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空に向かって手を上げて
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次、本編ラスト!
やっとここまできたよ!




ダブルセカンド 26


想像よりも魔物が集ってきた。
余程腹でもすかせているのだろう。
次々とお襲いかかってくる魔物を薙ぎ払うも、返り血を浴びた手は既に疲労困憊になってきている。
すぐにエステリーゼが回復の呪文を唱えてはくれるが、既に体力の回復とかそういう次元ではなくなってきている。魔術で癒す事の出来ない精神的な疲労がずしりとのしかかっていた。
アレクセイはさすがと言うべきか少し息を乱しているものの、僅かな気合と共に終わりのない魔物の相手をしているが、俺はさすがに息が切れ途中から魔術で対抗させてもらっている。
荒々しく肩で息をするフレンの背中に守られて、どうすればこの魔物の群を突破出来るか考えるもいつの間にか追い詰められるように背中側の崖を見下ろす。
上手く下りる足場を見つける事が出来れば良いのだがと眼下に広がるケーブ・モック大森林を見下ろしながら空中から襲い掛かる魔物に残り少ない矢を放って手持ちの矢を総て失った。
少しでも身軽になるために矢筒も崖下へと放り投げれば、それを見てかアレクセイがタイダルウェイブを発動させた。
大気中の水分が集い、視認したかと思えば逆巻く水流となって具現化する。
その勢いに飲まれた魔物達の悲鳴を聞きながら
「この隙に移動するぞ」
アレクセイの魔術のおかげで一角に魔物が居ない場所が切り開けた。
空中から舞い降りたジュディスと共にダングレストへと向うように足を運べば後方を守るフレンとユーリが静まった魔術から追いかけてくる魔物を相手に剣を振るっていた。
追いかけてくる魔物を押さえ込むように戦っている為に次第に距離が開いていき
「すんません。二人の援護に行って来ます」
さすがにこれだけ離れるとアレクセイも気にしていたのだろう。
行けとも行くなとも言わず、無言の視線に小さく頭を下げて踵を返した。

来た道を戻るようにほんの少し走れば、二人の息のあった剣技が飛び交っていた。
行きの元気の良さはもう何処にもなく、ただ黙々と剣を振るう姿の雄雄しさに目が奪われる。
俺の目の前では女の子ならイチコロのとろっとろの笑顔を振りまいたり、猫なで声で俺の名前を呼んでみたり随分騙されたわと思いながらその技を眺める。
何処かアレクセイにも似た太刀筋がちょっと頂けないが、阿吽の呼吸と言う物だろう。隙を作っては仕留め、魔物の繰り出す凶暴な一撃に足を取られてはすかさず体制を整えるためのフォローが入る。
まるで良く出来た寸劇でも見ているような立ち振る舞いは拍手でも送りたくなるような呼吸の良さだ。
斬撃を飛ばしながら魔物の足をすくい、それにフレンが体重を乗せて切りつける。魔物もたまったものじゃないなと少しだけ同情しながら魔力を練り、触れれば砕ける繊細な氷の結晶を思わせるようなイメージと共に紡ぐ呪文がそんな心許無さを払拭し巨大な力として具現化させる。
「インヴェルノっ!」
ユーリとフレンの死角から現れた巨大化した昆虫のような魔物の足元にそれは出現する。
急激に周囲の気温が下がってか、魔術に触れる機会の多さも手伝って何が起きたのかすぐさま理解しただろう彼らは背後で突き上げるように出現した氷柱を見上げ、魔物と共に砕かれていく様を呆然と見ていた。
「足を止めるな、魔物から目を反らさない」
背中をあずけながら戦っていた二人の間に収まるように飛び込めば驚いた瞳が向い入れてくれた。
「何でレイヴンがっ!!」
「あなたは森を出て休息を取るべきです!!」
心臓魔道器の不調を思っての行動なのだろうが
「この面子で重要なのは、アスピオからの使者の無事と同行しているエステリーゼ様の御身の確保、騎士団長の帰還だ。
 記憶喪失のおっさんが不慮の事故で居なくなろうが騎士団には問題ないはずだろ」
平民出身の小隊長の一人や二人いなくなっても騎士団には代わりはいくらでも居る。組織とはそういうものだとは口には出さず、先ほどのアレクセイの魔術のおかげで数の減った魔物に剣を向ける。
「そうかもしれないけど」
ユーリが子気味良い気合と共に斬撃を飛ばせば小型の甲虫型モンスターが鈍い音と共に巨木の幹にぶつかった。
「あんたの帰りを待ってる奴が居るんだろっ?!」
左腕が大きく魔物を薙ぎ払った勢いと共に揺れる漆黒の長い髪の後姿にその姿が重なる。
この世界で出会った頃は子供っぽさが残るどこか可愛げのある若者だったはずなのに隊長代理を経てこの修羅場に一人前の男に育っていた。
思わぬ成長振りを目の当たりにしてニヤニヤと口元を緩めてしまえば、何処か照れたような顔が文句を言う。
「な、なんだよ!」
こんな時にいきなり笑い出してとは小さく呟く事で聞えないと思っているのだろうが、ちゃんと俺には届いている。
そこはあまり突っ込まずに
「いい男が男前に育って嬉しくないわけないだろ?」
言えば、驚いたように目を見開き、慌てて同様を隠したような顔で
「だったらこのまま俺の成長を見ててくれよ。もっといい男に育つぜ」
と言う科白にはさすがに吹いた。
「自分で言うかなぁ」
さすがのフレンも呆れてはて困っていた。
「こう見えても有望株らしいぜ?」
「言われなくても知ってる」
既にダメージを受けていた魔物が再度襲い掛かってきた所をユーリは剣掴んだまま握り拳で吹っ飛ばしていた。
そのまま魔物が沈黙を保てば、いつの間にか周囲に魔物は居なくなっていた。
周囲を見渡しても魔物の姿はなく、折りたたんだ剣を収めればユーリも周囲を確認しながらお疲れさんと労ってくれた。
「怪我は?」
「もうへとへと」
疲れたと笑って、アレクセイ達と合流しなくちゃと考えれば何処からか虫が高速で羽根を羽ばたかせる音が近付いてきた。
何処だ?と周囲に視線を飛ばせば
「うわっ」
フレンの声にユーリと共に振り向くも、既にその足は駆け出していた。
力任せに体当たりされた甲虫に吹き飛ばされたフレンに遅れて俺も駆け出す。
ユーリがフレンに手を伸ばしながら駆け寄るもその体は既に魔物に吹き飛ばされた先、切立った崖の外に弧を描きながら放り出されていた。
「フレンっ!!」
ユーリの悲鳴が森に木霊する。
ユーリ、と唇だけを動かして今だ自分の状況が判らないのかフレンは自由の利かない体で懸命に振り向く。
ユーリともう一度唇を動かし、何処か恐怖に駆られ泣き出しそうな顔はやがてその身に起きるだろう未来を予感した物。
崖のギリギリの所で体を乗り出すかのように手を伸ばすも僅かに届かぬ距離に躊躇いはなかった。
漆黒の髪がすれ違う僅かな風圧で揺れるのを視界の端で捕らえる。
届かない一歩を踏み出し、掴んだ手を心臓魔道器の出力を上げて渾身の力で引き戻す。
青空と思っていた瞳だったが、それを映す凪いだ海だなとこんな時だと言うのに暢気に訂正をしていれば、彼はまるで信じられないと言う目で俺を見るので思わず微笑み返す。
ガラじゃないがこう言うのも悪くない。
次第に重力に引き摺られるように遥か遠くの地上への浮遊感に包まれれば、左の手首に熱が繋がった。
「何、やってんだよ!」
肩に鋭い痛みが走ったと同時に浴びせられた罵声に声のへと振り向けば、わずかに繋がった熱はユーリの手の熱だった。
今にも泣くのでは無いかと言う顔で怒られてしまい、なんて返せばいいのか判らないが
「フレンは?」
「とりあえず無事」
そして俺もユーリに助けられて無事と言う事にほっと溜息を零せば、ユーリは無理に笑い顔を作って
「無茶するなよ」
「いやあ、フレン君に何かあったらおっさんどうしようって思っちゃってね」
「ですが、それでレイヴンさんに何かあったら僕は立ち直れません」
ガチャガチャと鎧を急ぎ足で鳴らしながら崖の下を覗きこんだフレンの目は青空と言うよりも何処までも澄んだ海の色だった。
軽くパニックに陥ったように何処か目元が赤くなっているようだが、どこまでも穏やかな瞳に安心をするも、また新たな羽音が聞えてきた。
「マジ、かよ・・・」
振り向くユーリのつぶやきと共にフレンが急いで俺を引き上げようとするも
「フレン、頼む」
それよりも魔物が襲い掛かってくる方が先だと判断したユーリはこの場をフレンに任す。
暫らく逡巡するも、唇を噛み締めながらフレンは背後から襲い掛かる魔物へと立ち向かって行ったすぐ側で斬撃の音がする。
「何体いる」
「さあ、ただ両手で足りないのは確かだな」
その数に頬がひくつくのが嫌でもわかる。
ユーリ同様ここに来て急成長を遂げているとは言えど、一人で裁ききれる数では無い。
ユーリがいれば何とか切り抜けるだろうが身動きとれない二人を守りながらではさすがに分が悪い。
「くっそ・・・」
人一人を引き上げるのはさすがにキツイ。しかも背後で魔物に苦戦しているフレンと、いつ襲い掛かられてもおかしくない状況に焦りも生まれる最中にフレンの防御を突破した魔物がユーリを襲う。
「ユーリ!」
フレンの悲鳴と同時にユーリの声にならない悲鳴が上がる。
背中に体当たりをされた衝撃に掴んだ手が一瞬緩み、手首から手へとユーリの熱が移動する。
そしてもう一度魔物に体当たりされるも、今度は耐え切って見せた。
見せただけ。
衝撃に地面に頭を打ち付けてゆるゆると血が流れ出していた。
「ここまでだ」
フレンが確実に数を減らしてくれているのは気配でも判る。
だが、その前にユーリが魔物の餌食になるのは考えないでも判る。
仮令、もし耐え切ったとしてもだ。
今負った怪我で彼の未来が変わる事があれば、彼から剣を取り上げるような事になったら俺はきっと耐えられないだろう。
何を言っていると言いたげな瞳にちょっと困ったように笑みをむけ
「ユーリがフレンを助ける。当たり前の事だろ?」
「じゃああんたは・・・」
どうなると口に出す事の出来ない言葉を飲み込んで俺を睨みつける。
「一つ賭けをしよう」
ぽたりと額に一滴の雨が降った。
「俺はこっちに来た時、こんな崖から落ちた」
歪む口元にぷつりと小さな赤い珠玉が浮ぶ。
「君がフレンを助けてこの崖下に俺を探しに来たとする」
はたはたと雨が生まれる場所に微笑みかけ
「無事助かったとしたら、俺の秘密を教えてあげる」
「あんたに、秘密なんてあるのかよ」
精一杯の強がりの口調は見事失敗しているが、本人はそんな些細な事を気にせず、次第に痺れていく腕で力強く握り返す。
その力強い手の力に微笑を返し
「フレンを助け崖下に俺を探しに来た時俺の姿が無かったら、無事帰る事が出来たと喜んでくれ」
腰に差した短刀を抜き逆手に持つ。
「無理だっ!!」
バランスを取るように自分の体を支えていたもう片方の手が俺を捕まえるよりも早く、振り解かれる事が無いだろうその手に切っ先を突きつけた。
手甲の縫い目の隙間に刃を付き立てれば痛みの反射にユーリの手がついに離れた。

「レイヴンっ!!」

悲痛な叫びにあの日がよみがえる。
ユーリに何度同じ顔をさせれば気が済むんだとそれだけを後悔として胸に収め、突き出した崖に体を打ち付けたと同時に意識を手放した。

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