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思わぬ駄目おっさんに拍手ありがとうございます!
素敵なおっさんは何処にも居ないと思いますが・・・お付き合い下さい。




花韻 02


突如決まったバイト先は日々戦場だった。
芸術的なまでのゴミが詰め込まれた部屋。
襖を開ければゴミの雪崩警報の発令。
そして既に慣れた何処から現れる黒い奴。

「ここは仕事場だからお掃除しないでね」

そういって時折ちらりと見える仕事部屋だけは山積みになった本で混沌としているもののゴミは一切ないと言う不思議な部屋。
主にそこが生活の場で寝起きもしていた。
犬でさえ自分の住処では粗相しないのだからそりゃそうだなと何とか片付いたキッチンは驚くほど動きやすい動線とカラッポの戸棚。
洗った食器を片付け、一応一通りは揃っている調理器で俺のひと月より明らかに多い予算の食費から料理を作れば、涙を流しながら美味しいと食べてくれて・・・嬉しかったのは確かだが鼻水まで流すのを見てさすがにちょっと引いた。
折角作ったんだからと夕食は俺も食べて行けと言うが、バイトを始めて5日。今だこの男と夕食を共にしたのは初日だけ。
約束どおり9時に鍵をかけて帰るも、一緒に夕食所かこの時間内に帰って来たためしは無い。と言うか、日付が変わらないとかえって来ないらしい。
さすが人生棒に振ろうを社訓に掲げるだけあって中々忙しいようだ。
そんな男、レイヴンと紹介を受けたが、朝は学生より遅いらしくゴミを捨てられないと言うか、ゴミ捨ての日を知らないと言い切った男と遭遇するのはもっぱら朝だ。
ゴミ捨てに来るついでに朝食を作ってやろうかと食費を浮かすそんな下心に親切を装って言えば男は大層喜び、朝6時に起きてバス一区間を歩いてやってくれば案の定男は唯一まともの仕事部屋で眠っていた。
「7時に起きるから」
もし時間が合わなかったら学校行ってねと言われるもここを30分に出れば十分に間に合う。
朝、このマンションに来て山のような洗濯物を洗濯機に入れ、昨日片付けたゴミを集配場に何度か往復して運び、朝食を作る。
ゴミを片付ければなんと広いベランダだっただろうか。既に家主のなくなった鳥の巣を排除してそこに洗濯物を干す頃には7時になっていた。
そうするとあの部屋で電子音の目覚まし時計が鳴り、シャワーよりもご飯と言う男がまだ細い通路を器用に物を避けて通り食卓につく。
感心さえするその器用さに食事を出せば、これまた朝から寝起きの顔でウルウルと瞳を濡らして真っ白のご飯にがっつく光景は安いホラー映画だ。
今日は味噌汁と丸干しの干物を頭から齧っていく姿は・・・さすがになれたけどね。
「そういや青年、今日から新学期でしょ?」
「まあね。今日は半日でお終い。勉強会もないから終わったらみっちりやってやるぜ?ちなみに今日の目標は風呂場。やりがいある」
目地の黒ずみを何とかしてやろうと漂白剤とたわしを購入していた。
風呂を使ってもいいといわれてもあまりの惨状に遠慮していたが、さすがにこれだけハードな仕事場ではこの季節断わるのもバカバカしくなる。
ちなみに開いていた棚・・・どれもカラッポだったがそのうちの一つをキープしてお風呂セットも準備万端だ。
「ユーリが来てくれるようになってからこの家もどんどん変わっていくわね」
どんどん変えて行った男の言葉じゃねぇなと呆れながらも時計を見て食事を終わらせる。
置かしてもらっている歯磨きセットで歯を磨きながら
「戻ってきたら洗うから机の上に置いておいてくれ」
はーいと食後の緑茶をのんびりと啜る男を横目にパタパタと学校の準備をしながら下に降りるついでにゴミ袋を両手に持つ。
「じゃあ行って来るな」
「はい、いってらっしゃい」
シャツと短パンの男は律儀に玄関まで毎朝見送りに来てくれるのを何処かくすぐったくも思うも何でゴミが出せないかは納得できないでいた。


新学期初日は昼前に帰宅となった。
8月で終わったバイト代が入るのはまだ先だけど、レイヴンからもらう給料は毎日日払いの為に財布の中は少し潤っている。
何所かで食べてから仕事に行こうかと考えていればユーリと声をかけられた。
振り向けばそこには少し戸惑ったようなそんな顔。
「なんだフレン?イイ男が台無しだぜ」
学園の王子様的存在の幼馴染をからかうもその何処か不安そうな顔は変わらない。
曇ったその顔で
「バイト、店が閉店したって聞いたんだけど」
「誰に聞いたんだ?」
と言って、俺のバイト先を知ってるのは他には一人だけ。
「エステルか」
「昨日店の方に様子を見に行ったら店先に閉店のお知らせの紙が張ってあって、すごく心配していた」
「ああ・・・」
言うの忘れてたとフレンが王子様なら学園のお姫様的なエステルの心配する顔が容易く想像出来て苦笑。
「大丈夫だよ。新しいバイト先ならもう見つけてある」
「本当かい?」
何処かほっとしたような顔で見返すフレンの声は先ほどより明らかに軽くなっていた。
「まだ慣れてないけどな、でも良い所だと思うから安心していいぜ」
安心させる為にも笑って返しながらバス停に向う。
既にごった返しているバス停に並びながら
「そう言うフレンは受験の方どうだ?」
「うん。校内模試でも無事進学できる予定だよ」
上の大学目指し、特待で授業費免除を目指すだけに気合は十分と行ったところだろう。
「同じ施設出身としては誇らしいな」
「そういうユーリだって・・・やっぱり大学行かないのかい?」
「行くも行かないも、そこまで金ねえだろ」
運営がやっとの孤児院では何とか一人分の入学金までは搾り出せたもののさすがに二人分。しかも学費もプラスされるとなると負担以外何物でもない。
「だけど君だって・・・」
「フレン」
その先は強く名前を呼ぶ事で言わせない。
「大学なんて金さえ貯めれば来年だって入れるんだぜ?そんな顔するなって」
申し訳なさそうに歪む顔を指先で軽く叩きながらやってきたバスに乗る。
「それに目標なんだろ?上の大学行くの」
「それはそうだけどユーリだって・・・」
「フレン」
言って再び名前を呼ぶ。
「目標に努力している奴が行くべきなんだよ」
言ってやってきたバスの最後に乗り込み、外から俺を見上げるフレンに手を振って発車した風景に目を閉じた。

まだ子供の時だった。
物心ついたときには既に施設で育っていた俺とフレンは施設長のナイレンを父親のように慕っていた。
ある日そのナイレンが妙にめかし込んで出かけるのを見て「絶対女だ!」とフレンと二人尾行したのだが、あっさり見つかりしかたがないと言うようにナイレンに出先までつれて行ってもらう事になった。
そこは設備の行き届いた学校で、いくつもある大きな建物のうちの一つの大きな講堂だった。
昔の知り合いと言う男に合いに来たと言うのだが、その場にはいなく、探してくるから待ってなさいと二人をその場に置いて何処かへと行ってしまった。
仕方がないから二人で待っていたものの、その日は暑く、エアコンの効いた場所はスーツを着込んだ大人ばかりの場所に子供は場違いすぎて仕方がなく外で待っていたのだが、この周辺には不運な事に日陰がなかった。
汗をかきいつの間にか朦朧としていれば一人の男が大丈夫か?と手を差し伸べてくれた。
ひんやりとしたその手が導くまま講堂のエアコンの効いたロビーに入れてもらい、冷たい飲み物まで用意してくれた。
喉を鳴らして飲んでいる間に大人たちは講堂に入っていき、いつの間にかロビーの中には俺達を導いた男と三人きりになっていた。
「なぁ、この中で何やってるんだ?」
「学会・・・って言っても判らないか。生物物理学の研究発表会だ。って言っても無理だろうな」
うーんと悩む男は何かひらめいたようにぱっと目を輝かし
「理科をかなりマニアックに研究した発表会と行った所だな」
マニアックな理科なんて意味が判らんとは口には出さないが、男は子供でも判る内容をもう少し幅を広げたわけの判らない話しを子供相手だからと言って適当に話すことでもなく丁寧に、教えるものの落ち着いた声色で物語のように印象に残るように語りだした。
完結にそして飽きるまでもない短い時間の中で男は子供でも判る物理学を俺達に植え付けて、この発展した話しをあの部屋の中で披露してるんだと教えてくれた。
「あんたここの学校の人?」
長い前髪を片側に流した新しいスーツが存外似合ってる男を見上げれば
「ああ、この大学の准教授ってのやってるの」
「サボってても良いの?」
誰もいなくなったロビーに心配げに聞けば男は笑って
「下っ端は会場整備のお仕事よ。迷子のお相手したりね」
「迷子じゃないんだけど」
「すみません。人を待ってるだけです」
フレンと二人訂正すれば男は少しだけ驚きを見せて
「じゃあお父さんはあっち?」
会場の中を指差す先を見てもフレンと二人さあと首を傾げるだけだった。
「それに待ってるのおとーさんじゃないし」
「じゃあお母さん?」
違いますとフレンが首を横にふるふると振れば
「あー、そこにいたのか」
ロビーの奥から手を振りながらやってきた男に三人そろって視線を向ける。
「一体何処行ってたんだよ」
「お帰りなさい」
「おや?シュヴァーンじゃないか」
「ナイレン・・・子供の置いてきぼりは感心しないぞ」
知り合いなのか交わす言葉は何処か親密さを含んでいた。
「いやいや、大将に挨拶に行ってたらつい長居してしまってな」
「もう少しでこの子達が干物になる所だったよ」
そこでやっと二人が持っているジュースに目を止めて悪かったなと悪びれる事無く豪快に笑って見せた。
それから男はナイレンと少し挨拶程度の話しをして用は済んだと言うように帰路へと付いた。
その帰り道フレンと二人、子供でもわかる物理学についてナイレンを質問攻めにし、いつかあのジュースを買ってくれた男と再会を夢見て、子供らしく単純に物理学へと好奇心を募らせ、ナイレンが一度だけ呼んだ名前を忘れないようにと何度もお呪いのように口のなかで唱えながら、その大学の付属の高校へと無事入学を果たした。
尤も俺達が高校に入学した時、こっそり大学の方に探検しに行くもそのシュヴァーンという准教授は既に学校を辞めていたと言うショックな事実が待ちうけていた。
一瞬で俺達をとりこにした話術を持つ男の消失に俺は怠惰な日々を過ごし、フレンは続けていればいずれ再会できるなんて夢物語のような努力をしていたが・・・

バス停を下り、バス停横のファミレスで昼食をとってマンションのエレベータを操作して俺は戦場へと立つ。
この家に来るとまず最初に洗濯機を回す。
この季節一日二回回しても一向に減らない洗濯物の山に頭を痛めて見せるも、洗濯物は片付くわけでもないので半分掃除の開始の儀式のように洗濯機に部屋中に散乱する洗濯物を回収する。一部は洗濯機の横に山積みになっているのだが経る傾向は無い。
今日はもう一回洗濯機回せるなと洗濯物を洗って使うと言う事を知らない男の洗濯物に溜息が零れ落ちた。
そして高層マンションゆえの広い窓のある風呂場の窓を全開に、室内に塩素の臭いが流れ込まないようにドアを閉める。
髪を縛り、ゴム手袋を装備。さぁやるかと脚立にのぼり上から下と言うルールに則り天井から塩素系洗剤を吹き付け、ついでに風呂桶や風呂の蓋も洗剤まみれにした。
塩素が漂う狭い一室から脱出した後は朝干した洗濯物を取り込みたたんで洗面所の戸棚に片付けていく。
はっきり言ってユーリもそれほど洗濯や掃除は好きでは無い。
一週間ほど掃除しなくてもへっちゃらだが、さすがにこの家を見ると掃除しなくてはと使命感に駆られる。
何を踏むか判らない為に購入したスリッパと、いつからあるか判らないコンビニ弁当のゴミを軍手をした手で仕分けていく。
このゴミの山で唯一の救いはレイヴンが自ら調理を一切しなかったことだ。
篭った空気はどうしようもないが生ゴミ臭さがないのが唯一の救いだと自分に言い聞かせて玄関からこのリビングに続く廊下を徹底的に掃除する。
廊下は主に風呂に行こうとして脱いだ洗濯物が脱ぎ散らかしてあるだけだからまだ怪しいものは出て来ないが、脱いだズボンのポケットに突っ込んだ貨幣が時々落ちていてちょっとした宝探しにラッキーと戴く事にする。もちろん後でレイヴンに報告はするが。
学校に出かけるときにはなかった洗濯物を拾って洗濯機横の山に放り投げる。
何処に行ったか判らないと言う掃除機を捜すよりも新たに買ったスタンド方の掃除機でリビングに物を移動するように押しやれば、木目の美しい廊下が現れた。
ただ掃除機だけではくすみは落ちず、固く絞った雑巾で風呂場同様脚立に昇って天井から雑巾掛けすれば初めて訪れた日とは雲泥の差の廊下がそこにあった。
妙な満足感を覚え、玄関に脱ぎ捨てられた靴をやっと開ける事が出来るようになった作りつけのシューズボックスに片付けてやろうと開けた所で頬が引きつった。
「何であのおっさん下駄箱にビールの空き缶なんて片付けてんだよ!!」
スリッパを脱いでも安全な廊下をどすどす足音を鳴らしながらゴミ袋を取りに行く。
何処かビール臭いシューズボックスに消臭剤を置いて缶ビールを片付けるも、仕上がった洗濯機のけたたましい呼び音に風呂場も仕上げなくちゃなと果てしない戦いに少しだけ雑巾にやつあたりをした。

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