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リハビリ作品その1でフレンの話。
もうちょっとアピールすれば良いと思ってます。



仕事も休み時間にはいり、最近では剣よりも持ちなれたペンを机に置く。
ふーとゆっくりと息を吐き、窓の外の陽の傾き具合にそろそろかと扉が開くのを待つ。
「フレン、ちょっといいか?」
騎士団の服装ではない漆黒の衣服を身に纏うユーリがノックの音と共に部屋に入ってきた。
その背後でソディアがなにやら喚いているけど問題ないよと手を振ったところでユーリが扉を閉めてしまった。
「で、今日は何の用かい?」
問えば、話がわかると言いたげに嬉しそうに口の端がつり上がる。
10日前は髪を切りたいからと言ってやって来た。
ついにこの長い髪を切るのかと思ったが、毛先をそろえてほしいというリクエストに思わず笑ってしまった。
だって今までそんな風にリクエストされた事はなく、ユーリが身嗜みに気を使うなんて想像も付かなかったから笑ってしまうのは仕方ない事だと反論した。
それから数日過ぎたあと貴族街に並ぶレストランの硝子に映る自分の姿をちょいちょいと正している姿を見つけた。
誰かと待ち合わせかな?何て思うもその後僕を見つけたユーリは一緒に城へと赴き、ギルドの仕事としてエステリーゼ様に届ける手紙を持って行った。
副帝になられたエステリーゼ様に何か下心でもあるのかと同行したが、届けた後すぐにお部屋を退出所か、部屋にも入らずその場で別れて、レイヴンさんにも届け物があるからとそこで分かれた。
結局僕の所に来てくれずに帰って行ったと後になって聞いたが、何処かほんの少しだけ寂しさを覚えた。
そして今日現れた彼はどうもあまりご機嫌は良くないらしい。
「何かあったの?」
僅かな機嫌の悪さに相談に乗るといえば、なんでもないと言って
「それよりもさ、買い物に付いて来て欲しいんだけど」
一瞬見せた不機嫌さを誤魔化すように笑って見せた笑顔にとりあえずごまかされておく事にした。


店舗がならぶ店を外から眺める。
ギルドを始めてからそこそこ余裕のある暮らしになったとは思っていたが、相変らずユーリの財布の紐の固さは苦笑を禁じえない。
二つの同じデザインの色違いのマグカップを手にし何がどう違うのか僕にはよく判らないが長い事眺めては唸っているユーリの姿を見れるとは思わずつい笑みが浮んでしまう。
やがて溜息と同時に1個を戻し、1つを僕が持つカゴへと入れた。
「1つでよかったのかい?」
聞けば何処か複雑な顔を浮かべて「まあな」と応えた。
それがきっかけのようにスプーンやトレー、はたまた歯ブラシから店を変えてパジャマやシーツと次々と買っていく。
いくら鍛えているからと言ってもあまりの買い物の荷物の量に
「ユーリ、さすがにもう持てないよ」
と言えば、両手いっぱいのユーリも自分の姿を見て
「買いすぎたか?」
改めて気が付いたと言うように苦笑した。
そのまま店の並ぶアーケードを離れて広場を歩く。
「こんなにも買い込むなんて部屋でも借りたのかい?」
ギルドの仕事で一箇所に定着しない暮らしをしている彼らがついにアジトでを持つかと思ったのだが、どうも違うらしいと想定して聞けば、ユーリは何処か幸せいっぱいと言うように振り向いて笑う。
「ああ、おっさんの家に一緒に住む事にしたんだ」
「・・・」
嬉しそうに笑いながら目の前を通り過ぎるユーリの言葉に一瞬頭の中が真っ白になった。
そのまま城からあまり遠くない貴族街の、貴族街の中ではあまり広いとはいえない屋敷へと足を運ぶ。僕は案内されるままただ付いて来て、ユーリはズボンのポケットから取り出した鍵を使って大きな扉を開け広げてどうぞと招き入れてくれた。
生活感はあまりないものの、俺の部屋こっちだからと二階へと案内された。
二階の奥の下町の見える部屋に見覚えのあるユーリの私物が置いてあった。
「ここが俺の部屋。悪く無いだろ?」
窓を開け広げれば遠くから聞える下町の喧騒と日差しが差し込んできた。
窓から見える風景に目を細めるも、ユーリは今日の買い物を部屋に広げて次々と片付けていき、唯一2つ同じ物を買ったちょっとお高そうな値段の足つきグラスをうっとりと眺めていた。
「ヨーデル殿下から屋敷を賜ったと聞いていたが、ここだったのか」
「ま、ちょっと曰く付きの家だからな。おっさんが管理する事になったんだ」
「曰くつき?」
なんだと問うもユーリは意地悪く秘密としか言わない。
「おっさんもダングレスト行ったり、俺もギルドであまりいないけどさ。
 何か帰る家があるって言うのはいいよな」
幼くして親を失ったユーリは幸せそのものと言う顔をする。
「たいがいおっさんは城に缶詰だったり、ユニオンで居なかったりするんだけど、俺が帰ってくるとおかえりーとかいってらっしゃいとか言ってくれてさ」
恥かしそうに話してくれるユーリの言葉を聞いてるのが辛く
「ごめん。そろそろ仕事に戻らないと」
「あ、わりい。随分連れまわしちまったな」
またあの猫目に叱られるとぼやくユーリに挨拶をして城へと戻った。



書類が並ぶ机に座ってぼんやりと文字の並びを追う。
頭では理解できているはずなのに、整理が出来ない。
ぼーっとしてしまい仕事が手に付かない状態だ。
これは良くないと頭をしゃっきりしようと紅茶を淹れようとすれば、新たな書類を持って来たソディアの悲鳴に漸くこの部屋に彼女が居た事に気付いた。
「フレン団長!一体・・・」
「どうしたんだいソディア?」
彼女の視線が釘付けの茶葉が半分ほど入っているティーポットを別段何がおかしいのか良く判らないが、三分ほど蒸らしてからカップに注いだ。
「あの、渋くはありませんか?」
控えめな質問には丁度いいよと笑顔で返せば少しだけ困った表情をするも
「ダングレストから早馬で伝令が来ました」
小隊長時代から僕を支えてくれる彼女は未だに階級がないにもかかわらずそばで僕を支えてくれる。
「何て?」
「それはユニオンの密書を無事騎士団長閣下にお渡しする為」
突如部屋のドアが開いたと思ったら、元シュヴァーン隊のルブラン小隊長と共に現れたレイヴンさんが真っ白の封筒を持って立っていた。
そのままツカツカと部屋に入って僕の正面をソディアが譲る。
「パティちゃんに頼んで海を横切って来たけど、やっぱり早馬の方が速かったかしら?」
船までの足と船を降りた後の足の違いで負けちゃったかしらと唸るレイヴンさん。
「ま、いいわ。それよりもこれちょっと目を通してくれるとありがたいんだけど」
と、その封筒を手渡してくれた。
早速中身を見れば、ザーフィアス西側の建設中の港で騎士団によって不当に重労働をさせられている民間人が居ると言うもの。
思わず眉を顰めてしまいながら、ソディアにもルブラン小隊長にも見えるようにわざと机の上に置く。
「何でまたこう言う事が起きるんだ・・・」
肘をついて組んだ指の上に顎を乗せ、肺の中に溜まった重苦しい空気を吐き出す。
目に浮ぶのは少し前のヘリオードと言う新興の町。
餓えと過労で次々人が倒れていく様を目にしたばかりと言うのに、また同じ事が繰り返されている。
前回はアレクセイの指示の元行なわれていた可能性もあったが、今回は完全に僕の監督不行き届き。
立ち上がり、壁にかかる剣に手を掛けてソディアに向かって
「救援と制圧の準備を」
命令を下せば
「ああ、港町だったらパティちゃんとおっさんで問題解決してきたわよ」
重々しく吐き出した言葉の後に何の気兼ねなくポンと差し出された結果報告に一拍おいて
「さすがですレイヴン隊長!」
「でしょ~?」
あまりの仕事の早さにもっと誉めてと笑うレイヴンさんにルブラン小隊長は感涙と言わんばかりに涙を流す顔とソディアのポカンと口を開けた顔を見比べて苦笑してしまうも
「ありがとうございました」
「実はユニオンの仕事なのよ。気にしなくていいのよ」
結い上げる頭の後ろで腕を組んでニヤニヤと笑うシュヴァーンの時にはしない笑い方に笑みを浮かべて
「ですが、遅れ馳せながらソディア。行ってくれるね」
頼めば、彼女は子気味良い返事と共に部屋を後にした。
「じゃあ、おっさんもハルル経由でダングレストに戻らないといけないから、またねー」
「レイヴンさん、お話が」
ルブラン小隊長を引き連れて帰ろうとしたレイヴンさんを呼び留めてしまう。
「?」
何かまだあったかしらと言う顔で首を傾げる彼に
「ちょっと、その・・・相談したい事が」
レイヴンさんはそのままルブラン小隊長と視線を合わして、彼は「では、私は先に失礼させていただきます」と気を利かせてくれた。
二人きりになった室内では、レイヴンさんはソファーにでんと座り、僕は新しい茶葉に変えた紅茶を淹れる。
薄味の志向を持つレイヴンさんに合わせて茶葉をポットの1/3ほどに留め、時間もいつもより短くした。
薄いのでは無いだろうかとまだ赤の残る液体の紅茶を差し出せば、レイヴンさんは一口だけ口をつけた。
「ねぇ、フレンちゃん。お茶の淹れ方って知ってる?」
何故か小声で口をすぼめるようにして飲み込んだ言葉の意味が判らないでいれば、まあいいわと言葉が続き
「で、相談って何?」
指先を温めるようにカップを両手で包む。
何処か深爪気味の丸い指先を眺めながら
「いえ、たださっきユーリに会って聞いたのですが、なんでも一緒に住んでるとか・・・」
「ああ、あの家の事ね。青年、いいお嫁さんになるわよ」
からからと笑うレイヴンさんの言葉に僕はびっくりする。
「あの、いいお嫁さん・・・とは」
どういう意味かとレイヴンさんに聞けば、彼はにやにやとした笑みを浮かべ
「掃除洗濯食事も出来て美人さん。これがヤローじゃなきゃ完璧」
やれやれと頭をふる。
それには深く追求する事無く笑って相槌を打つ。
「ま、俺様は相変らずダングレストに行ったり来たりの生活だし、居たとしても城にこもりっぱなし。
 陛下からの賜り物だから放って置くわけにも行かないからね。誰か適当に様子見てくれる人がいてほしかったわけなのよー」
と、グルリと視線が天井を見たかと思えば、気が付けば目の前にレイヴンさんの顔が突然現れてる。
「う、わあぁっ!」
「ふっふっふ。ひょっとしてフレン君はおっさんが羨ましいのかな?」
顎に手をあて楽しそうな笑を浮かべながら覗く視線を避けるように視線をそらせ
「いえ、その、ユーリが物を片付けるなんてちょっと想像できなくて・・・」
最後は声にならなくてごにょごにょと尻すぼみになってしまう。
「その点はおっさんも同じ意見よ。
 でも折角綺麗にしてくれるのにおっさんほとんど居ないからちょっともうしわけないかなーって。
 青年の親友君。良かったらたまには様子を見てくれるとおっさん助かるんだけど」
お願いとウインク一つが飛んできた。
「そ、その、そんな事でよければ・・・」
ほんと?おっさんうれしい!と、それこそ矢継ぎ早によろしくされてしまえば、レイヴンさんは
「じゃ、これからハルルに行くから青年の事よろしくね」
ひょこひょこと体を揺らしながら、でも足音を立てる事無く部屋を出て行ってしまった。
扉が開いた際廊下に控えていた騎士の鎧がガチャリと敬礼の音を奏でるのを聞きながら扉は閉まる。
とたんに静かになった室内にもの寂しさを覚えながら今日はきっと手に付かないだろう書類を放棄し席を立つ。
そのまま窓辺により開け放たれていた窓からぼんやりと外を眺めていれば暫くして城を出たレイブンさんが見えた。
シュヴァーン隊の方達もつけずにハルルへ向う一人旅の危険性を心配しながらも僕は大きく息を吸う。
「レイヴン隊長!」
突然呼ばれた騎士団には在籍のない名前にレイヴンさんを始め、周囲に居た騎士達まで僕を見上げていた。
「今ならユーリが家で待ってます!」
手をブンブンと振りながら、こんな子供じみた行動は久しぶりだと笑みがこぼれてきてしまう。
だけどレイヴンさんは何処かくせなのかテレたように頭をガシガシと掻き毟り、その手を大きく振って返事をしてくれた。
だが、次第に迷うように宙を彷徨い
「フレンちゃんも仕事にケリが付いてるならいらっしゃい」
同じように大きな声で返された言葉。
「待ってるから、帰るわよ~」
威厳に満ちたシュヴァーン隊長ではなく、どこまでも長閑なレイヴンさんの声は僕を呼ぶもの。
考える間もなく
「今行きます!」
派手な音を立てて窓を閉め戸締りをする。
きっと明日戻ってきたソディアが見たら進んでいない仕事に驚くだろうが、今はそんな事にかまっていられない。
部屋の前に立つ兵士に「お疲れ様」と声をかけて何か喚いてるのは明日聞く事にする。
途中すれ違った見回りの騎士達が酷く驚いて僕を見ていたけど、僕の意識はもうここには無い。
西日の射す陽だまりで僕を待ってくれていたレイヴンさんは少し息が上がった僕に苦笑混じりで息が整うのを待ってくれる。
「んじゃ、帰ろうか」
「はい」
城の正面門の長い階段を下りながら、レイヴンさんは今日はハルル行きを諦めるからマルシェで買い物をして行きましょと誘ってくれた。

もちろんユーリの分も忘れずにと付け加えて。

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