜り、蒸し鶏にかけた梅肉ソースをたっぷりと絡めて口へと運ぶ。
「英語とか、これから就職を考えると必須よ」
「いいんだよ。将来よりも物理の方が大事なんだ」
どうしてと小首傾げるおっさんに苦笑を零し
「何、ちょっとした思い出って奴だ。子供ん時に出会った人が物理の先生でな、子供心に憧れて目標にしてたんだよ」
「へえ、立派な先生がいたものね」
うんうんとあまり感情を絡めず頷きながら炊き込みご飯を食べて美味しいと顔を綻ばせる。
嬉しそうに食べる目の前のおっさんを眺めながめていれば「所で」と何処か慎重な声色で話しを変えた。
妙に真面目腐った雰囲気に居ずまいを正せば
「余計なお世話かもしれないけど、青年やっぱり大学行ったら?」
「だから、金がねえんだよ」
何故か突如バイトを始めた日にしていた会話がぶりかえった。
「お金ならおっさん出してあげるから、ほんの少しだけでもいいから将来をもうちょっと考えよ?」
「考えた結果だ」
確かにフレンじゃないけど未だに未練がのこって物理だけは真面目に勉強していた。
大学にも未練がないわけじゃない。
ただ、どう考えても返す事もできない金額を借りて大学へ行くのは無理な話しだ。寧ろ高校だって奨学金範囲外はナイレンに頼っている。
生活だってバイトで何とかだ。
その上でレイヴンに大学行かせてもらうって言うのはずうずうしいにも程がある。
「それに、上手い話には気をつけろって言うだろ?」
おっさん以外からこんないい話しは無いだろうと残念な気持ちを飲み干し、ばれないように強気に口の端を吊り上げて笑みを作れば、ふうと溜息を零したレイヴンはいつの間に食べ終えたのか箸を置き
「もちろん俺にだって下心がある」
ごちそうさまでしたと合わせた手を膝に置き、ほんの少しだけ前のめりな姿勢に少し緊張していれば
「学費払う代わりにおっさんのご飯作って」
「飯目当てかよ」
「悪い?青年は自覚ないかもしれないけど、青年の作るご飯ってほんと美味しいのよ」
手放しで賞賛するその言葉にまさかあんたごのみの味付けにしてあるとは恥かしくって言えない。
「そいつはありがとうな」
賛辞だけはありがたく受け取りこれ以上話が続かないように茶碗を重ねてキッチンへと運び洗い出す。
おっさんは何処かいらだたち気に指先で机を叩きながら
「青年の気持ちがいつ変わってもいい様におっさん準備しておくからね」
「大学行く行かない前に俺を入れてくれる大学があるかそっちの方が大問題だ」
「あー、今から受験勉強してもあれは・・・難しいわね」
あのプリントは確かに酷かったが、よくっても毛が生えた程度。
フレンみたいにもうちょっと真面目に勉強していたら素直に飛びついたかもしれないと苦笑し
「じゃあ、悪いが今夜泊めさせてもらうな」
言って物が無くなった和室の押入れから客用に一応用意してあった5年前の新品の布団を取り出す。
先日発見した折に3日連続天日干ししたのちに掃除機までかけると言う徹底振りの布団を敷いて、何処かまだふかふかとする布団に包まれて目を閉じれば
「おやすみ、ユーリ」
何処か落胆したようなレイヴンの声に何かがぎゅっとわし掴みされた気分になった。


それから何処か気まずいままレイヴンの家でのアルバイトは終わり、いつでも遊びにおいでとバス一区間の距離の相手に目から鼻から号泣をしてくれるのを少しだけ困惑するも、それ以上に嬉しく思うのはおっさんの賭け値なしの本音だからだろうか。
いつの間にか増えた荷物をおっさんが手にしマンションの下まで見送りに来てくれた。
未だに涙ぐむおっさんをあやしながらマンションのしたから近くのコンビにまでと見送りの伸びる距離に笑っていればピーポーピーポーと救急車のドップラー効果に白い車体を見送る。
「近所で何かあったのかしらねぇ?」
「さあ?」
車体が小さくなる所で曲がって行ったのを見送っていれば今度はウーウーと消防車のサイレンの音。
同じように角を曲がっていくのを見送り
「火事かしら?」
「のわりには煙が上がってないな」
今だけたたましいサイレンの音へと視線を投げながらコンビニに入りおっさんは今夜は寂しいからビールを浴びるように飲むのと寂しそうにカゴにビールを放り込み、俺はついでにとお菓子を幾つか買ってもらった。
レジの所でおっさんが支払いをしている合間にもう一台消防車が通り過ぎるのを見て店員が
「お客さんから聞いた話しだけどアパートにトラックが突っ込んだらしいんですって」
「そりゃ大事故ねぇ」
少しだけ驚きながらおっさんは言うが、何かいやな気分がもやもやと広がる。
コンビニを出て少しだけ煙が昇ったその方へと視線を向けていれば「どしたの?」とおっさんの何処か気遣わしげな声。
「あっち、俺のアパートの方?」
いやな予感が当たらないでくれと走り出せば「青年待って!」とおっさんの追いかけてくる声を無視して全力で走る。
消防車が曲がった角を曲がり、既に人が集りだしていた場所へとかき分けてはいれば、目の前に広がる光景はコンビニの店員の話しの通りアパートに大型トラックが突っ込んでいた。
事故現場を見守る人込みの中に見知った顔を見つける。
「カロル!」
名前を呼べば振り向いた顔が嬉しそうに綻んだ。
「ユーリ無事だったんだね!」
飛びついてきた子供の体を受け止めれば少し涙ぐみながらも同じアパートに住むカロルは少ししてから顔を上げ
「トラックの居眠り運転でアパートに突っ込んだらしいけど、ちょうど空き室で、だけど一階のおばあちゃんの所から火事になって」
今だ混乱状態なのか物事を整理する事が出来なく、ただ出来事を単的に言うカロルを落ち着かせるように頭を撫でながら火は回ってないようだけど再発火しないようにと建物中に放水する光景を二人してぼんやりと眺めていた。
火事は暫らくもしない合い間に沈下し超局地的豪雨の発生した建物に足を運ぶ。
二階にある俺の部屋はトラックの直撃こそ免れたものの室内にも雨を降らした消防車の放水は見事なまでに廃屋へと変えていた。
古い建物と言うのも理由にあるが水の重みで天井は崩れ落ち室内に溜まる水溜りに電化製品が浸っていた。
茫然と人の住む場所でなくなった俺の部屋にカロルが泣きながらユーリと飛び込んできた。
「聞いてよ!このアパート潰されちゃうんだって」
そのまま背中に体当たりするようにぶつかってきた。
場所所か家までなくなった室内に新たにもう一つの足音。
「随分派手にやられたわね」
未だに雫の滴り落ちる天井を見ながらおっさんが入ってきた。
知らない人間にカロルは俺の影に入るものの
「良く判ったな」
初めてやってきたおっさんは物珍しそうに見回していた。
言葉が見つからないのか無言のまま周囲を見回している合い間にカロルは家族に呼ばれて何処かへ行ってしまった。
「で、どうするのよ青年」
もうここには住めないと言う言葉に俺は逡巡して
「孤児院に戻るか」
おっさんを安心させる為に言ってみるも常に満員の孤児院に戻る場所は無い。
フレンでさえナイレンと同じ部屋使っているのにあの狭い部屋に俺のいる場所は無い。
まあ、寝れれば何処でもいいかと腹括れば「あのさぁ」とおっさんの何処か弱々しい声。
「青年うちにいらっしゃいよ」
一人で暮らすには広すぎるマンションの一室を思い出す。
「孤児院に戻るって、戻れないから一人暮らししてるんでしょ」
このひと月の間にこぼした僅かな孤児院の事情からその想像はたやすい。
言葉を捜す合い間に
「もちろん・・・」
続きは知っている。
「あんたの食事作るんだな」
言えばキョトンとした顔に笑う。
「悪い条件じゃあないな」
ついでに俺の為にも掃除はかかさないでおこうと始めて訪れた時のあの部屋を知る者なら誰でも固い決意を決めるのは当然だろう。
「他にも青年には大学に行ってもらうわよ」
「は?」
思わぬ追加の条件にどう言う意味か思考が追いつかない。
「だって、どう考えても青年の未来はフリーター一直線じゃない。働き口があればいいけどひょっとしたら無職よ?
 今時大学行ったぐらいで就職できるかなんて判らないけど、少なくともフリーターのだけの未来は阻止できるわ」
フリーター、無職と何気に失礼な事を言ってくれるおっさんだけど、確かに次のバイトも見つけられない俺に反論はできない。
「ね、おっさんのおもりは大変だけどもう少しおっさんに付き合ってみない?」
視線を合わせないまま告げたおっさんははどうやらどうしても俺を留めて置きたいらしい。
俺があんたにここ数日どんな想いを抱いてひた隠してきたか知ってるかと睨むも、おっさんは背中を向けて俯いたままピクリとも動かない。
それがやけに寂しそうに見え、納得した。
おっさんは寂しかったのだと。
だからあの家に興味を持てず、どれだけ散らかろうが構いもせず、習慣付くほど一日の大半を会社で過ごしていたのだろう。
「仕方ねえな」
言えば嬉しそうに俯いていた顔が満面の笑みで振り返る。
「そんなに俺がいなくて寂しいんなら居てやってもいいぜ?」
居させてくださいと言うのは本来俺の方だが、居てくれと懇願するおっさんに合わせればやったぁと無邪気に抱きしめてきた。
そんなにも嬉しいのかと思いながらも
「じゃあ早速荷作りしちゃいましょ」
勝手に開けた押入れから鞄を見つけて次々に水浸しの服を絞って詰めていく。
俺も教科書など少ない荷物をまとめ、使用不可能となった電化製品を残し、とりあえずと言うように今日明日使う物を鞄に詰めた。
部屋の外に出ればカロルたちと大家が話し合っていて、俺はおっさんの所に厄介になると大家に告げ明日にでも片付けに改めて来ると中学卒業してから住みついていたこの場所をあとにした。
そして・・・

「青年悪いわね。和室はお客さん用に取っておきたいのよ」
「あんたの所に客が来るのかよ」
「さあ?でも青年のお客が来るかもしれないじゃない?」
「居候の身分でダチを寝泊りさせれるかっつーの」
「おっさんの部屋さえ入らなけりゃ構わないよーっと、他に必要な物は無いかしら?」
組み上げたベットに布団をセットして机も組み立てる。
あの日水浸しになった洗濯物は制服を始め総て洗濯して、クローゼットに掛かっていた。
西日の差し込む部屋に厚手のカーテンを付け整った部屋をぐるりと望む。
「こんなもんか?」
「そうね。他に必要な物あったら言ってよ。出世払いでおっさん買ってあげるから」
「これ以上必要ねえよ」
失笑しながらおっさんと向かい合う。
何処かくすぐったいけど、何事も最初が肝心だ。
「じゃあ、これからよろしくな」
「こちらこそよろしく」
お互い何処か照れながらの挨拶に今更ながらも握手を交わした。

拍手[31回]

PR
"椎名" WROTE ALL ARTICLES.
PRODUCED BY SHINOBI.JP @ SAMURAI FACTORY INC.