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空に向かって手を上げて
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お、お久しぶりの更新です。

一気に連続してあっぷします。



ダブルセカンド 25



腕を掴む手の力が痛いくらいに込められる。
その手の持ち主を見れば、何処か悲しげな瞳が揺れていて放してくれとは言い難かった。
アレクセイもフレンも判っていたと言う様に唇を噛み締めて初めから判っていた別れを迎え入れる決意を作っている。
「で、どうやって別の世界に帰るつもりよ」
腕を組みながらとたんに暗くなった空気を無視するかのように常識的には考えられない帰還方法を模索する俺にストレートに尋ねるリタに
「そうね。デュークを探してみるわ」
此処の所考えてた幾つかのうち、可能性としてありえそうな筋で試す事にする。
間違ってもこっちに来た方法で帰る事は出来ない。
と言っても、こちらの世界にも彼がいればと言う事が前提だが、
「デューク?デュークなんかに会ってどうすんだ?」
どうやらこっちの世界にもいるらしい。少し安心した。
「デュークってわけじゃないんだけどね、奴さんのお友達のエルシフルさんにちょっと話聞いてもらおうかな?ってね。
「エルシフル?始祖の隷長の?」
「よくは知らないけど、デュークを見ている限りかなり聡明な方みたいだからね」
ヒントになるものがあれば良いと思うのだがと思うも、それよりもまずは神出鬼没のデュークに会う事が先だと彼の行きそうな所を頭の中の地図に思い浮かべれば
「デュークに会うならまずはお城ですね」
エステルの提案にアレクセイも頷いた。
「城に戻ったからってあの引きこもりに逢えるとは限らないだろ?」
引きこもり・・・引きこもりってあのお外出るの嫌だとか言うあれか?
「ユーリ、引きこもりは無いんじゃないかな・・・」
「じゃあ他になんていうんだよ」
「うーん、人見知り・・・かな?」
「あんなの引きこもりで十分よ」
フレンのフォローをばっさりと切るユーリとリタにアレクセイは沈黙を持ってデュークの名誉を守った。
「レイヴンの所では違うのですか?」
エステルの好奇心はこちらの方がオールマイティーに発揮されるのだろうか、輝かさんとする瞳を俺に向けるので放浪癖のあるデュークの話しをする。
「何でも昔は騎士団に居たらしいんだけど、規律とか組織とかが肌に合わなかったらしくってね。皇帝家に繋がる大層なお家柄なのに、家も名誉も総て放り出して旅をしてるわよ」
それ所か人が居る所にすら近付かない。と言うか、人間のお友達も居ないような気がする。
最後の目撃情報はタルカロン付近だが、エフミドの丘で待ち伏せすのが彼に会う一番高い遭遇率だと思っている。
「あいつが旅ねぇ・・・」
想像つかんといわんばかりにユーリは頭をめぐらせているが
「剣の腕は超一流だからね。剣一本でふらふらしてるわよ」
「楽しそうだな」
「うちんとこのユーリも似たようなものよ」
へえと言って好奇心をごまかそうとしている物の、本性はやはり自由気ままなようで黒曜石のような瞳を何処か輝かせているユーリひ思わず微笑んでしまえば
「こっちのユーリはこれでも将来有望な人材だ。あまりそそのかさないでほしいな」
「そそのかすにももうちょっと腕を挙げてからじゃなきゃとても誘えないわ」
「えー」
ユーリの不満を笑って誤魔化す。
騎士団の中では確かに強い物の、やはりこのケーブ・モックでの戦いを見てるとひやひやする物があった。
せめて背中をあずけられる存在では無いと・・・安心して旅をする事ができない。
かつてザウデで彼を失った一時を思い出す。
魔核が落ちた混乱の中失った姿にこの失ったはずの心臓が止まるかと思った。
更に血糊の付いた短刀が落ちていて、挙動不審の女騎士がはるか遠くの地上を眺めていた。
あのあとシュヴァーンは死んだと自ら口にした言葉を反故するように、可能な限りの彼の権力を駆使してユーリを探させたものの見つからなかった時の焦りはまだ特別な感情さえなかった時でさえ混乱を極めていた。
ユーリなら大丈夫と何度も繰り返される仲間の言葉に支えられながら、多忙を極めるギルドの仕事で忙殺されればひょっこりと何もなかった顔で彼は現れたのだ。
あんな想いは二度と御免だと思いながらも今度はそれを俺が演じる・・・事が出来るだろうか。
だが、落ちる瞬間を彼らに見られている。ハリーやフレン達にも伝わっていてとっくに葬式でも上げられていて立派な墓でも立てられているのではないかと苦笑。
そして、伸ばされた彼の手が空を切ったあの瞬間の顔を思い出す。
彼は今どんな気持ちでいるのだろうか。
苦いものが広がって思わず手に力が篭ってしまった俺に同じ顔と同じ声のユーリが
「どうした?」
と心配げに見上げていた。
「なんでもないわよ」
誤魔化して見せたけど彼はまったく信じない目で俺を見ていた。
「まあ、それよりもデュークに逢って、エルシフルさんを紹介してもらわないとね」
ゆっくりと立ち上がり、足に確かな力が伝わるのをたしかめながら、羽織についた埃を叩き落とす。
「大丈夫か?」
アレクセイが心配げに見下ろしてきたが、体はまだ重く感じる物の歩けないほどでは無い。
「まあ、大丈夫じゃないかしら」
経験からもまだ幾度かなら大技も繰り広げられる。
だが何か言いたげな紅玉に居心地の悪さを覚えるも
「さあ、また魔物が集る前にさっさとケーブ・モックを抜けちゃいましょ」
もう少し休んでいっては?と言いたげに見上げているエステリーゼの視線を避けながらユーリに結界を片付ける手伝いをさせる。
「あと何日かは森の中は落ち着かないんだから、魔物達が餓えないうちに森を出るわよ」
弱くて高たんぱくな人間は魔物にとって絶好のご馳走だ。
この騒動に餌場も荒れ、エアルの恐怖に晒された魔物は極度の空腹になるのは時間の問題。
ザーフィアス目指して帰りましょうと言う意見には誰も反対は無いのだが・・・
「ちょっとお、みんな暗いわよ」
特にヤロー三人組み。
デュークにエルシフルさんを紹介してもらって帰ってユーリに会うんだからねと意気込む俺とは別に彼らはのそのそと結界を片付けていた。
「んもう、みんな気合が足らないんだから」
「みんなおじさまを心配しているのよ」
少しずつ距離を近付けてくれるようになったジュディスちゃんに
「おっさんはジュディスちゃんが怪我をしないか心配です!」
賭け値なしの本音にどごっと久しぶりの頭に痛み。
「ジュディスに馴れ馴れしくするなって言ってるでしょ」
必殺リタの本の角っ子の傷みに思わずしゃがみ込んで患部をさする。
「それ反則だから!本気で危ないから!!」
言うも既に知らん顔でエステルと会話を楽しんでいる。
こんな所まで似なくていいのにと思いながらも不意に影が落ちた。
それと同時に一房の深い影。
見上げればユーリが覗き込んでいた。
「なぁ、レイヴン」
「なあに?」
まだ痛む頭部をさすりながら何処かそらされた視線に何かいいにくい事かと思って黙って頭をさすりながら待てば
「どうしても帰らないといけないのか?」
思わず擦る手を止めてしまった事もあり、そのまま顎に手を持って行き
「そりゃあね。俺様の帰りを待ってる奴らだって居るだろうし」
「こんなにも長い事行方不明になっててか?」
ひたりと黒曜石の持つ鋭い輝きが俺の不安に切りつける。
一瞬言葉を失ってしまった物の、少しの不安を覚えながら、少しの確信と期待を込めて言う。
「俺様が死んだ事を絶対に認めないのが一人居るからねぇ」
「そいつの為に帰るって言うんだな」
何処か泣き出しそうな顔を見ないように漆黒の頭に手を伸ばしガシガシと荒っぽく頭を撫で、俯いてしまった彼に返す言葉を見つける事が出来なかった。
「ユーリ、レイヴン、準備できましたか?」
ほんの少しの時間を空けてエステリーゼは何処か遠慮がちに声をかけてきた。
視線を彼女達の方に向ければ既に結界を片付け終わって森を抜ける為の準備も出来ていた。
フレンは既に抜いた剣を地面に突き刺し、手甲の止め具の具合を確かめていた。アレクセイも収めていた剣を抜き周囲を警戒している。
リタも本を腰のベルトに括りつけ、ジュディスは紫水晶の瞳を閉じて神経を集中している。
「ああ、もう行けるぜ」
すくっと立ち上がったユーリに引っ張られるように俺を立ち上がらせてくれる。
「森を出るまで俺達が先行するから、レイヴンは後ろからエステルたちと後方から援護を頼むな」
ほんの少しだけ苦しそうに、だけど笑顔を浮かべる彼に困ったこねえと内心呆れながらも同じように笑ってみせる。
「りょーかい。ユーリ達の背中はおっさんが預かるわ」
心置きなく戦ってちょうだいと言えば
「アレクセイは要らないだろ?」
「もし何かあってイエガーが団長になるのだけは俺様絶対に嫌だから」
「どっちにしても微妙だな」
真面目な顔をして頷いた後くつくつと喉を鳴らすように笑ってから
「じゃあ、背中頼むな」
長い髪を翻して駆けて行く後姿を見送ればエステリーゼがすぐ側に立っていた。
「ユーリはすっかりレイヴンに懐いちゃいましたね」
品良く手を口元に添えてクスクスと笑い声を零してニッコリとユーリの背中を眺めながら
「ユーリの養父の方が亡くなってから・・・積極的に人との繋がりを求めようとしなかったのに、レイヴンは不思議な方ですね」
「ユーリも養い親に育てられたのかい?」
そりゃさぞ大変だろうと思わず同情をしてしまえば
「今では騎士団に入団し、成人をして独立をしてしまいましたが、それまではキャナリが親代わりだったのですよ」
「何て羨ましい!」
今更知った新事実に驚けば聞いてなかったのですかと驚くエステリーゼは彼らのその頃の話しを聞かせてくれた。
「ユーリはフレンと一緒にキャナリの家で育ったのです。その時に騎士団になるべく勉強と剣の稽古をしてたのですよ」
先日のキャナリの家でのくつろぎ加減はそういうわけかと思いながら森の外へと向かって足を運び出そうとすれば
「でもユーリとフレンが騎士団を目指したのはキャナリに引き取られる前の養父の影響が大きいのです」
「産みの親を亡くして育ての親も亡くして、二人とも複雑な生い立ちなのね」
アレクセイの指示を受けて何度か頷くフレンがこちらにやってきた。
エステルの話が途中から聞えたのだろう。少しだけ困った顔をしながら笑みを浮かべていた。
「僕達の産みの親の記憶はまったくと言ってもいいほどないのですが、育ての親の記憶が一番強烈ですからね」
「じゃあ、キャナリは?」
と聞くエステルにフレンはちょこっとだけ困った顔を浮べ
「贖罪のなのでしょう。養父の代わりに生きながらえた彼女なりの」
苦しそうに、悲しそうに、瞳を伏せて唇を噛む。
フレンと呼ぶエステルに気づいて少しだけ困ったかのような笑みをつくり
「キャナリ隊長を守って散ったと言うならそれは養父の意思です。
 親友だったキャナリ隊長を守ったという事が養父の誇りと言うなら僕達にだってそれを受け入れる覚悟があります。
 ですが、キャナリ隊長はずっとそれを後悔して、戦争の後に上げるはずだった結婚式も取りやめてしまうどころか騎士をやめなくてはいけないほどの左肩の大怪我にも拘らず、帝国一の名手といわれた弓使いの名をを返上し剣に変更してまで騎士団に留まり続けてます」
何所かで聞いた話に冷や汗一つ流すも
「でも、今は結婚して子供まで居るじゃない。騎士団には案外好きで居るのかもよ?」
そうですね、と小さな相槌を返して周囲の偵察を兼ねて木々の枝を伝って上空より位置確認に出かけたジュディスを見送りながら折り重なる枝の隙間から覗く小さな空を見上げる。
「僕達が騎士になって、ひとり立ちしてやっとキャナリ隊長も周囲の言葉を受け入れてくれました」
「亡くなった養父の代わりをやり遂げたのね」
「はい。養父と一緒に暮らしていた頃からキャナリ隊長にはお世話になっていたので、僕達もやっと安心できました」
何も彼女はあきらめていたわけでは無いと言う話の結びにキャナリはどの世界にいてもやっぱりキャナリだと何処か彼女を誇らしげに思いながらも、上空から舞い降りてきたジュディスへと注目をする。
「どうだ?」
アレクセイが纏わりつく木々の葉を払い落としているジュディスの前に立ち
「遠くにダングレストの結界魔道器が見えたわ。方向は間違いないのだけど」
言って、彼女は槍を軽く振り
「さっきの戦闘の血の臭いのせいでまた魔物が集ってるみたい。早く動いた方が懸命ね」
優雅にクリティア族の特徴と言うべき触角をたなびかせる。
まるでそれが合図かのように木々の合い間から生い茂る植物を踏み締めながら集ってきた。
「なぁ、さっきみたいに秘奥義でどっかーんって出来ねぇ?」
ニッコリとユーリにしては珍しい極上の笑顔をアレクセイに向けるも
「お前はともかくみんながまきぞいになる可能性がある。控えるべきだろう」
俺はいいのかよなんてユーリは苦虫を潰すも、既に魔術の詠唱に入っていたリタがその力ある言葉を解放つ。
「スパイラルフレアっ!」
吐き出された炎が周囲の空気を焦がしながら魔物へと襲い掛かる。
「ああ、もう血の気が多いんだから」
無力な人間の反撃に魔物が驚く中ユーリが剣抜いて銀の軌跡を描き、確実に仕留めながら魔物の数を減らしていく。

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