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貴族街には貴族御用達のヌイグルミの店ぐらいありそうだと思います。
幼少のみぎりには話し相手とか言う感じで誰もが一つはもっているものだとおもいます。
シュヴァーンの髪と言うかまだダミュロンとの途中の髪型だった頃はそんなヌイグルミと同じような質感だったらいいよなと思って見たり。
レイヴンがもっふもふだからね。

そんな内容で(?)アレ→シュヴァだと思います。

ちなみに仮のタイトルが熊手ですって。
いくらなんでも止めときました。




My Teddy



人魔戦争が終わり心臓の代わりに魔道器を埋められてまだベットから離れられない日々が続いていた。
アレクセイの野望に付き合うこととなり新たな人生が描かれた書類も一通り頭の中に叩きいれたくらいの頃だった。
忙しい身分なのに毎日のように様子を見に来る騎士団長を暇人だなと思いながらもさすがに毎日決まった時間には現れない事に気がつき暇人を訂正する。
顔を見に来ただけだと言って毎日他愛のない会話を二、三落としていく。
相槌を打つ事もなく感想を言うこともなく一方的な会話を僅か数分の間だけ耳を傾けるだけの奇妙な時間だった。
そんなある夜もアレクセイはやってきた。
既に就寝時間を迎えて照明魔道器の魔核は外されていた。
真っ白の薄いカーテン越しの月明りだけが頼りの室内でアレクセイはテーブルにぶつかる事もなくベットの傍らまでやってくる。
魔物討伐に団長自ら出陣でもしたのか、部屋に一歩入ってきた瞬間魔物の血の匂いが室内にたちこもる。
いつの間にか嗅ぎなれたその匂いに沈みかけていた意識は一瞬で浮上するも、このまま寝たフリをしていたらどうなるのかと好奇心だろうか、ベットの傍らに椅子を引き寄せ座るも瞼さえ動かさず静かに寝息を零していた。
「シュヴァーン」
新たな名前を何処か遠慮がちに呼ぶ。
「起きないか」
期待が外れたといわんばかりの溜息を聞いていれば独り言はまだまだ続く。
「今日は西の二ビン海岸に行ってきた」
故障した高速船の修理の具合と失った船の造船の状況確認。
失った艦の乗組員の補充と、出資者への説明。
「疲れた」
その声は言葉の通り酷く疲れていて、ひょっとしたら初めて弱音を聞いたのでは無いかと反芻する。
ギシリと安い椅子の背もたれを撓らせて立ち上がるのを気配で読む。
「次は明るいうちに来よう」
そう言って同時に赤と黒のマントを翻して病室を去っていくのが何時もの姿なのだが、今日は何故か踵を返す音が聞えない。
どうしたのだと思う間もなく何かが髪を触れた。
それは二度三度どころかあのアレクセイの事を考えれば随分と長い事繰り返して何処か満足気に「ふむ」と溜息を零して足音が遠ざかって行った。そしてさほど遠くない所にある扉が閉まる音を聞いて瞼をあけた。
闇に慣れた瞳の世界には薄いカーテン越しに忍び込む月明かりさえ眩く写る。
まだ痛む体をゆっくりと起こしながら先ほど触れられた前髪を抓む。
一体なんだったのかと思いながら覚めてしまった思考にこの日は明け方まで眠る事が出来なかった。

それから暫らくした頃やっと退院が認められた。
かと言って帰る隊のない俺はどうしたものかと思えばアレクセイが直々に引き連れる隊に入る事になった。
団長が兼任する親衛隊ではなく、団長以前に率いていた方に。
親衛隊同様赤色を基調とした隊服が用意されると思ったがそうではなく橙色の夕焼け色にも似た色の見たことのない意匠の隊服が用意されていた。
ついこの間まで青色を基調としていただけに、それは何処か異様なものにも見えたが与えられた物を拒否するのは今更かと袖を通していく。
姿見を見ればそれは何処か別人に見え、苦笑も何も沸き起こらなかった。
ただ、酷い寝癖だけがどう考えてもいただけなく手洗い場の盥に水を張り、どんな寝相だったのだと言う頑固な寝癖と悪戦苦闘の末やっと騎士団長に挨拶に行ける姿になった。
だが病室のドアがノックをされると同時に一人の補佐官が書類に目を通しながらやって来た。
「シュヴァーン・オルトレインですか?」
眼鏡を重たそうに調節しながら書類を読むまだ若い男が尋ねてきた。
「そうだが」
言えば男は英雄に会えて感激ですと握手を求められわけの判らないまま応えれば
「本日閣下は評議員の方に呼ばれ急遽会議出席する事となり、代わりに私が案内とご説明をさせていただきます」
ぺこりと下げられた頭を見下ろせば、その後付いて来てくださいとこれからの新しい部屋と朝の挨拶をしていた親衛隊を広場の片隅で見学する事になった。
見学をしていたはずなのに何故か逆に好奇心浮ぶ目と嫌悪感を隠さない目で眺められれば自分の存在がどう言うものかを理解した。
それから誰の小隊に所属しない代わりに萎えた体の回復を要求され、新たに魔道器と幾つかの魔術書を与えられた。
「これは?」
今まで騎士団の術技は一通り学んだつもりだったが、ぱらぱらと捲る魔術書は見た事のないものだった。
「閣下が目を通しておくようにと」
通しておけといわれても魔術ははっきり言って齧った事もない。
どうしたものかと途方に暮れるも案内する男は気付かずに隊の予定表の紙を手渡したのち、俺を部屋に送り届けてくれた。
部屋に入れば真新しいまっさらなシーツのかけられた寝台と柔らかなドレープのかかるカーテンが空気を入れ替えるように開かれた窓に波打っていた。
あまり荷物のないシュヴァーンはそれでも数少ない櫛や歯ブラシと言った物を片付けていく。
何も片付ける物のないクローゼットはどうしたものかと、一応確認をすれば替えの隊服やらシャツと言った物が既に用意されていた。
すぐにアレクセイが用意したんだなと思っていればドアをノックする音。
はいと返事をして新たなこの部屋の主となった俺はドアを開ける。
そうすれば見慣れた赤の人物が立っていた。
「アレクセイ閣下」
会議はどうしたんだと思っている合間に部屋へと入りぐるりと見渡す。
「一通りのものは揃えてみたが必要な物があれば言いなさい」
言えばリボンがかけられた箱を手渡してきた。
「退院の祝いだ」
言ってはあ、と良く判らない返事をすればアレクセイは少しだけ眉を顰め
「実は中々店の開いている時間に訪ねる事が出来なくてな、部下に買いに行かせたのだが・・・」
中身はアレクセイも知らないと言うことだろうか。
そんな事はどうでもいいが、仕事人間のこの男にこういった気遣いが出来るとは思わず少々の驚きを感じたのは確かだ。
ただ、見た目より軽い箱に一体何が入っているのかと不思議な物を見るようにリボンを外して包装紙を剥していく。
そして蓋を開ければそこから現れたのはふわふわもこもことしたクマの愛くるしいいヌイグルミ。
思わずアレクセイの趣味を疑うように視線を投げれば放心でもしていたのか視点の合わないアレクセイの顔を見つけるも、それは一瞬。すぐさま何時もの団長の表情となり
「これで一人寝も寂しくないな」
「・・・」
返答に困るジョークに口も開けられないでいればヌイグルミを箱に戻して取り上げられた。
「改めて別のものを用意する」
「・・・」
結構ですとも言えず次は何が来るだろうと思っている間にアレクセイは今後の方針を幾つか話し、そして包みとリボンをこの部屋に置いて箱を抱えて去って行った。
久振りに歩いたのもあるが、何かどっと付かれてそのままベットに横たわり、気が付けば寝むりについていた。



あれから十年。
今、団長室の引越しの真っ最中だった。
アレクセイの補佐官も親衛隊も一度解散と言う形になった為に団長室の整理は何故か当り前のようにシュヴァーン隊が請け負う事になった。
それを聞きつけて新しい主になるフレン隊一行が手伝いにくるも、それほど大人数の手が必要になるわけでもなく、そして機密を扱う室内にむやみやたらに人を入れるのはあまり好ましくなかった。
ただでさえ人魔戦争後に一度騎士団は魔道器により壊滅的な崩壊を経験している。
以前の大切な資料は別所に残った僅かな物のみとなり、今ある物はこの10年間の合間に築かれたものばかり。
かと言って物は少なくなく、失われた物をアレクセイは可能な限り集めてみせた。
それでいて私物は限りなく少ない。
仕事と野望が生き甲斐なのだ。一切の私情をあまり持ちこまなかったアレクセイの部屋は資料などが戸棚から溢れているのに呆気にとるほど私物がなかった。
密かに俺の部屋と良い勝負だなと感心さえしてしまう。
次の主となるフレンがソディアをつれて、俺もルブランと何人かの小隊長のみをつれて部屋を片付けていた。
エステルが引越しのお祝いと言って、フレンの隊服に合わせたカーテンが今目の前でユーリと二人で取り替えられているのは、あまり考えない事にした。
家具はそのままに、ベットはシーツを変え、本棚の中身はいずれ使う事になるだろうフレンと二人検分して片付けていく。
取り上げられたとは言え家が別所にあっただけにクローゼットの中身は私服があまり多くない。
既に解散してしまった隊服を少し懐かしく思いながらもソディアとルブランがダンボールに詰めていく。
いずれ焼却処分になると言う事を寂しいと思いながらも机の上に置いてあった青と緑の混ざったような彫刻が施された石のペーパーウェイトをこっそりとポケットに忍び込ませた。
騎士団が城内に拠点を移して以来使い始めていた重石はこの十年の合い間にメリハリのあった彫刻はいつの間にか丸みをおび、握れば不思議と手の中にしっくりときた。
誰にも気付かれずに作業を続ければレイヴン隊長とルブランに呼ばれた。
団長の私室のクローゼットは他の部屋と比べても十分に大きい。
クローゼットの中にソディアと二人入り込んでも支障なく作業のできる広さだった。
実際ユーリが住み付いている宿屋の部屋ぐらいある。
小奇麗に片付いてはいるがやはり物は少ない。
その中で二人は一つの箱の中身を覗いていた。
どうしたと箱の中を覗けば見覚えのある耳。
ソディアから箱を受け取って中身を引っ張り出せば記憶の通りのふわふわもこもこのヌイグルミだった。
何でこんな所に、とあの日が脳裏をよぎれば
「可愛いですね」
いつの間にだろう、エステルを始めユーリとフレンまでもが覗きに来ていた。
「あのアレクセイにクマのヌイグルミってないだろ」
もっともなユーリの意見にフレンも訂正する事はできず、何かフォローしなくてはと言わんばかりの顔で言葉を探していた。
見せてくださいと言うエステルにクマのヌイグルミをわたせば
「どなたかのプレゼントだったのでしょうか」
「ここにあると言う事は渡せずにいたのでしょう」
真面目にフレンが答えれば
「だったら届けてあげたいです」
エステルの言葉に誰もが怪訝な顔をして視線を送る。
「確かに今アレクセイからこう言った物を貰うのはあまり喜ばしい事では無いかもしれません。ですが、アレクセイにもこういった物を贈る心があったのです。
 その後捨ててしまうかもしれませんが、祝う気持ちは伝えてあげたいです」
アレクセイにあんな目に合わされてもこの少女は何処まで心が広いんだと驚かされてしまうも、嬢ちゃん違うんだと一人盛り上がる彼女を止めるには総てが遅すぎた。
「あのね、そのクマ・・・」
「ソディア、箱の中には他に何か入っていませんか?」
言われれば薄紙に包まれていたクマと箱の合間に手紙が入っていたようで、あの時気付かなかったものをソディアが取り出した。
まっさらな少し厚手の二つ折りのメッセージカード。
読みますと言うようにカードを開いたと同時にソディアの視線と重なった。
驚きの色に居た堪れなくなり泣きたくなるも、いつまで経っても読み上げないソディアに痺れを切らしたユーリがそのカードを取り上げた。
そしてユーリまでも口を開きかけての沈黙。
何が書いてあるのかしらないがなんとも言いがたい視線がもう一つ追加された事に居心地が悪く、何が書いてあるか知らないカードに逃げ出したくなった。
だがユーリの手に渡れば隣にいたフレンもエステルもそのカードを覗き込んでいて、少し逡巡するかのように視線を彷徨わせたフレンがカードをユーリの手から取り上げ、ソディアから箱を受け取り、エステルは当然のようにクマのヌイグルミを箱の中に丁寧に収めた。
「これは後から僕から手渡しますので机の上においておきます」
もともと人のよい顔が何処か複雑そうに、でもそれをカバーするような作りは普段とあまり変わらない顔で、数人分のなんとも言いがたい視線を受けながらも誰も何もこの件について触らなかったのがかえって不安を覚えた。

やがて夕闇が近づく頃になると引越しの作業は粗方めどがついた。
個人的な本はエステルに引き取られ、魔道器の記述に関する事は後日リタに検分してもらう事にする。
元々綺麗に片付けられている部屋だが、何処か殺風景になった部屋にフレンのやはりあまり多くは無い私物はあっという間に片付けられた。
そして室内にフレンとユーリとエステルだけが残り、例の箱を複雑そうな顔で俺へと差し出された。
「これはシュヴァーン隊長に」
少し言い苦そうにフレンが贈呈してくれた箱からあのクマを取り出す。
ふわふわもこもこは10年経っても変わらない手触りで、前は気付かなかったが首にはちいさな紅い宝石の付いたネックレスがかかっていた。
と言ってももこもこの毛並みにうずもれていてあまり主張はしてないのがどうかと思うが、そしてフレンはカードを差し出してくれた。
二つ折りのカードを片手で開ければそこには時間の経過と共に薄くなった洋墨の確かなアレクセイの文字。
最初にシュヴァーンへと書いてあり

「今は何かと心細いだろう。これを私だと思って傍に置いて心強くあって欲しい」

アレクセイと署名の入ったカードを二つに折りたたんで目を閉ざす。
居た堪れなさ過ぎる。
ユーリが戸惑いがちにおっさんと俺を呼ぶも、思考ははるか10年前の出来事の中にいた。
あの時最初で最後にみたアレクセイのあの表情の意味を今になって知る。
本人も予想外の俺の反応に驚いた以上に一緒に添えられたカードの一文を考えればそれは当然と言うべき行動だろう。
そしてアレクセイはあの時精一杯の嘘で誤魔化そうとしたのだろう。
何を思ってかは今更判らないが・・・
なあ、ともう一度ユーリに呼ばれて顔を上げた。
「あんたとアレクセイに何があったか聞かないけどさ・・・」
言って言いよどむユーリを見てから手にしていたヌイグルミを箱にしまう。
「折角だからこれは貰っておこう」
ええ?!と驚く三人にこのヌイグルミの昔話をするつもりは無い。
嬢ちゃんではないがそこにはかつてのアレクセイがいて・・・
「おっさんの愚痴でも聞いてもらうわ」
更にええ?!と驚く三人分の声を聞きながらじゃあ一旦部屋に置いてくるわと言って廊下へと足を向ければユーリにおっさん呪われるぞと意味不明の言葉をかけられて失笑しながら部屋を後にした。

でもその夜久振りに見た夢がアレクセイの夢だったのであながち間違いでは無いなと妙な感心をしながらクマのヌイグルミに向って勝手に夢に出て来るなと文句を言ってみた。

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