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特に誰かお相手がいるわけでもない日常の小話。
フレンはマニアだといいと思います。

風見鶏



月の綺麗な夜だった。
その日レイヴンは騎士団の用事もあってシュヴァーンの姿で下町を歩いていた。
一応下町出身となっているので形ばかりのシュヴァーンの家なんかがあったりする。
と言っても10年前の戦争でその地域一体魔物によって破壊された所なので作りとしては築10年と長い歴史のあるザーフィアスではまだまだ新しい家だ。
ただ、おせいじにも広いとはいえない家は相変らず何もない。
一番安いシーツのベットと食事の為の机と椅子。
僅かな食器は作りつけの戸棚に納まる程度で、食料庫は常に何もない。
同じく作り付けのクローゼットの中には私物は少なく、レイヴンの衣装とシュヴァーンの衣装、そしてどちらでもない時の衣装がある程度だった。
ものがないのはダングレストのレイヴンの部屋と城のシュヴァーンの部屋と同じだが、確かに言える事はどちらの部屋と比べてもこの部屋はさらに何もないと言うことだろう。
久振りに訪れたこの部屋は床に机に薄っすらと埃を被っており、シーツをかけたベットのシーツを剥しゴロリと横になる。
かつての主に与えられた以来誰にも教えた事のない部屋は埃っぽく酷く閑散として静かで、時間が止まった錯覚さえする。
灯りを付ける事もなくカーテンだけを開けて月明りの中で瞼を閉じ、その日は静かにそのまま眠りについた。
それから暫らくの間レイヴンはレイヴンでもなくシュヴァーンでもない姿へと変わり、久しく忘れされられたこの部屋の掃除に専念した。
突如現れた住人に周囲の住人は驚いたものの、周囲に溶け込む事に長けた性格に苦もなく周囲と溶け込み、いつの間にか近所の子供達の警戒心さえ解いて遊び相手になっていた。
子供達の最近の遊びの流行は相も変わらず騎士団ごっこが主流で、新しく若い騎士団長の役を演じるのが大人気らしい。フレンに聞かせれば喜ぶかなとぼんやり考えてきっと照れるだろう顔を思い出しこっそりと笑う。
ちなみに俺の役どころは騎士団長に斬られる魔物だ。
人じゃないじゃんと主張してみても結界の無くなった帝都を魔物から守る騎士団長の姿が子供達には印象が強いらしく、もっぱらやられ役は魔物ばかりだった。
木の枝を折っただけの棒を剣にもうすぐ成長期を迎えるだろう少年を中心に集る子供達の表情は元気で好ましいと思う。
自分にもこんな頃があったかなと考えながら、今日も訪れてきた子供達の相手をするべく裏の小さな空き地へと繰り出した。
最近ではごっこ遊びはなりを潜め、年長者の子供が三人棒切れを持って剣術の訓練の真似事をするようになっていた。
彼らなりに俺が剣をかじっていると言う事を察してか剣技を盗み取ろうとしているだろう姿勢が微笑ましく、でも変な癖をつけないように剣のもち方や構え方の見本を示せば、すぐさま真似をする素直さに自然に笑みが浮ぶ。
それから暫らく付き合ったのちに子供の無限の体力に付き合えないと、マルシェに食料を買いに出ると言って逃げ出すのは毎日の事で子供達もそこで諦めてくれていた。
出来合いの食事とワインを買って家へと戻る。
手には他にも果物とかパンとか両手一杯に食べ物を抱えて机の上に広げる頃また子供達がやってきた。
机の上の食料を見て喉を鳴らすも、持って来た何処で見つけたのだろうかぼろぼろの騎士団の教本を開いて子供達は読み書きを習いに来た。
何でも騎士団に入団するのが彼らの目的で、フレンの下で剣を振るうのが目標だと言う。
思わずクスリと笑いたくなる何処か聞いた事のある話しだなと思いながらも、今まで周囲に文字の読み書きが出来る人がいなかったのか、もうすぐ15を迎えるだろう彼らは必死になってミミズがのたくったような文字で教本を読んでは写し、間違ってないか俺に聞いてきた。
朝は剣の練習の相手、昼は読み書きの練習の相手。
すっかり懐いた物だなと感心さえしながら、食事を終えたレイヴンは大量に購入したパンを切り果物とハムを添えて子供達に差し出す。
数度瞬きし躊躇う子供だが、食べ物を目の前に体が素直を反応してしまうのを見て、きちんとした食事をして体を作るのも騎士の資格だと言って遠慮する子供達に毎日のように強引に食べさせていた。
本当は良くは無いのだろうが、下町は相変らず貧困が当り前で、この子供達の親は片親だったりいなかったり、この近辺の下町の住人が育てている。
これも何所かで聞いた話しだなと心の中で図太く育った子供を思い出しいずれこの子供達もああなるのかと微笑ましく眺めながらそう言う事情ならそこに俺が加わっても問題ないと判断し、多分昨日の昼食を与えて丸一日ぶりだろうまともな食事を掻き込む様に食べる元気の好さに目を細めた。
それから夕方を迎える頃まで読み書きを学び、これから忙しくなる下町の食堂などで働きに行くと言う子供達を送り出して、俺も夜のザーフィアスに出かけた。
城へとこっそりと忍び込んでレイヴンの姿になりフレンに会いに行く。
先日の騎士団の仕事の報告に来たのだが、なんでレイヴンさんの格好なのですかと尋ねられて笑みを作りながらシュヴァーンの姿で調査の仕事なんて調査にならないでしょといえばそうですねと何処か恥かしそうな顔で返されてしまった。
書類に暫らく目をと押したフレンは相変らずの下町の状況に難しい顔をする。
少し改善されたと聞いていただろうが、実際はフレンが暮らしていた下町近辺が改善されただけで、他は一向に変わっていなかった。
ザーフィアスの下町は東西南北と大きく4つに分けられる。
ハルルに向う東側の下町は人の出入りも激しい為に立派なもんさえあつらえていた。
西側の貴族街もある出口は言うまでもなく立派な物で、最近作り出したザーフィアス港へと続く道の整備も兼ねて更に立派な物になっていた。
南側のフレンが住んでいた下町も最近になって漸く設備が整えられ、貴族街とは言わないが、風の吹き溜まりのような淀んだ空気のイメージが払拭されていた。
それほどフレンの騎士団長の一報がこの町の人たちの希望になっているのかと肌で感じてさえしまうのに、一日の大半をザーフィアス城の影で暮らす北側の下町は相変らず陰鬱としていた。
シュヴァーンの住処もこの一角にあるのだが、星喰みの一件がある前となんら変わりのない街の風景にフレンはただ苦しい顔をしていた。
太陽の軌道を変える事もできず、そしてこのザーフィアスの中心でもある城を動かす事もできない。
判りきってはいるもどうする事もできないフレンはどうにかしなくてはと言うも、他にもどうにかしなくてはいけない事が山済みの騎士団では命にかかわらない事はどうしても後回しになってしまう。
とりあえず今回はまだこのザーフィアスにもこう言うところがあると言う事を心に止めておけばいいと助言して団長室を退出した。
それから隊舎の方へと顔を出し、久しぶりの部下との対面と留守の間に溜まった書類を必死に処理をして空が薄っすらと明るくなった頃「後は頼んだ」と書置きをして窓から逃げるように姿をくらまし、まだ寝静まる町の中を下町の何もない家へと戻る。
そう言えばと、あの家を持ってから約10年。こんなにも長い間居たのは初めてだなと妙な関心を覚えながらも、レイヴンの格好からこの家用の、どちらでもない物の姿へと変わり書類仕事に疲れた目を休める為に目を閉じる。
陽の入らないザーフィアス北側の家でも外の世界を瞼の奥で感じる頃とたとたと逸る足音が聞え遠慮なくドアを叩かれたと思ったら転がり込むように子供達がやってきた。
「おはよう、レイン」
ゆさゆさと揺らされて思い出す。
この姿の時の俺はレインと呼ばれていた事を。
ボーっとした頭でその成り行きを思い返す。
知り合った向かいのおばちゃんにあんた誰だいと尋ねられた時少し悩んでオルトレインと名乗った。
普通ならシュヴァーンと言う所だったが、この帝都ではこの名前は悪目立ちしすぎる。ファミリーネームなら何処にでもある名前だろうとオルトレインと名乗ればオルトとレインに分けられてしまった。
どうせ長くはここに住み込まないつもりだったので好きなように呼んでくれといったらいつの間にかレインと定着していた。オルトは言い難いかねえと思いつつも馴染みのない呼び名に反応はどうしても遅れるのは仕方ないだろう。
まあ、嘘をつくよりマシだと、性質悪いと言いそうな少女を思い出して一人笑みを作る。
「早く起きて今日も稽古に付き合ってくれよ」
大分使い込まれた木の枝を剣の様に抱える子供達に引きずられて何時ものとおり裏の空き地へと向う。
マルシェで朝から一仕事を終えた子供達は疲れた顔も見せず棒切れを振るう。
始めた頃よりもまともな持ち方、剣の振り方に口を出すわけでもなく眺める。
威勢の良い覇気と、悪ふざけをしたら二度と見てやらないと取り付けた言葉のとおり真面目に棒を振る姿にいずれ騎士団に入団するだろう姿を想像する未来に笑みを浮かべる。
こう言う子供達が将来フレンの下でこのザーフィアスを支える事になったらどんなに心強いだろうと、用意された俺の分の棒切れの剣を手にして仲間に混ざれば何処からか「キャーッ!」と絹を引き裂くような声。
「俺様の出番か?!」
反射的に振り返ればそんな事無いだろうと子供達の呆れた顔。
だけどその後に続く野太い声が
「魔物が出たぞ!!」
その叫びに手にしていた棒を握りしめて固まる子供達の手を引いて走る。
二つの手に三人の手はつかめない物の、一人がとり残された子の手を掴んで急いで家へと戻り家の扉を閉めた。
カーテンを閉ざして家の外を覗けば狼のような爪と牙をもつ魔物が群を成して結界を失ったザーフィアス北側の下町を物色していた。
既に下町の大半の人達はレンガ造りの家の中に隠れているが、逃げ遅れた子供が道の片隅に震えて座り込んでいた。
泣く事もできず、目の前の恐怖にただただ震える子供に隣にいた子供が「アフィニス」とその名前を呼ぶ。
知り合いかと聞けば妹だと言う返事に舌打ちをしてラグの下に隠してある倉庫を空ければ変形弓と既に矢の詰まった矢筒を手にし
「家の中で隠れていろ!」
家を飛び出した俺に何か叫びだした子供達を置いて弓を構え解放つ。
俺の存在を見つけて早速牙を向く魔物を仕留め、二匹目も眉間を射抜き、子供達の友達だろう女の子を守るように魔物の前に立ちはだかる。
だが、足の早い魔物にすぐに詰められるのを見て家の中から子供の悲鳴が聞えた。
すぐに弓を剣に変えて飛び掛る魔物を跳ね除けるも、女の子を守りながらこの数を裁くのは少し難しい。
とにかく女の子を何処か、例えば家の中に入れる事ができればと思うも、近くのドアの家の中からは幼い子供を抱えたまだ若い母親が顔を引き攣らせながら窓から覗いていた。
とてもかくまうどころか扉を開けられる状況じゃないと舌打をして、背後の女の子を見れば既にパニックを通り越して放心状態になっていた。
この状態を引っ張りまわして戦うのは難しいと、襲い来る魔物を切り倒すも何処から沸いて来たのかしらないが魔物は一向に減らない。
それ所かもう何体倒したか判らない魔物の数に腕がだんだん痺れてきた。
足元には夥しい魔物の屍骸と血溜まりと。
茫然として涙を流す背後の女の子を見てさすがにまずいと魔物を振り払った所で女の子を抱えあげ、そのまま家へと向って走り出した。
魔物の爪に片手で操る剣で受け流しながら何とか家のドアに辿り着いた。
タイミングよく子供達がドアを開けてくれたのを見て女の子を放り投げるも、すぐ傍に魔物が来ていてドアにぶつかるようにして閉めれば右肩に鋭い痛みが走った。
扉の内側から「レイン!」と叫ぶ声が聞こえる物の、魔物の爪の力ならひょっとしたら破られるかもと嫌な予感を振り払うように剣を構えなおして魔物の群の中に飛び込み町の外へと向うように走り出した。
遠くでまた「レイン!」と呼ぶ声が聞こえる物の、すぐに魔物に囲まれついに身動きが取れなくなった。
ザーフィアスの中で死ぬのも悪くは無いなと考えるも無意識に右手が左胸を掴む。
この力を解放すれば一気にかたがつくだろうが・・・と考えて止めた。
折角あの戦争から10年、やっと落ち着いた街にまた大きな爪痕を残すかもしれないと想像すれば剣を構え直す以外今はやる事がない。
どの魔物から飛び込んでくるか慎重に周囲を見回しながら足を踏み出した魔物と目が合ったと思った瞬間と一斉に飛び掛ってきた。
痛いだろうな。
実際はそれ所じゃすまないはずなのだが、やけに暢気に考えながら剣を振り払い自ら倒すべく魔物に順序をつけて飛び込んだ。
無謀だ。こんな窮地の中で笑みさえ零してしまう中、突如あらぬ方向から魔物が宙を舞っていた。
きゃん!
図体に似合わぬかわいらしい悲鳴に魔物達も仲間意識があるのか一斉にその声の方へと向く。
爪と牙を持つ四足の獣が一陣の風となって突如現れた。
ただ魔物達と違うと言うように咥えた短剣を振るいながら、その俊足の足で駆けぬけ、魔物が扱う事のない武器を振るい、確実に仕留めていく中遅れて幾つかの足音がやってきた。
ガチャガチャと金属音の混ざる聞き覚えのある音と、何処までも心強い姿が二つこの薄暗い下町に現れた。
「ユーリ!」
「いきますかっ!!」
そんな短い掛け合いで剣舞でも舞うかのように二人息の合う攻撃を繰り広げる。
突如現れた餌の凶暴な襲撃にさすがの魔物も恐れをなして逃げ出そうとするもそこは既に騎士団によって包囲された区域。
高い壁ともいえる建物を上る翼を持たない魔物は数の暴力によりその数を一つ、また一つ減らしていけば、夥しい地溜まりの中に立つのは人の世界に住む住人だけになっていた。
応援が来て途中から態勢を立て直して退治に加わったもののあまり役に立たなかったなと痛む肩に手を添えれば
「大丈夫ですか?」
見るからに痛そうな傷跡に思わずその整った顔を歪めて救護班を呼び寄せる。
「ったく、あんたも無茶するな」
思わず座り込んだ俺の前に立って呆れたように見下ろす漆黒の若者は何処か苦笑紛れで。
「だけど俺達がここに来るまであんた一人で下町を守ったんだろ?すごいよな」
無謀だけどと口には出さない言葉を聞き取って思わず失笑。
彼は多分・・・と考えたところで近くのドアが思い切り開く音を聞いた。
「レインっ!」
子供達が女の子の手も引っ張りながら慌てて走ってきた。
そのままユーリとフレンを押しのけ
怪我は痛い?もう大丈夫だよ!レインがいたから怖くなかったよ!
くすぐったいほどの言葉が春の雨のように優しく俺に降り注ぐ。
そんな光景に感心したかのようにユーリは溜息を零し
「あんたも子供がいるなら無茶するなよ」
といわれた所でさすがに睨み返した。
さすがにこんな展開を予想していなかったのか少し目を瞠るユーリに
「悪いけど俺様に子供居ないの知ってるでしょ」
呆れて文句を言えば今度こそ二人分の驚く顔が瞠目する。
「おっさん・・・か?」
「シュヴァーン隊長、どうして・・・」
フレンの言葉に魔物の死体処理をしていた周囲の騎士達も作業の手を止めて驚く顔を隠さずに慌てて敬礼をした。
「どうしてって、そこ、俺の家だもの」
言ってさっき子供達が飛び出したままの扉の開けっ放しの家を指さす。
え?と驚く顔が二つ分と思ったら、その周囲の顔まで驚きに振り返っていた。
大人達の、何処か茫然とする中、しがみついてきた子供達は不思議そうに俺を見あげ。
「シュヴァーンって、シュヴァーン隊の?」
三人のうちの一人が驚きを隠さない顔で俺に問い
「シュヴァーン・オルトレイン・・・オルト・・・レイン」
下町では誰もが知る下町出身の騎士の名をポツリと呟き、やっと自分達が大きな勘違いをしている事に気がつき、茫然としていた。
「おっさん、子供相手に騙すなよな?」
「あら?嘘はついてないわよ」
ただ訂正もしなかっただけで、やがて来た救護班に肩の治療を道端で施してもらう。
「それにしても、何でまた変装なんて」
二人の知らない姿に誤魔化された二人も何処かご機嫌斜めになっている。
「変装って言うより一応私服のつもりなんだけど」
白いシャツに黒のズボン、黒のショートブーツはこの下町でも良くありふれた格好だと思う。
「髪型が随分と変わりましたので」
気付かなかったと言うフレン。
確かに前髪を後ろに流し、縛りもしない姿はまだ見せた事はなかったか?と考えながらもいちいち教える必要性を疑ってしまう。
その合い間に治療が終わればフレンがさっと手を差し伸べる。
「ご無事で何よりでした」
差し出された手を借りて立ち上がり
「ありがとさん」
騎士団の長と言うのに相変らず親切なフレンに微笑めば隣に立つ青年に何故か脛を蹴られた。



そんな事件があってからシュヴァーンの家の荷物を運び出していた。
引越しにはフレンとユーリも手伝いに来てくれてあまりにも少ない荷物に呆れながらも騎士団のシュヴァーンの私室まで運んでくれた。
理由は簡単。
滅多にいない家人の家に隠してある武器の発覚と盗難を危惧しての物。
ベットに下やクローゼットの床下から取り出された武器の数にユーリは呆れはて、フレンはシュヴァーンの私物を手にしては何処か興奮冷めやらぬと言う怪しげな状態になっていた。
ルブラン達に頼めばよかったかしらと人選間違えたと少し反省もしながら更に何もなくなった部屋をぐるりと見回す。
一番安いシーツのベットと作り付けの棚に納まるだけの食器。そして相変らず何もない食料庫と、カラッポになってしまったクローゼット。
アレクセイも逝ってしまったし、秘密性もなくなった事だから処分しようかと思うも、入り口からこっそりと家の中を覗く三つの視線。
フレンもユーリもさっきから気になっているようでちらりちらりと振り返っては無言で俺に訴える。
どうするんだよと。
下町で同じように孤児だった二人にとって家族のように接してくれた相手に捨てられるほど惨めで悲しい事は無い。
何とかしてあげろよと言う無言の訴えに俺だってほとんどダングレストに住みついていてこっちには騎士団の用しか戻ってこないんだぞと睨み返すもそんな事は子供達の知った事では無い。
荷物をまとめ部屋を片付けて鎧戸を閉める。
光の差し込まない部屋が更に暗くなった部屋に扉からの光が眩しく写る。
僅かな明かりでも逆行に浮ぶ三つの影は最後まで捨てないでくれと訴える視線。
既に荷物を持って家から出て行った二人の振り返る視線に空いた手で頭をかきむしる。
「ああ、もう!」
叫べば怒られたと思った子供達が首をすくめる。
少し厳しくなった二つの視線が俺を見詰める中、ポケットからこの家の鍵を取り出した。
そしてその鍵を最年長と思ったら三人とも実は同じ年齢だった子供達に押し付け
「おっさん本当に滅多に帰って来ないんだからね!火の扱いだけは気を付けなさいよ!」
言ってタオルやカーテンと言った荷物の入った箱を机の上に置いて閉じた箱の蓋の封を解き、元通りにするのは彼らに任せる。
「とりあえず騎士団に入団するまでだ」
今ひとつ何が起きたか判らないような顔で見上げる子供達との成り行きを見るためにフレンもユーリもいつの間にか戻って来て様子を窺っている。
「俺がいなくても訓練と勉強を続ければ三年後には入団できるはずだ」
ポカンと開いた口の顔を眺め
「それまでこの家の管理を任せる!」
そういいきって急ぐ足でこの家から飛び出した。
今だ何が起きたか判らないと言う子供達に背後で親切に説明をするフレンの声が聞える。
「シュヴァーン隊長は三年後の入団試験の時までここで勉強しなさいと仰ってるんだ。君たちに期待しているんだよ」
「ははっ、おっさん照れてやがるの。耳まで真っ赤だぜ」
ケラケラと笑うユーリの声に更に逃げ出したくなるほどはずかしい思いをしながら、いや、これは恥かしいのではなく照れてるんだと訂正をする。
ここに戻ってくるのはこの先数える程度になるだろうと考えながら、時折この子供たちの様子を見てくれるように青年達に頼む事にしよう。
そしてザーフィアスに立ち寄る際は寄り道してみるのも悪くないなと考えながら手ぶらで身軽になった体で青年達に早く引越しを済まそうと遠くから声をかければ、両手一杯の彼らは理不尽だと喚きながらも、何もないあの家を後にした。


三年後。
すっかり騎士団と縁を切ったつもりでも、嬢ちゃんのハルル、ザーフィアス間の移動のお供の依頼の関係でひょっこりと顔を出す事は今も度々とある。
ハルルで手に入れた本を部屋まで運ぶのを手伝いながら中庭の訓練場をぐるりと回る回廊を歩けばそこでは新人兵士の訓練の真っ最中だった。
初めて剣を扱うのか何処かぎこちない動きの新人兵の初々しさに笑みを浮かべながら眺め、嬢ちゃんの話しに適当に相槌を打つ。
そんな中新人兵なのにやけに動きが良いのが三人居るなと思えば何処か見覚えのある顔。
だけどそれが誰かすぐには思い浮かばないでいれば回廊の奥から遠くからでも判る少しだけ団長らしい貫禄のついたフレンがやってきた。
エステリーゼに帰城の挨拶をし、俺とも久しぶりの再会に丁寧に挨拶をするのは相変らずで何処かくすぐったかった。
そして、
「彼ら、レイヴンさんとの約束どおり三年で騎士団に入団しました」
言われてもう一度振り返る。
一見成長を迎えて記憶の中の顔と変わってしまったものの、じっくりと見ればあの当時の面影はちゃんと残っていて・・・
「ひょっとしてお祝いしなくちゃまずいかしら?」
「今もあの家に住んでいるのでお時間があったら尋ねてみてください」
ひょっとして忘れていたのですかと何処か非難する視線を見なかった事にしてもう一度三人を見れば、ユーリにでも剣の相手をしてもらったのか妙なデジャブを覚える太刀筋にフレンも目を瞑る。
「ユーリを頼った僕にも責任はあります」
癖のある動きに教官に叱られる三人を横目に通り過ぎ、久振りに訪れる事になるあの陽射の入らない家の変化を楽しみにしながら、嬢ちゃんに誘われていた夕食の断りの言葉を考えてみた。

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