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最終話です。
途中何を書いているのか判らなくなりましたが、30近くまで続きました長編にお付き合いいただきありがとうございました。



ダブルセカンド 28


「レイヴンっ!!」

泣き声と言ってもいいその声に襲い掛かる魔物を渾身の力で切り捨ててユーリの元へと駆けつけて崖下を覗く。
両腕を伸ばして空を抱く腕に突きつけられた見覚えのある短剣と、滴り落ちる流れに聞かないでも何が起きたかは考えるより明白だ。
「あっ・・・」
声も無く膝をついて霧のベールを纏う薄ぼやけた眼下に言葉が見つからない。
ましてや自分が作った隙から招いた結果がこんな事になろうとは考えた事さえなかった。
背後にまだ魔物の気配はあるものの、とても相手にする気分にはなれない。
既に無い姿を探すように、その姿を追いかけるように崖下へとのぞき込めば

「何をしているっ!!」

力強い声と共に、すぐ近くにあった羽音が斬撃と共に遠ざかる。
「二人とも早く立ち上がりなさい!」
聞き覚えのあるもう一つの声の出現に力なく振り向けばぼやけて歪む視界の人物が息を飲むのがわかった。
そのまま二人と遅れてやってきたエステリーゼ一行と護衛の一軍によって、魔物は瞬時に一掃されるも、何も言えない僕とユーリにアレクセイはすぐさまイエガーに捜索隊の派遣を命じ、言葉をなくしたままの僕達に何も言わずにエステリーゼが体から痛みが去った後も何度も回復術を唱えてくれた。
アレクセイはこの場をリタに任せ、ジュディスを連れてそのまま崖下へと僅かな足場を頼りに舞い降りるかのように下って行った。

どれだけしただろうか。日はとっくに南天に差しかかり、崖が崩れる音がしたかと思えばジュディスが姿を現した。
そして困惑しきったと言ってもいい顔で今だこの場所から離れられないでいる僕達の元に立てばエステリーゼ様もリタも集る。
「今お父様とイエガー隊長で必死に捜索をしているのだけど・・・」
困りきったというように、位置を確認するかのように崖下を見下ろしながら
「おじさまが見つからないの」
「どういう事よ」
すかさずリタがそれだけじゃ意味が判らないと言うようにいらだたち気に爪先で地面を叩けば
「言葉どおりよ。それ所かおじさまが落下した形跡すらないの」
リタが不可解な問題を目の前に差し出されたかのように少し眉間を寄せるのを見れば、ユーリがはははと小さく笑い声を零す。
ユーリ?と心配気なエステリーゼに向ってユーリは擦れた声で笑う。
折角止まった涙がもう一度溢れ出す意味を僕はまだ知らない。
その後一呼吸も置かないうちにユーリから教えられた意味に彼が二度と触れる事の無い存在となった事を知った。





あれから月が巡り喪失の日がやってきた。
今回もユニオンからの要請でケーブ・モック大森林へと向う。
予定よりも早く復帰したキャナリ隊長と腕の経つギルドを混ぜての混合部隊は相当な戦力となっていた。
中でもアイフリードと言う女性のギルドは本来の活動の場は海にもかかわらず、そんな不思議現象を見る事が出来るのならとサイファーというこっちの方がいかにも首領らしい男を引き連れての参戦は強力な戦力となった。
すっかり笑わなくなってしまったユーリと、口数が減ったといわれる僕も黙々と魔物を倒しながら一月前に見た現象を離れた場所で見る。
あの日は感動に言葉さえ見つける事が出来なかったが、喪失が抜け切らないこの世界ではあの日の感動を思い出す事が出来ない。
すぐ目の前でリタとアレクセイが今回は起動しているコンソールパネルに映し出される情報に二人で額を寄せながら何か言い合っている中、ジュディスはエステリーゼを引き連れてふふふと笑みを携えながらそばに立つ。
「それにしても不思議な現象よね」
確かにそうだが、その言葉の真意がわからず首を傾げる。
「この現象はおじさまの世界の歪みなのに、私達の世界にまで影響しているのよ」
かつて過剰なまでに消費されていたエアルを供給するべく世界はバランスを崩すまでに至った世界からまったくと言ってもいいほど消費されなくなったエアルは異常なまでに溜め込まれ月の引力によって間欠泉の如く溢れ出す。と、かの迷い人は仮説と言う事を前提に説明をしてくれた。
その証拠に回を重ねる事にその噴出す量が減ってるという。
言われてみればそんな気もするが、目に見えるだけがエアルでは無い。
背中を向けた先にも地中からエアルは溢れているのだから。
だからなんだというように近くの木にもたれてこの現象を眺めているユーリの欠伸が聞えた。
代わりにジュディスの言葉にパチンと音を立てて手を打ち鳴らしたエステリーゼがジュディスを見上げて何かに気付いたというように微笑む。
「と言う事はですね、レイヴンも今頃私達と同じようにこの現象を見ているのですね」
思わず目を瞠り、アレクセイまでもが振りむいた。
確かにこの場所にいなくても、別の世界で同じ時間に同じ森で同じ現象を見ているそんな偶然に僅かな細い糸に縋るような繋がりがあるとはついぞ気付かなかった。
立ち昇るエアルの奔流を見上げ
「レイヴンさんは今もこの月を見上げているのかな?」
誰とも無く訊ねれば答えたのはユーリ。
「当り前だろ」
そして俺達の事を思い出して少し寂しく思えば良いと最近耳にしなくなった悪口が戻っていて思わず小さく吹き出す。
ついさっきまで気付かなかった僅かな事で世界に彩を取り戻す。
現金だなと思いながらも同じ事を思ってか口の端を吊り上げるように笑う変な曲がうつったユーリと二人静かに笑い合う。
二度と会う事の無い人に会いたい気持ちは募るばかりだが、それでも会わない方がいい事だってある事を僕達は学んだ。
元気でいるという便りすら届く事の無い距離だけど、目に見えない所であなたとの世界は繋がっている。
いずれ治まってしまうだろうこの現象を僕達と同じように見上げているだろう事を信じてやがて静まった自然現象に背中を向けた。

「さあ、気合入れて帰りましょうか」

すらりと剣を抜いたユーリの腰で、あの日レイヴンさんが唯一この世界に残していった短刀に付いた飾り紐が優雅に揺れた。

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