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なんだかアレシュヴァをよく読んでてなんだかむしょうにアレクセイを書きたくなったけどアレクセイいないじゃんと気が付いた今・・・
気付かなかった事にします。

砂糖物語



団長室に足を運ぶとかつての過去を次々に思い出す。
扉を開けて飛び込む眩い金の髪の甘い顔立ちの若者が不意にその姿に重なる。
思わず息を詰めて忘れた呼吸一拍分の合い間その姿を凝視していれば、新たなこの部屋の主となった若者は聡くその僅かな変化に気付く。
「ひょっとしてアレクセイを思い出しましたか?」
笑顔と明るい口調に思わず返事をし損ねれば、単なるジョークで言った筈の言葉がやけに思い空間へと作り変えた。
思わず視線を外した彼に
「10年も出入りしてたのだ。まだまだなれなくてな」
気恥ずかしく、申し訳なくすまないと謝罪の言葉を付け加えればそれこそ困った顔をされてしまった。
とりあえず早く退出するべく書類を手渡して部屋から辞そうとすれば
「シュヴァーン隊長」
不意に呼び止められて振り向けばフレンはゆっくりと猫足のソファへと足を運び、席を勧める。
「よければ少し昔話をしていただけないでしょうか」
意図が判らないわけじゃない。
だがあまり語る言葉が少なく困っているも、団長に勧められた席を断わるわけには行かない。
しぶしぶと言うように席へと付けば、フレンは私室へと戻り、数分ののちに湯気の立ち昇るカップを二つ手にして戻ってきた。
「良かったらどうぞ」
どんな女の子でもイチコロの笑顔で差し出されたマグカップの中身は匂いから言えば紅茶だろうか。
恐ろしく透明度の低い中身に一つ息を飲んでいれば、差し出した彼はなんでもないと言うように熱い液体に息を吹きかけながらゆっくりと唇に馴染ませるように口へと含んで行った。
さすがに飲まないわけにはいかないだろうと真似だけでもとカップに口をつければ、あるいに想像以上の苦味が口に含まずとも味覚を圧倒した。
絶対にこれ以上は口にしてはいけないと冷や汗を流しながらもカップをテーブルに戻し
「よければシュヴァーン隊長とアレクセイの出会った頃のお話をしていただけないでしょうか」
何で?と疑問が頭をよぎる。
「別にフレン君が聞いて不快じゃなけりゃ構わないわよ」
「是非」
真っ直ぐその翡翠の瞳を覗き込む。
子供の頃憧れた騎士団長と隊長主席の信頼の強さ。
罪を犯していると気付きながらも長い間連れ添った二人の関係に正直今でも嫉妬する。
腹心の部下と言う者がいない新米団長の僕にはシュヴァーン隊長と二人三脚から初めて行かなくては行けなく、あの旅で雲上の人と思っていた人とかなり近付いた気持ちでいたが、やはりかの人はまだ遠い人だった。
少しでも近付けるように、過去を振り返るのはシュヴァーン隊長にとっても辛いだろうがあえて向き合わせる事で隊長をお助けしたいし、何かヒントが隠れているかも知れないと当たり障りない話しを語ってもらう事にした。
「そう・・・ねぇ。人魔戦争前はおっさんしがない一兵卒だから大将との思い出なんてほとんどないからねぇ」
そうなると人魔戦争後となると一つ紅茶を口に含む。
少しだけ難しい顔をしたシュヴァーン隊長は目を閉じて思い出を語るように口を開いた。

「人魔戦争後に小隊長に昇任してもやはりまだ団長との距離は遠くてねぇ、やっぱり気楽に話したりするほど近しい関係じゃなかったのよ。
だけどこいつのおかげで結構気に掛けてもらったりしたわ」
コツコツと心臓魔道器を突付きながらもう過去の事だと気持ちを処理した隊長は笑みを浮かべる。
「実際色々呼ばれて手伝わされるようになったのは隊長に就任してからね。
 任命権はアレクセイにあるのだからおっさんの出世ほどありがたみのないものだとおもう。
 まあ、他の隊長に命じられない事も色々やって来たけど、あれは辛かったわ」
一瞬殺伐とした事を考えたが、目の前の隊長は腕を組んで俯き加減に唸る。
「大将ああ見えてユーリに負けず劣らずの甘党でね、戦争前におっさんよく隊の中で軽食代りにスコーンとかドーナツとか作らされたのよ」
隊の経費は微々たる物。城内の食堂には食事と言うふさわしい物しかなく、かと言って甘味は隊にいきわたるように個人で買うとかなりの金額になる。
そうして搾り出した案が自分で作れなのだが、料理と言うモノはセンスが必要だ。
同じレシピを前にしても恐ろしく出来の差が違う。
興味ない者は真面目に作ろうとしないし、興味はあれど出来上がりの知識を目指せばとんでもないものが出来たり、食事のフィニッシュを飾るだけに繊細なデザートはカレーのように具を適当に切って適当に香辛料を放り込んでこれが我が家の味だと主張するにはいささかデリケートな食べ物だと言う事に気付かされた。
最初の日々は半焼きの謎の物体を口にする事が多く、やっぱりみんなでカンパしておやつは買おうかと言う所で奇跡が起きた。
「みんな見て驚け俺様に感謝しろ!」
「でかした!」
「すごーい!お店で売ってるのとまったく変わらないわ」
俺が作ったカップケーキが素晴らしく美しく焼きあがった。
試食といわんばかりにキャナリが口へと運び、その表情は今更説明するまでもなく最初に焼き上げたカップケーキはあっという間になくなった。
場所が食堂とあってあいつら何やってるんだと呆れる他隊の隊員も、その甘い香
につられて次々と集ってきた。
それが最初だった。
その後は城内に居る時は強引におやつ係に任命され、甘い匂いはいやなのよと口で言うも隠れた才能を発揮していく俺は日々違う菓子を作っては隊のみんなを喜ばせていた。
「だけど、人魔戦争が始まって、俺がいた隊も全滅して、俺が菓子を作るって言う事を知ってる奴もいつの間にかいなくなってね」
少しだけ寂しそうにする横顔にどきりとするもシュヴァーンは話を止めない。
「けど、唯一俺が菓子を作る事を知ってる奴がいたの」
言えば一人の顔が思い浮かんだ。
「アレクセイの奴もキャナリにおすそ分けで何度か貰っていたらしくってね、密かな楽しみにしていた奴の一人だったのよ」
あの顔で・・・と想像するも顔は関係ないよなと驚きを引っ込めれば
「だから隊長になったら夜な夜な呼び出されてね、今日はあれが食べたい、明日はあれを作ってくれってってせがまれちゃったのよ」
そのまま項垂れた頭に少しだけ同情すれば
「夜な夜な呼び出される姿を見られては変な噂は飛ぶし、甘い匂いに耐えながら後片付けして帰る頃には大体朝になってるし。早朝の交代時間に何度か重なって生温かい目で見られること何度かなんてもう考えたくないわ」
早朝に団長室から何処か疲れた表情で戻ってくる姿は確かに何度か見た事あったがそんな真実に何処か安堵してみたりする。
「まあ、あんなおっかない顔してても部下の見てない所ではけっこうおこちゃましてたからねぇ」
そこは沈黙を持ってアレクセイの名誉を守る。
「時々ユーリにせがまれてクレープとか作らされるけど、アレクセイと同じ感じでお願いされちゃうからそのたびにアレクセイを思い出しちゃうのよね」
時々シュヴァーン隊長の背後に張り付いてクレープ作って作ってと傍目を気にせず強請るあの姿をこの団長室で毎晩繰り返していたと想像してさっと視線をそらす。
「アレクセイって結構お茶目な方だったんですね」
「外見と内面は決して一致しないって言う良い例よね」
はーっとどちらもなく重たい溜息を零して苦笑。
「ま、フレン君が異常な甘党じゃなくっておっさん助かったけどね」
「ユーリには僕から言っておきます」
それを最後にシュヴァーン隊長は団長室から退出してしまった。
想像していた話とは違う話しを聞いた気もするが、思ったよりも仲が良かったのではないかと思い当たり少々複雑な思いをしていれば、コツコツと窓の外からノックする音。
振り向いて窓を開ければよ、と手を上げて室内に飛び込む顔は既にお馴染みの物。
「来客だったか?」
テーブルの上のあまり口をつけていない紅茶を見て少し顔を歪めるが
「ひょっとしておっさん?」
「ついさっきまでいらっしゃったけどもう隊舎の方へ戻ったんじゃないかな」
そう言えば小さく舌打ち。
「どうしたんだい?」
何かギルドの方の用事かと思っていれば大した事じゃねえよと笑う。
「久振りにザーフィアスに戻ってきたんだから偶にはおっさんの作ったクレープが食いたいと思ってな」
ここにいねえのならシュヴァーン隊のほうに行かないとな。でもルブランがいるし面倒だなと呟いてよいしょと窓枠に足を掛けるユーリに僕は捕まえて引き止める。
「まったくユーリは今シュヴァーン隊長が勤務時間だって判ってるだろ?」
「ああ?別に今約束だけ取り付けて後で作ってもらえば良いだけだろ?」
「だけど、君のあのお願いの仕方は・・・」
「ああでもしないとおっさん作ってくれないだろ」
別の言い方をすればああすればシュヴァーン隊長が作ってくれると言う事を知ってるという口調。
クレープを目の前に今の俺は止められないぜと言わんばかりに目を輝かせているユーリを止める方法なんて僕は知らない。
だが、ユーリの嫌いなものなら知っている。
「君のお願いの仕方はアレクセイと同じなんだよ」
はあ?と何をいきなりアレクセイなんだと言う顔に向って神妙な面持ちでユーリに言い聞かせる。
「君がシュヴァーン隊長の背中に張り付いておやつを強請ると隊長は同じように強請ったと言うアレクセイを思い出して仕方がないんだ」
「つまり・・・アレクセイと同レベルだと」
コクンと頷けば砂を噛んだといわんばかりの顔で僕を見つめ返しふらふらと窓枠に足を掛ける。
「わりぃ。今日は帰るわ」
言って覚束ない足取りで城の外へと向かって歩き出したその背中を見送りながらそんなにもアレクセイと同じレベルがいやだったのかと思いながら何処かつかれきった背中が見えなくなるまで見送った。

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