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本編ラスト!
次、向うの後日談




ダブルセカンド27



今回の魔物の暴走が収まったら・・・やるからな。

まるで死刑宣告を受けるかのようにその言葉を聞いた。
顔に横一文字の刺青を入れた若き首領は言葉の決意とは裏はらにその肩は震えていた。
俺と同じように今だこの喪失を受けいられないでいるハリーにどう応えればいいのかわからないような困ったかのように視線を投げて
「じゃあ、行って来るな」
此処の所ずっと同じ挨拶を交わす相手は手にしていた小さな袋を俺に投げつける。
「今日は満月だ。既に魔物が暴れだしているから気をつけろよ」
魔道器がなくなった今では簡単に生産出来なくなったアイテムを気前良く分けてくれた。
「ああ、俺も勝手に葬式出されたら適わないからな」
ニヤリと口の端を吊り上げて笑えば呆れたようなハリーの溜息を聞きながらダングレストをでる。
橋を渡った所で今回もフレンが騎士団を引き連れて魔物の暴走からダングレストを守るかのように指揮を取っているのを遠めに見ながら手を軽く上げただけの挨拶を送る。
何処か心配気な視線が返って来た物の、騎士団長としての彼は嘗てのように駆けよってくる事は無い。
それでいい。そう思いながら既に魔物の退治に乗り出している魔狩りの剣の面々に途中出くわしながらケーブ・モックの森へと足を踏み入れた。
何度も通った事で多少森が変化しても目を瞑っても辿り着く出来る道なき道を辿り、エアルクレーネへと日が暮れる前に辿り着いた。
魔物は既に逃げ去った後なのか、風に揺れる木々のざわめきしか耳に届かない。
やがて陽も暮れて、夜露を含む空気があたりに満ちる頃、何処か几帳面な足音が近付いてくる事に気付き、その音の方へと僅かな期待を込めて凝視する。

「何故お前がここに」

月の明かりさえ届かない厚い雲に覆われたケーブモックでは僅かに発光するような植物が光源だ。
その中で微かに光を放ち出したエアルクレーネの輝きは貴重な明かりで、その灯りを受けて反射する白銀の髪と血のような紅玉は相手を知らなければちょっとしたホラーだ。
現れて俺の隣で足を止めたデュークは周囲を見回し
「あの男の姿が無いな」
俺にどういうことかとその赤い目がひたりと俺に向けられる。
思わずどう説明すればいいかと考えあぐねていれば
「なるほど。噂は本当だったと言う事か」
いつ耳にしたかは知らないが、まさかデュークにまでこの噂が知れ渡ってるとはさすがに思わなかった。
「あんたでもおっさんの事気に掛けるのか?」
素朴な疑問に感情を一切出さない面立ちは小さくつぶやくような返事。
「前回の現象の後に情報の交換で逢う約束をしていたのだが、ついぞ姿を現さなかったからな」
これはひょっとして怒ってるのだろうかと思うも、やがて始まったエアルを噴出す奔流に目が奪われる。
次第に苦しくなる呼吸に眩暈を覚えた頃、ポンと肩に手が乗せられた。
「ここは危険だ。もう少し離れよう」
見覚えのあるような木の所までデュークに引きずられる様に下がれば、少しだけ呼吸が整う。
ガクガクと震える膝に仕方がなく地面に倒れこむように座れば、今だ立ったままのデュークはエアルの奔流を見上げていた。
おっさんと同じように。
「なあ」
呼びかければ視線だけを俺によこす。
「おっさんもだけど、あんたも何を見てんだ?」
答えるとは思わないものの訊ねてみれば
「エアル」
答えてくれたことには驚いたけど、だからなんだという答えに頭を余計にめぐらせる事になった。
「そのエアルがだ。何だって聞いてるんだよ」
言えば何度か瞬きした瞳は俺を見る。
「聞いてないのか?」
「聞いてたら聞かねえよ」
そうだなと何故かこんな事を納得した顔はうんうんと頷く。
綺麗な顔をしてるくせにこう言う妙なくせはおっさんと同じで気付かれないように小さく笑う。
「かつてお前達がエアルの供給を無視して過剰に摂取した結果、世界は狂い、エアルの調整者でもある始祖の隷長は姿をゆがめられ星喰みとなった」
唐突に始まった言葉に耳を傾けながら物語の冒頭のような話を相槌さえ打たずに黙して聞く。
「消費されるエアルを世界中に必要とする者達の為に世界はその命と言うべきエアルを、過剰なまでに提供し続けた」
搾り取られた結果がコゴール砂漠のような何もない土地だ。
「その結果がタルカロンでの一件」
物凄い勢いで話が飛ばされたような気がした。
当人同士だからわかる簡略に手を抜きすぎも良いとこじゃねえかと呆れるも
「世界は過剰なエアルの提供に慣れ、突如消費されなくなったエアルをその内に持て余していた」
「つまり、爆弾を抱えているような物か?」
そこで口を出せば長い髪を優雅に揺らしながら小さく一つだけ頷く。
「あれだけ搾り取られていたエアルを懸命に提供する為にその内に溜め込んでるのだ。ほんの少しのきっかけで暴走してもおかしくない状況なのに、そのきっかけすら魔道器を持たない我々は与える事が出来なかった」
それ以前にエアルの源泉と言う珍しい観光スポットですら用済みになっている事をここ最近のリタの行動を見ればなんとなくわかる。
誰にも気付かれずひっそりと、いずれ冷めるだろう熱を抱えながら傷口が自然に治るのを待つようにしていればいいものを・・・
「じゃあ、誰かがエアルクレーネを刺激してるって言う事か?」
聞けばその氷のような面は一つ頷き、今にも泣き出しそうな夜でも暗い雲を払った先に見える星が瞬く夜空にぽっかりと浮ぶ月を見上げた。
「知ってのとおり、月の引力は海の満ち引きを促すほどの影響を与える。
 その力が影響を与えるのは海だけか?と問われればそうとも限らない」
「満月か・・・」
思わずポツリと口に出した言葉にデュークは頷く。
「最初は何がきっかけで起きるかわからなかったがあの男がヒントをくれた」
旧知の仲だと言葉の端端に感じはするのに決してその名を呼ばない二人の間に何があったのかは俺は知らない。
少し羨ましくも在り、嫉妬もあり、複雑な思いで二人の関係を考えた事もあったが、きっと今この場におっさんがいてもはぐらして教えてくれる事は無いのだろう。デュークなんてきっと話す事は無いと踵を返して去って行ってしまうなんて姿、目に浮ぶ。
「じゃあ、何を真剣にあんたたちは見てるんだ?」
ここに来て最初の質問に戻る。
今度は話が通ると判断したデュークは薄い唇をそっと開く。
「ヘルメス式魔道器が使われるようになって10年、世界は溜め込んだエアルを満月の日に定期的にエアルクレーネから放出する。
 要求されなくなったエアルを世界が欲する量を求められなくなってから世界はエアルを前ほど溜め込む事は無くなった。だが、それでもまだ調整は上手く出来ていない」
そこまで言われて月に向って手を伸ばすかのように吹き上げるエアルの奔流を見て気がついた。
「前ほど、大量に噴出していないのか・・・」
前回の時はただその圧倒される光景に見惚れていた為にそこまで気がつかなかったが、言われればそんな気がする程度に納得する。
デュークはそれでもかまわないと言うように一つ頷く。
「最初見た時はあの月まで届くのでは無いかと思ったのだが、今ではもうこの程度だ」
エアルクレーネの結晶を包み込むかのように巨木に育った木と見比べるように見上げれば、エアルの奔流の輝きは厚く重い雲を薙ぎ払った程度。
デュークやおっさんが最初見た時はどんなのだったのだと想像して息を飲む。
「エアルの量もだが、この現象が発生している時間もだんだん短くなっている」
やがて治まって結晶石が輝く程度になったエアルクレーネの輝きが治まるのを確認し、くるりと背中を向けて進みだしたデュークの背中に向って問いかける。
「おっさんはこの事知っていたのか?」
4回の検証をしていたと言っていた言葉に訊ねれば
「あの男は既に世界で同時に発生している事も知っていた」
おまけと付け加えた言葉の後に少し首を傾げて
「森の外まで送っていこう」
送って行こうと言うのに先に歩き出した背中を見て慌てて追いかける。
遠くから魔物の足音が津波のように押し寄せるのを聞けばデュークは長年愛用してきた宙の戒典を抜く。
「今の魔物に説得は出来ない。気をつけろ」
「気をつけろと言ってもなぁ・・・」
同じように剣を抜いて構えれば足の早い鳥形の魔物に早速出会ったかと思えばふわりと銀糸が風を含んで目の前に広がったかと思えば瞬く間に銀の流れとなって魔物を倒していた。
あまりの見事な剣捌きに思わず餌食となった魔物を見れば、剣で切られた痕は無い。体液さえ流してなく、胸元の小さな心臓は穏やかに鼓動を打っていた。
まさか、と思ってその後ろ姿さえ美しい姿を見れば、彼にとっては当然の事なのか何の感情を写さない白磁の面立ちはのんびりするなと言いたげなもの。
前におっさんが「楽をさせてもらった」と言っていたが、たぶんこう言うことだろう。
俺達が手を出せば確実に魔物を仕留めてしまう。
デュークに任せれば、魔物はただ一時の気絶だけ。何より魔物に気付くのも、攻撃するのもデュークの方が一呼吸どころか一足も早い。
おっさんが俺達と見比べるのも仕方がないと、相変らずの腕前に実力の差を思い知った。

この一月ですっかりケーブ・モックの案内人になれるまで熟知した俺はこのまま真っ直ぐ森の外へと案内するデュークに声をかける。
「ちょっと寄り道したい所があるんだけど」
言えば訝しげな視線が何だと問う。
「おっさんに挨拶にな」
デュークは知らないだろう。最後に分かれてそこで見つかるはずだった場所を。
あれからもう一月を巡る。
さすがにあの場所所かこの森で見つかる可能性はないと誰もが思い、口に出来ないでいた。
「知らないよりかはいいだろ?」
どういう仲かは知らないが、決して最近の付き合いでは無いだろう人物に言えば少しの考える時間と、何処か寂しげな瞳が小さく頷く。
それを答えとして先を歩けば、白みだした空にはいつの間にか太陽が見えていた。
デュークの戦い方は確実だが酷く時間がかかる為に随分時間がかかったのだなと思うも、仲間達と連れ立って駆け抜けた時よりも随分と楽をさせてもらっている事を皮肉に思う。
あの時あの場にデュークがいればおっさんは足を取られるほど体調を悪くしないのではなかったのだろうかと今更ながらの後悔を覚え、何度も通った事で踏み締められた雑草の一角に出た。
その一角を中心の放射状に行き来した一種類の足跡を見てここかと訪ねる顔が遥か遠くの崖の上を眺め、久振りに見る厳しい顔をする。
木々の枝に視界の端を遮られても、遠くに見える雨雲との距離を考えれば、あの上から落ちてどうなるかなんて想像するまでもない。
その顔が何処か辛そうに唇を噛み締めるのを見れば、懐から手の平に包まれるような小さな酒瓶を取り出す。
ジュディスが何度もこの崖を駆け下りて予測する落下地点にそれを置く。
「今日は珍しい客を連れて来た」
ずっと拒絶していたのに心の何所かで納得していたかのような言葉の使い方で話しかけていた事に気づいて自嘲する。
「あんた前回デュークとの約束をすっぽかしたんだってな。結構おかんむりだぜ?」
ぽつんと置かれた酒瓶に話しかける不自然さに笑が込上げるも
「これからあんたの葬式の準備をしなくちゃいけなくてな、当分逢いに来る事は出来なくなる。なんせ、レイヴンとシュヴァーンの二人分だから。
 レイヴンはともかく、シュヴァーンの事を一月も黙っていてくれたフレンには感謝しろよ」
言ってデュークを見る。
あんたも何か言う事は無いのかと問えば、酒瓶を前に少し考えあぐねるように、墓標でもない物に話かけるのに戸惑うかのように見詰めていた。
そう言えばエフミドの丘にも親友の墓標に向って無言で見詰めていたなと思い出せば、言葉返さない相手に言葉は必要ないのかもしれないと考えてみる。
だが、やっぱり言葉にした方がいいよな、とおっさんがいなくなってから初めて見る弔いの姿に心がツキリと痛む。
こう言う事をこれから見る事によってこの事実を受け入れていくのかなと考えていれば、デュークが不意に顔を上に向ける。
なんだとつられるように視線を同じ方向へと向ければ突如小さなつむじ風と一緒にシルフが現れた。
「デューク気をつけて!空間が開くわ!!」
悲鳴にも似た叫びと共に、空間が開くなんて言葉も意味判らないけど、非常事態と認めて二人して剣を抜けば突如空中に赤い輝きが出現した。
「魔物か?!」
デュークに訊ねるが彼は険しい視線のまま見極めようと睨みつけている。
次第に輝きは大きくなり、やがて現れたその中に俺はもちろんデュークとシルフまでが驚きに目を見開く。

「何でおっさんが降ってくるんだよっ!!!」

思わず叫んでしまった声をスタートの合図に剣を投げ捨てて落下地点へと受け止めるかのように両手を差し出して走りこむ。
やがて赤い輝きが治まっていくと同時にはっきりと見えだした姿の生傷の多さにギョッとして、無事ならば腕ぐらい潰れても良いという気持ちで真下に回り込めば、シルフと名を呼ぶデュークの声と同時に足元から強烈なまでの生暖かい風が俺の髪を巻き上げる。
おっさんの魔術を思い出すような吹き上げる風に落下速度が落ちたレイヴンを無事受け止める事に成功すれば、遠目に見えたよりも傷の多さに驚くも、今出来たと言わんばかりのあふれ出す血の流れに
「おいおい、一体何があったんだよ」
当然のように返事は無いが、どれもこれも真新しい傷痕ばかりでレイヴンを覗きこむ二人も何があったのか想像も付かないという風に歪むデュークの顔は一つの魔術を練り上げた。
「光よ、我が命を照らせ、ハートレスサークル」
魔術の輝きが4回にわたってレイヴンを癒す。
瞬く間に小さな傷口は消え、輝きの中で結わいだ髪を下ろして見つけた一番出血の多い頭の傷口は薄皮一枚で塞がっている状態。
もう一度回復術をかけるものの、それ以上の回復は認められず意識も今だ取り戻さない。
「おい、おっさんっ!」
呼びかけるも反応もせず、ただ弱々しい脈が彼が辛うじて行きている事を証明する。
「くそっ、またこんなにも体が冷たくなってる」
服の上から何度も体を擦れば
「ダングレストへ急ぎましょう」
シルフの促す言葉に俺はレイヴンを背中に背負えば放りっぱなしの剣をシルフが小さな体で持ち運ぼうとするのをデュークが助ける。
「こっちだ」
デュークを促して、ふとシルフに目を止める。
「ダングレストにフレンがいる。おっさんの事頼めるか?」
返事を聞く間もなく彼女の姿が消える。
きっと俺達の想像も付かない速さでこの森を抜け瞬く間にダングレストへ辿り着くのだろう。
肩に乗るおっさんの頭から零れ落ちる弱々しい呼吸に眉を顰めながら急ぎ足で森を急ぐ。
そして先ほどから珍しい事に感情をあらわにしている男は先ほどまでの足取りとは一変し、魔物には傷つけず、ただ容赦なく吹き飛ばして道先案内をする。
ひょっとしてこの男でも動揺し、心配しているのだろうかと考えてほんの少し笑みを浮かべてしまう。
おっさんと何の因縁があるかは知らないが、なんとなく繋がりを見たような気がした。

太陽が南天に差し掛かる頃になって森を抜けた。
驚いた事にフレンが一人迎えに来ていた。
「おいおい、騎士団長様が何やってんだよ」
口の端から泡を吹き出した騎獣の上からやはり息を切らしているフレンは余程慌ててきたのだろう。
デュークの存在に驚いて見せた物の、俺の背中に背負われる衰弱しているおっさんに目を止めて、今にも泣き出しそうな顔で
「ご無事でしたか」
震える声が色々な思いを表していた。
騎獣から下りて流れ出た血の痕や、体中にこびり付く土埃にフレンが眉間を潜めている間に遠ざかる足音においと声をかける。
「いいのかよ、会って行かなくて」
俺の仕事はもう終わりだといわんばかりに去って行こうとするデュークに声をかければ、ふりむいた彼は少し首をかしげ
「なら、回復したら挨拶に来いと」
それだけを言い残してケーブ・モックともダングレストとも違う方向へと足を向けていた。
「挨拶に来いって言っても」
「おっさん二人の秘密のデートスポットがあるんだとよ」
え?とふりむいたフレンにも笑えたが、まだあまり離れていないデュークの肩が一瞬震えた事に笑みがこぼれた。
「それよりも早くダングレストに。シルフから連絡を貰ってハリー達が大騒ぎなんだ」
それだけでは無い。
フレンと同行していた元シュヴァーン隊や、シュヴァーンに尊敬と憧れを抱く騎士達も大騒ぎで、近辺をうろうろしていた魔物をここぞとばかり張り切って退治してるという。
何やってんだかなと思うも、俺だって不思議と何を聞いても心が軽く、眠り続けるレイヴンの重みなんて気にならないほど足取りが軽い。
随分と浮かれてるなと、レイヴンの状況は浮かれるにはまだ早いというのに、とりあえずフレンに騎獣でレイヴンをダングレストに届けてくれと恐ろしく深く眠る男を預け、俺はダングレストまでの徒歩の移動に足を進めた。

それからは色々な事が一度に起きた。
シルフから連絡を貰ったジュディスが凛々の明星の首領を同行しているラピードと共に拾い、その足で回復術のスペシャリストのエステルをザーフィアスで拾う。その折に天然殿下にもおっさんの無事を伝え、盛大に弔うつもりだったおっさんの葬式の準備は急遽取りやめる事になった。
途中アスピオによって引きこもって実験しているリタを問答無用で引っ張り出し、シルフに連絡を受けたパティもダングレストに向っていると聞いて、さすがに荷物運搬のカーゴを取り付けているバウルにこれ以上船を運んでもらう事はできない為、パティ一人を拝借する事になっていたらしい。
フレンに遅れてダングレストに到着すれば町中大騒ぎでまるで祭りのようだと思いながら人垣の出来ているユニオン本部に何とかもぐりこめば、レイヴンは薄暗い自室でフレンとハリー達天を射る矢に囲まれて昏昏とした眠りについていた。
鼾どころか身動きする事もない眠りに不安を込めた視線で見守られて眠るおっさんの異常な眠り方におっさんが戻ってきた事を素直に喜べないでいるようだった。
どうしようと不安げに揺れるフレンに俺は大丈夫だと言い聞かせる。
そんな根拠のない慰めなんて要らないと言いたげなハリーの視線に
「前もおっさんはこんな風に寝ていた。たぶんエアルの影響で参ってるんだと思う」
だから大丈夫だと自分に言い聞かせるようにもう一度言葉を重ね、やがてやってきたリタに今ひとつ根拠のないこの言葉に保障を付けてもらう事でみんなはやっと安心してもらった。
その後はエステルの回復術のオンパレードに、頭部の酷い怪我も跡形無く消し去り、埃まるけの服をジュディスが手際よく着替えさせてくれた。
おっさん目が覚めた時に聞かされたらさぞ悔しがるだろうなと、静かな寝息だけを零すおっさんのベットの足元に腰を下ろし、久振りに揃った顔ぶれと、昨日から寝ていない体を思い出した疲れにみんなの話し声は遠くなり、いつのまにか心地良い眠りに誘われるように意識がなくなっていた。

瞼の向こう側のまぶしさに気付けばベットに横たわっていて、直接太陽の恵みが当たらない部屋だと思っていたのに、見覚えのない天井と、おっさんの部屋のベットとは違う少し上質のベットから覗く空に朝を迎えていた事を知った。
おいおい随分と眠ったなと何処か眠り足りない体を起せばそこに一人の人物が俺に笑いかけていた。
「青年も眠って居る時は随分とかわいい顔をしているのねぇ」
うんうんと頷く久しぶりの声に瞠る目は何処か幻を見ているよう。
「おっさん?」
「おはようユーリ」
何時ものとおり結い上げた頭と何時もの趣味の悪い色の羽織をまとい、浅くベットに腰かける姿はいつからあったものかなんて俺は知らない。
思わず飛びついて抱きしめてしまうのは目に見えるものが真実か確認する為だけでは無い。
あまりに勢い良く飛びついてしまった為に頭上ではがふっと急激に息を吐き出す音が聞えたが、それを無視して思わず確かめるように胸に設置されている魔道器に手を伸ばし服の上から確認すれば
「青年のえっちぃ」
なんてふざけた声は無視して
「ははっ、本物だ」
そのまま頬に手を伸ばす。
相変らずの無精ひげを両の手のひらでその感触を確かめ、覗き込む翡翠の輝きに写る自分の顔が随分緩んでいる事は軽く無視をした。
「生きてる」
「そりゃ俺様の命は凛々の明星の物だからね」
至極当然と言うように吐き出された言葉に守られた約束にガラにも無く感動する。
「みんなにはもう会ったのか?」
一晩中ずっとレイヴンの側に居続けようとしただろう面々を思い出せば
「会うには会ったけど、みんな寝てたから。ユーリがいなかったから起さないで探しにきたのよ」
折角探したのに酷いわと続く言葉に
「なんで?」
部屋で待っていれば俺は会いに行くぞといえばレイヴンの瞳が不意に柔らかく輝く。
朝陽を受けて輝く光沢を増した翡翠の瞳はかつて見た陰りは一切なく、何処までも穏やかな色合いで静かに微笑む。

「ずっとユーリに会いたかったから」

やっと願いがかなったといわんばかりの喜びを含む声音に気付き頬が緩む。
会いたかったのは俺の方なのに、この一月の間に何があったか知らないけどこんな風に求められるとは思わなかったこそばゆさにざらりとした無精ひげの感触から離れられないでいる両手でその頭を、確かな存在をやがてレイヴンを探しに来る足音が近づくまで抱きしめていた。

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