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現代パラレル。
学園設定ぢゃないです。
崖っぷちユーリと人生を棒に振ったレイヴンの奇妙な日常。
ナンバリングつけてみたけどたぶん続かないよ。

花韻 01


高校三年の夏はあっという間だ。
折角の夏休みだと言うのに遊ぶ暇もなく夏休みは終わる。
受験対策とか、復習とか夏期講習とか。
結局毎日来る破目になってるなと呆れながらも夕暮れの中ツクツクホウシの鳴き声を聞きながらやっと終わった一日の学習予定にバス停の時間待ちの間コンビニで買ったアイスを食べて過した。
「大体進学する奴らが勉強するのは判る。
 就職組の俺がなんで勉強しないかんのだ」
夏期講習の採点済みの酷いプリントを眺めながら一人呟きながら溶けかけたソーダアイスの最後の一口を急いで噛み砕けば
「そりゃ青年の成績が目も当てられないほどかわいそうだからに決まってるでしょ」
いつのまに来たのか背後に髪をぼさぼさに結い上げた謎のおっさんが立っていた。
くしゃくしゃとポケットにそのプリントを突っ込めば、このクソ暑いのに背広を着たおっさんは少しネクタイをゆるめペットボトルのお茶を一口啜りる。
「それよりも、青年は就職活動はかどってるの?」
「はかどってるように見える?」
逆に聞き返せば苦笑。
「こんなご時世だからねぇ」
うんうんと頷きながら大変ねぇと言う顔はは何処までも他人事の口調だ。まあ、他人だし。
「就職できなかったらいっその事大学受験してみればいいじゃない」
「金がねえっつーの」
「奨学金とか色々あるでしょ?」
「そうすると今度は生活費が足りなくなるのです。
 大人の癖にそんな事もしらねーのか?」
知りませんでしたといわんばかりにそっぽを向いた社会人に溜息を零しながら、遠くに見えたバスに気づいてアイスの棒をゴミ箱に捨てる。
やがてやってきたがらがらのバスに二人して乗り込めばエアコンの効きすぎる車内の一角に通路を挟み一つずれた隣に座った。
「ま、就職先なかったらフリーターだな」
なんとなくそうなりそうな未来にずるずると姿勢は崩れだらしない姿勢で座れば
「青年の上の大学だったらエスカレートで行けるじゃないの」
進学を勧める教師のように言う言葉に行けるならそうしたいと喉元までぐっと出る言葉を何とか飲み下し、
「高校も奨学金だからなぁ。特待で進めれば問題ねーんだけどな」
「そればかりは努力でしょ?努力もなしに腐るのは筋違いじゃない」
一見胡散臭いおっさんに見えて、いや、だからこそかこんなまっとうな事を言われると妙に堪える。
「俺の事は良いんだよ。元々孤児院出身だ。こんないい学校行かせて貰ってるだけで十分なんだよ。それよりも今はバイトだ」
言って呻く俺にどったの?とおっさんは少し目を丸めて心配げに俺を見る。
「8月一杯で店のリニューアルの為に閉店。で、お払い箱だと。
 どっか早いと込みつけないとヤバイんだけど」
早々に見つかるわけがない。
と言うか、かなりのギリだ。かなりヤバイ。
「このご時世バイトも早々見つからないのね」
「学生じゃなくってフリーターを所望するご時世が間違ってると思います」
確かにねえと呟くおっさんはうーんと考えて
「教師は何て言ってるのよ」
「こんなめんどくさい相談を受けてくれる教師はいないんです」
驚いたように目を見開き少しだけ目を伏せるのを見て
「代わりに孤児院の院長もいれば血の繋がらない兄弟が山のようにいるからあんたが心配することじゃねぇよ」
なんせ相手は通りすがりのおっさんで名前すら知らないし俺も名乗ってもいない。
このさきどうするかなんて行き当たりばったりの未来に溜息を零し、そのまま沈黙の時間を過せば俺の降りるバス停の一つ手前でおっさんがブザーを押して立ち上がった。
「ま、この先悪い事だけじゃないから。良い事も同じだけあるんだからがんばんなさいよ」

ユーリ青年。

そう言ってパスを機械にくぐらせて降りて行った。
歩くおっさんを動き出したバスが追い抜きながら通りすがりに左右に揺れる頭を見下ろしながらなんで名前を知ってんだよと毒づくも、胡散臭い男は俺を見上げる事もなくのんびりとした足取りでただ歩いていた。

それから一週間後。
今日も夏休みももうすぐ終わりだと言うのに俺の夏期講習は続いていた。
クラスの大半はとっくに帰宅してしまったのに、俺はエアコンの付いた涼しい教室で爆睡していた為に今日も居残りだった。
日が沈むのも早くなり、少しだけ涼しく、暗くなったバス停で何時ものようにソーダアイスを齧って待っていれば
「およよ~、ユーリ青年じゃない。今日も居残り?」
「あー・・・」
呼ばれれば怪しげなおっさんが一人立っていた。
あまり人を覚えるのは得意では無いが、このクソ暑い中スーツを着て緩めたネクタイともっさもさの髪を結う男には心当たりがあった。
「あんたいつもこの時間なのか?」
昨日はいなかったがと思えば
「毎週この曜日だけよ。普段はまだ会社で馬車馬のように働かされているんだけどね」
だから明るいうちにおうちに帰れるってサイコー。
とは言う声は棒読みだ。
「一人身の寂しい所か?」
「いやなこと言うあんちゃんだわねぇ」
苦笑紛れの顔が俺の左手に目を止める。
そこには丸められたアルバイト情報誌。
「まだバイト見つかってないの?」
「学生よりフリーターが優遇されるご時世ですので」
言いながら既になくなったアイスの棒をガジガジと齧る。
「それよりも8月ももう終わるわよ。バイトえり好みしてる場合じゃないんじゃなあい?」
「10月になりゃ何とかなるんだがな」
「大学生ね」
「ひと月凌げりゃ何とかなるかもしれないけど、おっさんの会社バイト募集してねぇ?」
「悪いわね。うちの大将即戦力ある人間しか雇わない極悪人よ?
 なんたって人生棒に振ろうが社訓だからね」
「どういう会社だよ」
「いたって普通の会社よ?パソコンに向って日がな一日キーボード叩いてお終い」
「職変えた方がいいんじゃねえ?」
「あら、心配してくれるの?でもおっさん他にとりえがないから転職先見つからないの」
「悪魔に魂売り渡したわけだ」
「そういうこと」
そこにタイミングよくバスが到着する。
何時ものようにアイスの棒をゴミ箱に放り込んで前回同様通路を挟んで一つずれた隣同士に座る。
ただし今回は沈黙が一駅分続き
「青年・・・」
一つ斜め前に座るおっさんが振り向き
「ひと月だけならバイト紹介してあげようか」
思わずパチクリと瞬きし
「内容は?条件は?」
言って視線を外す。
「まあ、掃除洗濯食事の用意的な家政婦さんなんだけど?」
「幾らだ?」
「日給・・・5千円?」
「20日計算で10万か」
すごくおいしい。
「で、何処に行けばいいんだよ」
聞けばおっさんは少し恥かしそうに自分を指さす。
その指先の俺の機嫌でも伺うような視線を冷たく一瞥し
「あんた、その手の趣味かよ」
「失礼ねぇ。そりゃおっさん一人見だけど、お子様にまで手を出すほど落ちぶれちゃいないわよ」
身長的にはおっさんを通り越した体格なのだが、どう見ても年上の男から見ればお子様に分類されるらしい。
「名前も知らない相手になに言ってんだか」
と言うか、知り合って二回目の遭遇だ。
そんな相手を良く家の中に連れ込む気になったなと呆れながらも、気を使ってくれていることだけは判ってるつもりだ。
ただ、そこに下心が見え隠れしてるような気がしてこの話しなかった事にしようとするように目を瞑れば、諦めたのか小さな溜息が聞え、この男の降りるバス停に到着した。
声をかける事無く下りていく男の背中を薄く開いた視界で見送る。
少し丸まった背中。危うげな足取り。
そして10万円。
悩んだ時間は一瞬だった。
ステップを下りていくおっさんを追いかけるようにパスを通して一緒にバスを降りる。
無言のまま驚き見上げる男をまともに見る事が出来ず視線をそらせたまま
「あんたさえ良けりゃ土日だって手伝いに行ってやるぜ」
30日計算で15万。夏休みの僅かな残りも含めりゃもうちょっといくなと計算すればぽとりと鞄が落ちた音に地面を見る。
「鞄落ちた・・・」
ぞ?
「しぇいねぇんありがとおおお!!!」
ぶわっといきなり泣き出したかと思ったら突如抱きしめられ、道行く人は怪しげに俺達を避けていく。
「なっ、なっ?!」
何事?!
あまりの予想外の展開は俺の予想を尽く裏切る。
何とかして剥そうとする前におっさんは俺の手を掴んで
「おっさんのおうちこっちよ~?」
満面の笑みを浮かべながらスキップを刻んでいる。
通り過ぎる親子が見るんじゃないと目隠しまでしていた。
そしてバス停からさほど遠くないオートロック付きマンションに潜り込みエレベータに乗り込む。
オートロックの使い方と合鍵を俺に渡しマンションの最上階へと案内された。
フロアに一つの扉。
えー?
なんてあまりの見かけと環境の違いに違和感を覚えながら言葉も出なかったが、ただいまと開けた扉の中を見て妙に納得。
「腐界だ」
人一人通れる通路の脇は見事なまでのゴミと物に溢れている。
おっさんは器用にそれらをよけながら酷い、いや、広いリビングへと案内してくれれば、辛うじてテーブルの上だけは無事な状態だった。
「いらっしゃい」
言いながら空けた冷蔵庫の中身はビールばっかり。
一瞬悩む仕種を見せたのちペットボトルのお茶をそのまま贈呈してくれた。
「家政婦さんが欲しいわけだ」
「やりがいのある職場でしょ?」
ええ、とっても。
ひくりと頬が痙攣しそうになるもおっさんの携帯がけたたましく騒ぎ出すのと同時に別の部屋へと行ってしまった。
そんなマンションを探検するように周囲を窺えばベランダにも分別してないものが溢れている。
「日給5千円って安くねえ?」
自問するもここまで辿り着く合い間に交わした約束は学校終わってから9時までの時間内と言う約束だ。
そして今更新しいバイトを見つけたとしてもこれほど好条件が何処にある。
「・・・やってやろうじゃねぇの」
長い髪を括り、水場の確保と言うようにまずはキッチンを発掘するように足を向けた。

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