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駄目なおっさんに拍手ありがとうございます!
相変らず駄目なおっさんですが・・・ちょっと駄目なお友達も登場するのであわせてよろしくお願いします。




花韻 03



レイヴンの勤める会社は人生を棒に振ろうを社訓と掲げるだけに休みの土曜も会社に出かけ、日曜日の一日の大半を寝続けていた。
本当に他に特技がないと言うように週に一度の早帰りの日も部屋に閉じこもって仕事をしている。
一体何の仕事しているかはっきり言って俺には不明だったが、数少ない朝食以外の一緒の食事の時間はどことなく不思議な時間だった。
バイトを始めて二週間も経てば何とかリビングも人の住む世界になった。
学校から帰ればレイヴンの通った場所に物が落ちていてホント駄目なおっさんだなと呆れてしまうも、とりあえず終わりの来ない洗濯物は一先ずめどはついた。
が、実はまだ手付かずの部屋が二つあったりする。
おっさんに聞けば和室と洋室があると言うが、和室の方を一度覗いて見なかった事にしたがさすがに雇われてお金を貰っている以上そういうわけにもいかない。
ちなみに洋室の方はまだ覗いた事さえないミステリーゾーンだ。
恐る恐ると開ければやはりあの時見たのは見間違いではなく、思い切って襖を開ければ久しぶりの雪崩が発生した。
折角綺麗になったリビングを浸食する雪崩に思わず脱力するも、あのゴミ屋敷をここまで綺麗にした俺の今の掃除に対するスキルは恐ろしく高くなっている。
久々にゴミ袋を取り出して軍手とスリッパを装備する。
大まかにゴミと洗濯物とをわけるのだが、意外な事にこの部屋には洗濯物が無かった。おかしいなと、放り込まれた新聞雑誌を束ねていく。やたらと新聞は判るが週刊誌や漫画がごっそりと出てきた。
思わず週刊誌を読めば発行は5年前のもの。
今では水着姿を披露しなくなったアイドルの思わぬ写真に驚きながら思わず読みふけってしまい、ひょっとしてレイヴンが引っ越してきた頃のものがあるのではといやな予感に乾いた笑い声が俺の口から零れ落ちた。
予想は裏切らず、手際よく雑誌をまとめればゴミ山の最下層からはダンボールの箱が潰れずに姿を現した。
その中には掃除機や扇風機が箱に収められたまま眠っており、箱は一度も開けられた様子はなかった。まあ、寝に帰ってくるだけの家だからなと最近はあまり驚かなくなったレイヴンの生活習慣にいつの間にかなれていた自分に驚くも、まだいろんな物が発掘された。
カキ氷機にバーベキューセット、未使用のノートパソコン、電話機などなど。
一体この家は何なんだと呆れていればコタツまで出てきた。
まだまだコタツの必要のない季節だが思わず感動するようにコタツ机を眺めてしまった。
普段はエアコンをフル活用している為に必要ないのは判るが・・・
「勿体ねえだろ」
型としては時代遅れだが未使用の電化製品はどれも新品同様だ。
エアコン所か扇風機のない自分のアパートを思い出してどうせ使わないんだからレイヴンに貰えるか交渉してみようと算段する。
雑誌と新聞を縛り上げ、マンションの雑誌、新聞、ダンボール専用のいつでも置いて行っても良いと言うトランクにマンション管理の手押し車を借りて幾往復かする。
前回分のゴミの収集が来たのか中身はカラッポだが、前回見た最後のゴミ置き場の周りは入れる事が出来なくて溢れていた新聞雑誌の山に心の中で何故か俺が何度も謝っていた。が、また繰り返されるのかと溜息を零しながら隙間なくゴミを積み上げていく。
夕暮れも近付いてきた事もあり、今日はレイヴンは早く帰ってくる日だなと週に一度の一緒の夕食のメニューを考えながら笑みを浮かべる。
「なに浮かれてんだよ・・・」
高校に入り孤児院を出て一人の食事ばかりしていた為に人と一緒の食事に人恋しさを埋めていたかのような感情に一瞬慌てるも、あのおっさんとだなんて冗談じゃないと思いつつ、最近では見慣れた彼の食事風景も今は穏やかな眼差しで見る事が出来る。
「いや、なんか違うだろ」
思わず自分にツッコミ。
食費その他諸経費と預かっているお金の一部を入れたがま口財布を握り締めて買い物に出かけ戻れば一人の男がレイヴンの家の前に立っていた。
俺よりも長い銀の髪を風にたゆたえながらこのクソ暑い中ピシッとスーツを着込んだ男が立っていた。
ここオートロックマンションじゃなかったっけ・・・
そんな疑問も浮んだが、ワンフロアに一室の場所に開いたエレベータに振り向いた男はまるで血のような紅玉の瞳を俺に向ける。
「ここの住人か?」
「いや、違うけど」
ポケットから取り出した鍵を持つ手に美術館に飾ってある絵から飛び出してきたような男はその顔を歪め俺の手を見つめる。
「この家の男は?」
短い質問に訝しがりながらも返事をする。
「もう少ししたら帰ってくるかも知んないけど、あんたレイヴンの知り合い?」
聞けばレイヴンと呟き一呼吸したのち小さくうなづいた。
「何か用なら中で待ってるか?」
言うもその秀麗な顔を勿体無いくらいに最大限に歪めるのを見て、ああ、誰か知らんがこいつもこの扉の奥の惨状を知っている奴の反応だなと、そんなわけ判らない判断に扉を開けて中へと招き入れる。
「折角来たんだ。茶でも飲んでけよ」
開いたドアの中を見た男はあまり感情を表さないような男に見えたが・・・そののちの彼を知っても今以上の驚きの表情は見る事はなかった。
招き入れるもあの和室は封印して見えないようにし、大きく開かれた窓からの風だけでも気持ち良いのでエアコンは無いままにさせてもらった。
ベランダガーデニングでは無いがベランダにはミニネギのグリーンが彩り、片付けられたベランダを覗く銀髪の男はポカンと口を開けたままだった。
「これはどう言う事だ」
ぼんやりと呟く言葉の意味は良く判るつもりだ。
「まあ、綺麗に掃除さえすればこんな風にもなるな」
買い物の荷物を冷蔵庫に片付けながら言えば
「お前が掃除したのか?あれを?」
「あのおっさんができると思うか?」
疑問を疑問で返すのは失礼だと思うが問えば短く「無理だな」と即答で返されてしまった。
苦笑紛れに笑顔を返すも
ケトルでお湯を沸かし、おやつに買っておいたクッキーを結婚式の引き出物の女性的趣味の食器に並べてインスタントのコーヒーをそれっぽく淹れる。
テーブルにお茶の用意を差し出せば、銀色の客は不安を隠せない色の瞳でコーヒーを見つめ
「まさかここで食べ物を口にする日が来るとは思いもしなかった」
恐る恐ると口に含んだコーヒーに思わず眉間を寄せる。
「薄いな」
「悪いな、コーヒーは飲まないからしらねぇんだよ」
返した言葉に砂糖とミルクをたっぷり入れてカフェオレ状態にしてもう一度口に含み一息をつく。
「所で疑問なんだが、お前はあいつと一体・・・」
「たっだいまぁ~!せぇいねぇん、ごはん~!」
「あ、帰って来た」
ガチャリと鍵の開いた音と同時にレイヴンは足音軽くリビングに直行してきた。
「飯はまだこれから作る所。って言うか、あんたに客」
言えば目をしぱしぱと瞬かせ
「あれ~?デュークじゃない。珍しいわね、あんたが俺様の所に来るなんて」
鞄をそこにボトリと置き、背広とネクタイをリビングの入り口から通りすがら落としながらデュークの横に立つ。
もう見慣れた光景なので俺はネクタイと背広を拾いソファに皺にならないように置き、鞄も躓かないようにソファの上に置くのを銀色のデュークとおっさんが呼んでいた男が何か言いたげに視線を投げてきたのを見ないフリをした。
溜息を零しながらゆっくりとレイヴンを見上げ
「お前の蔵書に用があってきた」
「あら、それこそ珍しい。デュークが持ってないような本が俺の所にあったかしら」
「先日エルシフルの機嫌をそこなわせてな、私の書庫で盛大に爪をとがれてしまって修復不能なまでになった。
 随分前の本になるからな。あの本を持っているのはお前とあの男しか心当たりがない」
「大将を頼るぐらいなら俺様の所に来たって理由ね」
何がそこまで納得できるのかうんうんと頷くレイヴンに緑茶を差し出す。
「まあ、本ぐらい良いわよ。俺様の部屋にあるから他に必要な本もあったら持ってって良いわよ」
「すまない」
礼をいればすぐに必要なのかさっさとレイヴンの部屋へと足を進める。
俺もまだ入ったことのない部屋に・・・
パタンと閉まったドアを見つめる。
「それにしても良くデュークと会話できたわねぇ。人見知りが激しくってまともに会話にさえならない事が多いのに」
「いや、普通に話してたぜ」
コーヒーの淹れ方にも文句を言うくらいだから人見知りが激しいと言うのは違うのでは無いかと思うも
「それよりも今日のご飯なぁに?」
にこにことお茶を両手で包み込むように持ちながら聞かれ
「きょうは肉じゃがに秋刀魚を焼いて、モズクの酢の物にキノコ汁」
「あら、白いご飯がすすみそうね」
「今から準備するから風呂にでも入ってこいよ」
「はーい」
と返事をしてスキップしながら風呂場へと真っ直ぐ進んでいった。
程なくしてシャワーの音が聞こえ出したかと思ったらガチャリとレイヴンの部屋が開く音が聞えた。
それから真っ直ぐカウンター越しのキッチンの前に立ち、腕の中には10冊ほどの本が抱え込まれていた。
「あんたも飯食ってくか?」
秋刀魚は酢にでもつけておこうかと思って余分に購入してある。
ジャガイモはまだ余分にあるし、キノコ汁は明日の朝の分も考えてあるので十分に余裕もある。
モズクの酢の物は絶対量が決まってるから、きゅうりでも塩もみして誤魔化そうと考えていれば
「君は、あれとはどう言う関係なんだ」
「どう言う関係と言われても・・・」
あれとはレイヴンの事だよなとすぐに接続できれば
「アルバイトだ」
と言おうとした所で電話の音が被さった。
俺の答えを聞くより先にデュークは電話の音に反応して他人の家なのに気にせず電話に出て
「誰だ」
名乗りもせずどこか威圧的な声で返答をしていた。
暫くして「お前か」と受話器越しに嫌悪感を隠さない声で返答すれば
「あの男なら今風呂に入っている」
といいつつ風呂場へコードレスの受話器を手にしたまま風呂場へと突入して行った。
途中おっさんの絹を裂く悲鳴と言う世にも不気味な叫び声を聞いたような気もしたが、数分も立たないうちに水を滴り落としながら腰にタオルだけを巻いた男が家の中をうろうろと彷徨っていた。
受話器を今だ耳に当てたまま戻ってきたデュークはなにやら交渉をしているようで
「何があったんだ?」
思わず呟いた俺の呟きにデュークはキッチンを挟んだカウンターの椅子に座り、受話器越しの相手を無視して
「仕事でトラブルが起きたらしい。出かける前に食事を食べさせたいから気にせず用意するといい」
言うも、デュークが動かない所を見ると一緒に食べると言うことだろう。
とりあえず三人分の食事を急いで作れば、ひたすらデュークは電話の相手と何やらあまり穏やかとは言えない雰囲気を隠さず淡々と会話をしていた。
暫らく剣呑な言い合いをしていたかとおもえば、キノコ汁ができた所で秀麗な顔にはめられた赤い色の宝石がおれを見る。
たっぷり三秒ほど黙ったかと思えば
「所であいつはいつ結婚したのだ?」
そんな会話が聞えたが、さっきまで口げんかしていたと思ったのに随分話が飛んだなと思って聞えないフリをして黙って聞いていた。
「随分と・・・若いな」
きょろきょろと周囲を見回したかと思えば、部屋の一角の見たかと思えば
「どうやら高校生らしい」
言って俺を見る。確かにおれは高校生なので見上げられた視線にそうだと一つ頷けば
「幼な妻と言うよりは随分背が高いぞ・・・あいつよりもだ」
おもむろに立ち上がったかと思えば俺とほぼ並んだ視線だが訝しげに俺の顔を覗く。そして
「言えないのは仕方ないだろう。色々障害が多いようだからな。・・・なんせ男だから」
どうやら俺の事を話しているようだが
「ちょっと待て、一体何の話しをしている」
手を伸ばして電話先の相手に誤解を吹き込まないように邪魔をしようとするも秋刀魚がいい感じに焼きあがっていた為に手を引っ込めたが
「そこまでは・・・だが、中々マメにあいつの世話をしているようだ。家が見違えるように生き返っている」
どんな表現だと言う前に待てと手を延ばそうとした瞬間、レイヴンの部屋のドアが派手な音をたてて開いたと思った瞬間そのまま走ってデュークの電話を奪い去っていた。
「大将います?今そっちにメール送ったので私が行くまで何とかプログラムに組んで対応してください!え?そんな地味な作業は嫌?だったらイエガーの奴にでもやらせといてください!」
言って殴りつけるように受話器を置いた。
いつの間にか真っ白のワイシャツを着て仕事にいく姿になっていた。
朝はよれよれのTシャツと短パンだったり、仕事で疲れたよれよれの姿だったリ、そんなイメージが付きまとっていたが、ぱりっとアイロンをかけたシャツにきゅっと締まった臙脂のネクタイと言ういつもと似ていて非なる姿に一瞬別人の違和感を覚えるも、「あら?随分やられたのねぇ」何て持っていく本のタイトルの眺める視線特徴は相変らずなので狐につままれた気分になった。
ふるふると軽く頭を振ってそんな違和感を吹き飛ばして鍋の火を止める。
肉じゃがはまだ味が良く沁みていなかったが急用らしいので器に盛って食事の準備をすれば、テーブルに二人がスタンバっていた。
おっさんに年齢不詳の男、そして俺。
傍から見ればどんな組み合わせだと思いながらも頂きますと両手を合わせれば、おっさんは掻き込む様に食事を始め、でも時折「新物の秋刀魚は美味しいわね」とか、「秋刀魚に酢の物ってあうのね」とか「キノコ汁おかりある?」なんて、急いでんじゃねえのかよと言い返しながらも急いで食べ終えて歯を磨きに行っていた。
何時もはのんびりと食べていただけにその素早さに呆気にとられていればもう一人の男が茶碗を俺に出しおかわりを催促していた。
おっさんの客だしと思って茶碗にご飯をよそえばお椀まで出された。
「あ、ユーリ、こいつあるだけ食べるから無視していいわよ」
あるだけって・・・気がつけばいつの間にか自主的にキノコ汁をよそっていた。
呆気にとられている間におっさんはソファの上の鞄に色々詰め込み、キノコ汁をすっていた男が飲み干すのを待ってその首根っこを掴む。
「デューク行くわよ」
「あ・・・」
まだ物足りないと言うように箸を離さない男を玄関までひきずった後、本来の目的の本をおっさんは取りに戻ってきた。
「バタバタして悪いわねぇ。とりあえず戸締りお願いねユーリ」
そう詫びる男を玄関まで見送りに行けば余程急いでいたのだろう。
振り向きもせず飛び出して行こうとした男に
「いってらっしゃい」
何時もとは逆だなと思いながら送り出せば、何処かぎこちなく振り向いた男は妙に赤い顔をして
「行って来ます」
折り目正しい返事が何処か擽ったく、いつの間にか閉まった扉に一人妙に照れて暫らく動けないでいた。

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